FX投資をしていると、カバー取引という言葉を目にすることがあるだろう。これは顧客の注文とは反対の内容をFX業者が行うことだ。なぜカバー取引が必要なのか?またなぜ投資家はFX会社のカバー取引をチェックする必要があるのかを、簡単に解説していこう。

1,FXのカバー取引とは何か?

FXにおけるカバー取引とは、投資家の取引とは反対の売買を行うことでポジションを調整することを指す。主に取引の引き受け手であるFX会社のリスク回避のために実施される。

FXのカバー取引はどんな仕組みなのか?

カバー取引では、顧客によって出された注文と反対の内容の注文をFX業者が別の金融機関に対して行う。つまり、投資家から米ドル/円の1万米ドルの買い注文が入ると、FX会社は米ドル/円を1万米ドルで売る注文を行う。次に、FX会社が保有する売りポジションの反対売買として、1万米ドルの米ドル/円の買い注文をカバー取引先に出すのがカバー取引だ。FX会社の立場から見れば、買い注文と同数の売り注文を引き受けたことになり、為替がどう変動しても手数料以上の損失を被らないようになる。

なぜカバー取引が行われるのか?

カバー取引を行うことで、FX会社内のポジションを一定量に保つことができ、為替がどのように変動しても損失を抑えることにつなげられる。また、為替変動におけるリスクヘッジを実施しつつ、顧客からの大口の注文にも対応することが可能になる。

2,人気FX会社20社のカバー取引の状況をチェック

人気のFX会社20社のカバー取引の状況を紹介する。なお、カバー社数とは、カバー取引を実施するときの取引先金融機関の数のことである。カバー先が多いと、投資家の希望するレートにより近い条件の金融機関を選びやすくなるので、カバー社数は多いほうが良いだろう。

また、未カバー率とは、FX会社が引き受けた取引のうちカバー取引をしなかった割合のことだ。未カバー率が高いほど為替変動が激しいときや大口の注文を受けたときにFX会社の損失が大きくなるので、未カバー率は低いほうが良いだろう。

FX口座 カバー社数 未カバー率
DMM FX 15社 21%
外為どっとコム 24社 1%
SBI FXトレード 1社 0%
外貨ex byGMO 30社 3.43%
GMOクリック証券 11社 2.52%
LINE FX 7社 22.2%
LIGHT FX 11社 5.2%
FXプライムbyGMO 17社 0.74%
FXブロードネット 7社 0%
マネーパートナーズ 19社 7.24%
ヒロセ通商 22社 0.5%
みんなのFX 11社 5.2%
外為ジャパン 16社 1%
JFX 1社 0%
楽天FX 22社 0%
外為オンライン 11社 3.75%
MONEY SQUARE 1社 0.2%
セントラル短資FX 20社 0%
インヴァスト証券 24社 1.24%
サクソバンク証券 1社 0%
※公式サイトを元に筆者作成(数字は2021年1月5日執筆時点のもの)

3,FX投資家がカバー取引先とカバー率をチェックすべき3つの理由

カバー取引を行うことは、FX会社にとってリスク回避のために欠かせないことである。しかし、FX会社が一方的にカバー取引の恩恵を受けるのではない。FX投資家にとっても、カバー取引先とカバー率を把握しておくことは重要な意味を持つのだ。

なぜ投資家もカバー取引先やカバー率をチェックすべきなのか、その理由を3つの側面に分けて解説する。

理由1,取引成立の可能性が高くなる

紹介した通り、ほとんどのFX取引においてカバー取引が実施される。逆に言えば、カバー取引が実行できないときは取引が成立しない可能性があるということだ。

例えば、金融危機に直面している国の通貨Aを保有する場合を考えてみよう。金融破綻が近づくにつれてインフレが高まるならば、日本円で通貨Aを買って通貨Aの売りポジションを建てておくことで、短期間で大きな利益を得られる可能性がある。しかし、その国が破綻して通貨の価値が0になるリスクと隣り合わせのため、FX会社がカバー取引をしようとしても引き受ける金融機関がない恐れもある。

