確定申告の季節が近づくと、支払調書が届く人もいるだろう。受け取ったことはないが、名前だけは聞いたことがある人も多いのではないだろうか。この記事では、確定申告において支払調書がどのようなものであるのかを解説する。

支払調書に関するQ&A

支払調書
(画像=PIXTA)
Q


支払調書とは何か?

支払調書とは、ビジネスに対する報酬や株式・不動産等を譲渡したことに対する対価を受け取っている人に、報酬・対価を支払った側が送る書類のことだ。フリーランスや作家、弁護士など、雇用主のいない個人事業主に対して発行される。

支払調書とは、ビジネスに対する報酬や株式・不動産等を譲渡したことに対する対価を受け取っている人に、報酬・対価を支払った側が送る書類のことだ。フリーランスや作家、弁護士など、雇用主のいない個人事業主に対して発行される。


Q


支払調書はどのようなときに必要なのか?

税理士を雇い報酬を支払った人や株式・不動産等を買い取り売り主に代金を支払った人など、特定の条件に該当する支払いを行った事業者は、支払調書を作成し1月末までに税務署に提出しなければならない。つまり支払った側にとっては提出の義務がある書類なのだ。

税理士を雇い報酬を支払った人や株式・不動産等を買い取り売り主に代金を支払った人など、特定の条件に該当する支払いを行った事業者は、支払調書を作成し1月末までに税務署に提出しなければならない。つまり支払った側にとっては提出の義務がある書類なのだ。


Q


支払調書は確定申告に必要なのか?

支払調書は、特定の支払いを行った側は税務署に提出しなければならない書類だが、受け取った側は確定申告の際に添付して提出する必要はない。

支払調書は、特定の支払いを行った側は税務署に提出しなければならない書類だが、受け取った側は確定申告の際に添付して提出する必要はない。

支払調書とは何のための書類なのか

支払調書とは、源泉徴収票など税務署に提出しなければならない書類である「法定調書」の1つである。特定の支払いを行った場合に作成する支払調書だが、この書類を税務署に提出することで、税務署は誰がどの人物にいくらの報酬を支払ったのかということを把握できるようになっているのだ。

支払調書の種類とは

2020年12月現在、法定調書には非常に多くの種類があり、源泉徴収票など支払調書以外も合わせると全部で60種類になる。その中で最も多いのが支払調書だ。そこで、支払調書として提出する機会が比較的多い4種類の代表的な支払調書について解説する。

不動産の使用料等に関する支払調書

不動産に関する支払調書だが、不動産の場合、支払調書は「使用料等」「不動産の売買」「貸付手数料」の大きく3種類に分けられる。

同じ不動産業者に対する支払金額が1年間で15万円以上あれば、支払調書提出の義務が生じる。不動産業者が法人の場合、毎年の更新料などが使用料に算入され、土地・建物の賃借料や家賃は使用料に含まれない。

逆に言うと、不動産業者が法人ではなく個人の場合は、家賃も使用料に含まれるため、ほとんどのケースで1年間の使用料合計額が15万円以上となり、支払調書の提出義務が生じることとなる。

不動産の売買・交換等によって支払いを行った場合は、同一の不動産業者に対する支払い合計金額が100万円を超えていれば、支払調書の提出義務が生じる。

不動産等の貸し付けやあっせんに対する手数料の支払い合計額が15万円を超えている場合も、支払調書の提出義務が生じる。

以上、不動産の「使用料等」「売買」「貸付手数料」の大きく3種類に分けて、提出基準金額などを解説した。すでにいずれかの支払調書に記載している場合は、重ねて支払調書を提出する必要はない。

弁護士や税理士などに対する報酬の支払調書

支払調書として最も考えやすいのが「報酬・契約金等」の支払調書だろう。弁護士や税理士などに仕事を依頼した年度は、この支払調書の提出義務が生じる。

しかし、少しでも報酬を支払えば、支払調書を提出する義務が生じるわけではない。弁護士や税理士、また講師に対する講演の依頼料など、それらの報酬の合計額が年間で5万円を超えている場合のみ、提出の義務が生じる。

