国内経済は、2021年に入り停滞が続いている。住宅市場は価格上昇が続くなか、販売状況はやや弱含んでいる。地価は回復傾向が強まるも、一部の商業地では下落に転じた地区もみられる。

オフィス賃貸市場は、東京Aクラスビルの空室率が3.3%に上昇した。東京23区のマンション賃料は、頭打ち感も見られる。2021年7-9月累計の延べ宿泊者数はコロナ禍以前の2019年対比で▲49.0%減少した。全体的に好調を維持している物流賃貸市場は、首都圏では大量供給に伴い空室率が上昇した。

経済動向と住宅市場

オフィス空室率
(画像=PIXTA)

2021年7-9月期の実質GDPは、前期比▲0.8%(前期比年率▲3.0%)と2四半期ぶりのマイナス成長になった。緊急事態宣言の長期化や半導体不足などの供給制約の影響で、民間消費、住宅投資、設備投資が減少した。

ニッセイ基礎研究所は、11月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は、2021年度が+2.6%、2022年度が+2.5%、2023年度が+1.7%と予想する。緊急事態宣言は解除されたが、引き続き感染症への警戒感が残ることなどから、消費の回復ペースはコロナ禍の急速な落ち込みの後としては緩やかにとどまるだろう。実質GDPが消費税率引き上げ前の直近のピーク(2019年7-9月期)に戻るのは2023年度と予想する。

2021年7-9月の新設住宅着工戸数は約22.5万戸(前年同期比+7.2%)となった。2019年同期比では▲3.7%となりコロナ禍前の水準を回復しつつある。

一方で、2021年7-9月の首都圏のマンション新規発売戸数は6,203戸(前年同期比▲0.4%)とやや減少した[図表1]。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

平均価格は6,584万円(前年同月比+13.3%)となり3カ月連続で上昇した。価格が上昇基調で推移するなか販売戸数は減少に転じた。

東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2021年7-9月の首都圏の中古マンション成約件数は8,793件(前年同期比▲7.8%)となった。平均価格は3,985万円(前年同月比+7.9%)となり、16ヶ月連続で上昇した。中古マンションの成約件数は、水準自体は高いものの、価格の上昇に実需が追い付かず成約件数が伸び悩むといった潮目の変化に留意したい。

地価動向

国土交通省の「地価LOOKレポート(2021年第2四半期)」によると、全国100地区のうち上昇が「35」( 前回28)、横ばいが「36」(45)、下落が「29」(27)となった[図表2]。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

同レポートでは、「住宅地ではマンション素地取得の動きが回復している地区が増加する一方で、商業地では新型コロナウイルス感染症の影響により店舗等の収益性が低下し下落している地区がある」としている。

不動産サブセクターの動向

1│オフィス

三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2021年第3四半期の東京都心部Aクラスビル成約賃料(月坪)は34,934円(前期比▲1.1%、前年同期比▲8.2%)、空室率は3.3%(前期比+1.4%)で2017年第2四半期以来の3%台となった[図表3]。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

三幸エステートは、「新築ビルへ移転したテナントの二次空室が生じたことに加え、オフィス戦略の見直しに伴い生じた大口の募集床が後継テナントを確保できず、現空床となるケースがみられた」としている。

ニッセイ基礎研究所は、東京都心部Aクラスビルの賃料見通しを9月に改定した。オフィス需要は力強さを欠き、空室率は緩やかな上昇が続く見通しである。成約賃料は、空室率の上昇を受けて下落基調で推移すると見込む。2020年の賃料を100とした場合、2021年は「100」、2022年は「98」、2025年は「92」への下落を予測する。

2│賃貸マンション

東京23区のマンション賃料は、前年比でプラスを確保したものの頭打ち感も見られる。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2021年第2四半期の賃料は前年比でシングルタイプが▲0.6%、コンパクトタイプが+1.8%、ファミリータイプが+0.2%となった[図表4]。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

3│商業施設・ホテル・物流施設

商業セクターは、新規感染者数の増加に伴う行動自粛により百貨店とスーパーの施設売上が減少した一方で、コンビニエンスストアは増加した。商業動態統計などによると、2021年7-9月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が▲3.1%、スーパーが▲1.1%、コンビニエンスストアが+1.2%となった[図表5]。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

ホテルセクターは依然として厳しい状況が続いている。宿泊旅行統計調査によると、2021年7-9月累計の延べ宿泊者数はコロナ禍以前の2019年対比で▲49.0%減少し、このうち外国人が▲94.3%、日本人が▲39.4%となった[図表6]。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

東京五輪の無観客開催や緊急事態宣言の長期化に伴う夏季行楽シーズンの宿泊需要の消滅により、苦しい経営環境を強いられている。

CBREによると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2021年9月末)は前期比+1.1%上昇の2.6%となった[図表7]。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

先進的物流施設への需要は3PL企業を中心に引き続き堅調で、2021年第3四半期の新規需要は約13万坪となったが、新規供給は複数の大規模物件の竣工により過去4番目に多い約18万坪に達し、空室率が上昇した。一方、近畿圏は新規物件、既存物件ともにリーシングが順調で空室率は1.6%(前期比▲0.1%)に低下した。

J -REIT(不動産投信)市場

2021年第3四半期の東証REIT指数(配当除き)は6月末比▲3.7%となり6四半期ぶりに下落した。セクター別では、オフィスが▲4.5%、住宅が▲4.2%、商業・物流等が▲2.7%となり全てのセクターが下落した[図表8]。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

7月までは上昇基調を維持し9カ月連続で上昇となったが、その後は好調な株式市場への資金シフトや公募増資の増加、米国金利の上昇などを受けて下落に転じた。

J-REITによる第3四半期の物件取得額(引渡しベース)は4,857億円(前年同期比+82%)、1-9月累計で1兆1,589億円(+18%)となり金額を大きく伸ばした。アセットタイプ別の取得割合(1-9月累計)は、オフィス(44%)、物流施設(22%)、商業施設(13%)、住宅(13%)、底地ほか(7%)、ホテル(1%)の順となり、これまで低調であった商業施設の取得が回復した。

吉田 資 (よしだ たすく)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員

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