DX推進の課題と解決策とは?国内の現状や導入済み企業事例
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企業がDXを推進する際は、自社が直面し得る課題とその解決策を事前に検討する必要があります。国内企業のDX推進の現状や課題解決に成功した事例の把握がその最初の一歩。自社のDX達成を容易にする重要な指針を得ることにつながります。

目次

  1. 日本企業のDX推進の現状とは
  2. DX推進を妨げる5つの課題
  3. DX推進課題の解決策
  4. DX推進の課題解決に成功した事例
  5. 経済産業省の「DX推進指標」が課題解決の手がかりに
  6. 課題と解決策を知ることがDX推進の第一歩

日本企業のDX推進の現状とは

DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進を妨げる課題を知るためには、まずは国内の現状を見つめることが大切です。日本企業のDX推進状況は、以下の4つのポイントから把握できます。

  • 2022年度時点でDXに取り組む国内企業は「69.3%」
  • 全社的に取り組みができている国内企業は「54.2%」
  • 中小企業のDXの理解度は「37.0%」にとどまる
  • 取り組み成果の実感でも海外より遅れている

2022年度時点でDXに取り組む国内企業は「69.3%」

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「DX白書2023」によれば、2022年度時点でDXに取り組む国内企業の割合は69.3%です。2021年時点の同割合は55.8%であり、直近の1年間で10%以上も増加しています。今では推進していない企業のほうが約3割と少数派です。

なお、同調査において、同じく2022年度時点のアメリカ企業のDXへの取り組み割合は77.9%です。若干の後れを取ってこそいるものの、日本でも急ピッチにDXが浸透していることがうかがえます。

全社的に取り組めている国内企業は「54.2%」

一方で注目すべきデータに、全社的なDXへの取り組みができている企業の割合が挙げられます。同じ「DX白書2023」によれば、2022年度時点で全社的にDXに取り組めている国内企業は54.2%。アメリカの同割合は68.1%でした。

日本の文化である縦割り組織の問題が障壁となり、全社的な取り組みに関しては国内企業はまだまだ改善途上にあることがうかがえます。

中小企業のDXの理解度は「37.0%」にとどまる

また、中小企業の現状にも目を向ける必要があります。独立行政法人中小企業基盤整備機構が公開した「中小企業のDX推進に関する調査(令和4年5月)」によれば、国内の中小企業におけるDXの理解度は37.0%にとどまるとされています。

国内企業全体のDXへの取り組み割合が約7割に達していることを考慮すると、これは衝撃的な水準です。DXに取り組むことができる一定以上の規模の企業と取り組むことが難しい小さな企業とで二極化が進んでいることがうかがえます。

取り組み成果の実感でも海外より遅れている

さらに、「DX白書2023」の中では、DXへの取り組み成果の実感に関しても、日本がアメリカよりも遅れていることが指摘されています。2022年度時点でDXへの取り組みの成果を実感できている国内企業の割合は58.0%。一方のアメリカ企業は89.0%と高い割合を示しています。

前述の中小企業基盤整備機構の調査でも、中小企業がDXに取り組む際の課題として、人材の不足と共に「具体的な効果や成果が見えないこと」が上位に挙がっています。「結局DXで何ができるのか」を明確にすることは、DX推進に欠かせない問題といえそうです。

DX推進を妨げる5つの課題

では、国内企業のDX推進を妨げる課題には何があるのでしょうか。ここまでの現状も考慮すると、以下の5つの課題が挙げられます。

  • 目的や成果が明確でない
  • 社内体制が構築できていない
  • ITシステム導入・運用にハードルがある
  • DX&IT人材が足りていない
  • 十分な予算を確保できない

目的や成果が明確でない

特に課題となりやすいのが、DX推進の目的や成果があいまいであることです。前述の中小企業の調査でも見られた通り、実践の意味や成果が不明瞭なままでは取り組みも難しくなります。

DXとは、単に業務をデジタル化することではありません。デジタル技術の活用を通じて、新たなビジネスモデルの開発など企業としての在り方まで変革する大規模な行動を指します。目的と成果を常に意識しなければ、長期に渡る取り組みの過程で道に迷ってしまうでしょう。

