金融政策の概要:予想通り、量的緩和政策のテーパリング開始を決定

米FOMC
(画像=PIXTA)

連邦公開市場委員会(FOMC)が11月2-3日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、実質ゼロ金利を維持した一方、量的緩和政策における債券買い入れ額の縮小(テーパリング)の開始を決定した。今回発表された声明文では、景気の現状判断部分で、物価見通しに関する一時的な要因との判断の確信度を低下させた一方、「需給不均衡が、一部の部門で大幅な価格上昇につながった」との表現が追加された。経済見通し部分では従前のワクチン接種に加えて供給制約の緩和が経済活動や雇用の増加、インフレを抑制させることが言及された。一方、金融政策部分で量的緩和政策に関して従前の米国債とMBS債の買い入れ額を11月に合計150億ドル減らすほか、12月にもさらに同額減額することが示されたほか、その後も同様のペースで減額する方針が示された。

今回の金融政策方針は全会一致での決定となった。

金融政策の評価:インフレが一時的との見通しの確信度が低下

政策金利が維持される一方、量的緩和政策のテーパリングが開始されたのは予想通り、一方、声明文の現状判断部分でインフレに関して一時的な要因との判断の確信度を低下させたことは予想外であった。

パウエル議長によるFOMC会合後の記者では、足元のインフレは物価目標を大幅に上回っているものの、一時的との評価を維持し今後新型コロナの感染が抑制されれば、供給制約が緩和されてインフレが低下するとの見通しが示された。もっとも、供給制約の解消時期については非常に不透明であることも示されており、声明での一時的に関する表現変更と合わせてFRBによるインフレ見通しの確信度が低下していることが示された。

一方、同議長からはテーパリング開始が利上げに関して直接的なシグナルを送る訳ではない点が強調されており、早期利上げ開始の可能性は否定された。同議長は労働市場が昨年のペースで改善した場合に政策金利引き上げの条件となる、雇用の最大化の条件を達成するのは来年後半としており、政策金利の引き上げ開始時期はインフレ動向によるものの、テーパリングが終了する来年半ば直後ではなく、来年後半にズレ込むことが見込まれる。今回のFOMC会合を踏まえて、当研究所は22年12月利上げ開始とのこれまでの見通しを維持する。

声明の概要

(金融政策の方針)

  • 委員会はFF金利の目標レンジを0-0.25%に維持することを決定(変更なし)。
  • 昨年12月以降、委員会の目標に向けて経済が大きく前進したことを踏まえ、委員会は米国債で100億ドル、エージェンシーの住宅ローン担保証券(MBS)で50億ドルの純資産買い入れペースの縮小を開始することを決定した(今回追加)
  • 今月から、委員会は米国債の保有を少なくとも月700億ドル、エージェンシーの住宅ローン担保証券(MBS)の保有を月350億ドルそれぞれ増やす。12月以降、委員会は米国債の保有を毎月少なくとも600億ドル、エージェンシーの住宅ローン担保証券(MBS)を月300億ドル増やす。(今回追加)
  • 委員会は、純資産の購入ペースにおける同様の削減が毎月適切である可能性が高いと判断するが、経済見通しの変化によって正当化される場合には、購入ペースを調整する必要がある。
  • その後、経済はこれらの目標に向けて進んでおり、予想されたように広範な進展が続く場合には、資産購入ペースの緩和がまもなく必要になると委員会は判断する(今回削除)

(フォワードガイダンス)

  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • インフレ率がこの長期目標を持続的に下回っていることから、委員会は長期的にインフレ率が平均2%となり、長期的なインフレ期待が2%にしっかりと固定されるよう、当面2%をやや上回る水準のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • 委員会は、これらの結果が達成されるまで、緩和的な金融政策のスタンスを維持すると予想する(変更なし)
  • 委員会は、労働市場の状況が雇用の最大化との評価に一致し、インフレ率が2%に上昇して、しばらくの間2%をやや上回るとの見通しに沿うまで、この目標レンジを維持することが適切であると予想する(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)

(景気判断)

  • ワクチン接種の進展と強力な政策支援により、経済活動と雇用指標は引き続き力強くなっている(変更なし)
  • パンデミックの影響を最も受けたセクターはここ数ヵ月で改善したが、新型コロナの感染者数の夏場の増加で回復ペースは鈍っている(新型コロナ感染者数の増加について、「夏場の」"summer's"が追加)
  • インフレは主に一時的と予想される要因を反映して上昇している(前回の「一時的な要因」"transitory factors"から「一時的と予想される要因」"factors that are expected to be transitory"に変更され、一時的な要因との判断の確信度の低下を示唆)。
  • パンデミックと経済の再開に関連した需給不均衡が、一部の部門で大幅な価格上昇につながった(今回追加)
  • ここ数カ月で全般的な金融環境は、経済および、家計や企業への信用の流れを支えるための政策措置を一部反映して引き続き緩和的だ(変更なし)

