企業がDXを推進する際は、自社が直面し得る課題とその解決策を事前に検討する必要があります。国内企業のDX推進の現状や課題解決に成功した事例の把握がその最初の一歩。自社のDX達成を容易にする重要な指針を得ることにつながります。
目次
DX推進とは何か?3種類のDX
DXは、大きく以下の3つに大別できます。手段や目的は異なりますが、すべてのDXでデジタル技術を活用することにより新たな価値を生み出しています。
DXの種類 | メリット |
---|---|
データ管理の変革 | データ活用による業務改善・効率化 |
業務環境の変革 | 業務環境改善による業務効率化・省力化 |
ビジネスモデルの変革 | 新たなビジネスモデルの創出 |
データ管理の変革
データ管理のシステムや体制を変革することで、DXを推進する方法があります。データは「21世紀の石油」といわれるほど貴重な資源になっており、利活用方法によっては企業業績を左右しかねません。独自のデータベースを構築したり、基幹システムを活用してデータを一元管理したりすることで、データをより簡単かつ有効に活用できるようになります。
システムや体制を整えることで業務改善や効率化を図るDXが「データ管理の変革」です。
業務環境の変革
業務環境を多様なニーズに応じて変革することで、DXを推進できます。例えば、新型コロナウイルス感染症により導入が進んだテレワークは、感染症対策にも効果的ですが出勤時間短縮による社員の労力削減にもつながります。
また、営業活動や人事活動などの業務を可能な限りオンライン上で完結することで、オンラインの会議や商談が普及したメリットを最大限享受できるでしょう。
このように業務環境を変えるだけで、業務効率化や従業員の労力削減につなげられることがあります。
ビジネスモデルの変革
デジタル技術を活用すれば、業務環境や社内システムを変えるだけでなくビジネスモデルも変革できます。例えば業務改善のために内製したデジタルシステムは、自社で活用するだけでなく他者に売り込むことも可能です。また製造業者がECサイトやSNSを利用してD2C(Direct-to-Consumer)を始めることも、デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革といえます。
このようにデジタル技術を活用すれば、これまで実現できなかった方法でビジネスができるようになります。デジタル技術は、既存業務の効率化や省力化に役立つだけでなく、新たなビジネスモデルを創出することも可能です。
DX推進の現状
DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進を妨げる課題を知るためには、まずは国内の現状を見つめることが大切です。日本企業のDX推進状況は、以下の4つのポイントから把握できます。
- 2022年度時点でDXに取り組む国内企業は「69.3%」
- 全社的に取り組みができている国内企業は「54.2%」
- 中小企業のDXの理解度は「37.0%」にとどまる
- 取り組み成果の実感でも海外より遅れている
DXに取り組む国内企業は「69.3%」
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「DX白書2023」によれば、2022年度時点でDXに取り組む国内企業の割合は69.3%です。2021年時点の同割合は55.8%であり、直近の1年間で10%以上も増加しています。今では推進していない企業のほうが約3割と少数派です。
なお、同調査において、同じく2022年度時点のアメリカ企業のDXへの取り組み割合は77.9%です。若干の後れを取ってこそいるものの、日本でも急ピッチにDXが浸透していることがうかがえます。
全社的に取り組めている国内企業は「54.2%」
一方で注目すべきデータに、全社的なDXへの取り組みができている企業の割合が挙げられます。同じ「DX白書2023」によれば、2022年度時点で全社的にDXに取り組めている国内企業は54.2%。アメリカの同割合は68.1%でした。
日本の文化である縦割り組織の問題が障壁となり、全社的な取り組みに関しては国内企業はまだまだ改善途上にあることがうかがえます。
中小企業のDXの理解度は「37.0%」
