佐々木 英憲(ささき ひでのり)教授
佐々木 英憲(ささき ひでのり)教授
佐々木 英憲(ささき ひでのり)教授
敬愛大学にて金融経済、ファンドビジネス等を研究。これまで北海道拓殖銀行(拓銀ベルギー現地法人、拓銀ロンドン証券現地法人、北海道拓殖証券出向)、千葉銀行(資金証券部、法人部:ストラクチャードファイナンス、みずえ支店長、馬橋支店長、市場業務部長)在籍後、ちばぎんリース監査役、ちばぎんキャピタル社長就任と金融業界にて長年活躍。現在は敬愛大学にて銀行論や証券経済論など金融全般を担当。

銀行・証券業界から大学教授へー経験を活かし教育の場へ

ー佐々木教授のご経歴について教えてください。

佐々木教授
1982年に大学を卒業後、北海道拓殖銀行に入行しました。営業店勤務以外は国際部とベルギーの現地法人、その後ロンドンの証券現地法人に移り、4年半程海外で勤務しました。帰国後は、マーケット部門の証券投資室に在籍していました。

その後、債券営業室で債券を売る側になり、拓銀で証券子会社ができたため、そこに移りました。銀行員生活の半分以上はマーケット部門を担当し、ファンドマネージャーや証券マンといったbuy-side、sell-side両方の仕事も経験しています。

拓銀破綻後、38歳になる直前に、千葉に家を買っていたというご縁で千葉銀行にお世話になりました。資金証券部門に配属され、その後は本部でプライベートバンキングのコンサルティング業務を担当しました。法人部で投資銀行業務、ストラクチャードファイナンスを立ち上げ、副部長に昇格し、みずえや馬橋の支店長、市場業務部の部長などを経験しています。

銀行の定年後は「ちばぎんリース」の監査役を務め、その後は「ちばぎんキャピタル」の社長として、未公開株やファンドの運営を行いました。現在は敬愛大学経済学部に在籍しています。

「国が明るいビジョンを示す」マクロの金融教育を目指して

ー「金融教育は国家戦略」という金融庁の提言について率直な感想をお聞かせください。

佐々木教授
日本は今や成熟した投資立国であるため、金融教育の始動はむしろ遅すぎたという印象を持っています。「お金について考えるのは卑しいもの」というイメージを抱く日本人も多いため、そうしたマイナスイメージを払拭することが必要です。投資に必要な知識、特にiDeCoやNISAといった非課税制度を周知することが重要です。

基本的に、金融教育を国家戦略と定める方針には賛同しています。一方で、老後資金不足などの問題を取り上げ、「投資しなければいけない」と危機感を煽ることには違和感があります。現在、国民の金融資産の半分以上を預金が占めており、貯蓄が投資になっていないことには相応の理由があります。日本経済や株式市場が低迷する状況下では、個人にリスクを負わせる投資だけを推進することはできません。

直近30年には日本経済の閉塞感を感じます。バブル崩壊による失われた10年はまだしも、20年、30年が経過しても高値を更新できない国の株価には失望を覚えます。貯蓄から投資に移行することが謳われていますが、高齢者が資産の大半を保有している状況は簡単ではないでしょう。この現実を直視し、個人への金融教育だけではなく、国家戦略、成長ビジョンを総合的に考える必要があります。

例えば、首都圏への人口集中を見直し、地方の人口流出の歯止めとなる、保育、教育、医療、介護など社会インフラ産業で雇用を確保するために、賃金水準や労働条件を大胆な施策で解決する必要があります。介護費用が社会保険から徴収されているのになぜ少子化対策の財源を第3次ベビーブームが来なかったときに議論しなかったのでしょうか。今になって子育て予算をどこから確保するのかが議論の的となっています。国が子育て予算の財源を明確に示し、社会全体で少子化対策を行う覚悟が必要です。当事者に単に金をばらまくだけではなく、若者たちが将来に対して希望を持てるような環境を整えることが重要です。

金融教育は、個人に対する教育だけでは不十分です。国全体が明るいビジョンを示し、大胆な施策を打ち出すことが求められます。停滞している現状を打破するためには、個人教育と同時に経済の立て直しに向けたマクロ的な取り組みの両方が必要です。

大学での金融教育の課題は、社会人としてのお金のリテラシーを幅広く身につけること

ー大学での金融教育において課題に感じていることはありますか?

