今回は、過去COOLで複数回にわたりファンドを組成している山八商事株式会社の、ソーシャルレンディングによる資金調達プロジェクトのその後をお届けする。
1922年に綿布販売会社として起業し、今年で創業101年目を迎える山八商事株式会社。綿布販売はホームファッション事業へと形を変え、現在の柱である不動産事業ではソーシャルレンディングを積極活用している。ソーシャルレンディングを実施し始めて以降の変化や今後の展望について代表取締役の鈴木俊介氏に伺った。
不動産M&Aによる事業拡大
――御社や御社の事業についてご紹介ください。
当社は「人生を豊かにする会社」という経営理念のもと、不動産事業とホームファッション事業を展開しています。1922年創業ですので、今年が101年目ですね。メインとなる不動産事業は、主に流通店舗と呼ばれる物販店、具体的にはカーディーラーやアミューズメントストア、ドラッグストアなどの不動産を取得して物件ごとに子会社化し、テナントに賃貸しつつ、最終的には不動産M&Aにて譲渡する形を一つのビジネスモデルにしています。
現在、各物件を運営する子会社が13社あり、毎年およそ6~8社ずつ増え、投資用不動産商品として3社ほどを売却しておりますので、年間で3~5社ずつ増えている形になっています。
ホームファッション事業は寝具やインテリア商品の生産販売が主な事業内容です。基本的には不動産事業がメイン、ホームファッション事業がサブのような形となっており、2022年8月期では不動産事業部門が3分の2の売上比率を占めています。
丁寧な説明で安定的な追加募集を実現
――今回、4度目のソーシャルレンディングとなりました。回を重ねるごとに感じた変化はございますか?
最初はソーシャルレンディングでどれだけ資金を集められるのか不安な部分もありました。本社機能は愛知県名古屋市にありますが、登記的には蒲郡市というさほど知名度が高くないところですし、当社自体にも全国的知名度はありませんでしたから。そこで、まずはいろいろ相談させていただき、同額の預金を入れて完全に保全された担保付きの形でスタートを切りました。
その結果、多くの出資者にご理解していただいて資金を集めることができ、預金担保を外す、運用期間を長くする、金額を大きくするなどの変化を加えつつ、2号、3号と安定的な追加募集が可能となりました。COOLのプラットフォームを使って丁寧に説明すれば、情報量の少ない当社のような会社のプロジェクトにも出資していただけることがわかりました。
――投資家の方にご理解いただき、投資していただけた要因はどこにあるとお考えですか?
投資家の方々に伝えるべきことをしっかりと説明できたことが要因だと思っています。すべての情報を開示できれば良いのですが、テナントの名前など開示できない情報があるなかでできるだけのことをやろうという姿勢が、ご理解していただけたと感じています。
指名検索が増え、資金的な余裕も
――複数回にわたって実施したことによって、どのような変化がありましたか?
社名で検索してホームページへ訪問いただく件数が急増しました。COOLの募集ページを見て当社に興味を持っていただけたということだと思います。とりわけソーシャルレンディングのユーザーさん界隈での知名度が高まり、多くの方に出資を検討していただけるようになったと感じています。
また、ソーシャルレンディングによって資金的な余裕が生まれ、次の案件が持ち込まれた際にすぐに対応できる機動性を維持できるようになったと感じています。入札案件で取得できるかどうか分からない案件に関しても積極的に参加していこうという姿勢の変化がありましたし、実際に落札できた場合は、銀行からの融資を得るよりもスピーディーに動くことができるようになりました。
――検索数が増え、知名度が高まったことを受けての意識の変化等はございますか?
