自らの収集の趣味が、将来的に大きな資産になり得る「コレクション投資」。もしかしたら、実家の物置の奥底に眠っている子供のころに集めたグッズが、現在ではちょっとした資産になっているかもしれない――。特集前半では、そんな可能性に満ちたコレクション投資の魅力やポイントについて、コレクション資産管理「COLLET」を運営する株式会社between the artsのCEOで、自らもアートコレクターとしてコレクション投資をしている大城崇聡さんに話を聞いた。後半も、引き続き大城さんにコレクション投資のキモを聞いていく。
大城 崇聡
Takatoshi Ogi
株式会社between the arts CEO
不動産テックカンパニーの創業に携わり、東証1部上場を経験。クラウドファンディングやトラベルテックなどの新規事業の立ち上げや事業拡大を牽引する。2020年1月、between the artsを起業しCEOに就任。アートコレクターとしての実体験を元に、アート作品の管理、保管、流動性に関する問題点を解決するため、日本初のコレクション資産管理サービス「COLLET(コレット)」を展開。歴史の長いアート・美術業界にテクノロジーをもたらし、アートをはじめとした日本のコレクション市場拡大への貢献を目指す。一般社団法人日本アートテック協会代表理事。
「何を買うか」よりも「誰から買うか」のほうが重要
――大城さんは時計や現代アート、家具などの分野が特に詳しいということですが、これから特に伸びそうな分野はありますか?
英国のコンサルティング会社ナイト・フランクによると、近年で最も利益につながる投資対象とされているのがウイスキーでしたほかに、車やワイン、時計、バッグなども価値が上がっていく可能性があります。
――初心者が始めるとしたら、どのあたりから始めるのがいいとお考えですか?
まず、前半でもお話した「自分が好きだったり、興味が持てたりするモノ」が大前提。そのうえで、わかりやすいのはアートや時計、ウイスキーなど、オークション会社が開催するオークションでレコード(売買実績の記録)が多く残っている分野が手掛けやすいかもしれません。というのも、コレクション投資の弱点の1つに「フェアバリューがわかりづらい」ことが挙げられるからです。
以前は価値を調べるために専門誌を読んだり、仲介業者に電話で聞いたりする必要がありましたが、現在は、オークションレコードのほかに、日本なら「ヤフオク!」、米国では「eBay(イーベイ)」といったオークションサイトやECサイトで価格を調べることができます。
――そのようなサイトで実際に売買されるんですか?
サイトをチェックするのは、あくまで収集したモノのおおよその相場を知るためです。相手の顔が見えないインターネット取引では、コレクション投資最大のリスクと言える「偽物をつかまされる」可能性があるからです。サイトを見て真贋か自分で判断できるものしか買いません。
――では、どういうルートで購入すべきなのでしょうか。
最も重要なのは、信頼のおける相手から購入することです。大半のコレクションアイテムには、その分野の「仲介業者」が存在しますから、購入も売却も仲介業者を通して行うべきでしょう。たとえば、SNSを利用した個人間の取引では、自分で真贋を見極められるスキルが必要になりますし、個人の力では限界があります。
そのため、正規のお店で購入するか、あるいはその業界で多くの取引実績を持つ、信頼できる仲介業者を探すことが、コレクション投資の第一歩。実際、知り合いが「本来は5,000万円くらいするものだが、200万円で譲る」と言われて購入したところ、やはり偽物だったというケースがありました。このような例は決して珍しくありません。コレクション投資では、「何を買うか」よりも「誰から買うか」のほうが重要なんです。
――アート作品や古美術品などに関しては「真贋」の判断が難しいと思っていましたが、やはり偽物をつかまされるリスクがあるんですね。ほかに、どのようなリスクが考えられますか?
