私たちの生活を便利なものにしてくれ、産業にも大きな影響を与えるDX。そのDX化を推進するDXエンジニアは、具体的にどのような業務を行っているのでしょうか。
目次
そもそもDXエンジニアとは|DX開発に関わるエンジニア職
DXエンジニアとは、DX開発に関わるエンジニアの総称です。DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略で、デジタル技術を用いて社内の業務効率化やビジネスモデルの変革を図り、ビジネスの優位性を確立することが目的とされています。
DXの定義は企業や団体によって異なり、厳密に統一されていませんが、総務省では以下のように定義しています。
Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)
企業が第3のプラットフォーム(クラウド、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、ビジネスモデルを通して、顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること(一部省略)
出典:総務省「デジタルで支える暮らしと経済」
このような業務に携わっているエンジニアのことを、一般的にDXエンジニアと呼びます。そもそもDXエンジニアという職業はなく、DX開発に関わっているIT業界の方をDXエンジニアと呼ぶことが多いです。以下の画像であれば、システムエンジニアやAIエンジニアがDXエンジニアに該当する可能性があります。
DXエンジニアの現状|IT業界全体で人手不足が深刻化している
DXエンジニアが属するIT業界全体で人手不足が問題となっていますが、将来はさらに人手不足が深刻化すると予測されています。経済産業省は、最悪の場合2030年に約79万人のIT人材が不足すると試算しています。これにより、IT人材の一部であるDXエンジニアも不足するでしょう。
さらに、日本では少子高齢化に伴う人口減少が進んでおり、現在1億2,000万人以上いる人口が、2050年には1億人を切ると予測されています。このように、人口が減る中で労働力を確保するのは非常に困難な状況となっています。
しかし、様々な分野で国際競争力を維持または強化するためには、高度な技術を有するIT人材が必要です。この状況に対処するため、政府は5年間で230万人のデジタル推進人材を育成するプランを現在実行しています。このように、DXエンジニアをはじめとするデジタル人材の確保は、国が政策を行うほど深刻化しているのです。
DXエンジニアの将来性
AIの台頭により、多くの職業がAIに奪われると予想されています。ここでは、DXエンジニアはAIに仕事を奪われるのかや、将来どのような人材が必要になるのかを解説します。
IT業界は今後も需要が増加すると考えられている
DXエンジニアが属するIT業界は、人材不足が続いていることや、ITニーズが拡大していることにより、今後も需要が増加すると考えられています。また、IT業界には「2025年の崖」と言われる、2025年までに解決しなければならない喫緊の課題も残されています。
2025年の崖とは、ITに関する既存の問題を解決できなければ、2025年以降に年間最大12兆円もの経済損失が生じる可能性があるというシナリオです。
もし2025年の崖を対処しなかった場合、企業は以下のような課題を抱えることになります。
・爆発的に増えるデータを活用できず、デジタル競争に負けてしまう
・多くの技術的負債を抱え、業務基板の維持や継承が困難になる
・セキュリティ性能が低く、情報漏洩などのリスクが上がる
・クラウド上のプラットフォームを活かせず、競合に後れを取ってしまう
このような課題が残されているということもあり、DXエンジニアの長期的な需要はもちろん、今後数年における需要も増加すると考えられています。
AIの台頭でDXの仕事が奪われる可能性は低い
AIの台頭で仕事が奪われつつある職業はいくつかありますが、DXエンジニアはAIに仕事を奪われにくいと言えるでしょう。その理由は、AIの構造にあります。
AIは、学習した過去のデータを基に正解を導き出します。しかし適切なDXは、企業が抱えている問題や内部事情によって異なるため、AIの学習範囲外の問題が出てしまった場合は対処できません。
また、AIに代替できる仕事があったとしても、システムが正常に動作しているかを判断するのは人です。そのため、DXエンジニアの仕事が完全にAIに奪われる可能性は低いと考えられます。
しかし、簡単なプログラミングや過去に対処済みのDXであれば、AIに任せられる可能性があります。AIがこなせる業務しか行えないDXエンジニアは、完全に仕事を取られる可能性がありますので、人にしかできない業務の能力を上げるよう意識してみてください。
今後はDX2.0に向けた人材が必要になる
これからは、業務効率化のためのDXだけでなく、ビジネス変革を起こせるようなDXが必要になります。このようなDXを、業務効率化のために行うDX(DX1.0)と区別するため、DX2.0と呼ぶことがあります。