プロ野球選手などに支払われる報酬の支払調書

プロ野球選手や自動車レーサーなどのスポーツ選手やモデルに支払われる報酬は、すべて同一人物に対する報酬が5万円を超えた時点で支払調書を提出する義務が生じる。

ただしプロボクサー選手のみ、支払調書を提出する義務がある基準金額が50万円となっているので、混同しないよう注意しよう。

競馬の賞金に関する支払調書

競馬に関して支払調書を提出しなければならない場合もある。

1年間で、馬主に対する賞金の支払金額が75万円を超えている場合、同一年度内における馬主への支払合計金額を計上した支払調書を提出する必要がある。

外交員やホステスなどの報酬・料金に関する支払調書

同一個人に対する1年間の報酬・料金が50万円を超えると、支払調書を提出しなくてはならない場合もある。対象は、外交員や集金人、電力量計の検針人のほか、プロボクサー、バーやキャバレーのホステスなどである。

注意しておきたいのは、区分ごとの違いだ。プロ野球選手への報酬および契約金が5万円を超えていれば、支払調書提出の対象となるが、プロボクサーに対する報酬は50万円を超えていなければ、支払調書提出の必要はない。

職業ごとの区分は所得税法で定められている。一定金額以上の報酬を支払ったが、支払調書を提出する必要があるかどうかわからない場合はきちんと確認しておこう。

社会保険診療報酬支払基金の診療報酬に関する支払調書

社会保険診療報酬支払基金という基金が支払う診療報酬額が50万円を超えている場合も、支払調書を税務署に提出する必要がある。ただし、公立病院や公共機関などに支払われる金額は50万円に含まない。

給与所得がある人の支払調書について

前提として、弁護士報酬などの報酬を支払ったとしても、支払調書を提出しなければならないのは、従業員の給与や賞与からあらかじめ所得税額を差し引いている源泉徴収義務者のみである。

給与所得がある人に提出義務が発生するのは、支払調書ではなく源泉徴収票だ。

年末調整をしている場合

会社側で年末調整が済んでいる場合、法人の役員であれば150万円超、弁護士・税理士・司法書士などであれば250万超、通常の従業員などそれ以外であれば500万超の給与がある場合に限り、源泉徴収票を提出する必要がある。

年末調整をしていない場合

会社側で年末調整されていない場合、当該年度中に退職した人であれば250万円超の給与がある場合に限り、源泉徴収票を提出する必要がある。また、同時に扶養控除等申告書を出していなければ50万円以上の給与で、源泉徴収票の提出義務が生じる。

支払調書の提出方法とは

弁護士を雇ったり、法人や個人事業主が不動産の借り受けなどで対価を支払ったりした場合は支払調書を提出しなければならない。支払調書などの法定調書を提出する際、同時に「給与所得の源泉徴収等の法定調書合計表」も一緒に提出しなければならないため、提出の必要がある人は注意しよう。

次に、税務署に支払調書を提出する方法を解説する。

書面での提出

まず、書面で直接窓口に提出する方法がある。書面をそろえたうえで、郵送による提出も可能である。

この場合、e-Taxなどを利用して提出する際に必要な手続きが不要というメリットがある。手書きでなくても、必要箇所を入力した書面を提出の際に印刷し、持参あるいは郵送すれば、少し手間がかかるが、慣れた人にとってはわかりやすい提出方法とも言える。

e-Taxなど書面以外での提出

次に、書面以外での提出方法だが、CDやDVDなどの光ディスクに記録して提出する方法と、e-Taxで提出する方法がある。

CDやDVDなどの光ディスクは容量が大きいため、法定調書の数が多い場合に便利というメリットがある。法定調書の数が多く、持参や郵送では少々かさばる場合は便利な方法だが、提出日の2ヵ月以上前に税務署へ「支払調書等の光ディスク等による提出承認申請書」という書類を提出する手間がかかるデメリットもある。

e-Taxによる提出方法は、同じe-Taxでも、インストール済みのソフトを使うか、ネット上のe-Taxを使うかで、大きく異なる。

ネット上のe-Taxでは、「給与所得の源泉徴収票」や「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」などの代表的な9種類の法定調書しか提出できない。報酬に対する支払調書のみなど、代表的な支払調書だけなら問題ないが、ネット上のe-Taxでは提出できない支払調書がある場合は、他の提出方法を使うしかない。

