この記事は2023年6月12日に「The Finance」で公開された「【連載】内部監査スキル解説③ 内部監査のインタビュースキル ~意外と知られていない使えるインタビューテクニック9選!~」を一部編集し、転載したものです。
インタビュースキルは、内部監査担当者に必須とされるソフトスキルであり、内部監査のフィールドワーク場面などにおいて最も重要視されるコミュニケーションスキルのひとつである。本稿では学術的な理論や筆者の実践事例も交えながら、内部監査の実務書であまり取り上げられることのな
い、また、一般的に知られていない、より効果を高めるために活かせるインタビューテクニックを紹介する。
なお、内部監査実務においては、監査の前半戦(プロセス・コントロール・リスク認識の理解等)で用いる「インタビュー」と、監査の後半戦(発見事項の事実確認・原因分析等)で用いる「ヒアリング」があるが、本稿では前者の「インタビュー」を中心に解説する。
目次
内部監査担当者に必要なソフトスキルとは
まず内部監査担当者に必要とされている主なソフトスキルにはどのようなものがあるか一覧すると、一般的には下表のようなスキルが挙げられる。
インタビュースキル (今回のテーマ) ※ヒアリングスキルも含まれる |
コミュニケーション スキル |
ファシリテーションスキル |
ロジカルシンキング | マネジメントスキル | |
プレゼンテーションスキル | プロジェクト・マネジメントスキル | |
発見スキル | プランニングスキル | |
コンフリクトスキル | コーチングスキル | |
ライティングスキル | リーダーシップスキル | |
原因分析スキル(*1) | タイムマネジメントスキル | |
説得スキル(*2) | 問題解決スキル |
内部監査担当者に求められるコミュニケーションスキルは、一般的にインタビュースキル(ヒアリングスキルも含まれる)、ロジカルシンキング、プレゼンテーションスキルとされている。このうち、インタビュースキルとは、インタビューを通じて、監査対象業務について内部監査担当者が必要とする情報を適切に入手するという目標を達成するための技能である。
※脚注
(*1)The Finance「【連載】内部監査スキル解説②『内部監査発見事項に対する深度ある根本原因分析の手法』」(2023.5.1)参照
(*2)The Finance「【連載】内部監査スキル解説①『内部監査指摘事項を被監査部門に受け入れてもらう効果的な方法』」(2023.4.10)参照
インタビュースキル向上の必要性
内部監査担当者によるインタビュー(ヒアリングを含む)は、内部監査の目的を達成するために必要な基本情報(プロセス・コントロール・リスク認識の理解や実態把握等)の収集から結論(発見事項・指摘事項・原因分析・改善提案等)を導出するために、内部監査担当者がフィールドワーク等で活用する重要な情報の入手技法であり、その成否が内部監査のパフォーマンスを左右するといっても過言ではない。このため、インタビュースキルの向上は内部監査部門内での教育研修の中で必ず盛り込まれるテーマとなっている。また、このインタビュースキルの重要性や実践テクニックについては、専門家による研修・セミナーや内部監査実務の専門書において十分に取り上げられているところである。特に、ラポール(Rapport) (*3)の構築、オープンクエスチョン(Open Questions)・クローズドクエスチョン(Closed Questions)・リーディングクエスチョン(Leading Questions)による質問技法(*4)の活用、ノンバーバルコミュニケーション(Nonverbal Communications) (*5)の理解、心理的安全性(*6)の確保などは、インタビュースキルにおける基本的かつ重要な要素として必ず学習することが求められるテーマである。さらに、インタビュースキルを含むコミュニケーションスキルは、内部監査人協会(IIA)の「内部監査能力フレームワーク」(The IIA’s Internal Audit Competency Framework 2021)の中でも、内部監査人に必要な知識エリア(*7)のひとつとして挙げられている。
なお、内部監査の手法としては、インタビューのみでは最低限の信頼性しかないため、統制の有効性に関する結論を支持するには十分な監査証拠とは言えず、監査対象業務の観察、関連する資料の閲覧、統制活動の再実施などの他の手法も組み合わせる必要がある点には留意して欲しい。
※脚注
(*3)「ラポール」とは、フランス語で「橋を架ける」という意味の言語であり、場を共有している関係、信頼して一緒にいる感覚、波長が合っている状態を指す。内部監査担当者は被監査部門に所属するメンバーがリラックスしてインタビューに答えてもらえるような状況にすることで、十分かつ適切な真実の情報を引き出すことが可能となる
(*4)オープンクエスチョン(Open Questions)は「開かれた質問」とも言われ、5W1Hを用いて事実関係を引き出すことができ、フィールドワークにおいてもっとも広く利用されている。クローズドクエスチョン(Closed Questions)は「閉ざされた質問」とも言われ、相手が「はい」「いいえ」あるいは一言で答えられるような質問形式である。リーディングクエスチョン(Leading Questions)は「誘導質問」とも言われ、質問の一部に答えが含まれている質問形式であり、主に既に認識している事実を確認するため、また、フィールドワークにおいて把握した事柄に対して、内容の正確性を確認する際に利用することが多い
(*5)言語に頼らないコミュニケーションを指し、相手との信頼関係を構築するうえで必要不可欠なものである。例えば、見た目・表情や態度・目線・しぐさ・ジェスチャー・ボディランゲージ等の視覚情報、声の質や大きさ・トーン・話す速さ・口調等の聴覚情報、言葉そのものの意味・会話の内容等の言語情報がある
(*6)一人ひとりが不安を感じることなく、安心して発言・行動できる場の状態や雰囲気をいう
(*7)知識エリアは「専門性」「実施」「環境」「リーダーシップとコミュニケーション」の4要素で構成されている
より効果を高めるために活かせる具体的なインタビューテクニック
(1)インタビューの「スキル」は資質・能力ではない?
