資産運用効率の向上を目指したいなら、利益にかかる税金が一定期間非課税になるNISA(ニーサ)の活用が効果的です。ただし、NISAでの投資は損益通算ができないといった注意点もあります。では、NISAを活用するべきなのは、どのような投資スタイルの人でしょうか。

目次

  1. 株式や投資信託の売買には証券口座が必要
  2. 証券口座にはいろいろな種類がある
  3. 証券口座とNISA口座
  4. NISAを利用するべき投資スタイルとは?
  5. 損益通算をしたいなら?課税口座を選ぶ
  6. 資産運用を成功させるコツは投資スタイルに合った口座選び

株式や投資信託の売買には証券口座が必要

NISAは損益通算の対象にならない。NISAを利用するべき投資スタイルとは?
(画像=YukaHashimoto/stock.adobe.com)

証券会社で株式や投資信託の売買をするには、証券口座が必要です。証券口座にはどのような役割があるのでしょうか。銀行口座との違いと併せて解説します。

銀行の預金口座と証券口座の違いとは?

証券口座は、証券会社で開設する投資や資産運用を専門とした口座です。投資のための資金および、株や投資信託といった金融商品を管理します。口座開設料や維持費はかかりません。

一方、銀行の預金口座はお金の管理を専門とします。現金の入出金や給与・年金の受け取り、公共料金の引き落とし、振込などが可能です。銀行の預金口座では、金融商品の管理はできません。銀行で投資信託を購入する場合には、預金口座のほかに投資信託管理口座の開設が必要です。

ネット証券と対面証券では、証券口座にどのような違いがある?

証券口座を開設するにあたっては、取引する証券会社を選ぶ必要があります。証券会社には、オンラインで口座開設や取引などを行う「ネット証券」と店頭窓口を備える「対面証券」があります。まずは、それぞれの特徴を確認しましょう。

・利便性が高く手数料が安い「ネット証券」

ネット証券は、インターネット上で取引を行う証券会社です。パソコンやスマートフォン・タブレットといった端末とインターネット環境さえあれば、時間や場所を選ぶことなく売買できる利便性の高さが特徴です。また、窓口を持たないネット証券は店舗維持費や人件費を抑えられるぶん、手数料が安く設定されている傾向があります。

ネット証券の証券口座は、インターネット上で開設手続きができます。証券会社のホームページから必要事項を入力し、マイナンバーや本人確認書類などの必要書類をアップロードしたら手続きは完了です。ネット証券では、即日や翌日など、手続きから短い日数で金融商品の取引をスタートできます。

・サポートが手厚い「対面証券」

対面証券は店舗や窓口を持ち、スタッフに相談しながら取引ができる証券会社です。投資銘柄の相談はもちろん、定期的な運用相談なども受け付けています。取引手続きに不安がある人や投資初心者は、対面証券を選ぶとスムーズに投資ができるでしょう。ただし、ネット証券よりも手数料が割高な点には注意が必要です。

対面証券は、窓口での書面による口座開設が可能です。対面証券の場合、口座開設の所要日数がネット証券よりも長くなることもあるため、計画的に手続きを進めることが重要です。

NISAネット証券比較ランキング
ネット証券
会社名
投資信託
取扱数
手数料

最大21万5千円
キャッシュバック
2,570 無料

楽天ポイント
200ポイントプレゼント
2,706 無料

現金1,000円
プレゼント
1,500 無料

最大20万円
キャッシュバック
1,000 無料
約150銘柄 無料

証券口座にはいろいろな種類がある

証券口座には、「特定口座(源泉徴収なし)」「特定口座(源泉徴収あり)」「一般口座」の3種類があります。それぞれの特徴や役割を確認し投資方針に合った口座を選ぶことが、資産運用を成功させるうえで重要です。

なぜ3種類の口座があるのか?

2002年以前は、証券口座には一般口座しかありませんでした。しかし、投資家の確定申告の負担を減らすために、2003年から特定口座がスタートしたのです。1つの証券会社で一般口座と特定口座を併用することは可能ですが、複数の特定口座を開設することはできません。複数の証券会社で、特定口座を開設することは可能です。

特定口座(源泉徴収あり)と特定口座(源泉徴収なし)、一般口座にはいくつかの相違点があります。それぞれの特徴を、表1で確認しましょう。

▽表1.特定口座(源泉徴収あり)・特定口座(源泉徴収なし)・一般口座の特徴

項目 特定口座
(源泉徴収あり)
特定口座
(源泉徴収なし)
一般口座
値上がり益の源泉徴収 あり なし
分配金・配当金の源泉徴収 あり
口座内の損益通算 あり なし
年間取引報告書の作成 あり なし

・特定口座(源泉徴収あり)の特徴は?