強いて挙げるとすれば、レバレッジ(てこの原理、借り入れを利用することで自己資金のリターン(収益)を高める効果)が利かないことと、株式の配当のようなインカムゲインがないことでしょうか。家具やアートやワインなど、モノによっては維持や管理するためのコストがかかることも、障害になるかもしれません。
保管に場所を取るモノや、ワインなど保管状態が価値に影響するものに関しては、専用の倉庫を借りたり、設備を整えたりする必要が生じることもあります。私も、アートや家具を保管しておくため、最適な湿度や温度に管理されている弊社の保管サービスを使っていますね。
<between the artsが運営するコレクション資産管理サービス「COLLET」>
――倉庫を借りるとなると、かなりコストがかかりそうですね。
それが嫌なら、まずはフィギュアやトレーディングカードなど、比較的保管が容易なものを選んだほうが無難でしょう。ただ、コレクション投資はモノ次第で大きな売却益が見込めるわけですし、自分で楽しむこともできますから、管理コストはある程度割り切って考えるほうがいいかもしれません。保管環境が悪いと、せっかく価値がついてもコンディションのせいで価値が下がってします。
それに、アート作品などコレクション投資の一部では、節税効果があるのも魅力ですね。
――アート作品の購入に節税効果があるのですか?
法人名義で購入するアート作品は減価償却の対象になるので、条件付きではあるものの、経費として計上することができます。取得価格や用途によって、一括償却なのか減価償却なのかが変わってくるので、自社でアートを購入する際には、具体的な条件をネットで調べてみるといいでしょう。
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高級時計のオーバーホールを正規店でやるのはNG
――ここからは大城さんの専門分野について質問させてください。大城さんは高級腕時計の中でもロレックスと現代アート、家具をご自身でも収集されているとのことですが、まずはロレックスの現状についてお話いただけますか?
ロレックスは、人気のあるモデルとそうでないモデルがはっきりしているのが特長です。具体的には、デイトナやサブマリーナ、エクスプローラーといったスポーツモデルは特に人気が高く、価格も上昇傾向が続いています。1960年代のロレックスの“初代”デイトナでいうと、4、5000万円、あるいはそれ以上の値が付いているものもあるほどです。人気モデルであれば、安心して持ち続けることができると言っていいと思います。
ただ、そのような人気モデルは一度購入すると持ち続ける人が多く、常に人気ランキングの上位を独占している状態なので、とにかくモノが市場に出回りません。そのため、いまはスポーツモデル以外のドレスモデルにも人気が波及しています。以前は中古品なら10万円台で購入できたモデルが、現在では100万円以上に値上がりしているものもありますね。
――腕時計は保管するスペースが小さくて済みそうですし、資金力さえあれば初心者でも収集することができそうですね。
確かに狭いスペースで保管できますが、問題は定期的にオーバーホールをする必要があること。腕時計は普段から身に着けていないと、オイルが固まりやすく劣化します。少なくとも3~5年に一度はオーバーホールをするべきでしょう。
定期的にオーバーホールしないと、修理の際に膨大な費用が発生しかねません。実際に、私もオーバーホールを怠ったがために、300万円程度の修理費がかかったことがあります。その時は地獄でしたね……。
購入は正規店で問題ないのですが、注意したいのはオーバーホールについて必ずしも正規店が正解とは限らないことです。
――正規店でのオーバーホールは適切でないということでしょうか?
正規店だと、ヴィンテージのモデルなのに新しい部品に交換されてしまうケースがあるんですよ。ヴィンテージの腕時計は、外側だけでなく、内側の構造部分に使われる部品も当時のものでないと価値がなくなるんです。仮に新品に交換した場合、それだけで価値が一気に下がってしまいます。オーバーホールは昔のモデルの部品をストックしているヴィンテージ専門業者に頼む必要がありますね。
ちなみに、オーバーホールの価格はモデルや年代などによって変わってきますが、だいたい8万円から15万円程度です。
下記ロレックスのオーバーホールについて解説した記事もあります。併せて読むことでオーバーホールの大切さがより深く理解できます。
<ロレックスのオーバーホールは必要か|必要性や費用・期間を解説>
モノによっては地域で大きな価格差が生まれる場合も
――続いて、家具と現代アートについても知見をお聞かせください。
家具業界において、いま世界中で投資ブームになっているのが1950年代から60年代、ミッドセンチュリーもので、フランス人デザイナーのピエール・ジャンヌレが手掛けたヴィンテージ家具ですね。この家具であれば、ほぼ確実に価値が上がっていくと考えています。
ジャンヌレ以外だと、ブラジル発のミッドセンチュリーの家具に注目しています。まだ価格はそこまで高騰していませんが、いまオークションサイトを見て情報を集めている最中です。
――地域によって随分と価格差があるんですね。
最初に、「コレクションしたアイテムの値段は需要と供給のバランスで決まる」とお話しましたが、当然、地域によって人気の高低があります。ジャンヌレが手掛けた家具に関しては、日本では50万円から100万円の間で購入できるモノが、米国では200万円程度で取引されているケースも見られますね。
家具を見るときに大事なのが、過去にその家具を誰が保有していたか、いわゆる「来歴」です。ジャンヌレは家具をインドで作っていたのですが、盗難が相次ぎ、所有者がペンで自分の名前をサインしているものが多く見受けられます。
――そのようなサインがあると、価値が下がってしまいませんか?
