移住するだけで課税
財務省は10月21日、海外に移住する時点で株式等の「含み益」に課税する方針を明らかにした。所得税法上、株式等を保有しているだけでは課税は生じない。株式等を譲渡して利益がでた場合に課税するのが原則となっている。そして、租税条約上、株式等の資産の価格の上昇による利益のことを言うキャピタルゲインについては、株式等を売却した者が居住している国に課税権があるとされている。そのため、キャピタルゲイン非課税国に出国し、その国で株式等を売却すれば、税負担を回避することができる。そこで、課税逃れを防ぐため海外に移住する時点で「含み益」に課税しようとするのが今回の取り組みである。
実際に売却もしていないのに海外に移住するというだけで課税するのはやりすぎのような気もするが、海外に移住できない庶民が税金を納め、海外に移住できる富裕層が税金を納めないというのは税の公平性に反するとも言える。租税法律主義の観点から要件は厳格に定める必要はあるが、形式ではなく実態を捉えて課税することは、必ずしもおかしいことではない。実際、アメリカ、フランス、ドイツ、カナダ、イギリス等の先進諸国では既に同様の課税を実施している。
他国の課税状況
各国の態様は、ドイツ、フランス、カナダが「国外に移住し非居住者となる者」としているのに対し、アメリカは、対象者を「国籍離脱者と永住権放棄者」にしている。イギリスは、逆に永住権者は対象としておらず、出国から5年以内に帰国する一時的非居住者を対象としている。課税の時期は、ドイツ、フランス、カナダが「出国時」、アメリカが「国籍離脱・永住権放棄時」、イギリスが「帰国時」としている。資産要件は、アメリカが「200万ドル以上」、ドイツが「1社について1%を超える株式」、フランスが、「80万ユーロ超の金融資産又は1社について50%を超える株式」となっている。カナダとイギリスでは資産要件はない。日本では、1億円を超える金融資産を保有している者を課税対象にすることで検討が進んでいる。
では、キャピタルゲイン非課税国へどれ位の人が移住しているのかというと、財務省の資料によれば平成25年の永住者数が、シンガポールが1852人、香港が2151人、ニュージーランドが8444人、スイスが4719人となっている。全てが富裕層というわけではないと思うが、何千人というレベルで海外に移住している実態を見るとこれ以上野放しにはできないということなのだろう。