日本国内でIT化・DX化が急務です。IT投資には、守りのIT投資と攻めのIT投資があると言われており、日本国内では守りのIT投資を行なっている企業が多いのが実態です。しかし、競争力の高い製造業で戦っていくためには、攻めのIT投資も必要です。

IT投資を進めることで、営業活動のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することができるので、業務効率化やコスト削減、売り上げ向上などの効果を見込めます。本記事では、IT投資の基礎知識から、製造業のIT投資の実態、おすすめのIT投資について解説します。

目次

  1. 製販一体とは?製造業DXとの密接なかかわりと製販分離との違い
  2. 製販一体と製販分離の違い|それぞれのメリットとデメリット
  3. 製造業のIT投資の現状
  4. 製販一体に必要な改善策|攻めと守りのIT投資とは
  5. 製造業のIT投資ではSalesforceを導入しよう
  6. まとめ:製造業にIT投資は必須!第一歩として「SFA導入」がおすすめ

製販一体とは?製造業DXとの密接なかかわりと製販分離との違い

【製造業DX】製造業のIT投資は製販一体化が鍵!導入事例・製販分離との違いを解説
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

製造業におけるDXでは、製販一体が重要なキーワードとなります。製販一体と製販分離の違い、それぞれのメリット、デメリットについて説明します。

製販一体とは

製販一体とは、製造(製品の生産)と販売(製品の流通と販売)を一体化させたビジネスアプローチを指す言葉です。製販一体のアプローチにおいては、製品の開発から生産、流通、販売までをシームレスに統合します。製販一体の手法を取ることにより、企業は市場の変化や顧客ニーズに柔軟に対応し、競争力を強化することが期待できます。

デジタル技術を利用する製販一体の戦略は、ビジネスの成果を最大化するために重要な要素となります。そのため、DX導入を考える製造業主体の企業において、製販一体の重要性はますます高まっています。後ほど詳しく解説しますが、デジタル技術の活用により、製造プロセスやサプライチェーン(後述)をリアルタイムにモニタリングし、需要予測や在庫管理を最適化することができるのが製販一体の強みです。製品の供給と需要のバランスを調整し、顧客のニーズに迅速かつ効率的に応えることができます。

また製販一体のアプローチは、顧客体験の向上にも貢献します。デジタル技術を活用したマーケティングや販売チャネルの最適化により、顧客との接点を強化し、パーソナライズされたサービスや製品提供が可能となります。顧客のフィードバックや購買データをリアルタイムに活用することで、製品開発や改善にも迅速に反映させることができます。

製造業のこれまでの主流は製販分離

製販一体に対し、従来の分業体制は製造と販売が別々の組織やプロセスで行われており、製販分離と呼ばれます。

製造業における従来のビジネスモデルでは、製造業者が製品を製造し、それを販売業者が取り扱い、販売する形態でした。製販分離では、製造と販売を別々の企業や部門で行うことで、専門化と効率化を追求します。

製販一体と製販分離の違い|それぞれのメリットとデメリット

製販一体と製販分離の違いについて、もう少し詳しく見てみましょう。

製販一体のメリット

すでに前章でも紹介しましたが、製販一体のメリットとしては、以下の2つにまとめられます。

(1)製造と販売の情報の連携がスムーズに行われ生産計画や物流の最適化が可能になり、需要と供給のバランスが可視化される。これにより在庫過剰や不足を回避できる

(2)製品の開発段階から販売の視点を組み込むことで、顧客の声を製品に反映させやすい=市場の需要やトレンドに合わせた製品を開発できる

まず(1)により、製造期間短縮やコスト削減が実現、すなわち生産の効率化が期待できます。また(2)の効果により、顧客との関係を強化するためのパーソナライズされたサービスやカスタマーエクスペリエンスも提供できるでしょう。

その他、製品の品質や価値を顧客に伝えるためのマーケティングやプロモーション活動も、開発から営業まで一貫して展開できます。製販一体により、企業は市場の変化に迅速に対応し、競争力を高めることができると考えられています。

