この記事は2023年1月24日に「The Finance」で公開された「【連載】メタバース×金融① メタバースとweb3の関係性から考える金融サービスのあり方」を一部編集し、転載したものです。


メタバースに対する関心や取り組みが金融業界で広がっている。一方、なぜ今メタバースなのか、web3(*1)とはどう関係しているか、そこにおいて求められる金融サービスとは何かなど、疑問を感じる方も多いだろう。本連載では、「メタバース×金融」をテーマに、全体編、銀行業界編、保険業界編と計3回に分けて、上記のような論点も踏まえながら考察していく。

※ 脚注
*1)Web3やweb3.0など多様に表現されているが、本稿では「web3」で統一したい。また、その対比として「Web1」「Web2」を使用する

目次

  1. メタバースとは
  2. web3とは
  3. メタバースとweb3の関係性
  4. メタバースにおける金融サービス

メタバースとは

【連載】メタバース×金融① メタバースとweb3の関係性から考える金融サービスのあり方
(画像=1stfootage/stock.adobe.com)

メタバースの語源は、「超越した(Meta)」と「宇宙、全空間(Universe)」を足し合わせた「超越空間(Metaverse)」にある。メタバースとは何かという問いは、依然として開かれた問いであるが、本稿では「バーチャル上の3次元空間」として差し当たり定義したい。実在人が、アバター(ユーザーの分身となるキャラクター)を通してアクセスするバーチャル上の3次元空間である。
また、本稿ではメタバースの射程として、リアルの世界と相対する「デジタルツイン」と、それらが相対しない「仮想空間」とが広く含まれるものと捉える。加えて、メタバースへの接続方法は、HMD(*2)などXR(*3)を用いるものと、PCやモバイルなどXRを用いないものとが広く含まれるものと現時点では捉える。
これまで、ゲームを中心に盛り上がりを見せていたメタバース空間であるが、昨今、各企業における顧客接点としての活用ケースが増えている。例えば、メタバース上での商品やキャンペーン等の情報案内を行う営業チャネルとしての活用、商品やサービスの申込窓口としての活用、メタバース空間内に企業スタッフを常駐させチャットや音声での問合せ窓口としての活用などである。
一方、現時点では上記のような形で扱う商品やサービスは、現実世界で扱う既存のものであることが多く、メタバースで表示されるコンテンツをクリックすると既存のWEBサイトに遷移するだけ、という場合も多い。ただし、メタバースを活用する初期的なアプローチとしては、実施しやすいものだと推察する。

※ 脚注
*2)Head Mounted Displayの略。メタバース空間へアクセスするデバイス
*3)VR(Virtual Reality:仮想現実)、MR(Mixed Reality:複合現実)、AR(Augmented Reality:拡張現実)を包含した単語

web3とは

メタバースという言葉が急速に広がる中で、しばしばweb3という言葉も同じ文脈の中で語られる。Web1、Web2、web3とはインターネット進化の遷移であり、Web1、Web2との対比の中でweb3を確認したい。
Web1は言うならば「一方通行のインターネット」である。インターネットというメディアの登場により、コミュニケーションが変化した初期の段階である。マスメディアに寄らない形で、情報発信の民主化が花ひらいた。ただし、ホームページやeメールに代表されるように、Web1におけるコミュニケーションはあくまでも一方的である。
Web2は「双方向のインターネット」である。SNSやブログに代表されるように、コミュニケーションが、よりクイック、かつ双方向になった段階である。Web1における情報の受け手が新たな情報の作り手・出し手となりwebサービスにおける情報の流動性が飛躍的に上昇した。ユーザーが自ら発信するサービスへと前進した一方で、情報を流通させるサービスを開発・提供する巨大IT企業に個人情報を含むデータが集約し、プライバシー・セキュリティ上の問題が指摘されてきた。
そして、足許で注目を集めるweb3は「分散化したインターネット」である。ブロックチェーン技術を活用した自律分散型のネットワークで、特定の企業のような中央管理者を必要としない。同ネットワーク上では価値やデータが分散し、データの所有や権限管理をユーザー自らが行う。web3上でのサービス提供・活動の多くはブロックチェーン技術を活用したNFT(Non-Fungible Token / 非代替性トークン)や、FT(Fungible Token / 代替性トークン、暗号資産など)を活用し展開される。

【図表1:インターネット進化の遷移】

The Finance
(画像=The Finance)

メタバースとweb3の関係性

ここまで、“メタバース”、“web3”それぞれの定義を確認してきたが、あらためてメタバースとweb3の関係性について整理をしたい。上述概念を前提とした場合、両者は重複する部分はあるが、完全に重複する、あるいは一方が他方を包含するものでは無いと考える。ベン図で表現すると、図表2の通りである。
“メタバース”は、バーチャル上の3次元空間となり、空間そのものを指す。一方、“web3”は、価値およびデータが分散された状態を指す。そのため、メタバースには、①Web2をベースに提供されるサービス、②web3をベースに提供されるサービス、③メタバースという空間は直接関係ないweb3サービス、といったパターンが存在する。

【図表2:メタバースとweb3】

The Finance
(画像=The Finance)

