株式投資に重要な「EPS」の目安と活用法
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運や勘任せではない根拠のある株式投資を目指すにはまず、株式指標の見方を身につける必要があります。なかでも、1株当たり利益を表すEPSは、企業の成長性と収益性を見るうえで重要な指標となります。EPSの概要や目安を知り、投資判断に活かしていきましょう。

目次

  1. 1.EPSとは?
    1. 1-1 EPSの役割
    2. 1-2 BPSとの違いは?
  2. 2.EPSの求め方
    1. 2-1 EPSの計算式
    2. 2-2 1株当たり利益を見ることで企業の実力を見ることができる
  3. 3.EPSの見方、見るときの注意点
    1. 3-1 EPSの増減要因
    2. 3-2 EPSを見る際の注意点
  4. 4.成長株投資をする際のEPSの目安
    1. 4-1 EPSの成長率は20%が4年続くと2倍の急成長(中長期)
    2. 4-2 EPSの成長率が3年以上継続しているとビジネスモデルが安定(中長期)
    3. 4-3 EPSの成長率が四半期で上昇しているとき(短期)
  5. 5.EPSを具体的に株式投資に活かす方法
    1. 5-1 増資後にEPSが上昇して資金を上手く活用できているかを見る
    2. 5-2 EPSの成長率とPERから将来の株価予想に活かす
    3. 5-3 競合のEPS成長率を見て優位性を確かめる
    4. 5-4 EPS成長率の年推移を比較する
  6. 6. EPSを見て企業の成長性をチェックしよう

1.EPSとは?

代表的な株式指標の1つである「EPS」は、1株当たりの利益を示す数値です。EPSからは、銘柄の何を読み取れるのでしょうか。まずは、EPSの基本事項とBPSとの違いを確認します。

1-1 EPSの役割

EPSは、1株当たりどのくらいの利益を上げているかがわかる数値です。そのため、EPSの過去の推移を見ることで、企業がどのように成長してきたかを知ることができます。数年にわたりEPSが上がっているなら、順調に成長を続けている企業だといえるでしょう。反対にEPSが下がり続けているもしくは、乱高下しているなら収益性に何か問題がある銘柄の可能性もあります。

このようにEPSはこれまでの収益性を知ることで、今後の企業の成長と株価の動きを予測できる重要な株式指標の1つです。

1-2 BPSとの違いは?

EPSと同じく株式指標の1つとなる「BPS」は、1株当たりの純資産を表します。1株当たり利益から企業の成長性を計るEPSに対し、BPSは企業の安定性を知ることができます。BPSは、以下のように算出します。

BPS=純資産÷発行済株式数

一般的にBPSの数値が大きいほど安定性が高く(倒産の可能性が低く)、小さいほど安定性が低い(倒産の可能性が高い)銘柄といえるでしょう。また、企業の純資産を発行済株式数で割って求めるBPSは、企業が解散したときに株主に還元されるであろう1株当たりの金額にもなっています。BPSが「解散価値」といわれるのはこのためです。

投資銘柄を選定する際にはEPSとBPSをあわせて確認することで、成長性と安定性の両面から企業を判断することが可能です。

2.EPSの求め方

企業の成長性を表すEPSは、今後の株価の推移を予想するうえで重要な数値です。安定的に収益を上げている銘柄は、今後の株価上昇も期待できるでしょう。

一方、収益が安定していない銘柄は、将来的に株価が下がるリスクを持っています。EPSは比較的簡単に計算できるため、投資開始前に欠かさずにチェックしたいところです。

2-1 EPSの計算式

EPSは、以下の式で算出します。

EPS(円)=当期純利益÷発行済株式数

たとえば、当期純利益が2億円で発行済株式数が100万株の銘柄の場合、EPSは200円(2億円÷100万株)になります。仮に、翌年の利益が3億円に増えたとすると、EPSは300円に増加し、利益が1億円に減った場合は、EPSは100円となります。

なお、EPSには「いくら以上なら健全」といった明確な基準や目安はありません。同業他社のEPSや自社の過去のEPSと比較することで、今後の成長性を判断します。

当期純利益および発行済株式数は、各企業が発表する決算書や「会社四季報」で確認することが可能です。気になる銘柄がある場合には、投資の第一段階としてEPSを計算してみましょう。

2-2 1株当たり利益を見ることで企業の実力を見ることができる

EPSを算出する目的は、企業のもつ収益力を見るためです。企業の業績は、会社の規模などによって差があります。どんなに業績が好調な会社でも規模が小さければ、単純な利益額だけで比較してしまうと、大企業に勝てない場合も少なくありません。たとえば、以下のA社・B社の業績と発行済株式数を例にみてみましょう。

・A社:当期純利益10億円/発行済株式数1,000万株
・B社:当期純利益20億円/発行済株式数4,000万株

A社とB社を当期純利益だけで比較した場合、B社のほうが多く利益を出しています。ここで、両者のEPSで算出してみるとどうなるでしょうか。

・A社のEPS:100円(10億円÷1,000万株)
・B社のEPS:50円(20億円÷4,000万株)