インタビュースキルを含むコミュニケーションスキルは細分化すると下表のスキルに分類される。これらはすべて資質や才能ではなく、実践による経験を積むことによって習得できるものである。そのためには、内部監査の専門書の読解や座学による研修の受講のみならず、内部監査部門内での研修において実際の場面を想定したロールプレイングを実施し、本番の監査場面で実践してみることを繰り返していくことが肝要となる。
細分化されたコミュニケーションスキル | ポイント |
---|---|
スピーチ・プレゼンテーションスキル | 表情、姿勢、目線、声、スピード |
傾聴・共感スキル、ミラーリング | 相槌、興味、同期 |
反復確認、バックトラッキング | 情報・感情・要点の繰り返し |
キャリブレーション | 相手の表情・態度からの感情読み取り |
アサーション | 適切な自己主張、相手の自己主張の受容 |
インタビュースキル・ヒアリングスキル | 事前準備、時間配分、構造化、論点化、メモ |
(2)インタビューで必須となる4つの基本的確認とは?
まずインタビューの目的を達成するための前提条件として4項目の基本的な確認事項がある。これらを意識したインタビューを実践しないと期待する効果が得られなくなり、お互いが貴重な時間を費やしたインタビューそのものが徒労に終わってしまうリスクを孕んでいるので留意していただきたい。特にこの基本的確認を怠ると、認識相違により、最終局面において、いわゆる「ちゃぶ台返し」が起きるリスクがあるのでより一層の注意が必要である。
- 単語の確認
被監査部門および被監査業務の固有の業界用語・業務専門用語・部内用語・略語や言葉の定義や内容が不明瞭な場合は確認しておく必要がある - 意味の確認
意味を曖昧に理解したままにしておくと、インタビュアーの勝手な解釈になりかねないので、意味や解釈が不明瞭な場合は確認しておく必要がある - 表現の確認
抽象的な表現や言葉に対する理解や解釈はお互いの受け取り方の差異により誤解を生む可能性があるため、確認しておく必要がある - 情報源の確認
出所・出典・根拠・情報源やその信憑性を確認せずに監査証拠として採用した場合、誤った監査結論を導出するリスクがあるため、情報源等は確認しておく必要があるなお、これら以外に、いわゆる5W2H(*8)の確認を意識することを忘れてはならない。
※脚注
(*8)Who(誰が)/Whom(誰から・誰に)/Why(なぜ)/When(いつ)/What(何を)/How(どのように)/How much・How many(どの程度)
(3)インタビューの効果が高まる曜日と時間帯は?
インタビュー(以下、ヒアリングでも同じ)の実施スケジュールについては、被監査部門側の監査期間中の繁忙感に十分配慮しつつ、内部監査部門側と被監査部門側で調整して日時が決められるケースが一般的である。しかしながら、スケジュール調整の過程で、インタビューを実施するに際して最も効果的な曜日・時間帯はいつなのかまでは意外と意識されていないものである。人間行動学の世界では、人間が最も集中できる曜日・時間帯というものが研究実証されている。この点を踏まえ、インタビュアーにとって、集中することができ、議論を活発化させ、インタビューの目的を達成する、といった効果が最も期待できる曜日・時間帯にインタビューを設定することは有効であろう。特に最も重要な局面でのインタビューの曜日・時間帯の設定については検討に値する。
- 最も集中できる曜日は「火曜日」である(最も避けたいのは「月曜日」、次は「金曜日」)
- 最も集中できる時間帯は「午前中(脳のゴールデンタイム)」である(最も避けたいのは午後2~4時)
- 午前の時間価値は午後の4倍とされている(午前の30分は午後の2時間に相当)
上記の理論に照らしてみれば、インタビューに集中できて最も効果が期待できるのは、「火曜日の午前中」となり、集中力に欠け最も効果が期待できないのは「月曜日の午後2~4時」ということがいえる。
(4)インタビューに適した席の配置とは?
