東京などでもよく展覧会が開かれている「ジャン・プルーヴェ」は、20世紀に活躍したフランスのデザイナーです。ここでは彼の歩みとともに、その人気の作品、そしてその価値について解説していきます。
(TOP画像引用:Vitra公式サイト)
ジャン・プルーヴェとは
ジャン・プルーヴェの作品について触れる前に、まずは「ジャン・プルーヴェとはどういう人であったか」「どこで生まれ、そしてどういう人生を歩んだ人であったのか」について解説していきます。
ジャン・プルーヴェの生涯
ジャン・プルーヴェは、フランスで画家の父と音楽家の母の間に生を受けました。芸術一家の子どもとして、アール・ヌーヴォー文化のなかで育った彼は、やがて金属工芸家としての人生を歩み始めます。
「工業デザインの父のうちの1人」とも称される彼は、まだ年若いころからさまざまな仕事を手掛けていきます。彼を象徴する仕事として「スチールを使った家具」がありますが。やがて彼は家具だけでなく、建築分野のデザインをも手掛けることになりました。
なお、彼はデザイナーとしては異色なことに、政治家(市長)としての経歴を持っています。ちなみに戦後のフランス復興時期において、今ではなじみ深いものとなったプレハブ住宅の考案も行なっていました。
彼は82歳でこの世を去りましたが、彼の成し得た技術革新は、現在の工業デザインの礎となっています。
ジャン・プルーヴェ作品の価値
ジャン・プルーヴェは、「工業デザインの祖のうちの1人」としても知られている人物であり、数多くの「量産可能な」家具のデザインを手掛けてきました。たとえば彼の代表作であるアームチェア「シテ」は、当時の学生寮のために作られています。
彼の手掛けてきたヴィンテージ品は、現在では非常に稀少価値が高くなっており、そう多くは出回っていません。そのため、しばしば高額で取り引きされています。例えば、1940年代後半に作られたとされる"Visiteur" Armchairは、サザビーズにて約2,208万円で落札されました。
経歴を「金属工芸家」から始めたジャン・プルーヴェは、その生涯において、金属を使ったデザインをよく生み出しました。彼のデザインは常に機能性と美しさの2つを併せ持っており、ブラッド・ピットやマーク・ジェイコブスといった世界的なセレブにも愛用されています。
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ジャン・プルーヴェの人気復刻作品
ここからは、ジャン・プルーヴェの作った家具について解説していきます。すでに述べた通りジャン・プルーヴェのヴィンテージ品は非常に稀少なものではありますが、ジャン・プルーヴェのデザインを元に作られた復刻作品も数多く生み出されています。
アバジュール コニーク
生前のジャン・プルーヴェと20年以上もの間提携をしていたスイスの家具ブランド「ヴィトラ」が2022年の秋に復刻販売したもの、それが「アバジュール コニーク」です。
アバジュール コニークはもともと、フランスのナンシーにある自分の屋敷のためにとジャン・プルーヴェがデザインしたもので、非常に単純な壁付けの照明です。
アーム×電球というシンプル極まりない簡素なデザインではありますが、ほかのデザイナーの作品も含めて数多くの照明を検討してきた彼が最終的に選んだのがこの「アバジュール コニーク」であることを考えれば、その価値が分かるのではないでしょうか。
レイヨナージュ ミュラル
レイヨナージュ ミュラルは、一言でいうならば、「壁付け棚」です。20世紀の前半に非常によく見られたもので、このレイヨナージュ ミュラルもまた1936年に誕生しています。ちなみに、この家具はもともとフランスのメスにある教育施設「École Nationale Professionnelle」のためにデザインされました。
レイヨナージュ ミュラルは、ジャン・プルーヴェの得意な「スチール」と、ナチュラルオークを掛け合わせて作っています。飾り気は多くはないものの、性格も性質も違う2つの異なる素材を掛け合わせた面白さや、彼らしい特徴的なデザインで人気を博しています。
またこのレイヨナージュ ミュラルは、「工業デザイン」をとくによく追及したもので、使いやすさと美しさを見事に両立させています。
タブレN°307
タブレN°307のそのユニークな座面は、しばしば、「トラクターのサドルにも似た」と表現されます。斜めにつけられたスチール製の脚は、シンプルでありながらもしっかりと座面を支えていますし、木で作られた座面は人の体を受けとめるだけの強さと温かみを持っています。レイヨナージュ ミュラル同様、異種素材を組み合わせた作りが特徴です。
もっとも、実はこの「異種素材を組み合わせたタブレN°307」は、復刻版の特徴です。タブレN°307は1951年に初めてデザインされていますが、その当時はアルミニウムを使っていました。現在の復刻版に使われているオーク材は、ヴィトラの発案によるものだと考えられています。
ジャン・プルーヴェ作品のオークションにおける価値は?
