この記事は2022年9月26日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「コロナ禍における働き方の変化~働き方のデジタルシフト」を一部編集し、転載したものです。
要旨
本稿では、ニッセイ基礎研究所が実施している「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査(*)」の第1回調査(2020年6月)から第9回調査(2022年6月)における就労者の回答を使って、勤務先への出社、在宅勤務、オンライン会議やビジネスチャットの利用等コロナ禍で働き方等がどのように変化したのかを紹介する。
詳細は、ニッセイ基礎研究所「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査( https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64814?site=nli )」をご参照ください。
はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大にともない、国は企業に対して、人の流れを抑制する観点から、出勤者数の削減目標を定め、在宅勤務の活用や休暇取得の促進を推奨した。さらに、基礎疾患を持つなど、重症化リスクがある労働者等に対して、また、子どもを養育する労働者に対して、本人の申し出を踏まえて就業上の配慮を行うことを要請した。こうした要請のもと、在宅勤務等テレワークの導入が進んでいる(*1)。
本稿では、ニッセイ基礎研究所が実施している「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査(*2)」の第1回調査(2020年6月)から第9回調査(2022年6月)における就労者の回答を使って、コロナ禍で働き方等がどのように変化したのかを紹介する。
なお、推移をみるにあたり、調査各回における新規陽性者数を振り返ると、図表1のとおりだった。2020年4月の初めての緊急事態宣言が全国で適用されてから2021年9月末にかけて、都道府県により期間や回数は異なるが、断続的に緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が適用された。
*1:総務省「通信利用動向調査」によると、常時雇用者100人以上の企業におけるテレワーク導入率は2019年には20.2%だったのに対し、2020年には47.5%、2021年には51.9%と上昇している。
*2:詳細は、ニッセイ基礎研究所「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査( https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64814?site=nli )」をご参照ください。
働き方等の変化
勤務先への出社、在宅勤務の利用
ニッセイ基礎研究所が2020年6月からおおむね3か月おきに実施している「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査(*3)」では、就労者に対して、勤務先への出社と、在宅勤務の利用が、感染拡大前(2020年1月頃)と比較して変化したかを、5段階(*4)で尋ねている。
その結果、勤務先への出社や在宅勤務の利用が、感染拡大前と比べて「変わらない」または「利用していない/該当しない」があわせて7~8割程度で推移しており、勤務状況に変化がなかった人が多かった。変化があった人について、勤務策への出社が減少(減少+やや減少)した割合を図表2に、在宅勤務の利用が増加(増加+やや増加)した割合を図表3に示す。
大きな傾向をみると、「勤務先への出社が減少」の割合は、2020年6月で27.8%と高かったが、2021年7月以降は徐々に低下していた。「在宅勤務が増加」の割合は、2020年6月に16.5%で、2021年7月と9月で2割程度とやや高かったが、おおむね横ばいで推移していた。
細かくみると、勤務先への出社が減少した割合が2020年12月と2021年3月に、在宅勤務が増加した割合が2020年12月に、それぞれやや低い。2020年5月25日に1回目の緊急事態宣言が解除されて以降、一時的に出社や在宅勤務の利用がコロナ禍前の働き方に戻っていたようだ(*5)。
勤務先への出社が減少した割合と、在宅勤務が増加した割合を比較すると、2020年6月には「勤務先への出社が減少した」と回答した割合が「在宅勤務が増加した」と回答した割合を11.3ポイント上回っていたのに対し、2022年6月には同程度となっていた。
そこで、勤務先への出社が減少した人の在宅勤務状況をみると、2020年6月には勤務先への出社が減少した人のうち在宅勤務が増加した人は44.4%にとどまっていたのに対し、2022年6月には73.3%に上昇していた。公務員または民間の正規社員に限定すれば、84.3%にのぼる。このことから、感染拡大当初は、在宅勤務環境が整わないまま出勤を減らさざるを得なかったのに対し、最近では出社の減少分が在宅勤務に置き換わってきたと考えられる。