A社とB社の当期純利益を1株当たりで見た場合、A社のほうが多く利益を上げていることになります。このようにEPSは、企業の規模に左右されることなく収益力を計れる株式指標なのです。

3.EPSの見方、見るときの注意点

EPSを見る際のポイントの1つは、単年ではなく過去複数年の推移をチェックすることです。これにより、収益力の持続性を見ることができます。

EPSをより有効に活用するには、そのほかにもいくつかの注意点があります。ポイントを押さえ、EPSがもつ意味をより深く読み取りましょう。

3-1 EPSの増減要因

EPSを投資判断に取り入れるには、まずEPSが増減する要因について把握しておくことが重要です。EPSの数値が増減した原因まで深堀りできれば、今後の株価予測も立てやすくなるでしょう。EPSが増減する要因には、主に以下が挙げられます。

▽EPSが増減する要因

EPSが増える場合EPSが減る場合
・当期純利益が増えた
・発行済株式数が減った(自社株買い/株式併合)
・当期純利益が減った
・発行済株式数が増えた(新株発行/株式分割)

当期純利益の増減だけでなく、発行済株式数の増減でもEPSは変動します。発行済株式数が変わる具体的なケースを、以下で詳しく見ていきましょう。

【発行済株式数が減るケース】

・自社株買い
自社株買いは、企業が発行した株式を買い戻すことです。買い戻した株を取締役会の決議で消滅させることにより、発行済株式数は減少します。自社株買いには、敵対的買収のリスクや配当金の負担を減らすことに効果的です。自社株買いなどにより発行済株式数が減ると、EPSが増えて1株当たりの価値が向上します。このため、自社株買いを発表すると株価が上昇するケースが目立っています。

・株式併合
株式併合とは、すでに発行されている複数の株式を1株に統合することです。たとえば、発行済株式数が100万株の企業が2対1の株式併合をしたとすると、発行済株式数は50万株となり、株価は2倍となります。

ただし、これは理論上資産価値に変更はありません。また、投資家の保有株数によっては、株式併合後に単元未満株になる可能性がある点には注意が必要です。たとえば100株(単元株)保有している人であれば、2対1の株式併合が行われると50株(単元未満株)となります。

【発行済株式数が増えるケース】
・新株発行
新株発行は、新たに株式を発行し資金を調達することをいいます。発行された分だけ、発行済株式数が増えます。

・株式分割
株式分割とは、すでに発行された株式を分割することです。株式分割により発行済株式数は増え、株価は下がります。たとえば、100万株の株式を発行している企業が1対2の株式分割を行った場合、発行済株式数は200万株に増え、株価は理論上2分の1に下がるといった具合です。

3-2 EPSを見る際の注意点

EPSを見る際の注意点は、一時的な数値の増減に惑わされないことです。発行済株式数が大きく増減した場合、EPSも大きく変動することがあります。また、株式や不動産といった資産の売却などによっても、EPSが増加することもあるでしょう。このようにEPSは、企業活動によって一時的に変動することも少なくありません。

一時的な要因により変動したEPSは、継続的な成長性を計るには適していません。そのため、EPSは短期的な数値を見るのではなく、長期的な推移を読み解くことが重要です。

4.成長株投資をする際のEPSの目安

EPSの大きさは銘柄によって異なるため、目安となる一定の数値はありません。EPSを見る際には、成長率をチェックすることが重要です。成長率とは、前年と比較しどのくらいEPSが増減したかを表すもので、次の通り求めます。

EPSの成長率(%)=((今年度のEPS÷昨年度のEPS)-1)×100

この計算式から、たとえば以下のように算出します。

昨年度のEPSが250円で今年度のEPSが320円の銘柄の成長率
((320円÷250円)-1)×100=28%

昨年度のEPSが200円で今年度のEPSが150円の銘柄の成長率
((150円÷200円)-1)×100=マイナス25%

では、将来性があるとされるEPSの成長率はどのくらいなのでしょうか。ここでは、3つのケースを紹介します。

4-1 EPSの成長率は20%が4年続くと2倍の急成長(中長期)

中長期的にEPSを見る場合、急成長が期待できる成長率は20%です。20%の成長率が4年続いた場合、4年後のEPSは初年度の2倍を超えます。一例として、EPSが100円の企業が4年にわたり20%の成長を続けた場合の数値の推移を以下に紹介します。

▽EPSが20%の成長を続けた場合の一例

年数1年目2年目3年目4年目5年目
EPS100円120円144円172円206円

このように、20%程度の成長率を維持すれば、数年でEPSが倍になるといった急成長が期待できます。高い成長率を維持している銘柄を見つけたら、投資先の1つとして検討してみましょう。

4-2 EPSの成長率が3年以上継続しているとビジネスモデルが安定(中長期)

成長率の大きさではなく継続性に着目した場合、ビジネスモデルが安定しているといわれるのは3年以上成長を続けている銘柄です。EPSを増加させ続けるには、発行済株式数が変わらない限り原則として継続的に利益を増やしていく必要があります。しかし継続的に毎期利益を重ねていくことは、簡単なことではありません。