社内体制が構築できていない

DX推進に向けた社内体制の構築ができておらず、全社的に活動できないことも課題です。ビジネスモデルの変革までを目指すDXにおいては、「IT部門が対応する」というような特定のチームに頼り切る意識では、プロジェクトの完遂は困難です。

また、現場と経営層のどちらかだけが必要性を感じていても取り組みは進みません。部門同士を含め、縦横問わず積極的なコミュニケーションを行うことが求められます。

ITシステム導入・運用にハードルがある

現実的な課題として企業に立ちはだかるのが、ITシステムの導入と運用のハードルです。DXを推進する中ではITシステムの活用が欠かせません。しかし、そこでは少なくとも以下の問題が企業の負担となります。

  • 導入すべきITツールと端末の選定
  • レガシーシステムからの脱却
  • 必要なネットワーク環境の構築
  • 既存データやツールとの整合性の確保
  • 新規システムの保守運用
  • ビジネスレベルのセキュリティの担保
  • 社員のITリテラシーの向上

上記を解決するためには、高度な技能を持つDX・IT人材が必要です。

DX・IT人材が足りていない

しかし、そのような人材の需要は高く、みずほ情報総研の報告によれば「2030年には約79万人ものIT人材不足が起こる可能性がある」とも指摘されています。競合・マーケットの分析やリーダーシップの発揮も行えるDX人材ともなれば、その希少性はさらに高まります。

大企業よりも雇用条件やブランドイメージで後れを取りやすい中小企業にとって、人材の確保はDX実現を妨げる大きな課題となります。

時間的・金銭的予算を確保できない

社内体制の見直しや人材の確保、ITシステムの導入など、ここまでの課題を解決するためには相応の予算が求められます。しかし、経営体力のある一部の大企業を除けば、いつ効果が出るか不明瞭なDXのために潤沢な予算を割くことは難しいのが実情でしょう。

また、必要性を痛感してからDXに取り組もうとしている場合、すぐに十分なコストを用意することが難しいケースもあり得ます。予算の制約もDXへの取り組みにおける深刻な課題です。

DX推進課題の解決策

では、上記の5つの課題に企業はどう対処すべきなのでしょうか? ここではDX推進に向けた具体的な解決策をご紹介します。

経営層を含む全社的アプローチの実施

最初に必要となるのは、経営層までを巻き込んだ全社的アプローチの実施です。前述の通り、DXの実現には全社一丸となった行動が求められます。社内体制の構築は、DXに向けたアクションの効果を左右する必須事項となります。

DX推進を中心的に担うチームの設置も重要ですが、任せきりではいけません。少なくとも以下のポイントを押さえつつ、DXを推進しやすい社内風土を構築していきましょう。

  • 経営層がDXの重要性を率先して理解する
  • 現場の声も参考にしつつDXの重要性を社内で共有していく
  • 専門チームの設置のみならず、各部門にもDXの担当者を置く
  • 定例ミーティングの実施など、部門の垣根を越えて意見交換をする

数値目標を用いた成果評価の実施

あいまいになりやすいDXの成果を明確にするために、数値目標の活用も視野に入れましょう。例えば、以下のような成果指標が考えられます。

  • 残業時間の減少や有給取得率の増加
  • 時間当たりの製品製造数の増加
  • 製品の不良品率の低下
  • 光熱水費の削減
  • 原材料費の削減
  • 自社サイトの訪問者数や成約数の増加
  • 自社アプリのアクティブユーザー数の増加

自社がDXを推進する理由に合わせて数値目標を決め、ベースラインを元に測定を進めることで、取り組みの成果を実感できます。算出した数値は社内外へ活動をアピールする際にも役立つでしょう。

DX・IT人材の育成と採用

DX・IT人材の確保は多くの企業に共通する難題です。「内部での育成」と「外部からの採用」の2つの選択肢を並行して探ることが解決策になるかもしれません。

【内部での育成】

  • 外部講師を招いた勉強会やセミナーの実施
  • ITに関する資格取得のサポート(例:一時金の給付、受験費用の補助)
  • 社外でのリカレント教育のサポート(例:学びの時間を業務時間扱いにする、金銭的手当を出す)