また、中小企業の現状にも目を向ける必要があります。独立行政法人中小企業基盤整備機構が公開した「中小企業のDX推進に関する調査(令和4年5月)」によれば、国内の中小企業におけるDXの理解度は37.0%にとどまるとされています。
国内企業全体のDXへの取り組み割合が約7割に達していることを考慮すると、これは衝撃的な水準です。DXに取り組むことができる一定以上の規模の企業と取り組むことが難しい小さな企業とで二極化が進んでいることがうかがえます。
取り組み成果の実感でも海外より遅れている
さらに、「DX白書2023」の中では、DXへの取り組み成果の実感に関しても、日本がアメリカよりも遅れていることが指摘されています。2022年度時点でDXへの取り組みの成果を実感できている国内企業の割合は58.0%。一方のアメリカ企業は89.0%と高い割合を示しています。
前述の中小企業基盤整備機構の調査でも、中小企業がDXに取り組む際の課題として、人材の不足と共に「具体的な効果や成果が見えないこと」が上位に挙がっています。「結局DXで何ができるのか」を明確にすることは、DX推進に欠かせない問題といえそうです。
DX推進を妨げる7つの課題
中小企業基盤整備機構の調査によると、日本の企業はDX推進において下図にあるような課題を抱えています。
これらを踏まえると日本の企業がDXを推進するには、以下の7つの課題を解決することが必要です。
- DX・ITに関わる人材の不足
- 予算を確保できない
- 目的や成果が明確でない
- 取り組みの順序がわからない
- DXに取り組む企業文化がない
- 社内体制が構築できていない
- ITシステム導入・運用にハードルがある
DX・ITに関わる人材の不足
日本では、DXを推進できるIT人材が不足しています。政府は、IT人材の不足を解消するため、デジタル分野の人材育成を進めていますが、みずほ情報総研の報告によれば「2030年には約79万人ものIT人材不足が起こる可能性がある」とも指摘されています。競合・マーケットの分析やリーダーシップの発揮も行えるDX人材ともなれば、その希少性はさらに高まります。
大企業よりも雇用条件やブランドイメージで後れを取りやすい中小企業にとって、人材の確保はDX実現を妨げる大きな課題となります。
予算を確保できない
多くの場合、DXを推進する際には新たなデジタルシステムが必要になります。当然、デジタルシステムの導入には費用が発生するため、資金力に乏しい企業はDXを十分に進められません。
また、必要性を痛感してからDXに取り組もうとしている場合、すぐに十分なコストを用意することが難しいケースもあり得ます。加えて、クラウドシステムを導入した場合、利用料金や保守費用がかかるため、毎月の予算を圧迫します。予算の制約もDXへの取り組みにおける深刻な課題です。
目的や成果が明確でない
DX推進の目的があいまいなままデジタル化を推進してしまうと、最終的なゴールが定まらないため、デジタル化による継続的な改善が図れません。現場の従業員からしても、実践の意味や成果が不明瞭なままでは取り組みも難しくなります。
DXとは、単に業務をデジタル化することではありません。デジタル技術の活用を通じて、新たなビジネスモデルの開発など企業としての在り方まで変革する大規模な行動を指します。目的と成果を常に意識しなければ、長期に渡る取り組みの過程で道に迷ってしまうでしょう。
取り組みの順序がわからない
同調査では、特に小規模企業において「何から始めてよいかわからない」という課題を抱える企業が多くいることがわかっています。これは、DXの定義が難しい言葉で構成されていることが原因の一つといえるでしょう。DXの定義はさまざまですが、しばしば「外部エコシステム」「第3のプラットフォーム」「ビジネスモデルの変革」などの聞きなれない言葉が使われます。
しかし本質は「デジタル技術によりビジネスを(良い方向に)変化させる」というシンプルな取り組みです。自社の課題・目指す姿を一つひとつ整理すれば、最初に何をすべきかがおのずと理解できるでしょう。
DXに取り組む企業文化がない
DXに取り組む企業文化がなければ、DX推進の声がかき消される可能性が高くなります。DXの推進には、労力やコストがかかりますが、長期的に見れば効率化や省力化が図れることが少なくありません。