佐々木教授
大学は生徒と先生の関係が高校と異なり自主的に学ぶ場所です。そのため高校より一歩上の段階を目指す必要があります。金融リテラシーにおいては、社会人として経済的に自立するための知識と判断力が必要です。加えて、金融知識を活用し実践する力も求められます。ライフプランニングの課題回答を見ると、社会人になることに対して金銭面で悲観的に考えている大学生が多くなっています。我々の学生時代とは経済の先行きに対する見通しが全く異なっています。

学生を見ると「よくわからないから投資はしない」という人と、「少し勉強すれば簡単に儲けられる」と思っている人の両極端に分かれているように思えます。投資で簡単に儲けられると思っている学生は、タレントのCMやユーチューバーの甘い情報に踊らされて、いきなり証拠金取引に繋がるFXや仮想通貨に手を出しがちです。金融商品のリスクについては、「損か得か」、あるいは「債券が株式よりも安全だ」ではなく、きちんと短期債と長期債、グロース株とバリュー株など、リスクの程度の違いも教えるべきだと思っています。

極論にまどわされず、お金と幸せの関係など、大多数の生活者にフォーカスした金融教育がなされるべきです。金融教育=投資とすぐに関連付けてしまうことには、違和感を覚えます。

ー 佐々木教授が担当されている「銀行論」「証券経済論」などの講義では、具体的にどのようなことを教えているのでしょうか?

佐々木教授
現在、預金や貸出、為替のような基本的な業務だけでは、銀行は生き残れない時代になっています。どの銀行もコンサルティング業務にシフトしており、相続、事業承継、企業再生などの業務に力を入れています。そういうコンサルティング業務に関する内容も「銀行論」で取り上げています。

「証券経済論」では、株や債券、投資信託、外国債券について教えています。講義の後半では、運用だけではなくコーポレートファイナンス、デットとエクイティの資金調達の割合などを学びます。
さらに、「1つのカゴに卵を全部盛るな」という有名な投資手法について、理論的な検証も実施しています。例えば、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行それぞれに投資していたとしても、分散投資とは言い難いものです。一方で、輸出型企業や輸入型企業の投資先を組み合わせると、分散投資効果が生まれます。証券経済論では、分散投資効果を、相関係数を使い実際の数字で示すところまで取り扱っています。

ー最後の質問です。大学HPで「主体的で積極的な行動がチャンスを引き寄せる力になる」と学生へ向けてメッセージを送られていますが、このメッセージにはどのような想いが込められているのでしょうか?

佐々木教授
実際に教えていて感じるのは、学生の多くが受け身であることです。もし今自分が若者だったら、年金制度や社会保障に不満を持つと思うのですが、今の学生はそうではありません。あきらめてしまっているのでしょうか、社会を変えたいという感じでもありません。
ネットやSNSを上手に使いこなす一方で、リアルなコミュニケーションが苦手な人が大半です。また、協調性を自分の意見をアウトプットせずに「人の話をよく聞くこと」と勘違いしている学生も多い気がします。

私のゼミでは「沈黙はキン」を徹底しています。ここでの「キン」は、goldではなくprohibitの「禁」という意味です。学生たちには「当てられたら、とにかく自分の考えを話す」という課題を与えています。

個人的には、もっと若者らしく面白い学生が増えてほしいと思っています。そうした願いを込めて、「主体的で積極的な行動がチャンスを引き寄せる力になる」というメッセージを学生に送りました。