【外部からの採用】

  • 働きやすい職場環境の整備(例:リモートワークやフレックスタイムの導入)
  • リファラル採用(経営陣のネットワークを利用したり既存社員の友人・知人を採用する手法)の検討

特にリファラル採用は、アメリカでは一般的である一方で、日本ではそれほど利用されていません。ITスキルを持つ社員に同様のスキルを持つ知り合いを紹介してもらうことで、オープンな転職市場で争うよりも安価に人材を確保しやすくなります。

外部ITベンダやコンサルティングの活用

育成と採用を積極的に進めたものの、思うようにDX・IT人材を確保できないこともあるでしょう。そのような場合には、外部ITベンダやコンサルティングの活用が解決策となり得ます。

広範な作業が求められるDXへの取り組みにおいて、すべてを自社で賄うことは難しいものです。その点、ITシステムの要件定義や構築など、一部過程を外部に委託するだけでも、実現のハードルは飛躍的に下がります。

作業を外部に委託するためには金銭的なコストがかかりますが、一方で時間的な余裕を生み出します。生まれた時間で事業戦略を練るなど、工夫次第で費用以上の利益を挙げることもできるでしょう。

補助金や助成金の利用

金銭面の直接的な解決策となるのが、DXにまつわる補助金や助成金の利用です。政府が国内企業のDXを推進している現在、ITシステムの導入や設備の購入などに活用できる金銭的支援制度は複数用意されています。以下は2023年3月時点で公表されている補助金・助成金の一例です。

  • IT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業)
    →ソフトウエアの購入、セキュリティーサービスの利用、パソコンの導入などを幅広く支援。補助率は1/2以内~3/4以内が基本。
  • ものづくり補助金
    →主に中小企業・小規模事業者向けの支援。試作品開発や生産プロセスの改善、生産性向上を目的とする設備投資などが支援対象。補助率は申請枠ごとに2/3など。数千万円の支援を受けられることも。
  • 令和5年度「中小企業地域経済政策推進事業費補助金(地域DX促進環境整備事業)」
    →地域特性とデジタル技術の掛け合わせで新ビジネスを生み出す際に利用可能(※詳細は調整中。現在は執行団体の公募が終了済み)

そのほか、事業内容そのものを転換する際に活用できる「事業再構築補助金」などもあります。その時々で実施中の支援を活用することで、DXに関するコストを削減できます。

DX推進の課題解決に成功した事例

では実際のところ、国内企業はDX推進の課題にどのように対処しているのでしょうか。ここではDX推進の課題解決に成功した企業事例をご紹介します。

日進工業株式会社

日進工業株式会社は、耐熱性や強度に優れる高品質プラスチック「エンジニアリングプラスチック」を45年以上に渡って生産する製造業者です。社長の代替わりを契機に、現場担当者まで巻き込んだ工場の見える化を実践しました。

同社では、手作業でデータ入力をする伝票が毎月8万枚にもおよび、その情報は3日ほど遅れてシステムへ反映されるなど、工場の稼働状況のリアルタイム把握に課題がありました。そこで、社長自らソフトウエア開発を行いつつ「MCMSystem」と呼ばれるIoTユニットを導入。稼働状況を把握できる仕組み作りを進めたそうです。

仕組みが出来上がる前、工場全体の稼働状況は55%と想像以上の低水準でした。しかし、赤・青の色分けなどを用いて停止中のラインを誰でも一目で確認できるようにした結果、現場担当者による改善箇所の発見が相次ぎ、現在では90%以上の稼働率を達成しています。経営層と現場が共にDXを進めた好例です。

株式会社北國銀行

DX・IT人材の育成と採用に成功した事例が、石川県の地方銀行、株式会社北國銀行です。北國銀行は2000年と早い段階で顧客や外部コンサルとの対話からIT改革の必要性に気がつき、システムの内製化などに挑戦しています。

いきなり完全なIT化を進めるのではなく、少しずつ取り組みを進めていったことがこの事例の特徴です。ベンダへの出向やシリコンバレーへの派遣により社員のデジタルスキルを育成。資格取得支援も行うことで主体的な学びも促しています。

あわせて、首都圏に高度なIT・DX人材が集まることに着目し、東京に子会社を用意する形で外部からの人材採用も円滑に進めたそうです。結果として2021 年、経済産業省から地方銀行初の「DX 認定事業者」として認められるなど、確かな成果を挙げています。

