2016年に発覚した『パナマ文書』を覚えているだろうか。パナマの法律事務所であるモサック・フォンセカから流出した1150万点を超える機密文書で、世界の富裕層や政治家、大企業などの課税逃れの実態を暴いたものだった。さらに翌2017年には南ドイツ新聞が入手した1340万件の漏洩文書と1.4テラバイトの漏洩データからICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)と加盟報道機関がタックスヘイブン(租税回避地)取引をあぶりだした『パラダイス文書』も公表されている。当時筆者が暮らしていた英国では、これらの文書からエリザベス女王やチャールズ皇太子の個人資産の一部がオフショアに流れていることが発覚し、国民から批難を浴びた。

そして現在、非営利報道機関のプロパブリカ(ProPublica)が公表した『秘密のIRSファイル(The Secret IRS Files)』が各方面で話題を呼んでいる。そのファイルは、プロパブリカがIRS(米国合衆国内国歳入庁)等から入手した税務記録を基に「ビリオネアの租税回避の実態」等を浮き彫りにしたものだ。そこにはジェフ・ベゾス氏やウォーレン・バフェット氏、イーロン・マスク氏、マイケル・ブルームバーグ氏、ジョージ・ソロス氏、カール・アイカーン氏などの名前が並び、年度によっては税金を一銭も納めなかったビリオネアがいるとも指摘されている。

今回は「ビリオネアの租税回避(Billionaires’ Tax Avoidance)」の話題をお届けしよう。

非営利報道機関が公表した「秘密のIRSファイル」

租税回避,方法
(画像= edb3_1 / pixta, ZUU online)

2021年6月18日現在、フォーブスが公表しているデータによると、ジェフ・ベゾス氏の純資産は2010億ドル(約22兆1572億円)、ベルナール・アルノーとその一族は1943億ドル(約21兆4146億円)、イーロン・マスク氏は1558億ドル(約17兆1746億円)、ビル・ゲイツ氏は1226億ドル(約13兆5116億円)、マーク・ザッカーバーグ氏は1200億ドル(約13兆2250億円)、ウォーレン・バフェット氏は1036億ドル(約11兆4176億円)となっている。

彼らビリオネアは気候変動や環境保護、教育など多様な分野でフィランソロピー活動を行っており、中でもゲイツ氏とバフェット氏は存命中または死後に少なくとも財産の半分を寄付することを宣言する「ギビングプレッジ(Giving Pledge)」の創設者としても知られている。この活動にはマスク氏やザッカーバーグ氏、ブルームバーグ氏なども参加しており、「富を独占せず社会に還元することで、人々のウェルビーイング(健康・幸福・生活の質)を向上する」というフィランソロピーの理念を実践しているかのように見える。

だが、ここにきて「フィランソロピーを尊重するビリオネア」の社会的イメージを一転させかねない情報が飛び出している。6月8日、90以上の報道機関と提携する非営利報道機関プロパブリカが公表した『秘密のIRSファイル』だ。そのファイルは、プロパブリカがIRS等から入手した税務記録を基に「ビリオネアの租税回避の実態」を浮き彫りにしている。プロパブリカは入手した税務記録等を処理および分析し、使用可能なデータベースに変換するのに数カ月を費やしたという。さらにそのデータベースを公開されている数十の税務情報(裁判所の文書、政治家の財務情報開示、ニュース記事)と比較、それらを各ビリオネアに関する情報と照合し、検証したのである。