R&D(Research & Development)とは、主に企業における研究開発を指す用語です。R&Dを担う部門では、技術的な研究開発を行うため、研究職だけではなくエンジニアのポストも用意されていることがあります。
本記事では、R&Dに興味がある方、あるいはR&Dに関わるエンジニアとしての仕事に興味がある方に向けて、R&Dとは何か、R&D部門におけるエンジニアの役割、転職事情などについて解説します。
目次
R&Dとは何か?
ここでは、R&Dの基本的な意味を始めとして、メリットや注意点について解説します。
R&Dとは?
R&Dとは冒頭でも述べた通り、企業が新商品やサービスの開発に向けて実施する技術的な研究開発を意味する用語です。特に製造業やIT、製薬の分野では、技術力が他社に対する競争優位に直結することから、R&Dによって技術力の蓄積を行うことが欠かせません。企業によってはR&Dを専門的に担う部署も存在します。日本においては、民間部門研究開発費の82%を大企業が占めています。特にトヨタ自動車や本田技研工業などを始めとした大手メーカーが上位に位置することも特徴的です。
R&Dにはいくつかの種類があり、主に基礎研究、応用研究が該当します。 基礎研究は短期間で成果を出すことを目的とせず、新たな分野に対して行う学術的な研究を指すことが多いです。一方で応用研究は、基礎研究で発見された理論や知見を実用化するために行います。
R&Dのメリット
R&Dを行うことでどのようなメリットがあるのでしょうか。無形資産としての技術や特許を社内に蓄積することができます。それによって、競合他社に対する優位性を確保できるのです。
また、R&Dを重点的に実施することで製品やサービスを早いサイクルで開発し、市場に投入することが可能になります。これによって、市場のトレンドに追随しやすくなるほか、顧客の要望に迅速に応じることができる。
特に変化の激しいIT業界においてはその傾向が顕著です。その中でもAmazonは年間で600億ドル以上の多額の研究開発費を投じて新サービスの開発を続けています。特にAmazonが提供するクラウドサービスであるAWSにおいてはR&Dの結果として、速いサイクルで新たなサービスが提供されており、世界的に高いシェアを占める一因となっているのです。
このように、R&Dにかける予算を増やし、それに応じた成果が出し続けることができれば、企業としての技術的優位性が増し、有利にビジネスを進めていくことが可能になります。
R&Dの注意点
研究開発は長い時間をかけて行われるものではありますが、民間企業のビジネスである以上、大学での学術研究とは違い、あくまでビジネスや利益につながるものでなくてはなりません。そのため、R&Dではただ研究開発費を投入するのではなく、費用対効果を意識したプロジェクトとして進める必要があります。
一方で、R&Dにおいて過度に成果を求めすぎると現場へのプレッシャーが強まる、短期的な成果に囚われるなどのマイナス効果も懸念されます。また、上層部からの過度な圧力はR&D部門全体のモチベーション低下にもつながってしまうでしょう。このように、R&Dにおいては中長期的な粘り強い取り組みと成果を追求することのバランスを取ることが重要な課題となるのです。
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一般的にR&Dに投じられる研究開発費と企業の売上高の間には正の相関があるとされています。しかし、業種によって寄与度に差異があること、研究テーマによってはビジネスにつながりづらい分野もあるため、予算の投入においては中長期的な視点を持って検討する必要があります。
R&Dエンジニアとは?
ここでは、R&D部門におけるエンジニアの位置づけ、役割、業務内容について解説します。
R&Dエンジニアとは?
