あらゆるものがインターネットにつながる「IoT(Internet of Things)」の登場で、人々の暮らしやビジネスの進め方が大きく変わりつつあります。インターネットとつながる機器は新たな活用法が次々と考案されて、急速に普及してきました。経済産業省を中心に、国がリードする構えを見せているデジタルトランスフォーメーション(DX)でも、IoTは中核的な技術として注目されています。IoTの可能性を改めて確認するため、IoTの活躍事例をできるだけ幅広い視野で眺めていきます。

IoTは何をどう変えたのか、事例で知る家電から農業まで
(画像=everything possible/shutterstock.com)

目次

  1. IoTとは
  2. IoTと身近な家電
  3. IoTと製造業
  4. IoTと建設業
  5. IoTと医療
  6. IoTと物流
  7. IoTと小売業
  8. IoTと農業
  9. これからのIoTはどうなっていくのか

IoTとは

IoTを直訳すると「モノのインターネット」ということになります。自動車、工場の機械設備、小型の機器類などあらゆるものに、温度や振動、電気信号の有無などを検知するセンサーが取り付けられ、このセンサーから出るデータが、インターネット回線を通じてクラウドなどに記録される仕組みのことです。

モノの状態がインターネットを介して離れた場所からも分かるようになり、蓄積されたデータは分析してAIなどに利用できます。IoTがモノから発信されるデータを収集蓄積し、そのデータを分析することによって、これまでわからなかったことが分かるようになり、それがDXにつながります。

IoTという言葉が見かけられるようになったのは最近のように思えますが、実は20年以上前から概念はありました。1999年に、マサチューセッツ工科大学のケビン・アシュトン氏がRFIDを使ったシステムのことをこう呼んだのが始まりだとする指摘があります。

RFIDは、小さなタグが電波を使ってコードを送信する方式で、当時としては革命的な技術でした。IoTといいながらもインターネットは使わない方式です。主に物流の現場などで在庫を管理するなどの利用方法がありますが、コストがかかるため、まだまだ期待されているほどの普及状況にはなっていません。当時のIoTは「コストがかかるもの」という認識であり、現在のように急速に普及することはありませんでした。

2012年、ドイツの政策から始まった、第四次産業革命と呼ばれる「インダストリー4.0」が世界的な潮流へと発展していきました。総務省はインダストリー4.0について、水力・蒸気機関を活用した機械製造設備が導入された第1次産業革命、石油と電力を活用した大量生産が始まった第2次産業革命、IT技術を活用し出した第3次産業革命に続く歴史的な変化であると説明しています。

総務省は、インダストリー4.0の主眼がスマート工場を中心としたエコシステムの構築だとしています。人間、機械、その他の企業資源が互いに通信することで、各製品がいつ製造されたか、そしてどこに納品されるべきかといった情報を共有し、製造プロセスをより円滑なものにすること、さらに既存のバリューチェーンの変革や新たなビジネスモデルの構築をもたらすことを目的としていると説明しています。

当時は、もうすでに世界の人口よりも、たくさんの機器がインターネットに接続されており、今度こそIoT機器が一気に広まりを見せる機運が高まったのです。その間、クラウドや機械学習などの技術も進展し環境が整いました。モノがインターネットにつながることによって、世界中のデータの量が一気に増加しました。それを分析する手法・機械学習やAIも発達してきています。

IoTによって、従来の考え方や手法に革命がもたらされ、新しい時代を迎えようとしています。

IoTと身近な家電

IoTといっても、われわれが常々手に取って使ったりしていても全く意識されないものだと思います。IoTは身近にある家庭用電化製品にも存在します。その一例をご紹介しましょう。

・見守りポット

象印マホービンの商品「みまもりホットライン」は、見守られる人がマホービンを使うと、見守る人に1日2回メールを届けるサービスです。このサービスは2001年にはじまり、今でも続いています。使っている回線はFOMA(3G)です。

高速通信や難しい技術、複雑な機器、大きいデータ転送は必要ありません。スイッチが押されたことだけを離れた場所に伝えられる、移動可能でインターネットにつながるというだけで、こんなに革命的なサービスが展開できることを知らせた家電IoTでした。

・洗濯機

洗濯機を使う場合、人は必要ありませんが時間が必要です。外出先から、家にたどり着く時間に洗濯が終わるように制御できれば、時間の節約になります。スマートフォンの専用アプリでこうしたコントロールができる製品が出てきています。

家事にかける時間をいかに短くするかは、現代の各家庭においての大きな課題です。洗濯機に搭載したIoTは、洗濯の終了時間をコントロールしたり、終了したことを知らせたりします。

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(画像=Andrey Suslov/shutterstock.com)

・冷蔵庫

冷蔵庫は、消費電力が気になる家電の1つです。所有者のスマートフォンと連携して、位置情報を把握、買い物に行っていると判断すれば、冷蔵庫はそのタイミングだけ庫内の温度を下げ、買い物帰りに食品を冷蔵庫にしまうタイミングで庫内の温度が上がってしまうのを防ぐという機能があるものが出てきました。