検索してくださった方々は収益性だけでなく安定度なども見るでしょうし、他のファンドとの比較もされると思います。そのなかで当社のことを理解していただくため、そして自分たちがより魅力的な存在になるためにはどうすればいいか、見られる前提でしっかりアピールするために案件を組み立てていくよう、社内でも徐々に意識が変わってきています。
――過去に実施したファンドについて、それぞれどのような用途で活用したのでしょうか。
3回実施させていただきましたが、第1号案件と第3号案件 は物件の取得や改装の資金に活用させていただきました。第1号案件はパチンコホールで合った物件を全面改装し、今はカーディーラーになっています。
第3号案件はコンビニ向けのお総菜を製造している既存の工場物件を取得し、そのまま賃貸する案件に資金を利用させていただきました。また、第2号案件は土地の取得資金に充てています。第1号、第3号は順調に賃貸事業が開始されており、第2号は農地を一団の土地にまとめて開発から取り組んでいるので、現在は造成工事中で、2023年秋に店舗開店予定です。
――直近の新たな取り組みである、不動産M&Aの買い手になるスキームについてご紹介ください。
M&Aによる会社売却はこの10年ほどで大幅にイメージが変わり、一般的なイグジット手法として定着しつつあります。通常の物件売却は所有権が移動することによって契約が一時的に不安定になる可能性がありますが、不動産M&Aでの物件取得は締結済みの契約を変更することがないので、事業継続性がより高い手法と言えます。また、売却する側としては通常の不動産売買では売却益に対する法人税や所得税などが課されますが、不動産M&Aの場合は株式譲渡であるため、所得税・住民税等の20.315%の税金だけで済むという税率上のメリットもあります。
当社は不動産M&Aのスキームを売り手側として使い、毎年、子会社を売却してきましたが、逆にそのメリットを享受する買い手側として立ち回ることもできるのではないかと考え、事業譲渡を受けるチャンスを生かして2022年末に初の買い手スキームに取り組み、案件として成約しました。
今回、譲渡を受けた企業については、しばらく形を変えずに不動産賃貸事業を継続していく予定です。また、第二、第三の案件もご提案を受けていますので、近いうちにM&Aを成立させることができるのではないかと考えています。当社は不動産業界のなかでは小規模のプレーヤーですが、M&Aの業界ではある程度、実績のある会社というイメージをつけていきたいと考えています。
また、一般論として今後は物件売却ではなくM&Aで売却していく案件が増えていくことが予想されます。当社としてもその流れに乗れるよう、売り手としてだけでなく、買い手としても引き続き活動していくつもりです。
――従来の不動産売買ではなく不動産M&Aのスキームで進めるというのはどの段階で決められたのでしょうか。
基本的には当社に案件が持ち込まれた段階でどちらかに決まっている感じです。不動産会社経由の案件は不動産売買ですし、不動産M&A仲介会社経由なら不動産M&Aとなります。今後、交渉のなかでどちらのスキームでも取引ができそうなケースでは、我々のほうから逆提案させていただく可能性もゼロではないと思います。両方のスキームで対応できる状態になることで、間違いなくネットワークは広がると思います。
不動産クラウドファンディングへの挑戦
――今後の事業展開において、現在、進めていることや新たに挑戦を予定していること等がありましたら教えてください。
不動産事業については取り扱う不動産の金額が一つの指標になります。不動産の質を落とすわけにはいきませんので、取扱い件数を増やしていきながら、質も高めていきたいと思っています。
新たに挑戦していることとしては、当社が運用している商業不動産に対してより直接的に投資していただくための不動産クラウドファンディングの準備を進めています。ソーシャルレンディングと不動産クラウドファンディングは近いジャンルではありますが、ソーシャルレンディングは貸金業法ベース、不動産クラウドファンディングは不動産特定共同事業法ベースという違いがあります。不動産会社に融資することで生まれる金利収益を投資家に還元するか、不動産会社の不動産事業を通じて生まれた収益をもとに投資家に還元するかという差ではあるのですが、ソーシャルレンディングに取り組んだからこそ不動産クラウドファンディングの利点も理解できるようになりましたし、取り組むなかで不動産クラウドファンディングよりもソーシャルレンディングのほうが向いている案件も出てくると思いますので、両方をうまく使い分けながら活用していきたいと考えています。
――御社の未来についてイメージしている姿がありましたら教えてください。
昨今の様々な事例によって不動産投資にマイナスのイメージが付くようになり、投資へのハードルもあったと思います。当社としては、ソーシャルレンディングと不動産クラウドファンディングを組み合わせることによってそのハードルを下げていきたいと考えています。収益を中心に考え、安全や安心、投資家の保護を度外視した考えの業者も多い中、我々1社だけでは業界全体を変えるのは難しいですが、「人生を豊かにする会社」という経営理念を掲げているからには、一般投資家の方々にもリスクとリターンを理解していただきやすい商品開発をしていきたいと考えています。不動産クラウドファンディングは1口あたり1万円からと手ごろな金額で安心して投資ができますし、自分で働きながらお金にも働いてもらうということが当たり前にできていく社会になってほしい。当社としては、そのためのツールを提供していく会社になりたいと思っています。
また、ホームファッション事業では健康にフォーカスし、睡眠の質を改善できるような商品を開発して、ECサイトを中心に販売するとともに、今後のソーシャルレンディングの出資者特典としても活用していきます。そのようにPRしつつ、不動産事業とホームファッション事業の相乗効果も追求していこうと考えています。