製販一体のデメリット

ただし、製販一体には以下のような2つのデメリットも存在します。

【製販一体のデメリット1】リソースの分散化
製販一体の場合、企業が製造と販売の両方にリソース(人材、予算、時間など)を割かなければなりません。製造と販売の両方に専門知識やスキルを持つ人材の確保は通常は難しく、また少ないメンバーに負荷がかかり、かえって効率が落ちるリスクがあります。属人化により風通しが悪くなり、業務が硬直化するおそれもあるでしょう。

対策としては、両方のプロセスを効果的に管理する「仕組み」を構築する必要があります。そのためにはDX導入などIT化は欠かせません。

【製販一体のデメリット2】組織内の調整やコミュニケーションの困難さ
製造と販売の両方を一体化させることで、組織内での調整やコミュニケーションの困難さが生じることがあります。製造部門と販売部門の間で意思決定や情報共有の調整がスムーズに行われないと、生産計画や在庫調整の問題が生じるおそれがあります。

上記のような製販一体のデメリットへの対策として、以下のような方策があります。

(1) リソースの分散化を防ぐために:人材教育
製造と販売の両方に専門的なリソース(この場合は人材)を配置し、適切なトレーニングや教育プログラムを提供することが重要です。

(2) 組織的な調整の困難さを解消するために:責任の明確化と情報共有の仕組み構築
役割と責任を細かく定義し、「誰が行うか」をはっきりさせます。同時にコミュニケーションルートの整備、情報共有のプロセスの確立が重要です。

(3) 情報共有やコミュニケーションを円滑にするために:プロセスの可視化
システムやプロセスを、誰にもわかる形で用意することが必要です。製造と販売のデータを統合的に管理するためにも、情報システムやデジタルツールの活用などは検討する価値があるでしょう。例えばSFA(後述)の活用が有効です。その他、チャットツールなどを使って社員間のやりとりを活性化させる方法などが試行されています。

製販分離のメリット

製販分離のメリットとして、製品開発チームと営業(販売)チームを明確に分けることで、それぞれの業務に集中できる点があります。

開発担当部署は生産に専念することで、生産プロセスの効率化や製品の品質向上に注力することができるでしょう。一方で販売を担う営業部隊は市場ニーズの把握やマーケティング、顧客対応に集中することができます。

製販分離のデメリット

製販分離は情報の伝達や調整に課題が生じる可能性があります。また製販一体と比較して開発から販売までが一元化されていないため、生産数の調整や在庫管理に問題が起きるリスクがあります。

以上のように、製販一体と製販分離、それぞれどちらにも一長一短があります。そのため、一旦製販一体に移行した後、業績などの悪化から製販分離に戻した富士通の例もあります。経営者は自社に合った仕組みを探ることはもちろん、どちらを選ぶにしても適切なITツールやシステムを導入して効率化や情報共有の円滑化を図る必要があります。

(参考)
日経XTECH:富士通が8年ぶりにSEと営業を分離 採算性重視から案件獲得重視へ転換
山本修一郎:『CMCで変わる組織コミュニケーション:企業内SNSの実践から学ぶ』NTT出版

製造業のIT投資の現状

ここでは製造業のIT投資の動向について、近年の傾向を見ていきましょう。

製造業のIT投資の現状

製造業ではどれくらいIT投資を行なっているのでしょうか。一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会が毎年発表している「企業IT動向調査報告書」によると、2021年度の「素材製造」業のIT予算の増減における予測DI(Diffusion Indexes(ディフュージョン・インデックス))値は24.4、「機械器具製造」業の予測DI値は20.1でした。

DI(Diffusion Indexes(ディフュージョン・インデックス))値は、IT予算を「増やす」割合から「減らす」割合を差し引いて求めた値のことです。言い換えると、プラスであればIT投資の増加、マイナスであればIT投資の現象を示しています。