ジャン・プルーヴェの作品は、多くの人に愛されています。そのため彼が作った作品はしばしばオークションなどにも出品されます。今回はそんなジャン・プルーヴェさの作品のなかから、2つのテーブルを紹介します。
Gueridon BAS
「ゲリドン バス」と呼ばれるこの愛らしい丸型のテーブル(ラウンドテーブル)は、コーヒーテーブルとしてよく利用されてきたものです。1949年に作られたものであるとされていて、オークや金属などによって仕上げられています。
ジャン・プルーヴェらしさと同時に、「空間への溶け込みやすさ」を意識して作られたであろうテーブルであるため、どのような部屋であってもほかの家具と調和して存在することができるでしょう。
人気が高く、ザザビーズでのオークションでは2,500万円を超える価格で取り引きされた実績があります。
Compas Direction
「コンパスディレクション」と名付けられたユニークな机は、その名前の通り、脚がコンパスのようなかたちをしています。なおジャン・プルーヴェは「コンパスシリーズ」としてこのような脚を持った作品をリリースし続けますが、これは「ジャン・プルーヴェにとって最後の家具のうちのひとつ」ともいわれています。
もちろんこのコンパスシリーズを作り終えた後もジャン・プルーヴェの活躍は続いていますが、ジャン・プルーヴェ自身が、ジャン・プルーヴェのナンシーの工場で作っていた家具は、これが最後だということです(この後、ジャン・プルーヴェはパリにその拠点を移します)。
アシメントリーの脚はあくまですっきりと美しく、一方でユニークさと安定感を持っています。単純な「机」という構造物に、さまざまな「面白さ」を入れた作品だといえるでしょう。
ザザビーズでは、約286万円で落札された実績があります。
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ジャン・プルーヴェ作品のなかでも価値の高いもの
ここからは、ジャン・プルーヴェの作品のなかでもとくに価値が高いとされているアイテムについて簡単に解説していきます。
※情報は2023年2月23日現在のものです。実際に売買するときは、最新の情報に当たってください。
テーブル ソルヴェイ
「テーブル ソルヴェイ」は、「ジャン・プルーヴェ(の工場)がソルヴェイ社の元で作ったテーブル」のことを指します。
ちなみにテーブル ソルヴェイと少し似たデザインを持っているものとして「EMテーブルナチュラルウォークソリッド」がありますが(後述します)、テーブル ソルヴェイの場合は、ジャン・プルーヴェの代名詞ともいうべき「金属素材」は使用されていません。それもそのはず、テーブル ソルヴェイが作りだされたのは1941年から1942年のこと、世界はまさに第二次世界大戦の真っ最中でした。その戦争のなかで金属が不足し、テーブル ソルヴェイにはこれを使用することができなかったのです。
しかしこのように不遇の時代に生まれ出たテーブル ソルヴェイは、やがてジャン・プルーヴェの代表作として高く評価されるようになります。
公式サイトの価格では約60万円で販売されています。また、同タイプのヴィンテージはサザビーズで約2億3,100万円と高額で落札され、プルーヴェの家具の希少性や人気を示しました。
EMテーブル
上でも少し触れましたが、「EMテーブル」は、金属製の脚と木を組み合わせて作ったものです。ちなみにEMテーブルの天板は、ソリッドオーク(一枚物の板)と、オーク材のベニヤを使ったものの2種類が存在します。
このEMテーブルは、テーブルスルヴェイから遅れること9年後の1950年に作られたもので、メゾントロピカルのために作られました。脚の間に添わされたバーと、傾斜のついた金属製の脚は、美しさだけでなく、「テーブルにかかる重さを床に逃がす」という実利的な役割も担っています。このあたりにも、工業デザインを追求し続けたジャン・プルーヴェのこだわりを見て取ることができます。
公式での販売価格は約41万円、サザビーズでは同タイプのヴィンテージが約1,480万円で落札されました。
Cité
ジャン・プルーヴェを語るうえで欠かせない作品、それが上でも取り上げた「シテ」です。おそらくシテは、ジャン・プルーヴェの作り出してきた数多いデザインのなかでも、もっとも有名なものなのではないでしょうか。
シテは、ジャン・プルーヴェがまだ20代のころに生み出された作品です。彼の愛したナンシーの大学学生寮のために作られたもので、スチールのフレームに皮のベルトを張り巡らせて作るアームレストを持つ非常に特徴的なイスです。そのデザインは非常に人目を惹き、2023年の現在でも通じる美しさを持っています。
公式での販売価格は約46万円です。また、サザビーズでは約2,147万円でヴィンテージが落札されました。
フォトゥイユ ディレクション ピボタン
「家具デザイナー」というと、リビングや寝室を彩る家具を作り出す人……という印象を持つ人も多いかもしれません。しかし実際には、オフィス用の家具を手掛けるデザイナーも多くいます。ジャン・プルーヴェも、もちろんそんなデザイナーのうちのひとつです。
フォトゥイユ ディレクション ピボタンは、オフィス用のチェアに求められる「座面の高さを調節する機能」「回転機能」、そして「背もたれの角度を調整する機能」の3つを持っています。インテリアとしての美しさはもちろん、使い勝手の良さを追求して作られたものであり、素材の展開も非常に豊富です。オフィスのデザインに合わせて、素材を選んでみるのもよいでしょう。
公式での販売価格は約35万円です。サザビーズでは、現在販売されているチェアのルーツとなるヴィンテージが、約1,084万円で落札されました。
まとめ
ジャン・プルーヴェは、1901年に芸術一家に生まれた人物です。長じてからは家具デザイナーとしての活躍を見せるようになりましたが、彼の活躍はその域にはとどまりませんでした。工業デザインを追求し続け、金属類の取り扱いをとくに得意とした彼の作品は、多くのセレブに愛され続けています。
時に戦火のなかにその身を置き、政治家としての顔も見せていたジャン・プルーヴェですが、そのセンスの良さはそのようななかにおいてもまったく色あせることはありません。そしてその美しさは、はるかに時を超えた2023年の現在でも、多くの人の注目を集めています。
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