仮に、この先もDXを推進できない場合、増大するデータ収集の機会を逃すことになり激化するデジタル競争で大きな遅れをとってしまうことになります。企業業績を向上させるには、いち早くDXに取り組む企業風土を醸成させることが求められます。
社内体制が構築できていない
DX推進に向けた社内体制の構築ができておらず、全社的に活動できないことも課題です。ビジネスモデルの変革までを目指すDXにおいては、「IT部門が対応する」というような特定のチームに頼り切る意識では、プロジェクトの完遂は困難です。
また、現場と経営層のどちらかだけが必要性を感じていても取り組みは進みません。部門同士を含め、縦横問わず積極的なコミュニケーションを行うことが求められます。
ITシステム導入・運用にハードルがある
現実的な課題として企業に立ちはだかるのが、ITシステムの導入と運用のハードルです。DXを推進する中ではITシステムの活用が欠かせません。しかし、そこでは少なくとも以下の問題が企業の負担となります。
- 導入すべきITツールと端末の選定
- レガシーシステムからの脱却
- 必要なネットワーク環境の構築
- 既存データやツールとの整合性の確保
- 新規システムの保守運用
- ビジネスレベルのセキュリティの担保
- 社員のITリテラシーの向上
上記を解決するためには、高度な技能を持つDX・IT人材が必要です。
DX推進課題の解決策
では、上記の5つの課題に企業はどう対処すべきなのでしょうか? ここではDX推進に向けた具体的な解決策をご紹介します。
経営層を含む全社的アプローチの実施
最初に必要となるのは、経営層までを巻き込んだ全社的アプローチの実施です。前述の通り、DXの実現には全社一丸となった行動が求められます。社内体制の構築は、DXに向けたアクションの効果を左右する必須事項となります。
DX推進を中心的に担うチームの設置も重要ですが、任せきりではいけません。少なくとも以下のポイントを押さえつつ、DXを推進しやすい社内風土を構築していきましょう。
- 経営層がDXの重要性を率先して理解する
- 現場の声も参考にしつつDXの重要性を社内で共有していく
- 専門チームの設置のみならず、各部門にもDXの担当者を置く
- 定例ミーティングの実施など、部門の垣根を越えて意見交換をする
数値目標を用いた成果評価の実施
あいまいになりやすいDXの成果を明確にするために、数値目標の活用も視野に入れましょう。例えば、以下のような成果指標が考えられます。
- 残業時間の減少や有給取得率の増加
- 時間当たりの製品製造数の増加
- 製品の不良品率の低下
- 光熱水費の削減
- 原材料費の削減
- 自社サイトの訪問者数や成約数の増加
- 自社アプリのアクティブユーザー数の増加
自社がDXを推進する理由に合わせて数値目標を決め、ベースラインを元に測定を進めることで、取り組みの成果を実感できます。算出した数値は社内外へ活動をアピールする際にも役立つでしょう。
DX・IT人材の育成と採用
DX・IT人材の確保は多くの企業に共通する難題です。「内部での育成」と「外部からの採用」の2つの選択肢を並行して探ることが解決策になるかもしれません。
【内部での育成】
- 外部講師を招いた勉強会やセミナーの実施
- ITに関する資格取得のサポート(例:一時金の給付、受験費用の補助)
- 社外でのリカレント教育のサポート(例:学びの時間を業務時間扱いにする、金銭的手当を出す)
【外部からの採用】
- 働きやすい職場環境の整備(例:リモートワークやフレックスタイムの導入)
- リファラル採用(経営陣のネットワークを利用したり既存社員の友人・知人を採用したりする手法)の検討
特にリファラル採用は、アメリカでは一般的である一方で、日本ではそれほど利用されていません。ITスキルを持つ社員に同様のスキルを持つ知り合いを紹介してもらうことで、オープンな転職市場で争うよりも安価に人材を確保しやすくなります。
外部ITベンダやコンサルティングの活用
育成と採用を積極的に進めたものの、思うようにDX・IT人材を確保できないこともあるでしょう。そのような場合には、外部ITベンダやコンサルティングの活用が解決策となり得ます。
