ESCO事業とは?メリット&デメリットと導入の流れ、事例
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「建物の省エネルギー化を進めたいが、どう動くべきか悩んでいる」――そんな時に役立つのがESCO事業です。ESCO事業について知ることで、資金面のリスクを最小限に抑えつつ信頼性の高い形で省エネルギー化を実現できます。

目次

  1. ESCO事業とは
  2. ESCO事業の契約は2種類
  3. ESCO事業を導入するメリット
  4. ESCO事業を導入するデメリット
  5. ESCO事業を導入する流れ
  6. ESCO事業を導入した企業と自治体の事例
  7. ESCO事業に関するよくあるQ&A
  8. 今後はESCO事業の重要性が見直される可能性も

ESCO事業とは

ESCO事業(Energy Service Company:エスコ事業)とは、企業や自治体が所有物件(例:オフィスや工場など)の省エネルギー化を目指す際に役立つサービスのことです。大きく3つの点から、その特徴をつかむことができます。

  • 建物の省エネルギー改修全般を包括的に担う事業
  • 削減された光熱水費から費用を支払う仕組み
  • 世界市場は「約3兆円」

建物の省エネルギー改修全般を包括的に担う事業

ESCO事業では、顧客の建物の省エネルギー改修(光熱水費や消費エネルギーの削減)を、ESCO事業者が包括的に担います。現状診断・システム提案・設計施工・運用保守にいたるまで、すべてがサービス範囲内です。

改修内容は幅広く、照明のLED化や節水バルブの採用などの小さな作業から、太陽光発電の設置や受変電設備&空調機の高効率化、中央監視システム「BEMS」の導入といった大がかりな施策まで行います。

削減された光熱水費から費用を支払う仕組み

ESCO事業の最大の特徴は、改修により削減された光熱水費からサービス費用を支払う点です。前金で高額な費用を用意するのではなく、実際に光熱水費が減少した後に当該削減分から料金を支払います。

万が一、省エネルギー効果が得られなかった場合には、ESCO事業者がその負担を請け負います。そのため、金銭的負担も失敗のリスクも限りなく低い形で建物の省エネルギー改修を進めることができます。

世界市場は「約3兆円」

ESCO事業は1996年に当時の通産省が「ESCO検討委員会」を設置したのが始まりです。1998年には日本初のESCO会社「株式会社ファーストエスコ(現:株式会社エフオン)」が誕生し、その後は民間・自治体ともに活用が進んでいます。

国際エネルギー機関「IEA(International Energy Agency)」によると、2017年時点における世界のESCO市場の金融規模は約3兆円(268億アメリカドル)です。中国とアメリカが二大市場ですが、日本市場だけでも約250億円(2億2700万アメリカドル)の規模と推定されています。
※1アメリカドル110円換算

ESCO事業の契約は2種類

ESCO事業の契約は、ギャランティード・セイビングス契約とシェアード・セイビングス契約の2種類に分かれています。そのうちESCO事業の魅力である初期費用の安さを活かしやすいのは、後者のシェアード・セイビングス契約です。

ギャランティード・セイビングス契約

ギャランティード・セイビングス契約は、改修工事にまつわる費用の調達を顧客が行い、ESCO事業者が当該計画の効果を保証する契約です。

顧客は金融機関から融資を受けるなどして自社の費用負担で設備を整えます。その後、実際に光熱水費を節約できた後、削減分から融資の返済とESCOサービス料の支払いを進めます。

シェアード・セイビングス契約と比較すると、「省エネルギー設備の所有権が自社になる」「事業のトータル費用で安く済む」といったメリットが挙げられます。

シェアード・セイビングス契約

シェアード・セイビングス契約は、改修工事にまつわる費用の調達までESCO事業者に任せる契約方式です。改修後の光熱水費削減分から、ESCO事業サービス料・改修工事費用・金利を分割で支払います。当該計画の効果をESCO事業者が保証する点はギャランティード・セイビングス契約と変わりません。

ギャランティード・セイビングス契約と比較すると、「初期費用が不要」「金銭的リスクがゼロ」といったメリットが挙げられます。

両契約のメリット・デメリットをまとめると以下の通りとなります。

【ESCO事業の契約形態の違い】

メリット デメリット
ギャランティード・セイビングス契約 ・設備の所有権が自社
・トータル費用が安価
・初期費用がかかる
・融資先の確保が必要
シェアード・セイビングス契約 ・初期費用が不要
・融資先を探す手間がない
・金銭的リスクがゼロ
・トータル費用はギャランティード
・セイビングスより高額・設備の所有権はESCO事業者
(契約終了後は自社の所有へ)

(出典:ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会「ESCO事業のススメ」を参考に作成 )