特定口座(源泉徴収あり)は、原則として確定申告が必要ない口座です。ただし、複数の証券会社で証券口座を保有している場合、口座間で損益通算をするには確定申告を行います。特定口座では、1年間の取引内容が記録された年間取引報告書を使用することで、簡単に確定申告ができます。これから口座を開設する人は、特定口座(源泉徴収あり)を選択すれば、確定申告の負担が少ない資産運用を目指せるでしょう。

・特定口座(源泉徴収なし)の特徴は?

特定口座(源泉徴収なし)は原則として確定申告が必要なため、証券会社から発行される年間取引報告書を活用し確定申告を行います。

特定口座(源泉徴収なし)を選択するべきなのは、投資をより積極的に行いたい人です。特定口座(源泉徴収なし)では、税金をまとめて納税します。そのため、確定申告を行うまでは、利益も投資資金に組み入れることができるのです。複利効果を最大限生かした資産運用を目指すなら、特定口座(源泉徴収なし)も選択肢になります。

・一般口座の特徴は?

一般口座は、原則として確定申告が必要です。年間取引報告書が発行されないため、1年間の取引内容を投資家自身が計算しまとめなければなりません。そのため、確定申告の負担は特定口座よりも大きくなります。確定申告の手間を考えると、一般口座を選ぶべき人はあまり多くないでしょう。しかし、特定口座では取引できない未公開株などを売買する人は、一般口座を選ぶ必要があります。

証券口座とNISA口座

金融商品を取引できる口座には、先述の証券口座のほかにNISA口座があります。NISA口座は、少額投資非課税制度であるNISAを利用する人が開設する口座です。ただし、NISA口座を単独で開設することはできません。NISAを利用したい人は、証券口座とNISA口座の両方を開設しましょう。

なお、非課税制度であるNISA口座は1人1口座しか開設できません。そのため、開設時には税務署の審査が行われます。よってNISA口座の開設は、証券口座の開設よりも所要日数が長い点には注意が必要です。

NISA口座にもいろいろある

NISA口座には、「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3つがあります。それぞれの概要を、表2にまとめます。

▽表2.一般NISA・つみたてNISA・ジュニアNISAの概要

一般NISA つみたてNISA ジュニアNISA
利用できる人 日本在住の20歳以上の人 日本在住の0~19歳の人
非課税対象 株や投資信託などへの投資から得られる値上がり益・分配金・配当金 金融庁が認める一定の投資信託から得られる分配金および値上がり益 株や投資信託などへの投資から得られる値上がり益・分配金・配当金
非課税投資枠
(投資の上限)
新規投資額で毎年120万円 新規投資額で毎年40万円 新規投資額で毎年80万円
非課税期間 最長5年 最長20年 最長5年
投資可能期間 2014~2023年 2018~2037年 2016~2023年

非課税対象が幅広い「一般NISA」

一般NISAは、幅広い金融商品が非課税対象となる点が特徴です。株や投資信託だけでなく、REIT(リート:不動産投資信託)やETF(イーティーエフ:上場投資信託)への投資も、非課税の対象となります。そのため、積極的に投資を楽しみたい人に適した口座だといえるでしょう。

現行NISAの投資可能期間は2023年までですが、2024年以降は新・NISAへ移行し2028年まで投資を継続できます。また、新・NISAで投資した資産の一部は、2028年以降につみたてNISAへの移行も可能です。

長期投資に特化した「つみたてNISA」

つみたてNISAは、非課税期間が最長20年と長期投資に特化したNISAです。つみたてNISAで非課税対象となる投資信託は、金融庁が長期的な運用に適していると定めたファンドです。そのため、投資初心者でも資産運用が始めやすい口座といえるでしょう。

つみたてNISAの投資可能期間は2037年までですが、2024年からは5年延長され2042年まで投資が可能になります。

未成年者の資産形成を目的とする「ジュニアNISA」

ジュニアNISAは、未成年者の名義で開設するNISA口座です。資金の拠出や運用指示は、親権者等である親や祖父母が行います。学費など子供の資金を投資により形成したいと考える人は、ジュニアNISAを活用してもよいでしょう。

ジュニアNISAは、2023年で制度が終了します。それに合わせて2024年以降は、名義人が18歳になるまで払い出せないという制限が撤廃される予定です。よって、2024年以降は、ロールオーバーによる非課税での運用の継続、課税口座への移管、売却のいずれかの手続きを行います。

NISAを利用するべき投資スタイルとは?