広範な作業が求められるDXへの取り組みにおいて、すべてを自社で賄うことは難しいものです。その点、ITシステムの要件定義や構築など、一部過程を外部に委託するだけでも、実現のハードルは飛躍的に下がります。
作業を外部に委託するためには金銭的なコストがかかりますが、一方で時間的な余裕を生み出します。生まれた時間で事業戦略を練るなど、工夫次第で費用以上の利益を挙げることもできるでしょう。
補助金や助成金の利用
金銭面の直接的な解決策となるのが、DXにまつわる補助金や助成金の利用です。政府が国内企業のDXを推進している現在、ITシステムの導入や設備の購入などに活用できる金銭的支援制度は複数用意されています。以下は2023年3月時点で公表されている補助金・助成金の一例です。
- IT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業)
→ソフトウエアの購入、セキュリティーサービスの利用、パソコンの導入などを幅広く支援。補助率は1/2以内~3/4以内が基本。 - ものづくり補助金
→主に中小企業・小規模事業者向けの支援。試作品開発や生産プロセスの改善、生産性向上を目的とする設備投資などが支援対象。補助率は申請枠ごとに2/3など。数千万円の支援を受けられることも。 - 令和5年度「中小企業地域経済政策推進事業費補助金(地域DX促進環境整備事業)」
→地域特性とデジタル技術の掛け合わせで新ビジネスを生み出す際に利用可能(※詳細は調整中。現在は執行団体の公募が終了済み)
そのほか、事業内容そのものを転換する際に活用できる「事業再構築補助金」などもあります。その時々で実施中の支援を活用することで、DXに関するコストを削減できます。
DX推進の手順
以下の手順を踏むことで効果的にDXを推進できます。
<DX推進の手順>
- DX推進のビジョン・目的の明確化
- DX推進のビジョン・目的の周知
- 現状把握と課題抽出
- 社内体制の構築
- 優先順位の決定
- PDCAサイクルを回す
それぞれの段階ですべきことや注意点を解説します。
DX推進のビジョン・目的の明確化
まずDXを推進する目的と全体像を明確にしましょう。目的が明確になれば、達成すべき項目が逆算できるようになるため、短期的な目標を立てやすくなります。またデジタルシステムの要件も明確になるため、必要な機能の搭載漏れも防ぐことができます。ビジョン・目的の明確化は、DX推進の方向性を決める重要な項目です。企業の長期目標とも照らし合わせながら、慎重に検討しましょう。
DX推進のビジョン・目的の周知
DX推進のビジョン・目的が明確になった後は、社内の従業員に向けて周知しましょう。従業員の理解を得てから行動に移すことで「どのような意図でデジタルシステムを導入するか」について全員が理解した状態でDXを推進できます。これにより、目的を理解したうえで従業員がデジタルシステムを利用できるため、導入効果の向上が期待できるでしょう。
現状把握と課題抽出
目的を達成するには、DXにより解消する課題を発見しなければなりません。課題を発見するためには、データによる分析や現場へのヒアリングなどの実施が必要です。課題の見落としは、DXの効果低減に直結しかねないため、可能な限り見落としのないようにしましょう。
社内体制の構築
DXを円滑に進めるには、あらかじめ社内で体制を構築しておくことが重要です。まずDXを構築するためには、DX・IT人材を育成・確保しなければなりません。先述の通り日本のIT人材は、数十万人単位で不足しているため、IT人材の確保は早期の段階から取り組むようにしましょう。もし社内でIT人材を育成する場合は、さらに長い期間が必要です。
すでにIT人材がいる場合でも、早い段階から育成したほうがよいでしょう。とはいえ社内のリソースだけでDXを進めることは、現実的に難しい場合もあります。その際は、外部の専門家にDX推進をサポートしてもらうことも選択肢の一つです。DXに知見のある人材から助言を得られれば、高度なデジタル化の実現につながります。
IT人材が確保できた後は、DX推進のチームを構築しましょう。DXの規模が大きいと、通常業務と並行してDXを進めることが困難な場合もあります。そのような場合には、DXの推進に注力できるように通常業務を減らすなど工夫するようにしましょう。
関連記事:枯渇するIT人材〜市場での獲得手段と最適な体制の構築方法とは?