一方、インストール済みのe-Taxソフトを利用する場合は、ソフトのインストールやカードリーダーの用意、利用者識別番号の取得など、非常に煩雑な手間がかかるが、すべての法定調書をe-Taxソフトで提出できる。最初の手間さえこなせれば、翌年以降も同じように非常に手軽に申告ができるというメリットもある。

また、2021年1月以降の法定調書の提出に関しては、枚数が100枚以上の場合は直接の持参・郵送ができず、e-Taxか光ディスクを使用しなければならない。

電子申告の際の基礎控除額の増額など、e-Taxを使った申告方法に対する恩恵は非常に多い。これを機に、支払調書をe-Taxで提出してみてはいかがだろうか。

支払調書の提出期限とは

先述したように、支払調書には非常に多くの種類がある。主な支払調書の多くは原則、支払いが発生した年の翌年1月末が提出期限となっている。しかし支払調書の中には翌年1月末以外が期限のものも少なくない。

そのため、法定調書を税務署に提出する立場になった人は、代表的な支払調書の提出期限ではなく、自分が提出する支払調書の期限をきちんと確認することが重要である。

支払調書は確定申告に必要ない?

支払調書は確定申告時に添付する必要がある書類ではない。しかし支払調書があれば、確定申告時や決算書作成時に、受け取った支払調書に記載されている報酬の金額を自分の帳簿上の金額と照らし合わせることで、間違いがないかを確認することもできる。

確定申告に必要というわけではないが、あれば有効に使えることもあるため、不必要とは言えないだろう。

支払調書と源泉徴収票の違いについて

同じ法定調書である支払調書と源泉徴収票では何が違うのだろうか。報酬・対価を支払った相手に発行するという点では似ていると言えるかもしれないが、報酬や契約金などさまざまな対象に対する支払いに発行される支払調書とは違い、源泉徴収票は給与・退職金・公的年金等を支払った相手に発行される。

報酬等の支払先である人に支払調書を発行することは法律で義務付けられていない慣例だが、給与取得者に対して源泉徴収票を発行することは所得税法第226条で義務付けられている。

2019年4月から源泉徴収票は確定申告書に添付する必要がなくなった

2019年4月の税制改正により、源泉徴収票や上場株式配当等の支払通知書などいくつかの書類の提出・保存義務がなくなった。これまでは間違うことが多かったかもしれない源泉徴収票と支払調書だが、今後は両方とも確定申告の際に添付する必要がなくなったため、よりわかりやすくなったのではないだろうか。

フリーランスや個人事業主にとっての支払調書とは

先述したとおり、支払調書を受け取る側のフリーランスや個人事業主は税務署にも確定申告時にも、支払調書を提出する必要はない。

しかし、複数の取引相手から報酬を受け取っている人や、支払調書を参考に報酬金額を確認する人にとっては、帳簿上便利に使える場合もある。フリーランスや個人事業主にとって支払調書は、不必要だが人によっては便利な書類ということである。

支払調書の注意点とは

支払調書の対象は、1月から12月までの1年間に報酬・料金の支払いが確定した費用である。仮に確定申告時に未払いの費用であったとしても、支払調書には計上する必要があるため、書き漏らしのないよう注意が必要である。

支払調書がどんな書類で、いつ必要になるのかということを把握しておこう

支払調書が必要になるのは、特定の支払いを行った側であり、支払調書を受け取った側に提出の義務は生じない。源泉徴収票などの法定調書と混同しないように気をつけよう。