ジャンヌレの家具に関してはその逆です。絵画の中に勝手にサインを入れたりすると台無しですが、ヴィンテージ家具に関しては、来歴がわかるものがないと、逆に価値が生まれないんです。これは家具に限った話ではありませんが、人気が出ると偽物が市場に出回りやすくなるため、そうした来歴が必要になってくるわけです。
家具の場合は、新しいモノを持っていて徐々に価値が上がっていくパターンと、古い年代のモノが急に人気化し、価値も急上昇していくパターンのどちらかが多いですね。輸出入に関して関税がかからない(一部を除く)のも、ヴィンテージ家具コレクションの強みです。
――現代アートに関しては、人気化するのを予測するのが難しいイメージがあります。アート作品に関しては、やはり「将来的に人気が出る作家」という予測のほかに、自分がその作家の作品を気に入ることが大事です。
私が初めてアート作品として購入したのが、福岡出身のKYNE(キネ)という作家。2015年に開かれた展示会で作品を見たところ一目で気に入り、そこから少しずつ買うようになりました。1988年生まれの若い作家ですが、国内では圧倒的な人気を誇り、今後は海外での将来性も高いと思います。実際、購入して10年も経たないうちに、10倍以上の価値になっていますね。
日本国内にいる作家の場合、展示会などで作品を実際に観に行けるのはもちろん、場合によっては作家本人と話をする機会が持てるのも、日本人の強みと言えるかもしれません。海外の作家に直接話を聞くのは難しいと思いますが、作家に直接会って話をすることで、その人柄や考え方などを聞くことができます。
興味深いのは、アート作品は作家が亡くなると価値が急上昇する傾向があるのに対して、その作家が活動を止めると、途端に価値が下がること。作家活動の休止は、自分自身で作品に価値がないと認めたと捉えられるからかもしれません。
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せどり目的は厳禁
――初心者が一からコレクション投資を行う場合、おすすめのやり方注意点などはありますか?
まずは、オークションサイトで、どのくらいの価格で売買されているのかを知ることです。そのうえで、同じモノを収集しているコレクターのSNSを見て情報を集めたり、信頼できる仲介業者を見つけたりいろいろと質問してみるといいでしょう。やはり、情報収集の中心的なツールはSNSです。
ある程度知識がついてきたら、日本国内で開かれるオークションに参加してみるのも一手です。日本にはサザビーズやクリスティーズといった世界的なオークションハウスの会場はありませんが、「SBIアートオークション」や「シンワオークション」など国内でオークションを開催する会社はいくつかあります。そのようなオークションは身分証明書だけで登録できますから、敷居は高くありません。オークション前の下見会に参加して、いろいろな出品物を見るのも楽しいですよ。
あとは、好きなモノを経済状況が許す限り、とことん買い続け、長期間持ち続けること。そうすることで、自分のコレクションを他人にアピールできるようになりますから、自分発信でコレクションの文化を形成するなど、いろいろとできることが増えるはずです。
ちなみに、買ってからすぐに転売する、いわゆる「せどり」目的で売買していると、「あの人はすぐに転売する」などと業界内で評判が回ってしまい、売買してもらえなくなる可能性があります。コレクション投資を続けたいのなら、せどり目的の売買は止めるべきでしょう。
~取材を終えて~
大城さんが何度も繰り返し言及していたのは、「そのモノが好きじゃないと長期で続かない」ということ。自分の専門分野について話す際は大城さんご自身の目が輝いており、「投資」というよりもまるで「趣味」を聞いているような雰囲気だった。この部分が、コレクション投資における最終的な成否のカギを握っている気がしてならない。
うまく行けば、自分の趣味で資産を作れる「コレクション投資」。今回のお話のほかに、大城さん自身が運営するサイト内で、各コレクション投資についてポイントなどをまとめているので、関心がある分野のサイトをチェックしてみてはいかがだろうか。
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