つまり、2021年度の「素材製造」業のIT予算の増減における予測DI値は24.4、「機械器具製造」業の予測DI値は20.1となっていることから、IT投資額が増大していることを意味します。

製造業DX
 ※出典 一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)企業IT動向調査報告書 2021 ユーザー企業のIT投資・活用の最新動向(2020年度調査)

予算の振り分けとしては、2020年度は「基幹システムの刷新(41.7%)」「デジタル化に向けた対応(38.8%)」「コロナ影響による基盤整備(32.4%)」となっています。2021年度は「コロナ影響による基盤整備」に変わって「新規システム導入(32.4%)」がランクインしており、2020年度内にデジタル基盤を整え、2021年度に新しいIT投資を行なっていることがわかります。

製造業DX
 ※出典 一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)企業IT動向調査報告書 2021 ユーザー企業のIT投資・活用の最新動向(2020年度調査)

IT投資に限らず設備投資に向ける意欲は製造業がトップ

製造業では、IT投資に限らない設備投資に向ける意欲が非常に高くなっています。帝国データバンクの調査によると、2021年度(2021年4月~2022年3月)に設備投資を実施する予定が「ある」企業の割合は70.1%となっています。2020年度の調査から9.2ポイント増加した値となっており、「農・林・水産」「金融」「建設」などに分類された9業種中でトップの数値となっています。

製造業という括りなく、業種問わずに行われた「予定している設備投資の内容」についてのアンケートでは「設備の代替(41.0%)」「既存設備の維持・補修(33.2%)」「情報化(IT化)関連(30.3%)」となっています。少しセグメントを行なった「1,000人超」規模の企業では「情報化(IT化)関連」がトップとなっていることから、企業規模が大きい傾向のある製造業では、「情報化(IT化)関連」に投資する割合はもう少し高くなるでしょう。

製販一体に必要な改善策|攻めと守りのIT投資とは

製造業界のDX導入、IT化のトレンドはお分かりいただけたでしょうか。ここでは製造業を担う企業がIT投資を行う際におさせておきたいポイント「攻めと守りのIT投資」について解説します。

IT投資とは

IT投資には様々な意味があります。具体的には次の5つの投資が挙げられます。

・ハードウェアへの投資
・ソフトウェアへの投資
・ITサービスへの投資
・情報セキュリティ対策への投資
・その他への投資

IT投資と聞くと、新しい技術や最新技術を導入することだと感じる人も多いのではないでしょうか。業務効率化を促進する基幹システムの導入がまず思い浮かぶかもしれません。他には、システム運用のコンサルティングにかかる費用、クラウドサービス利用費を指すこともあります。

しかし、オフィスで利用しているパソコンが古く作業効率が悪いので新しい性能の良いパソコンに買い換えることもIT投資です。パソコンやサーバー、ルーター、スマホ・タブレットなどの携帯端末の新規購入や買い換え、リースにかかる費用もこれに含まれます。

とはいえ、大きなコストがかかるのはITツールによるシステム構築が主なものになるでしょう。また導入することで従来の業務の流れが一元化されるため、便利になると思える一方、実際に利用する社員に馴染まずろくに使われないままになってしまった、ということもあり得ます。

攻めのIT投資と守りのIT投資

IT投資には、「攻めのIT投資」と「守りのIT投資」があります。

製造業DX

守りのIT投資は、主に業務効率化やコスト削減を目的としたものです。具体的に次のような内容が守りのIT投資と言えるでしょう。

・既存システムの定期的なメンテナンス
・アナログな業務をIT化して業務効率化やコスト削減を目指す
・法規制や顧客要求へ対応

一方で攻めのIT投資は、新規顧客の開拓や顧客満足度の向上による収益の増加を目指すものです。具体的には次のような内容が攻めのIT投資と言われています。

・サービスや製品の開発強化
・ビジネスモデルの変革
・新規顧客開拓
・顧客ニーズに対応して顧客満足度を向上させる
・事業内容や取扱製品の拡大

攻めのIT投資は、製造業がDXを実現して競争力を高めることを意味します。現在の日本企業では、守りのIT投資の比率が高くなっており、攻めのIT投資に資金を割けていないのが課題と言われています。