このとき、カバー取引先が多く、しかも信頼性の高い金融機関がそろっているならば、ハイリスクな時期にも取引を引き受けてくれると期待できるだろう。為替変動が激しいときにはなおのこと、カバー取引先の多さと信用度はチェックしておくようにしよう。

理由2,同じFX会社で長く取引ができる

元来カバー取引は、FX会社が自身のリスクを軽減するために実施する取引だ。カバー取引をしないで顧客の取引をすべて引き受ければ、顧客が多大な利益を得たときにFX会社が大損を被ることにもなりかねない。

しかし、カバー取引を行うことで、FX会社は顧客の利益が多い場合も損失を軽減することができる。損失を軽減できるということは、FX会社自身が経営破綻を免れるということでもある。

これはFX会社にとってもメリットであるが、FX会社を利用して取引を行っている顧客にとっても大きなメリットだ。FX会社が破綻すれば顧客は別のFX会社でFXを行うことになるが、FX会社ごとにアプリやパソコンサイトでの操作方法が異なるため、また一から覚えなくてはならない。

慣れないうちは操作ミスをしたりトレードのタイミングを逸したりすることもあるだろう。場合によっては大きな損失につながることがあるかもしれない。慣れ親しんだFX会社を利用し続けるためにも、カバー取引先が信頼性の高い大手金融機関で、なおかつ未カバー率が低いFX会社を選ぶようにしよう。

なお、FX会社に預けている証拠金は、すべてFX会社の資産とは別に区分管理されて保管されている。そのため、FX会社が破産した場合でも顧客は自己の証拠金を返還してもらうことが可能だ。ただし、ポジションとして保有している資金に関しては、すべて強制的に清算したうえでの返還となる。為替レートによっては預け入れ時よりも少ない金額しか受け取れないこともあるので注意したい。

理由3,好レートでの取引が可能になる

FX会社が投資家に提示する為替レートには、FX会社とカバー取引先との間で適用される為替レートが反映されている。つまり、カバー取引先がFX会社に好レートを提示していれば、投資家もFX会社と好レートで取引がしやすいのだ。

カバー取引先が多いと、カバー取引先の間での競争が激しくなり、FX会社に有利な条件でのレートを提示するようになる。そのため、投資家個人にとっても、有利なレートでの取引が実現することになるだろう。

反対にカバー取引先が少ないと、カバー取引先の金融機関がFX会社にとってはあまり好ましくないレートを提示してもFX会社はその条件を飲まなくてはならないため、場合によっては有利とは言い難いレートで取引をすることになる可能性があるだろう。

FXはレバレッジを利かせてトレードを行うため、わずか0.01の違いであっても大きな違いを生む。少しでも有利なレートで取引をしようと考えるなら、カバー取引先の数が多いFX会社を選ぶようにしよう。

4,スプレッドやスワップだけでなくカバー取引も視野に入れたFX会社選びを

FX会社を選ぶとき、スプレッドやスワップポイントに注目する人は多い。しかし、今後はカバー取引にも注目してみるといいだろう。カバー取引先を知ることが取引の安全性を把握することにつながり、また、未カバー率を知ることで取引成立の高さやFX会社の信頼性を把握することにもつながる。

なお、未カバー率やカバー取引先についての情報は、FX会社が開示している。各FX会社が月ごとに公開している「リスク情報」を見れば、未カバー率についての最新情報を得られる。カバー取引先に関しては、各FX会社のサービス概要や取引ルールなどでの公開が一般的だ。FX会社によっては会社概要のページで公開していることもある。ぜひチェックしていただき、安心して利用できるFX会社なのかどうか、ご自身の目で見極めてもらいたい。

監修者・近藤真理
証券会社の引受業務やビジネス系翻訳携わったのち、個人投資家として活動。現在は総合証券、ネット証券の両方を使いこなし、経済、金融、HR領域で多数の媒体で執筆中。2019年にフィナンシャルプランナーの資格取得。

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