※ 現段階でweb3を共通見解として定義することは困難であることから、本稿では「Blockchain技術を使用したサービス」という手段ベースの定義としたい。


①Web2メタバースは、メタバース事業の中心となるプラットフォーマーが存在し、その統制の元でメタバース空間が展開されている。そのため、コミュニケーション、デジタル資産の売買、決済手段など、メタバースに関するヒト・モノ・カネは、基本的にプラットフォーマーとなる事業者のルールに沿うものである。代表事例は、Horizon Workrooms、バーチャル渋谷、ANA GranWhaleなどである。
一方、②web3メタバースは、①Web2メタバースのような中心的な事業者が存在しない世界を目指している。そのため、ガバナンストークン、NFT、暗号資産などと関連させながら、メタバースに参加する利用者間でヒト・モノ・カネのルール組成を行う世界である。代表事例は、The Sandbox、Decentraland、Axie Infinityなどがある。
このように、メタバース=web3ではなくメタバース≠Web2でもない。今後もサービス開発の目的や主体者の想いにより、①Web2メタバース、②web3メタ-バスが混在した世界として拡張していくものと推察する。

メタバースにおける金融サービス

①Web2メタバースにおける金融と、②web3メタバースにおける金融、それらの差異はどこにあるのか。また、今後必要となってくる要素はどのようなものだろうか。
メタバース内で展開される金融サービス①をCeFi、②をDeFi、と言い換えると分かりやすいかもしれない。CeFiとは、Centralized Finance(中央集権型金融)の略称であり、各国における金融当局による法規制のもとで、金融機関が金融サービスを提供する形態を指す。一方、DeFiとは、Decentralized Finance(分散型金融)の略称であり、金融機関などの中央機関を介さず金融サービスが運用される開かれたエコシステムを指す。主な特徴としては、第一に、利用者の属性にかかわらず、いつどこからでも利用できる点、第二に、売買可能な暗号資産数など、取り扱いサービスの幅が広く、手数料も比較的安価である点が挙げられる。一方、詐欺被害などのトラブル、ガス代(*4)高騰による手数料の負担増加など、負の側面についても十分な認識が必要となる。
さて、先にメタバースの特徴として“実在人がアバターを通じアクセスするバーチャル上の3次元空間”という点に言及したが、メタバース空間における実在人とアバターの関係は必ずしも1対1ではなく1対nの関係となる。即ち、一人の実在人が複数のアバターを作成し使い分けられる状態である。現実世界においては金融機関が実在人に対し本人確認を行うことで、金融サービスの安心・安全を担保してきた。今後メタバースにおけるサービスが拡充するにつれ、決済を始めとした多くの金融サービスの実装が予想されるが、web3メタバースとて金融活動の安心・安全の担保は看過されるべきものではなく、現実世界と同水準のKYCが要請されていくと予想される。
匿名性の高いアバターを通じて行う自由な自己表現がメタバースには期待されるが、こと金融活動においてはAML/CFT(*5)の観点から必ずしも匿名性を優先できない。
メタバース空間におけるKYCにはいくつかの手法があるが、現時点で有力だと考えるのは金融機関によるKYC済みのウォレット提供となる。つまり、秘密鍵を利用者自身が管理する自己管理型ウォレットではなく、金融機関によるKYC済みのカストディアル・ウォレットを利用しメタバースでの諸活動を行う形式である。同手法は現実世界のCeFiサービスの延長にあり、国内外多くの金融機関でのサービス実装が進むものと思料する。ただ、特定事業者に情報が集約するリスクは排除できない。そのため、並行して、現実世界と同水準のKYCを実現するためのDeFiサービスとも言える、分散型IDやSBT(*6)などを活用した様々な手法が研究・開発されている。今後ユーザーの利便性や認証強度、利用用途に応じCeFi・DeFi含め、多様なKYC手法が提供されていくものと推察する。

本稿では、シリーズ「メタバース×金融」の全体編として、基礎的な内容を中心に、特にweb3との関係性を通じたメタバース上での金融サービスについて考察してきた。次回以降、本稿を土台として銀行業界、保険業界におけるそれぞれの特徴や取り組み等を引き続き考察していく。

※ 脚注
*4)ブロックチェーン上での取引手数料の名称
*5)AML:Anti Money Laundering, CFT:Countering the Financing of Terrorism
*6) SBT:Soulbound token 譲渡不可のNFT。経歴証明など個人の存在証明に主に活用される

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開催日時:2023-04-27(木) 10:00~12:00
     (オンライン受講/アーカイブ配信付き)
講 師 :アビームコンサルティング株式会社
     金融ビジネスユニット
     鈴木 雄大 氏 シニアマネージャー
     内田 悠介 氏 マネージャー


[寄稿]鈴木 雄大
アビームコンサルティング株式会社
金融ビジネスユニット シニアマネージャー
大手SIer・総合ファーム・Big4戦略チームを経てアビームコンサルティングへ参画。主に金融機関やFinTech企業に対する経営戦略・事業戦略・経営統合のコンサルティングサービスに従事。直近ではメタバース・Web3ファイナンスの調査研究・情報発信、金融機関の事業検討支援に注力。
[寄稿]森田 直樹
アビームコンサルティング株式会社
金融ビジネスユニット シニアマネージャー

大手SIerを経てアビームコンサルティングへ参画。金融機関を中心に、新規事業開発領域のコンサルティングサービスに従事。近年は、大手企業におけるweb3領域参入の支援に注力している。
[寄稿]内田 悠介
アビームコンサルティング株式会社
金融ビジネスユニット マネージャー

2010年アビームコンサルティング入社。金融機関を中心に、戦略立案・業務改革・DX推進などのコンサルティングサービスに従事。直近はデジタル技術を活用した新規事業開発・推進に注力。