優先順位の決定
DXにより解決すべき課題は、複数ある場合が多いでしょう。それらに優先順位をつけ、優先度の高い課題から取り組むことが大切です。すべてを一度に解決しようとすると、解決が中途半端になる課題が出てくるかもしれません。すべての課題を想定通り解消するためにも、現実的なスケジュールを立ててDXを推進しましょう。
また最初は重要度の低い課題から取り組むことも一つの手です。特に新たなデジタルシステムは、最初からうまく使いこなせるとは限りません。小さな課題から取り組み、DXの知見がたまってからメインの課題に取り組むこともよいでしょう。
PDCAサイクルを回す
一度のデジタル化で、すべての課題が解決できるわけではありません。解決できなかった課題・新たな課題に対処するために、これまでの取り組みを評価します。得られた評価や反省は、次回以降のDXに活かせるよう共有・連携しておくとよいでしょう。PDCAサイクルを回して業務改善を図るには、記録や評価が必要です。
次回のPDCAサイクルでよりよい成果を得るためにも、実行段階(Do)では可能な限り詳細に記録を残すようにしましょう。しかし記録が負担となってしまっては、効率化や省力化の効果が薄れてしまいます。ムダな記録とならないように注意が必要です。
DX推進の課題解決に成功した事例
では実際のところ、国内企業はDX推進の課題にどのように対処しているのでしょうか。ここではDX推進の課題解決に成功した企業事例をご紹介します。
日進工業株式会社
日進工業株式会社は、耐熱性や強度に優れる高品質プラスチック「エンジニアリングプラスチック」を45年以上に渡って生産する製造業者です。社長の代替わりを契機に、現場担当者まで巻き込んだ工場の見える化を実践しました。
同社では、手作業でデータ入力をする伝票が毎月8万枚にもおよび、その情報は3日ほど遅れてシステムへ反映されるなど、工場の稼働状況のリアルタイム把握に課題がありました。そこで、社長自らソフトウエア開発を行いつつ「MCMSystem」と呼ばれるIoTユニットを導入。稼働状況を把握できる仕組み作りを進めたそうです。
仕組みが出来上がる前、工場全体の稼働状況は55%と想像以上の低水準でした。しかし、赤・青の色分けなどを用いて停止中のラインを誰でも一目で確認できるようにした結果、現場担当者による改善箇所の発見が相次ぎ、現在では90%以上の稼働率を達成しています。経営層と現場が共にDXを進めた好例です。
株式会社北國銀行
DX・IT人材の育成と採用に成功した事例が、石川県の地方銀行、株式会社北國銀行です。北國銀行は2000年と早い段階で顧客や外部コンサルとの対話からIT改革の必要性に気がつき、システムの内製化などに挑戦しています。
いきなり完全なIT化を進めるのではなく、少しずつ取り組みを進めていったことがこの事例の特徴です。ベンダへの出向やシリコンバレーへの派遣により社員のデジタルスキルを育成。資格取得支援も行うことで主体的な学びも促しています。
あわせて、首都圏に高度なIT・DX人材が集まることに着目し、東京に子会社を用意する形で外部からの人材採用も円滑に進めたそうです。結果として2021 年、経済産業省から地方銀行初の「DX 認定事業者」として認められるなど、確かな成果を挙げています。
北海道ワイン株式会社
外部ITベンダの力も活用してDXを実現したのが北海道ワイン株式会社です。北海道小樽市にある同社は、ブドウの生産地の効率的なデータ化により産地の細分化に挑戦しています。
ワインは、原料となるブドウの産地によって価値がまったく変わります。例えば、高級ワインの代名詞「ロマネ・コンティ」はブルゴーニュ地方のロマネ・コンティと呼ばれる畑で採れたブドウで作られたワインです。ただ、ブルゴーニュ地方のワインとして売るだけでは数百万円~数億円の値段は付きません。