インタビューを実施する場所となる会議室での座席の配置も重要な要素である。十分かつ円滑なコミュニケーションによりインタビューの目的を達成するためには、そのためのロケーションやレイアウトなどの環境や雰囲気作りも欠かすことができない。特にインタビュアーとインタビュイーの位置関係、すなわち両者の座席の配置が与える影響は大きい。心理的安全性を確保し、対峙するような位置関係にならないよう配慮する必要がある(そのような観点でいえば、応接セットでの実施は好ましくなく、会議室が適している)。例えば、一般的に有効な座席の位置関係として推奨されている、人事面談(評価面談等)における上司と部下の座席の配置が参考となる。具体的には、以下の2点を満たすことができる下図のような位置関係が最も効果的である。
- インタビュイーが目をそらすことができる位置関係
- インタビュイーが目をつむることができる位置関係
- インタビュアーとインタビュイーが対面ではなく横並びに近接している位置関係(対立ではなく協同の意識が醸成される位置関係)
(5)相手(被監査部門)との対面会話の割合は?
いわゆる内部監査の教科書の類では、内部監査担当者と被監査部門担当者との会話の割合は、3:7(自分:相手)が基本とされており、内部監査担当者が一方的に話したり質問攻めにするのではなく、「傾聴」と「共感」の基本姿勢をもって、多くの情報を引き出すことを基本としている。しかしながら、被監査部門の担当者の立場からすると、インタビューにおける自分の回答内容や提供した情報が監査結果に直接的に影響してくると思えば、多くを語りたくないというマインドになるものである。わかりやすい例でいえば、金融庁の立入検査時における金融検査官によるインタビュー(ヒアリング)が挙げられよう。筆者自身もそうであったが、「聞かれたこと以外は答えない」「余計なことは言わない」「最低限の会話に徹する」というコミュニケーション姿勢を取ろうとするのと同じ構図といえる。このようなマインドを踏まえた場合、内部監査担当者と被監査部門担当者との会話の割合3:7(自分:相手)を実践することは意外と困難であることがわかる。
そこで筆者は、相手と上手に会話するためのテクニックとされている「ピンポンルール」と「信号機ルール」を推奨したい。前者の「ピンポンルール」とは6:4(自分:相手)の会話の割合にすることで、コミュニケーションを心地よく、そしてより円滑かつ活発にすることができる。内部監査のインタビューにおいてもこの割合を意識することで、被監査部門担当者の警戒心を解き、心理的安全性も確保することができる。なお、内部監査部門担当者側の割合が7以上となると、一気にこちらの一方通行性が強くなり、相手から必要な情報を引き出せなくなるので留意しなければならない。後者の「信号機ルール」とは、会話の話題の長さを信号機の緑・黄・赤に例えたもので、30秒を1ユニットとすることが適切な長さとされている。30秒が「緑」(安全)、30秒を超えると「黄」(注意)、1分を超えると「赤」(危険)となる。これら「ピンポンルール」と「信号機ルール」を組み合わせ、6:4(自分:相手)の会話の割合、自分の話す長さは1話題につき30秒を意識して、双方でのコミュニケーションキャッチボールをすることが効果的であると考える。
(6)FBIネゴシエーターが実践する「傾聴術」とは?
内部監査担当者によるインタビューにおいては、「傾聴」と「共感」の基本姿勢が重要とされている。しかしながら、この「傾聴」については、「相手の立場に寄り添い、耳を傾ける、真摯な姿勢」というような抽象的な説明がほとんどであり、傾聴の具体的な手法が解説されているケースはあまり見受けられない。本稿では、傾聴の具体的な手法として、FBIネゴシエーター捜査官(人質交渉人)が実践している「傾聴術」のポイントを紹介する。この「傾聴術」はFBIネゴシエーター捜査官の教育課程で最初に学ぶスキルとされているものである。ポイントは、以下の4点になる。FBI捜査官が主人公の米国のハリウッド映画などを観てみると、確かに捜査官と犯人との交渉場面でこれらポイントが順に使用されているのがわかる。
- 最初は、相手の言い分に口出し・反論・評価はしない
- そして、相手の言い分には短く定期的にうなずく
- 次に、相手の言い分を短く復唱する
- 最後に、手短に質問を混ぜる
(7)相手(被監査部門)への説得口調は「問いかけ型」か?「言い切り型」か?