北海道ワイン株式会社

外部ITベンダの力も活用してDXを実現したのが北海道ワイン株式会社です。北海道小樽市にある同社は、ブドウの生産地の効率的なデータ化により産地の細分化に挑戦しています。

ワインは、原料となるブドウの産地によって価値がまったく変わります。例えば、高級ワインの代名詞「ロマネ・コンティ」はブルゴーニュ地方のロマネ・コンティと呼ばれる畑で採れたブドウで作られたワインです。ただ、ブルゴーニュ地方のワインとして売るだけでは数百万円~数億円の値段は付きません。

同社では、ブドウの受け入れ作業において情報の口頭伝達が慣習となっており、内容の把握に時間がかかる点が課題でした。そこで外部ベンダの力を借り、生産農家や品種、ブドウの重量などの情報を計測器からパソコンに自動送信できるシステムを導入しました。

結果、厳密な産地ごとにブドウの保管タンクを変えられるようになり、ロマネ・コンティのような産地の細分化されたワインの実現に近づいたそうです。

株式会社サンラヴィアン

株式会社サンラヴィアンは、ものづくり補助金の活用によりDXの金銭面の課題を解決した企業です。同社はケーキやカステラの製造を手がけるメーカーで、中でも国内でもっとも早い時期に商品化に成功したという「ベルギーワッフル」が主力製品でした。

しかし、ベルギーワッフルの生産では生地の柔らかさの問題から手作業の工程が多く、ほかの商品と比べて生産力が低いのが課題でした。そこで、ものづくり補助金を活用し、手作業工程の大部分を専用の機械によって自動化しました。

先端機器の導入により作業工程の数値管理といったIT化も進み、結果として生産能力を約20%も向上できたそうです。あわせて「ものづくり補助金の採択企業である」と対外的にPRできる点でも効果を実感しています。

協和テクノロジィズ株式会社

協和テクノロジィズ株式会社は、IT導入補助金の利用によりDX推進を成し遂げた企業です。情報通信設備にまつわる幅広い業務を担う同社では、「全社統一の受発注システム」と「部門ごとの受発注システム」が混在することが課題となっていました。また、毎月末に両データを統合する必要があり、この作業は特定の人物しか行えないことから、属人化も不安材料でした。この不安は的中し、当該人物の異動により、引き継ぎにかなりの時間的コストがかかってしまいました。

そこで、事態の再発を防止するために特定の事務作業を自動化できるRPAツールを導入しました。結果、担当者を問わず事務作業ができるようになり、デジタル化により作業のミスも軽減されたそうです。最終的に月25時間もの残業時間を削減し、働きやすい職場環境が実現しました。

経済産業省の「DX推進指標」が課題解決の手がかりに

DX推進の課題にはそれぞれに解決策があり、その策を講じたことで実際にDXに成功した企業も登場してきています。とはいえ、これからDXに取り組む企業にとっては、自社が何から手をつけるべきか迷ってしまうケースも多いでしょう。

そのような場合は、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が公開している「DX推進指標」が役立ちます。チェックシートを順番に確認していくことで、自社が取るべきアクションが見つけられるものです。

IPA(独立行政法人情報処理推進機構) DX推進指標
https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxpi.html

自社の現状を把握した後には、経済産業省の「デジタルガバナンスコード実践の手引き」が活躍します。本手引き内では、「DXとは何か」から「その進め方」までが解説されています。

経済産業省 デジタルガバナンスコード実践の手引き
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-chushoguidebook/tebiki.pdf

課題と解決策を知ることがDX推進の第一歩

この記事では、国内の現状から見たDX推進の5つの課題とその解決策、解決に成功した企業事例などをご紹介しました。

DXの必要性が声高に叫ばれる一方、中小企業における理解度は4割未満にとどまるなど、浸透には課題が残っています。それでも、国内企業の取り組み割合は7割に近づくなど、着実にDXは進みつつあります。

DXに成功した企業に負けない競争力を保つためには、自社もまたDXに取り組むことが必要です。ご紹介した課題の解決策や「DX推進指標」を活用し、いち早く取り組みを進めることをおすすめします。