この記事は2022年3月3日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「2022年度税制改正(主に年金関係)について」を一部編集し、転載したものです。
本稿では、毎年この時期、年金制度周辺の税制がどう変化していこうとしているかを、税制改正大綱をみて紹介している。税制は予算の一部あるいは前提なので、最初に2022年度予算*1の概要を簡単にみておく。
2022年度予算については、107兆5,964億円と対前年度+9,867億円と4年連続で100兆円を越え、過去最大規模となっている。年金を含む社会保障費は、36兆2,735億円と対前年度+1.2%、+4,393億円増加し、これが一般歳出(歳出のうち地方交付税交付金と国債費を除いた、実際の政策経費)の増加+4,723億円の大半である。
ほかの主な項目は防衛費5兆3,687億円(+1.0%増)、国債費24兆3,393億円(+2.4%増)科学技術振興費1兆3,788億円(+1.1%増)などが増加している。また昨年度に引き続き、新型コロナウィルス感染症対策予備費5兆円が計上されている。
新型コロナの影響は歳入のほうにも影響しており、企業業績の回復に伴い、税収全体が65兆2,350億円と2021年度当初予算より8兆円弱増加する見込みとされている。
また国債発行は36兆9,260億円と、前年度より6兆円以上小さくなるとされている(新型コロナの第6波が来ている現段階では、このあたりの状況は実際どうなるか不透明ではある)。
*1:国会審議の状況と本稿の出る時期によっては、(案)の段階かもしれないが、そのことは以下省略。
税制全般については、いわゆる「成長と分配の好循環」という観点から、賃上げ税制を設けるなどの企業向けの税制や、住宅ローン減税の縮小などが大きな話題となっているところである。年金とその周辺分野では、今回は具体的な動きがなかったものの、近年、老後生活資金に対する関心が高い状況には変わりない。
そのため、与党税制改正大綱の中でも、個人所得課税のあり方の中の大きなテーマの一つとして取り上げられ、今後の検討事項のトップに掲げられているので、以下与党税制改正大綱の主な関係個所を引用する。
「 2.経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し
(1)個人所得課税のあり方
2私的年金等に関する公平な税のあり方
働き方やライフコースが多様化する中で、老後の生活に備えるための支援について、働き方によって有利・不利が生じない公平な税制を構築することが、豊かな老後生活に向けた安定的な資産形成の助けとなると考えられる。
こうした観点から、令和3年度税制改正大綱では、私的年金等の拠出・給付段階の課税について、雇用の流動性や経済成長との整合性なども踏まえ、税制が老後の生活や資産形成を左右しない仕組みとするべく、諸外国の例も参考に給与・退職一時金・年金給付の間の税負担のバランスを踏まえた姿とする必要性について指摘した。私的年金や退職給付のあり方は、個人の生活設計にも密接に関係することなどを十分に踏まえながら、拠出・運用・給付の各段階を通じた適正かつ公平な税負担を確保できる包括的な見直しに向けて、たとえば各種私的年金の共通の非課税拠出枠や従業員それぞれに私的年金等を管理する個人退職年金勘定を設けるといった議論も参考にしながら、老後に係る税制について、あるべき方向性や全体像の共有を深めながら、具体的な案の検討を進めていく。
なお、高所得層において、所得に占める金融所得等の割合が高いことにより、所得税負担率が低下する状況が見られるため、これを是正し、税負担の公平性を確保する観点から、金融所得に対する課税のあり方について検討する必要がある。その際、一般投資家が投資しやすい環境を損なわないよう十分に配慮しつつ、諸外国の制度や市場への影響も踏まえ、総合的な検討を行う。 (令和4年度与党税制改正大綱 p.9~10)」
「 (第三 検討事項)
1 年金課税については、少子高齢化が進展し、年金受給者が増大する中で、世代間及び世代内の公平性の確保や、老後を保障する公的年金、公的年金を補完する企業年金を始めとした各種年金制度間のバランス、貯蓄・投資商品に対する課税との関連、給与課税等とのバランス等に留意するとともに、平成30年度税制改正の公的年金等控除の見直しの考え方や年金制度改革の方向性、諸外国の例も踏まえつつ、拠出・運用・給付を通じて課税のあり方を総合的に検討する。
2 デリバティブ取引に係る金融所得課税の更なる一体化については、金融所得課税のあり方を総合的に検討していく中で、意図的な租税回避行為を防止するための方策等に関するこれまでの検討の成果を踏まえ、早期に検討する。 (同 p.96) 」
検討事項に記載されているように、企業年金関係の課税については、それ自体の仕組みや内部の整合性、事務の簡素化など、期待される課税のあり方に加えて、それを取り巻く周辺分野における、たとえば以下のような課税の議論の動向にも留意する必要がある。
減税となるような改正の場合、同じ目的・主旨のものは同時に実現されやすいということもあれば、逆に税収確保のために、一部しか実現しないことになるなど、競合してしまうことも考えられる。
・年金保険料を拠出する段階における、給与等の所得控除全般との関係
・老後資金のひとつである退職金に対する課税との関係>
・高齢者の保有資産に関連して、相続税・贈与税のあり方との関係
・企業年金に類似する、生命保険・個人年金保険、金融商品の、税制上のバランス
・金融資産の実態や、所得税との税率の公平性などを踏まえた、金融所得課税の動向
特に、金融所得課税のあり方については、2021年秋に現在の政権が誕生した際、すぐにでも課税強化がなされるのではないかと推測されていた時期もあったが、結局、上記「検討事項」などに記載されたように、「早期に検討する」ということに留まっている状況である。
なお、今回は特別法人税については何も触れられていないが、凍結期限が2023年3月までなので、令和5年度税制改正においては、その撤廃か再延長か(あるいは久しぶりの適用か?)など、要望する側からすれば、検討がなされなければならない年柄となる。
安井義浩 (やすい よしひろ)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任
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