製造業のIT投資に必要なSCM(サプライチェーンマネジメント)の改善の重要性

製造業が攻めのIT投資を行おうと考えたとき、SCM(サプライチェーンマネジメント)の改善が重要となっています。

SCMとは、原材料や部品が製品になって顧客の手元に渡るまでの一連のプロセスを管理することです。製造業は、調達・生産・物流・販売といったプロセスを経て顧客に製品が届きます。そのため、それぞれのプロセスで部分最適を図ることが非常に重要になっています。

製造業DX

日本の製造業では、現在もExcelを利用してSCMを行なっているケースが多いです。そのため、情報共有や連携がスムーズに行われていないケースも多く見受けられます。また、うまく管理ができていたとしても、長く所属している管理能力の高い管理者によって管理されていることが多く、属人化を課題としているケースが多い傾向があります。

製造業のIT化・製販一体にはクラウドサービスの導入が必須

不測の事態や人員の変化などに対応できるSCMを行うためには、IT投資によってデジタル技術を導入し、情報共有や連携がスムーズに行えるようにすることが重要です。

SCMは、業務の効率化やコスト削減を目的とする「守りのIT投資」です。しかし見方を変えれば、変化への対応力を高め、販売機会を失わずに売り上げを高める「攻めのIT投資」とも考えられるのではないでしょうか。競争の激しい製造業界で生き抜くためにはSCMの改善が非常に重要と言えるでしょう。

製造業のIT投資ではSalesforceを導入しよう

顧客や市場の要求の変化が収益に影響を与える製造業界では、企業はバリューチェーン全体にわたって透明性と予測可能性を必要としています。Salesforceの「製造業界のトレンド」によると、8割以上の製造業者は「正確な予測のために新しいアプローチと新しいツールが必要である」と考える一方、手作業で情報の管理を行なっているという実態があります。

Salesforceは米国のセールスフォース・ドットコム社が提供する世界No.1の顧客管理(CRM)ツールです。製造業界向け製品となる Salesforce Manufacturing Cloudを提供しており、販売計画や取引先販売予測、目標設定、リベートマネジメントといった業界固有の機能を標準機能として備えているという特徴があります。結果として、販売計画のライフサイクル全体を管理でき、確約された実際の受注数量、予測に対する計画のパフォーマンス、およびその他の時間単位の指標をSalesforce内で可視化することができます。

製造業におけるSalesforce導入のIT投資メリットとして、次の3つの要素があります。

・顧客管理・案件管理で営業効率化
・部門間連携でプロセスの最適化
・サプライチェーンマネジメントが実現する

また、今後10年間に向けて「十分な備えができている」と考えている製造業者の大半は、クラウドでシステムを運用しています。他にも、製品やサポート、ソフトウェア、その他のサービスを組み合わせて1つの収益モデルを構築するサービタイゼーションに積極的な姿勢を持っているという特徴があります。

そのため、Salesforceをはじめとしたクラウドサービスを導入することが、製造業のIT投資の選択肢になりうると言えるでしょう。

また、IT投資による業務効率化については次の記事でも解説しています。

まとめ:製造業にIT投資は必須!第一歩として「SFA導入」がおすすめ

本記事では、製造業の製販一体と製販分離の違い、製造業がIT投資を行う際のポイント、SFAツールの有効性について解説しました。

IT投資には、守りのIT投資と攻めのIT投資があり、日本国内では守りのIT投資を行なっている企業が多いのが実態です。しかし、競争力の高い製造業で戦っていくためには、攻めのIT投資も必要だと言われています。

特に、SalesforceのSalesforce Manufacturing Cloudは製造業に特化した製品となっているため、情報の一元管理や業務効率化を行いたい場合には、ぜひ導入を検討してください。