そのほか、扉の開閉とその時間などを学習し、家族の生活パターンに合わせて庫内の温度をコントロールします。冷蔵庫IoTは、省エネに活用されています。

・ロボット掃除機

自走式のロボット掃除機は人気が高い家電の1つであり、価格が下がったことで一層普及し始めています。ロボット掃除機はスマートフォンと連携し、清掃の記録や、ごみ捨てのタイミング、何かトラブルがあったときの通知などをしてくれます。もちろん外出先から清掃を指示できます。

テーブルの脚、電気のコード、段差などは自身で判断をし、最適な動きできれいに床のほこりを吸い取ります。ベッドやソファの下など普通の掃除機では難しいところへも入っていけるのもいいところです。掃除機のIoTは家事の時間短縮に貢献します。

・エアコン

エアコンのIoTでは、外出先からエアコンのオンオフができるようにしたものが多いようです。また、エアコンは消費電力の大きい家電の一つであり、省エネ上、常に話題にとりあげられています。

エアコンの場合、スイッチのオンオフと温度コントロールを自動でできれば省エネにつながるため、外出先からのコントロールや、日中の気温の変化を予測してあらかじめ冷やすなど、後付けでさまざまな機能を付加する試みがなされています。エアコンのIoTは省エネと快適性に貢献します。

・ドアロック

外出するときに玄関に鍵をかけますが、家族が帰宅する時間がバラバラでわからないと、家族それぞれに鍵を持たせるなどの措置が必要になってしまいます。

そこで、スマートフォンで鍵を開けられるようにしたものが登場しています。子供に鍵を預けると、なくしてしまう心配がありますが、スマートフォンで開けられるようにするならば鍵そのものがありませんのでその心配はなくなります。ドアロックのIoTは家のセキュリティ向上に寄与します。

IoTと製造業

製造業においてIoTはどのように活用されているのでしょうか。2つほど事例をご紹介します。

・空研工業

空研工業は、国内最大手の空調機器のメーカーです。同社は冷却塔(熱交換器)を製造しています。冷却器は屋上など野外に設置されることが多く、メンテナンスの目が行き届きにくい機器のうちの1つでした。

冷却塔にはファンがついており稼働中は常に回転していますので、いつか必ず劣化して故障します。夏季になって故障連絡が相次ぐと、部品の準備ができず、顧客を待たせてしまうことも度々でした。センサーを設置して故障時期を予測するようにすることで、こうした課題に対処できるようにしています。

・芝技研

芝技研は、シリコン、ガラス、セラミックスなど、硬く脆(もろ)い素材の精密加工や加工装置の設計・開発・製造をする会社です。その技術は半導体や光通信、宇宙開発といった分野から高く評価されています。

これら硬くて脆(もろ)い材料を切削する工具は、切れ味が悪くなると材料そのものを破損させてしまうため、製品の歩留まりが悪くなります。そこで、交換時期をあらかじめ知るために、加工中の工具や素材に掛かる負荷をリアルタイムに検知する装置を、IoTを利用して開発したのです。このことにより、歩留まり率は飛躍的に向上したといいます。

IoTと建設業

建設業のIoTは、一般の人にはあまりなじみのないところかもしれませんが、驚くほど進んでいます。代表的な例は、建機メーカーのコマツが提唱する「スマートコンストラクション」です。

「スマートコンストラクション」とは、建設業の労働力不足という深刻な問題を解決すべく、建設現場で発生するあらゆるデータを見える化し、情報通信技術(ICT)で有機的につないで、『安全で生産性の高いスマートな「未来の現場」を創造していく』というものです。そこには、さまざまなIoT機器による効果が見られます。大きく5種類を挙げてみました。

・ドローンによる測量がもたらす効果
施工予定現場にドローンを飛ばして写真測量を行います。地表面までの距離も同時に計測します。写真を点に分解してそれぞれに高さデータを持たせれば3Dデータを作ることができます(点群データ)。施工に取り掛かるまでの時間を短くでき、災害現場の復旧などに役立ちます。

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(画像=MONOPOLY919/shutterstock.com)

・ダンプ、トラックの燃料費とCo2排出量削減
ダンプやトラックに二酸化炭素(Co2)排出量のセンサーを取り付けてわかるようにします。これら車両の最適な稼働ルートや勾配調整などをシミュレーションで行い、Co2排出量が最小になるような作業道を作ります。

・作業員の安全確保に位置データを活用
作業員はGPSとスマートウオッチを携帯し、危険な場所に近づくと本人に通知します。機械と人間がどこでどんな作業をしているか、可視化することで可能となります。

・施工場所の3D化で最適な手順をシミュレーション
ドローンで測量した点群データを元に3Dでシミュレーションできます。最適な施工方法はどの方法か、画面上で試せます。

このほかにも、離れた場所から現場をサポートできるようになったり、建機そのものを遠隔操作できるようにしたりといった技術も開発されています。

IoTと医療

医療分野でのIoTは「IoMT:Internet of Medical Things」などと呼ばれています。既にさまざまな医療機器に活用が進んでおり、医療従事者の労力削減・患者の負担軽減にも寄与しています。身近なところでは次のような例があります。