インタビュー(以下、ヒアリングでも同じ)において、内部監査担当者から被監査部門担当者に、こちらの意図・メッセージを伝え、共感してもらいたい、同意を求めたい、あるいは説得を試みたい場合の語り口調にも効果的な話法がある。これはボストン大学の研究でも実証されており、わが国においても政治家が街頭演説などでよく使っているテクニックで、相手のこれまでの反応や共感度合いによって「問いかけ型」と「言い切り型」を使い分けるものである。
- 問いかけ型(例「・・・・しませんか?」) → 変化・改善への興味や欲求が少ない場合
- 言い切り型(例「・・・・しましょう!」) → 変化や改善への必要性を理解している、耳を傾けるつもりになっている場合
(8)相手(被監査部門)の効果的な褒め方とは?
旧来の内部監査では不備指摘を見つけるために質問攻めにするといったインタビューケースが少なくなかった。その後、内部監査分野の発展に伴い、昨今の内部監査では、インタビューを通じて問題点や課題の指摘だけでなく、評価できる点や好取組事例についても、確認・伝達・共有するようになってきている。
こうした中、一部の金融機関では、内部監査のフィールドワークの中で、高評価に値する好取組事例を必ず発見事項として見つけ出し、それを監査報告書の中で取り上げることを必須化している事例も見受けられている。しかしながら、この高評価として取り上げる内容についての話法(効果的な伝達・共有の手法)、わかりやすく例えるならば、いわゆる効果的な「褒め方」については意外と知られていない。
以下、内部監査のインタビューにおいても活用できると考えられる、心理学からみた効果的な「褒め方」(本稿では対被監査部門とする)のポイントについて紹介する。このポイントについては、米国のミシガン大学の研究でも実証されている。
- 感情をのせる(不誠実な賞賛は逆に警戒を抱かせる)
- 極端過ぎる言葉を使って褒めない
- 簡単にできることを褒めない(どれくらい難しかったのかを褒める)
- 他人(他部門)と比較して褒めない(本人(当該部門)の過去と比較して褒める)
- 努力と戦略(への取組姿勢)を褒める(運や才能は褒めない)
- 好きなこと(得意なこと)を自発的にやっていることを褒めない(褒める必要はなく、アドバイスシーキング(*9)を活用する)
※脚注
(*9)advice-seeking:他者から意見や指導を求める行為
(9)会話中のNG行為とは?
以下の行為はインタビュー場面においての禁止行為である(インタビューに限らず会議・MTGにおいても同様と言える)。
- 会話中にスマホをいじる
- 会話中にスマホをチラ見する
- 会話中にスマホを相手の目に見える位置に置く
これらの行為はファビング(Phubbing) (*10)と呼ばれ、ビジネスにおいてクライアントとの関係を最も壊す現代の行為とされている。このファビング行為は内部監査業務にも当てはまるものであり、被監査部門の担当者とのインタビューにおいて、相手に不快感を与えかねないので厳に慎むべきである。
※脚注
(*10)Phubbing=Phone(スマートフォン)+Snubbing(無視・冷遇)による造語であり、テキサス州ベイラー大学の研究結果による
まとめ
上述してきたテクニック9選は、いずれも内部監査の実務書の中ではあまり目にすることのないものである。しかしながら、これらテクニックは、インタビューの目的達成をより確実にすることができるTipsになり得るものであり、インタビューの実効性向上に向けて実践してみることは、検討に値するものと考えている。
【参考文献】
トーマツ金融インダストリーグループ編「金融機関の内部監査」(2011.5 中央経済社)
内部監査協会「キャリアプランを描く」(月刊監査研究2016.4(No.509))
内部監査協会「IIA内部監査の国際的能力フレームワークについて」(月刊監査研究 2016.4(No.509))
金融庁「利用者を中心とした新時代の金融サービス」(2019.8)
内部監査協会「内部監査能力フレームワーク」(月刊監査研究 2021.1(No.566))
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執行役員ディレクター
大手監査法人、監査法人系コンサルティング会社及び保険会社での勤務経験を有する。金融機関におけるガバナンス、リスクマネジメント、コンプライアンス、内部監査、内部統制、不正防止、金融監督検査行政に精通。30年以上の内部監査実務経験を有する。