R&Dエンジニアとは、R&D部門に所属して研究開発を担うエンジニアを指します。
R&Dに関わる職種としては研究職と混同されがちですが、研究職は製品を開発するための学術的な研究を行い、エンジニアは製品やサービスを形にするための仕事を担うという特徴において違いがあります。R&D部門のエンジニアは、理論的な研究よりも実用化に向けた開発を担うケースが多いといえるでしょう。
R&Dエンジニアの役割
R&D部門におけるエンジニアは、研究を通して得られた知見をもとに新しい技術やサービスを作り出す役割を担います。
R&D部門の中で研究職との棲み分けがなされている場合は、研究職によって導かれた理論や方法論を実際に活用可能な技術を使って具体化することが求められるのです。
開発するサービスやプロダクトは所属する企業によって異なりますが、ハードウェア、ソフトウェア、言語、インターフェースに至るまで多岐に亘り、R&Dエンジニアはこれらの分野で技術実装を担います。
R&Dエンジニアの業務内容
先端技術の動向調査
近年は技術革新のサイクルが早くなっており、先端技術の動向も目まぐるしく変わる傾向にあります。
そのため、R&D部門としても最新の技術にいち早くキャッチアップし、その技術をどのように新規ビジネスに活かしていくのか、どのように技術実装していくのかを考える必要があります。また、最新の技術動向を探ることによって、新規ビジネスを創出するためのヒントが得られることもあります。
上記より新規の商品やサービスの開発に向けた準備や実証実験に続く前段階として、先端技術の動向調査もR&Dエンジニアの主な業務内容といえるでしょう。
先端技術の実証実験
実証実験とは新開発の製品、技術などにおいて、実際にそれらが使用される場面を想定し、実用化に向けての問題点を検証することを指します。例えば、トヨタ自動車は水素を使った工場でのカーボンニュートラルの実証実験を進めています。化石燃料に代わるエネルギーとして注目される水素を実際のビジネスで活用するために、実証実験を通して実現までの課題を把握しようとしているのです。
R&Dでは、常に正解のないテーマや実現するかどうかも不透明な技術課題に対して試行錯誤を重ねていくことが求められます。先端技術をどのように新規ビジネスに活かせるかを見出すには、何度も実証を行い小さな成果を積み重ねる必要があるのです。
研究開発のプロジェクト管理
R&Dは数年単位での長期的なプロジェクトとして推進していくことが多くあります。プロジェクトにおいては先端技術の動向調査、実証実験、実用化を担うプレーヤーに加えて、プロジェクトを統括するマネジメントの人材も必要です。
例えば、研究開発の進捗、予算の管理をはじめ、必要な人材リソースの投入に向けた社内交渉などプロジェクト管理に関わる業務は多岐に亘ります。R&Dにおいては、長期のプロジェクトを円滑に遂行するために適切なプロジェクト管理を行うことも、R&Dエンジニアの重要な役割といえるでしょう。
R&Dエンジニアに求められるスキル
ここでは、R&D部門に所属するエンジニアに求められるスキルについて解説します。
システム開発のスキル
近年はIT企業に限らず、多くの企業がDXの必要性を認識しており、デジタル関連の技術を持つ人材が不足しており、R&Dの部門でも例外ではありません。
例えば、近年話題に上がることが多いAIなどの先端技術はITの分野と切っても切れない関係にあります。AIはPythonというプログラミング言語を使って開発されることが多いため、AIを扱うためにはプログラミングのスキルも必要になるのです。
R&D部門のエンジニアには、研究テーマとなる分野についての専門知識に加えて、何らかのプログラミング言語を習得し、システム開発に従事できるスキルが求められます。
先端技術の知見
R&D部門のエンジニアには、企業によって様々ではあるものの、先端技術の知見が必要です。
例えば、通信業界では次世代の通信規格である6GについてNTTドコモなどの大手通信企業が研究開発を進めています。もし6GのR&Dを担う部門に所属するエンジニアであれば、当然6Gの実用化に向けた技術調査や実証実験を行う上で、通信分野に関する高い専門性が求められるでしょう。
R&D部門のエンジニアには、R&Dの研究テーマに合致した専門性に加えて、先述したシステム開発のスキルが求められます。また、R&Dはプロジェクトとして進めていくことが多いため、利害調整や周囲とのコミュニケーションを円滑に行う力も重要です。
英語力
R&D部門のエンジニアには技術力だけではなく、英語力も必要となってきます。例えば、日本国内では普及していない技術やプログラミング言語の調査にあたっては、情報リソースが英語圏のWEBサイトに限られるケースも多く情報収集をスムーズに行うためにも英語力が欠かせません。専門性の高い分野であれば、先端技術に関して英語の論文を読み解いて調査するケースもあるでしょう。
また、英語の読み書き以外にも聴く、話すといったコミュニケーション能力も必要です。大手企業ではR&D拠点を海外に開設することがありますので、プロジェクトによっては海外のスタッフとのコミュニケーションをとりながら業務を進めることもあるでしょう。
このようにR&D部門では英語力が問われる局面が多くあるため、求人においてはTOEICなどのスコアなどを参考に一定の英語力を応募要件としているケースもあります。R&D部門のエンジニアには、技術的なスキルの習得に留まらず、継続的な語学学習も必要となるのです。
優秀なR&Dエンジニアの特徴
ここでは、優秀なR&Dエンジニアの特徴について解説します。
最新の技術動向に高い関心を持っている