*3:ニッセイ基礎研究所「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」によるインターネット調査。調査概要は以下のとおり。第1回:2020年6月 有効回答数2,062(うち就労者1,439)、第2回:2020年9月 有効回答数2,066(うち就労者1,438)、第3回:2020年12月 有効回答数2,069(うち就労者1,430)、第4回:2021年3月 有効回答数2,070(うち就労者1,431)、第5回:2021年7月 有効回答数2,582(うち就労者1,698)、第6回:2021年9月 有効回答数2,579(うち就労者1,708)、第7回:2021年12月 有効回答数2,543(うち就労者1,697)、第8回:2022年3月 有効回答数2,584(うち就労者1,718)、第9回:2022年6月 有効回答数2,585(うち就労者1,718)。調査対象は、第1~第4回が20~69歳、第5回以降は20~74歳の男女個人(調査会社のモニタ)。
*4:「増えた」「やや増えた」「変わらない」「やや減った」「減った」「利用していない/該当しない」
*5:例えば、内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」におけるテレワーク実施率や、NIRA総合研究開発機構による「テレワークに関する就業者実態調査」における出社頻度やテレワーク利用者の利用頻度でも同様の傾向がみられる。
オンライン・非対面ツールの活用
次に、コロナ禍で急速に広まったと思われる「オンライン会議や打ち合わせ(Web会議、テレビ電話会議、電話会議など)」「ビジネスチャットの利用(Slack、LINE WORKS、Teamsなど)の利用」が、感染拡大前(2020年1月頃)と比較して変化したか5段階で尋ねた結果、増加(増加+やや増加)したと回答した割合を、それぞれ図表4、図表5に示す。
「オンライン会議や打合せが増加した」と回答した割合は、2020年6月の21.8%から翌年7月頃まで上昇し、以降高い水準のまま横ばいで推移していた。また、「ビジネスチャットの利用が増加した」と回答した割合は、2021年7月以降、2割程度で横ばいで推移していた。勤務先への出社や、在宅勤務の利用が感染拡大前にやや引き戻された可能性がある2020年12月頃もオンライン会議や打合せ、ビジネスチャットは利用されていたようだ。
上司や部下、同僚との会食
最後に、「上司や部下、同僚との会食」が、感染拡大前(2020年1月頃)と比較して変化したか5段階で尋ねた結果、減少(減少+やや減少)したと回答した割合を図表6に示す。
「上司や部下、同僚との会食」が減少したと回答した割合は2020年6月に31.2%だったが徐々に上昇した。2021年9月末にすべての都道府県で緊急事態宣言が解除され、翌年3月21日にすべての都道府県でまん延防止等重点措置が終了したが、2021年7月以降は高い水準で横ばいで推移している。
おわりに
以上のとおり、2020年6月以降の出勤、在宅勤務の利用、オンライン会議の活用等働き方等の変化の推移を紹介した。
テレワークの導入については、2019年の働き方改革関連法の施行における働き方の見直しや、2020年に予定されていた東京オリンピック・パラリンピック開催期間中に想定された交通渋滞対策としてコロナ禍前から導入の議論を進めていた企業もあった。
流行が長引く中、アフターコロナを見据えた新しい働き方として、全面的なテレワークへの切り替えと同時にオフィスの縮小や転勤の廃止を行う企業も出てきた一方で、議論が進んでいなかった企業やテレワークでは業務を行いにくい業種・職種などでは新規陽性者数が落ち着き始めるとオフィス勤務に戻す企業も出てきており、今後のテレワーク実施についての方針には企業による差がある可能性がある。
オンライン会議やビジネスチャットの利用は、感染の拡大抑制が期待できるだけでなく、会議の会場や時間の制約が少なくなるといったメリットもあるため、今後も活用されると考えられる。
上司や部下、同僚との会食は、2021年9月末で、すべての都道府県で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除されたが、2021年7月以降は高い水準で横ばいで推移しており、慎重な態度がうかがえた(*6)。
*6:なお、村松容子「今後、勤め先での飲み会や会食はどうなるか(基礎研レター、2022年3月23日)」で示したとおり、同調査において「1年後に、コロナ前と同じように勤め先での飲み会や会食が実施されるようになる」と思う割合は2021年7月以降12月にかけて低下傾向にあった。
村松容子(むらまつ ようこ)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任
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