・パッチ式血糖測定器
糖尿病で、継続的に血糖値を測り続ける必要のある患者がいます。現在は、小さな針を指にさして微量の血液を出し、それを測る必要があり、手間と痛みを伴うもので治療の障壁となっていました。

IoT機器を使った方法では、採血することなく皮膚にIoT機器のパッチを張って連続的に計測することができます。このパッチには血管まで届かないくらいの微小な針状のセンサーが付いており、皮膚に近い細胞間の体液から血糖値を計測することができます。計測は専用の計測器をパッチにタッチすることで可能です。

また、Appleはスマートウオッチで血糖値を測定する技術で特許を取ったことが公になっています。血糖値計測のIoT化はますます進化するでしょう。

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(画像=PopTika/shutterstock.com)

・CPAP(持続陽圧呼吸療法)
通称CPAP(シーパップ)と呼ばれている睡眠時無呼吸症候群患者のための治療機器ですが、これもIoT機器になっています。B5判ほどの大きさの小型の箱状の機器で、空気ポンプを作動させ、鼻に密着したマスク内を陽圧にし、睡眠中に呼吸道がふさがらないよう保持します。

CPAPは寝ている間の空気漏れや呼吸停止を連続的自動的に記録、1日1回主治医にデータを送信します。睡眠中の呼吸停止は血圧の上昇や、血中酸素濃度の低下に起因するさまざまな疾患につながるほか、突然死などリスクの高い状態でありチェックが欠かせません。

患者は保険適用を受けて自宅でこれを使用することができ、1カ月に1回ほどの割合で通院、もしくはオンライン診療をして主治医に状態を評価してもらいながら体調を維持することができます。こうして、主治医と患者の両方の負担が軽減されています。

IoTと物流

IoTを使った物流は「スマートロジティクス」などと呼ばれています。在庫管理を最適化したり、配車計画を最適化したり、さらには輸送中の温度管理、自動運転技術に至るまでその応用は進もうとしています。貨物の在庫チェックや重量の計測、仕分けなどもIoT機器の得意とするところです。

物流業界も、ECの発展によって貨物量が増大かつ複雑化しているのにもかかわらず、将来にわたり労働力の不足が予想されている持続性の観点から厳しい業界です。国も『総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)』をまとめ、物流のDXを推進しようとしています。そのカギとなるのが上記の貨物やトラックに設置するIoT機器になってくるのです。

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(画像=panuwat phimpha/shutterstock.com)

IoTと小売業

小売業も人材不足に悩まされています。長時間労働や深夜・休日の勤務が多い業態の抱える課題であり改善も困難です。こうした問題を解決すべく、小売業でのIoT応用は以下のような種類が行われています。

・値札や広告用のディスプレイをスマートフォンと連動させる
商品の前に値札や広告用の液晶ディスプレイを設置すれば遠隔操作で内容を変えられます。値段の変更や広告の内容もその日の状況に合わせて変更できます。今、商品の前にいる顧客を認識し、最適な広告を表示するといったことも既に実現しています。

IoTは何をどう変えたのか、事例で知る家電から農業まで
(画像=Zapp2Photo/shutterstock.com)

・商品や機器の自動管理
冷蔵ケースや陳列ケースに温度センサーや重量センサーを取り付けることによって、現場に行かなくても状況が分かるようにすることができます。在庫管理が素早くできるため品切れを防ぎやすくなります。

・レジの無人化
顧客が自分でレジを通して精算する方式のほか、買い物をしながらスマートフォンでバーコードをスキャンしていくシステムも全国で導入されています。Amazonでは商品をカバンに入れて店を出るだけという、完全に無人のコンビニも実現させました。

・顧客ごとの購買データを取得
スマートフォンで決済することによって購買履歴と個人がひもづきます。顧客がいつも買う商品が何かを把握することができるので、マーケティング上これまでになく有益なデータになります。このデータの活用方法はさらなる発展を見せそうです。

IoTと農業

農業もIoT化が必要な業種といわれています。建設業や物流業と同様、農業の担い手不足は深刻な問題であり、各地で高齢化により後継者がいないため放置される耕作地の問題が発生しています。

出典:農林水産省 スマート農業の展開について
出典:農林水産省 スマート農業の展開について

こうした現状を国も課題ととらえており、「スマート農業」を提唱、IoT技術を用いた農業への転換を推進しようとしています。温度、湿度、照度、Co2濃度等植物に必要なデータをIoT機器で収集分析することで、経験や勘に頼っていた作物の育成ノウハウを初心者にも伝えやすくする試みがあります。

また、ロボットやドローンを用いた収穫や農薬散布を衛星のデータや気象データのAI解析に基づいて行うことで、より生産性を高めると想定されています。

これからのIoTはどうなっていくのか

これからIoT機器はますます増えていき、われわれの周囲に無意識といえるレベルで普及していくことでしょう。今、国を挙げて少子高齢化による労働力不足に取り組んでいる中で、カギを握るのがIoT技術です。距離や時間を無用なものにできるこれらの機器は、さまざまな業界に革命をもたらしました。

その傾向は継続していくことでしょう。今後のIoT機器の発展に注目したいところです。

(提供:Koto Online