同社では、ブドウの受け入れ作業において情報の口頭伝達が慣習となっており、内容の把握に時間がかかる点が課題でした。そこで外部ベンダの力を借り、生産農家や品種、ブドウの重量などの情報を計測器からパソコンに自動送信できるシステムを導入しました。
結果、厳密な産地ごとにブドウの保管タンクを変えられるようになり、ロマネ・コンティのような産地の細分化されたワインの実現に近づいたそうです。
株式会社サンラヴィアン
株式会社サンラヴィアンは、ものづくり補助金の活用によりDXの金銭面の課題を解決した企業です。同社はケーキやカステラの製造を手がけるメーカーで、中でも国内でもっとも早い時期に商品化に成功したという「ベルギーワッフル」が主力製品でした。
しかし、ベルギーワッフルの生産では生地の柔らかさの問題から手作業の工程が多く、ほかの商品と比べて生産力が低いのが課題でした。そこで、ものづくり補助金を活用し、手作業工程の大部分を専用の機械によって自動化しました。
先端機器の導入により作業工程の数値管理といったIT化も進み、結果として生産能力を約20%も向上できたそうです。あわせて「ものづくり補助金の採択企業である」と対外的にPRできる点でも効果を実感しています。
協和テクノロジィズ株式会社
協和テクノロジィズ株式会社は、IT導入補助金の利用によりDX推進を成し遂げた企業です。情報通信設備にまつわる幅広い業務を担う同社では、「全社統一の受発注システム」と「部門ごとの受発注システム」が混在することが課題となっていました。また、毎月末に両データを統合する必要があり、この作業は特定の人物しか行えないことから、属人化も不安材料でした。この不安は的中し、当該人物の異動により、引き継ぎにかなりの時間的コストがかかってしまいました。
そこで、事態の再発を防止するために特定の事務作業を自動化できるRPAツールを導入しました。結果、担当者を問わず事務作業ができるようになり、デジタル化により作業のミスも軽減されたそうです。最
終的に月25時間もの残業時間を削減し、働きやすい職場環境が実現しました。
経済産業省の「DX推進指標」が課題解決の手がかりに
DX推進の課題にはそれぞれに解決策があり、その策を講じたことで実際にDXに成功した企業も登場してきています。とはいえ、これからDXに取り組む企業にとっては、自社が何から手をつけるべきか迷ってしまうケースも多いでしょう。
そのような場合は、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が公開している「DX推進指標」が役立ちます。チェックシートを順番に確認していくことで、自社が取るべきアクションが見つけられるものです。
自社の現状を把握した後には、経済産業省の「デジタルガバナンスコード実践の手引き」が活躍します。本手引き内では、「DXとは何か」から「その進め方」までが解説されています。
課題と解決策を知ることがDX推進の第一歩
この記事では、国内の現状から見たDX推進の5つの課題とその解決策、解決に成功した企業事例などをご紹介しました。
DXの必要性が声高に叫ばれる一方、中小企業における理解度は4割未満にとどまるなど、浸透には課題が残っています。それでも、国内企業の取り組み割合は7割に近づくなど、着実にDXは進みつつあります。
DXに成功した企業に負けない競争力を保つためには、自社もまたDXに取り組むことが必要です。ご紹介した課題の解決策や「DX推進指標」を活用し、いち早く取り組みを進めることをおすすめします。
(提供:Koto Online)