つまり、3年以上継続してEPSを成長させている銘柄は、魅力的で収益性の高い事業を保有・展開している企業だと考えられるのです。なお、日本取引所グループが発表しているデータによると、東証1部上場企業全体における2010年~2020年のEPSおよび成長率は、以下のように推移しています。

▽東証第一部上場企業全体における2010年~2020年のEPSおよび成長率

年度平均EPS(12月末時点)成長率
2010年7.32円
2011年14.06円92.07%
2012年12.97円▲7.75%
2013年13.83円6.63%
2014年16.99円22.84%
2015年16.63円▲2.11%
2016年14.13円▲15.03%
2017年13.57円▲3.96%
2018年139.67円929.25%
2019年130.70円▲6.42%
2020年103.44円▲20.85%
引用:JPX日本取引所グループ 規模別・業種別PER・PBR(連結・単体)一覧

2021年5月末のEPSは92.48円で、2020年12月末から10.59%のマイナス成長です。東証1部は、国内外を代表する大企業が多く名を連ねる市場です。一般的に大企業はビジネスモデルが確立されており安定した利益が期待できるといわれます。しかし、上表の範囲では3年以上成長率がプラスになった期間はありません。この結果からも、EPSを増加させ続けるのは簡単ではないことがわかるでしょう。

もちろん、東証1部には2,000以上の企業が上場しているため、EPSを継続的に成長させている企業もたくさんあります。収益性が高く成長が期待できる銘柄を選ぶには、いろいろな企業のEPS実績をチェックすることがポイントです。

4-3 EPSの成長率が四半期で上昇しているとき(短期)

短期的に収益を上げている銘柄に投資をしたいなら、EPSの成長率が四半期で上昇している企業を選びましょう。このような銘柄を選ぶことで、短期間での売買でも利益の獲得を狙うことができます。

なお、短期でのEPSに着目する場合には、EPSが上がっている要因をしっかり確認することが重要です。突発的な利益の発生や発行済株式数の増減ではなく、事業による利益の獲得によりEPSが上昇している企業を見極める点がポイントとなります。

5.EPSを具体的に株式投資に活かす方法

最後に、EPSを投資判断に活かす具体的な4つの方法を解説します。

5-1 増資後にEPSが上昇して資金を上手く活用できているかを見る

増資を行った銘柄を投資対象として検討するには、増資後にEPSが上昇しているかを確認することが重要です。増資とは企業の資本金を増やすことで、一般的に新株の発行により行われます。

新株を発行すると発行済株式数が増えるため、一時的にEPSが下がることもあるでしょう。しかし、増資により得た資金をしっかりと事業に活用できているなら、いずれは業績がアップしEPSも増加するはずです。増資を行った企業に投資するなら、増資後にEPSが上昇している銘柄を選びましょう。

5-2 EPSの成長率とPERから将来の株価予想に活かす

将来の株価予想をする場合は、EPSとPER(株価収益率)を乗じて求める「目標株価」が参考になります。EPSは、企業の収益性を計る指標です。一方PERは、株価の割安性と市場関係者の期待を表します。これら2つの指標で算出した目標株価を目安とすることで、複数の視点から企業を考査した判断が可能になります。

5-3 競合のEPS成長率を見て優位性を確かめる

EPSを見る際は、競合他社と成長率を比較するのも重要です。同じ業界に属する競合他社は、業績の増減や株価が同じような動きをすることが多くあります。

業界全体のEPSが増加傾向にあるにもかかわらずEPSが上がらない銘柄は、事業進捗に問題があるかもしれません。反対に、業界全体のEPSが低下している中、好調に利益を上げてEPSを増やしている銘柄は、他社より優位に事業を展開している可能性があります。

魅力的なビジネスモデルがあり継続的な収益が期待できる銘柄かを見極めるには、同業他社とEPSの成長率を比較することが有効です。

5-4 EPS成長率の年推移を比較する

EPSが増えている企業を見つけたら、成長率の推移を確認します。EPSの増加が短期間に限定される銘柄は、利益の増加が一時的である可能性もあるため注意が必要です。

また、EPSが増加し続けていたとしても成長率が衰えている場合は、今後の株価の上昇が緩やかになるもしくは停滞する可能性もあります。EPSの増減だけでなく、その要因や中身まで読み解くことで、より有効に投資に活用していきましょう。

6. EPSを見て企業の成長性をチェックしよう

EPSは、企業の収益性と成長性を計れる指標です。当期純利益と発行済株式数で計算できるため、銘柄を購入する前にチェックするとよいでしょう。安定した株式投資を目指すなら、長期で堅実な成長が期待できる銘柄に投資できるかがポイントとなります。長期的な成長が見込める銘柄を選ぶには、単年ではなく複数年のEPSの推移を確認することが必要です。

成長率の継続性や競合他社との数値の違いなどをしっかりと確認し、成長性のある有望な銘柄への投資を実現しましょう。

文・N.ヤマモト

(提供:SmallCap ONLINE