ESCO事業を導入するメリット

続いて、ESCO事業を導入するメリットを見ていきましょう。

金銭的な負担が少ない

最大のメリットは、やはり金銭的な負担が少ない点です。光熱水費などの削減効果が実際に現れた後に節約分から料金を支払うため、企画倒れの心配がありません。

また、シェアード・セイビングス契約なら初期投資も不要で、金銭的なリスクをゼロにすることができます。建物の省エネルギー化という現代企業の喫緊の課題を手の届きやすい形で進められます。

削減効果を保証している

光熱水費などの削除効果を事業者が保証している点もESCO事業の重要なメリットです。

一般的な省エネルギー改修事業では、「システム設計はA社」「工事はB社」「運用保守はC社」などと複数の企業が関わります。このような形式の場合、各社が自社担当分にしか責任を持たないことが懸念されます。

一方、ESCO事業は、万が一効果が生まれない際には事業者が負担を肩代わりする仕組みです。改修にも責任を持って望むため、省エネルギー化を進めるビジネスパートナーとして共存できます。

ESCO事業を導入するデメリット

ESCO事業は金銭的にも信頼面でもメリットの多いサービスですが、一方でデメリットも存在します。

ESCO事業者へのサービス料が必要

ESCO事業の利用にはサービス料がかかり、その費用は光熱水費などの削減分から支払われます。優秀な仕組みですが、そもそもESCO事業を利用しなければ料金がかからない点は注意が必要です。すでに確固たる省エネルギー改修のプランを所有しており、実施のめども立っているのであれば、ESCO事業者を介さずに作業を進めた方が有利でしょう。

もちろん、ESCO事業には効果保証のメリットがあるため、最終的には安心重視かコスト重視かを検討する必要があるでしょう。

新規施策の妨げになることも

見落としがちなデメリットとして、ESCO事業の実施が今後の新規施策の妨げとなり得る点も知っておくべきです。

ESCO事業では事業者が施策の効果を保証する関係上、事前に厳密な実施計画を立てた上で契約します。そのため、新たにより良い改修プランを考案したとしても、顧客側が勝手な変更は加えられません。シェアード・セイビングス契約のように、そもそも省エネルギー設備の所有権が自社ではない可能性もあります。

ESCO事業の契約年数は約9年~15年が目安とされています。将来的な見通しを立て、削減プランは念入りに議論しておくことが大切です。

ESCO事業を導入する流れ

ここからは具体的に、ESCO事業を導入する流れについて見てみましょう。導入は大きく以下のSTEPで行われます。

STEP1:対象施設の予備診断
STEP2:予備的提案書の確認
STEP3:施設の詳細診断&本格提案書の確認
STEP4:プロジェクトの契約&施工
STEP5:設備管理・保守・点検
STEP6:契約期間満了

STEP1:対象施設の予備診断

最初に改修対象としたい施設を選定し、予備診断(ウォークスルー調査)を受けます。現在のエネルギーの使用状況や管理状況から省エネルギー改修の余地を探る過程です。

調査はESCO事業者が現地を訪れて行い、半日から1日を目安に完了する形が一般的です。

STEP2:予備的提案書の確認

予備診断の後は、調査結果からESCO事業者が考案した予備的提案書を受け取ります。現状から最適だと思われる手法、期待できる削減効果、採算性などが記載されたものです。

ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会によると、ここまでのSTEPは無料で対応する事業者が多いとされています。

STEP3:施設の詳細診断&本提案書の確認

予備的提案書に納得できたら、施設の詳細診断を事業者が進めます。計測機器などを付け実際の数値を確認していく調査で、最短で数日、最長で数ヵ月と、ある程度の時間がかかります。

詳細診断が終わったら、本提案書(包括的改修計画書)を受け取ります。本提案書に記載されている主な内容は以下の通りです。

【本格提案書(包括的改修計画書)の内容】

  • ベースラインの設定
  • 改修工事計画
  • 計測検証方法
  • 省エネ効果試験
  • 資金調達方法
  • 省エネ効果の保証
  • 運転管理等サービス内容
  • 契約方法
  • 契約年数
    (出典:ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会「ESCO導入のステップ」より引用 )

STEP4:プロジェクトの契約&施工

提案書の内容に同意できたら、プロジェクトを正式に契約します。以後はESCO事業者の裁量により、提案書に記載された設備改修工事が施工されます。

前述の通り、ESCO事業は契約が十数年と長期に渡ることもあります。契約前に不明点はすべて解消しておきましょう。

STEP5:設備管理・保守・点検

改修工事の施工後は、設備管理や保守、点検のフェーズに移ります。具体的な内容は契約によるものの、通常はESCO事業が包括的にこれらのサービスを担います。

定期的にエネルギー消費削減量などが測定されるため、顧客もどのような効果が出ているのか把握できます。このような情報は、契約期間中に社内外へ取り組みの説明をする際にも役立つでしょう。

