ほんの少し前まで在庫を求めてショップを日参する「マラソン」が繰り広げられたスイス製高級時計「ロレックス」市場に異変が生じている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大からの社会の正常化に伴って物価高騰が続いているが、ロレックスは反対に暴落しているのだ。なぜか?
物価は41年ぶりの高騰、なのにロレックスは最大3割も暴落
2023年1月に総務省が発表した2022年通年の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が生鮮食品を除く総合で102.1となり、前年比で2.3%上がった。直近の昨年12月は104.1となり、前年同月比で4.0%上昇。第2次石油ショックに見舞われた1981年12月の4.0%以来となる41年ぶりの上昇率となった。
一方、コロナ禍による経済不況を尻目に価格高騰が続いていたロレックスの国内販売価格は暴落。価格.comによると一番人気の「コスモグラフ デイトナ」(税込メーカー希望小売価格175万7800円)の平均販売価格は昨年2月に739万9900円をつけたが、その後は値下がりが続き今年2月8日には501万7040円に。メーカー希望小売価格の約2.8倍と高いが、1年間で平均販売価格は約240万円も値下がりし、下落率は32.2%に達している。
「コスモグラフ デイトナ」よりも手頃な価格で買えると人気の「サブマリーナー デイト」(同122万2100円)は昨年1月20日に253万9083円をつけたが、今年2月9日には205万9366円と50万円近く値下がりし、下落率はデイトナほどではないが18.8%と2割近い。
ロレックスを転売して利ざやで儲けようとする人たちにはショックだろう。事実、企業業績にも影響を与えている。カメラや時計、自転車販売事業などを手がけるシュッピン<3179>は2月7日、2023年3月期の通期業績予想を下方修正した。
「カネ余りの解消」がロレックスの大量放出を生んだ
足を引っ張ったのが、同社で2番目に売上高が大きい時計事業。同社発表資料によると「特に、ロレックス等の人気商品においては、通年をとおして30%強の下落」となったのが響いたという。その結果、売上高は当初予想比9.5%減の446億200万円、営業利益は同33.8%減の23億2000万円、経常利益は同33.8%減の23億円、当期純利益は同33.8減の15億8700万円となる見通しだ。
同社はロレックス暴落の理由を「中国主要都市のロックダウンから始まり、コロナ後を見据えた諸外国の中央政府による金利引き上げに伴うインフレ進行と景気減速、暗号資産の急落、株価変動等も大きな要因となり、以前は希少でありました中古時計が流通市場に大幅に供給されたことにより、需給のバランスが崩れ急激な価格の押し下げ原因となっております」(同社発表資料より)としている。
要はコロナ禍からの正常化に伴うインフレを抑え込むための金融引き締めで「カネ余り」が解消したことから、投機商品となっていたロレックスを高値のうちに売り抜けようとする動きが一気に加速したということだ。
ロレックス社が昨年12月に「認定中古プログラム」を導入してこれまで関与しなかった中古時計ビジネスに参入するのに加え、スイス・フリブール州ビュールに同社5番目の新工場を建設して25~30%程度の時計増産も見込まれる。こうした情報を受けて「ロレックスの品薄が解消されるのではないか」との懸念から中古品の市場放出が加速し、値崩れを助長したようだ。
コロナ禍にもかかわらず急成長した高級品市場だが、ここに来て「暴落」のステージに入り始めた。ロレックスは、その「はじまり」にすぎないのかもしれない。
文:M&A Online編集部