(景気見通し)

  • 経済の行方は引き続き、ウイルスの行方に左右される(変更なし)
  • ワクチン接種の進展は公衆衛生危機の経済への影響を軽減し続ける可能性が高いが、経済見通しに対するリスクは残っている(今回削除)
  • ワクチン接種の進展と供給制約の緩和は、経済活動と雇用の継続的な増加とインフレの抑制を支えると期待されている(今回追加)
  • 経済見通しのリスクは残っている(今回追加)

会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。

パウエル議長の冒頭発言

  • 本日、委員会は金利をほぼゼロに維持し、経済が我々の目標に向けて進展していることを考慮して、資産購入のペースを縮小し始めることを決定した。
  • 第3四半期の実質GDP成長率は著しく鈍化した。夏にはデルタ株の拡大で新型コロナの感染者数が急増したため、旅行やレジャーなどパンデミックの影響を最も受けた部門の回復が遅れている。また、自動車産業を中心に、供給制約やボトルネックにより活動が抑制された。
  • 新型コロナの感染者数は減少し、ワクチン接種も進展していることから、今四半期の経済成長は上向き、今年全体としては力強い成長が見込まれる。
  • 労働市場の状況は改善を続けており、労働需要は強い。全般的な経済活動と同様に雇用改善ペースは新型コロナ症例の増加とともに鈍化した。9月の失業率は4.8%だったが、労働参加率が低いため、労働力不足を過少評価している。労働供給に対する障害は、ウイルスの封じ込めの進展とともに減少し、雇用と経済活動の増加を支えるだろう。
  • ボトルネックと供給変動の混乱は、短期的な需要の回復に生産がどれだけ迅速に対応できるかを制限している。その結果、全体的なインフレ率は2%という長期目標を大きく上回っている。供給制約は予想以上に大きく、長引いている。供給制約の持続やインフレへの影響を予測することは非常に困難である。
  • もし、インフレや長期的なインフレ期待の道筋が、我々の目標と整合的な水準を超えて、実体的かつ持続的に動いている兆候がみられたならば、我々は我々のツールを用いて物価の安定を確保するだろう。
  • 資産購入の縮小を開始するという本日の決定は、金利政策に関する直接的なシグナルを意味するものではない。

主な質疑応答

  • (来年の利上げの可能性について)今回の会議の焦点は金利の引き上げでなく、資産購入の漸減である。まだ、金利を上げる時期ではない。完全雇用に到達するためには、まだカバーする余地がある。我々の基本的な予想は、供給のボトルネックと不足が来年までずっと続き、インフレも上昇するというものだ。パンデミックが沈静化すれば、サプライチェーンのボトルネックは緩和され、雇用は再び増加するだろう。その時期は非常に不確実だが、インフレ率は22年の第2四半期から第3四半期までには低下するだろう。昨年の回復ペースが持続すれば、来年後半に最大雇用を達成する可能性がある。
  • (テーパリングのペースを早める際の条件について)経済が期待通りに概ね機能していると仮定すると、委員会は純資産購入のペースを毎月同様に削減することができると判断している。一方、経済見通しの変化によって正当化される場合、資産購入の削減ペースを加速または減速する準備が出来ている。また、そのようなことが起きると感じた場合は、非常に透明性を高くする。我々は市場を驚かせることを望んでいない。
  • (インフレについて一時的と判断する理由について)一時的との言葉には人々が様々な解釈を持っている。一部の人にとって、それは短期的な感覚をもち、何か月かで測定されるリアルタイムの要素がある。我々にとっての一時的とは、それが永続的または非常に永続的に高いインフレを残すことはないと言うことだ。そのため、我々はそれに関する不確実性を示すために「一時的」との言葉から一方後退させ、「一時的と予想される」と変更した。
  • (完全雇用を測定するために検討していることについて)最大の雇用は直接的には測定できず、様々な要因によって時間の経過とともに変化する、広範で包括的な目標である。特定の指標を指定することはない。雇用水準、労働参加率、賃金、離職率、求人数、州への流出入など、様々な指標をみて総合的に判断する。
  • (前回に比べてテーパリングのペースが早い理由について)前回テーパリングを決定した2013年当時は現在に比べて最大雇用から大きく離れており、インフレはずっと低かった。現在は、需要が非常に強く、求人が失業者数を大幅に上回る状況である。従って、さらなる刺激の必要性は2013年に比べて少なくなっている。これは全く異なる状況である。

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窪谷 浩 (くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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