STEP6:契約期間満了

節約できた光熱水費からESCO事業のサービス料金を毎月支払い、無事に支払いが終了したら契約期間満了です。以後は、削減された光熱水費分はすべて自社の利益となります。

シェアード・セイビングス契約の場合は、この時点で省エネルギー設備の所有権が顧客に移ります。デメリットは解消され、今後は新たな省エネルギー施策を進めることも可能です。

ESCO事業を導入した企業と自治体の事例

では、ESCO事業を導入した企業や自治体の事例を見ていきましょう。

カワチ薬品

ドラッグストアとして有名なカワチ薬品は、店舗の省エネルギー改修に成功した企業の一つです。ESCO事業により、照明設備・空調設備・冷凍機の高効率化(各種インバーターの導入)を行い、年間あたり16.1%(約5万5,000ギガ・ジュール)ものエネルギーを節約しました。

また副次的な効果として、電力使用量の厳密な確認が可能となり、その情報は新店の設計にも役立てられました

豊田鉄工

豊田鉄工は、「トヨテツ」の愛称で知られるトヨタグループの企業で、自動車部品の製造を主に手掛けています。コンプレッサー室の温度上昇を原因とするエネルギーの非効率消費や部品の異常発生をESCO事業で解決しています。

具体的には、高効率型トランスやコンプレッサー連動型の換気扇の設置を行い、年間で1,613ギガ・ジュールの削減に成功しています。また、電気使用量も年間で16万7,535キロワットアワーを削減しており、この数字はESCO導入前と比べ37%の減少です。

東京都世田谷区

東京都世田谷区では、北沢タウンホールの光熱水費の削減を目的としてESCO事業を導入しました。同建物は地下3階、地上12階の階層を持つ大型施設です。電気消費量も年間172万1,000キロワットアワーと多く、ガスや電気の使用量もかさんでいました。

本事例では以下の6つの削減策を導入し、光熱水費について年間約900万円もの節約を実現しています。

  • 冷温水発生機の更新
  • 空調機ファンの高効率化
  • 照明器具、誘導灯のLED化
  • 節水器導入
  • 床暖房設備の運用改善
  • 節電運転制御導入
    (出典:ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会「東京都世田谷区北沢タウンホールESCO事業」より引用)

沖縄県庁舎

沖縄県庁舎では、三菱UFJリースやヤシマ工業など、5つのESCO事業者が合同で省エネルギー改修を進めました。冷凍機や蛍光安定器の更新、BEMSシステムの導入や水流変流のインバーター制御などが主な改修内容です。

結果として、年間あたり1万9,191ギガ・ジュールの省エネ効果を達成しています。本施工では工事中も省庁の運営に支障が出ないことが条件の一つでしたが、無事に成果を挙げられています。

ESCO事業に関するよくあるQ&A

最後に、ESCO事業についてよくあるQ&Aを紹介します。

ESCO事業者の一覧はある?

ESCO事業者は、ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会などの団体に参加したり認定を受けたりしなくても名乗ることができます。そのため統一的な事業者の一覧リストはありませんが、ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会の会員であるESCO事業者は以下のページより検索できます。

ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会 会員検索:
https://www.jaesco.or.jp/member/member-search/

リースとの違いは?

前提として、リース自体はESCO事業でも活用されています。リースを使う場合、ギャランティード・セイビングス契約であれば顧客が直接リース契約を結び、シェアード・セイビングス契約なら顧客の代わりにESCO事業者が対応します。

一般的なリース契約とESCO事業との最大の違いは、効果保証の有無です。ESCO事業では光熱水費の削減効果が契約前に保証され、いざという時には損失をESCO事業者が請け負います。

補助金はある?

2023年2月現在、ESCO事業の導入における補助金制度などはありません。しかし、建物の改修内容によっては各種補助金の対象となったり、税制上の優遇を受けられたりすることがあります。

補助金の制度は流動的なため、ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会では、資源エネルギー庁や一般社団法人 環境共創イニシアチブ(SII)の公式ページを確認するよう呼びかけています。

今後はESCO事業の重要性が見直される可能性も

この記事では、ESCO事業の概要や導入におけるメリット・デメリット、導入の流れや施工事例、よくあるQ&Aを紹介しました。

ESCO事業には「資金面の負担の少なさ」と「削減効果の保証」という2つのメリットがあります。目を引きやすいのは前者ですが、今あらためて注目したいのは後者です。

ESG投資や環境負荷の話題が語られる今、現代企業には、明確な形で環境保護活動を進めることが求められています。ESCO事業により効果の明確な施策を導入すれば、ステークホルダーからより大きな信頼を獲得できるようになるでしょう。