R&Dでは社会の動向や市場のニーズを先取りして、企業の中長期的なビジネスにつなげていくことが求められます。優秀なエンジニアは、研究職と同様に常に社会や市場の動きに敏感を察知し、新たなビジネスにつながる技術について探究する姿勢を持っています。彼らは日々入ってくるニュースやインターネットの情報から自身の専門分野に関わる話題を敏感に察知できるよう、高いアンテナを持っているのです。さらに、技術の探究に留まらず、どのように技術を実装し、新規ビジネスにつなげるかを貪欲に考える姿勢も持っています。
そして長期間に亘って同じテーマに取り組むことになりますので、自分が関わっている分野が好きであることも重要な要素です。「好きこそものの上手なれ」という諺が表す通り、優秀なエンジニアの多くは自分の専門分野における取り組みを心から楽しんでいることが多いでしょう。
すぐに結果が出なくても諦めない姿勢がある
R&Dにおける研究開発は短期間で結果が出るものは少なく、多くは年単位で成果を出していくものであす。実際、次世代の通信規格である6Gに取り組むNTTドコモは、次世代の企画が実現するのに10年はかかると語っています。日本におけるR&D投資の効率性は世界的に高いとは言えず、成果が出るまでに時間がかかる傾向にあるため、よりプロジェクトが長期に及ぶ可能性があります。
また、企業の経営層からはR&Dに投資した金額に対して相応の成果を求められることから、R&D部門のメンバーにとっては心理的なプレッシャーもあるでしょう。しかし、優秀とされるエンジニアはこのようなプレッシャーもやる気に変えて自らの研究テーマに取り組みます。彼らはすぐに結果が出なくとも、長期的なビジョンを持ち続け、諦めない姿勢を持って研究開発を進めることができるのです。
スキル向上に向けて研鑽を積むことができる
R&Dで求められるスキルは時代の要請に応じて、常に変化していきます。ここ10年でAIなどの技術が大きく発達し、ビジネスに活用されるようになったように今後もその傾向は続いていくと考えられます。そのため、R&D部門のエンジニアには、自発的に必要なスキルの習得に励むことが求められるでしょう。
場合によっては休日や勤務時間外でも一定の時間をスキルアップのために使うことがあるかもしれません。R&D部門のエンジニアとして成長し続けるためには、自身の専門分野が好きであることに加えて、スキルアップの取り組みを楽しめるぐらいの気概が必要になるでしょう。
R&Dエンジニアの転職事情
ここでは、R&Dエンジニアの転職事情について解説します。
業界での未経験者にとっては厳しい
R&Dにおける研究分野は多岐に亘り、希少性の高い分野であればスキルの習得に加えて、実務経験を積むことさえも難しいことがあるでしょう。一方で、R&D部門で働く人材には一般的なビジネススキルに加えて専門性が求められます。そのため、R&Dの対象となる分野が未経験であった場合、ポテンシャルを期待されての採用は少ないと考えられます。
一方で、日本ではR&Dという分野が一般的になってから日が浅いこと、R&Dを担える人材がそもそも多くはないことから、学生時代の専攻や近しい分野での経験があれば、今後の成長を期待して採用される可能性もあります。まずは自身の専攻やこれまでに経験した業務から得意分野を明確にし、親和性の高い分野の求人を探してみるとよいでしょう。
専門性によっては好待遇を受けられる
R&Dの対象となるテーマは業界によって様々であり、専門性が高くかつ希少性がある分野であれば採用対象となる人材が少ないことから、売り手市場となっているケースがあります。そのため、相対的に高い年収や待遇を提示される可能性があるのです。
近年は年功序列を基本としてきた日本企業においても、専門性の高い人材に対しては年齢を問わず高い年収を提示する事例が出てきています。特にITや情報通信の業界ではその傾向が顕著といえるでしょう。
特に専門性で評価されるR&D部門への転職においては、年齢や現職での役職に関わらず、良い待遇での転職を勝ち取ることができるでしょう。
求人の有無は社会のトレンドに左右される
R&Dにおけるテーマは多くの場合、専門性と希少性がある分野でもあり、採用候補者となる層が少ないことから売り手市場になる傾向にあります。しかし、一般的な職種よりも希少性があるということはそれだけ求人数も少なく、転職のチャンスそのものが限られることにも注意が必要です。また、R&Dは社会のトレンドや情勢、企業の経営状況に左右される部門であるため、転職を希望する時期に求人が出ていない可能性もあります。
例えば、大手転職エージェントであるリクルートエージェントに掲載された「営業職」の求人は2023年6月時点で86,000件以上あります。それに対して、「基礎研究・R&D」の求人数は2,600件程度で、営業職の求人と比較すると大幅に少ないことがわかるでしょう。
また、現時点で採用が活発な分野であっても、同様の求人状況が続く保証がないことにも注意が必要です。企業の経営方針の変更や景気状況などによりR&D部門での研究が打ち切られるリスクがあります。そのような場合、当然ながら該当するテーマの求人は出なくなってしまうでしょう。
R&Dエンジニアには高いスキルが求められるがキャリアアップの可能性も高い
R&D部門のエンジニアには高い専門性が求められる上に、そもそもの求人数が少ないことから転職のハードルは高いといえるでしょう。
しかし、転職先が取り組むR&Dの分野が学生時代の専攻と近い、該当する専門分野での経験がある等の条件を満たしていれば、転職による年収アップも期待できます。自分自身の経験やスキルを客観的に把握し、R&D部門のエンジニアに魅力を感じたのであれば、転職を検討してみてはいかがでしょうか。