NISAを利用するべき投資スタイルは、複利効果を活用した中長期での資産形成です。NISAでは、投資から得た利益にかかる20%(2037年までは復興特別所得税がかかるため20.315%)の税金が非課税となります。非課税分を長期に渡り投資元本に組み入れていくことで、複利効果を大きくできるのです。

複利効果の大きいNISAは長期運用に最適

仮に、80万円で購入した投資信託から毎年1%の分配金を得て、再投資したとしましょう。最終的な運用利益は、課税口座とNISA口座ではどのくらいの差がでるのでしょうか。シミュレーションを表3で確認します。

▽表3.課税口座とNISA口座での運用結果シミュレーション

課税口座 NISA口座
0年(スタート時) 80万円 80万円
5年後 83万2,381円 84万808円
10年後 86万6,074円 88万3,698円
15年後 90万1,130円 97万6,152円

このように、課税の有無は最終的な運用実績に大きく影響します。長期での資産運用を考えているのであれば、NISA口座での運用は効果的だといえるでしょう。

・売買を頻繁に行うスタイルはNISAには不向きなことも

NISAの非課税投資枠は、一般NISAは毎年120万円、つみたてNISAは毎年40万円と決まっています。一度利用した投資枠は、投資資産を売却したとしても復活しません。そのため、短期間で売買を繰り返す投資スタイルの場合は、あっという間に非課税投資枠を使い切ってしまう可能性もあります。NISAでの非課税制度を十分に活用するためには、売買回数を増やしすぎないことも重要です。

損益通算をしたいなら?課税口座を選ぶ

NISA口座を利用する際の注意点は、損益通算ができないことです。損益通算とは、一定期間内の利益と損失を相殺することで税金を減らすことをいいます。

課税口座での取引は、口座内および口座間で損益通算が可能です。一方、そもそも課税対象となっていないNISA口座での取引は、損益通算できません。そのため、複数の口座で投資を行っている場合には、運用状況などを確認したうえでNISAの利用を決めることが重要となります。

どの口座を選ぶかにより税額が変わることも

では、新たに開設する口座としてNISAを選ぶか課税口座を選ぶかにより、税額はどのように変わるのでしょうか。2つのケースでみてみましょう。

・ケース1:保有する課税口座の取引が損失のみの場合

課税口座での取引で利益が出ていない場合は、NISA口座の利用の有無に関わらず税額は0円です。

・ケース2:保有する課税口座で利益が出ている場合

課税口座の投資で利益が出ている場合は、NISAを利用するかにより税額が変わります。仮に、課税口座で10万円の値上がり益を得ていたとします。この場合、新たな投資をNISAで行うか課税口座で行うかによる税額の違いを、表4で紹介します。

▽表4.NISA口座の利用有無による、税額の違い一例

新たに開設した口座の種類 新たな口座の運用状況 税額
NISA口座 5万円の利益 2万315円
(10万円×20.315%)
5万円の損失
課税口座 5万円の利益 3万472円
((10万円+5万円)×20.315%)
5万円の損失 1万157円
((10万円-5万円)×20.315%)

このように、利益が出ている課税口座を保有している場合、NISA口座でなく課税口座を開設した方が、損益通算により税額を小さくできるケースもあります。運用成績は毎年変わるため、どちらの口座を選ぶべきか一概にはいえません。NISA以外の口座ですでに投資を行っている人は、今後の運用状況などもよく検討したうえでNISAでの投資を始めましょう。

資産運用を成功させるコツは投資スタイルに合った口座選び

株や投資信託による資産運用を行うには、3つの証券口座のうちいずれかを開設する必要があります。また、投資から得た利益が非課税になる制度を活用するなら、併せてNISA口座の開設も必要です。資産状況や投資スタイルをよく確認し自分に合った口座を選ぶことが、投資の負担やストレスを軽減し、資産運用を成功させる重要なポイントです。

文・N.ヤマモト
都市銀行にてファイナンシャルプランナーとして主に、富裕層の資産形成・運用相談を担当。投資信託や保険商品・債券・外貨預金の販売に携わる。その後はWEBライターとして、投資や資産形成についての情報を発信。子供の学費や老後資金作りのため、自らも20代から資産運用を続けている