DX2.0の定義は企業や団体によって異なりますが、マーケティング視点を持ったデジタル化や、デジタルで新たなビジネスモデルを作り出すことをDX2.0と呼ぶことが多いです。既に、社内でDX2.0の概念を確定させ、推進している企業もあります。
このように、企業の価値を上げて利益を出すために、デジタルを社内システムの効率化に活かすだけでなく、ビジネスモデル自体までも変革する動きが出ています。そのため、今後はマーケティングや経営戦略の視点を持った人材が必要になると考えられます。
DXエンジニアの種類
DXエンジニアは、役割によって以下の4つに分けることができます。
・プロデューサー(PM・PL)
・アーキテクト
・AIエンジニア
・プログラマ・エンジニア
ここでは、それぞれの役割や業務内容を解説します。
プロデューサー(PM・PL)
プロデューサーは、DX推進を主導するリーダーの役割を果たします。プロデューサーが複数いる場合は、全体管理を担当するPM(プロジェクトマネージャー)や、各々の業務や進捗を管理するPL(プロジェクトリーダー)に分けられることがあります。
プロデューサーは、DXに関する知見も求められますが、DXに関わる全ての業務を主導するため、マネジメントやマーケティング能力も求められます。
アーキテクト
アーキテクトは、ビジネス戦略面の要求を満たすようなシステム設計を行う役割を持つエンジニアです。一般的なシステムエンジニアとは、経営戦略やビジネス戦略も考慮してシステム開発する点が大きく異なります。
そもそもDXの目的は、デジタル化を通して競争上の優位性を確立することであるため、アーキテクトのような経営視点を持った人材が必要になります。
AIエンジニア
AIエンジニアは、AIシステムの開発やデータの分析を行うエンジニアです。主に、機械学習を通してシステムを学習させたり、AIから得たデータを用いてビジネス上における課題を見つけたりします。
AIエンジニアは、システム開発の他にデータ解析も行います。そのため、AIに関する知識はもちろん、統計や数学的知識などの高い専門的な知見が必要です。
プログラマ・エンジニア
プログラマやエンジニアは、システム開発に関わるプログラミングを担当します。主に、デジタルシステムの実装や、インフラの構築の役割を担います。IT業界では、プログラマやエンジニアからキャリアを積んでいく方が多いです。
アーキテクトが構築したシステムを開発するため、DXエンジニアでないプログラマやエンジニアとそこまで業務内容は変わりませんが、プログラミングをしなければシステムが作れないため、DXには欠かせない人材です。
DXエンジニアの仕事内容
DXエンジニアの仕事は、以下のような流れで行われます。
1. DX化の企画立案
2. DX化に必要なシステムの開発
3. DXシステムの実行
4. DXシステムの運用と保守管理
ここでは、それぞれの工程に分けて、DXエンジニアの仕事内容を解説します。
DX化の企画立案
企画立案では、企業が抱えている問題を解決するための最適な企画を考えます。DX化は多くの企業で進められていますが、企業によって解決したい課題の数や種類は異なります。そのため、それぞれの企業に合わせたDX案が必要です。
また、DXはビジネスの競争力を向上させることが目的ですので、初期費用や運用コストを回収できるかなどのマーケティングの視点も持ちつつ、企画を考えていく必要があります。
DX化に必要なシステムの開発
システム開発では、企画立案の段階で考えたDX戦略において、必要なシステムを構築します。システム開発は、アーキテクトがシステムの設計を行い、プログラマやエンジニアがコーディングをしてシステムを構築し、最後にテストをするという流れです。
このフェーズには、コーディングやテストなど負荷が大きい作業が集中しているため、最も多くの時間と労力が必要になります。
DXシステムの実行
システムが正常に動くことが確認できれば、実際に利用できるようになります。その際、各部署で連携が取れていないデータなどがあれば、データを統合して全ての情報にアクセスできるようにします。
このようなデータ統合も、システムを新しくしたり、データの処理が必要になったりすることがあるため、DXエンジニアが業務を担当します。
DXシステムの運用と保守管理
システム実行後もDXエンジニアの仕事は数多くあります。開発後も常に必要とされるのは、運用や保守管理です。さらに、ビジネススタイルの変化に伴ってシステムの変更が必要になれば、エンジニアが必要になります。
また、DXシステムで収集したデータを解析する際には、AIエンジニアのようなアナリストも必要です。運用開始後も、開発を行ったDXエンジニアが保守管理を行うことで、問題点を迅速に発見できるというメリットを受けられます。
DXエンジニアの年収|収入は高水準
DXエンジニアが属するIT業界の平均収入は598万円であり、日本全体の平均給与である436万円を大きく上回っています。さらにDXエンジニアの中で、平均年収を細かく分けてみると、AIエンジニアは約535万円で、システムエンジニアは約550万円です。
この結果から、DXエンジニアの年収は比較的高く、高収入を狙える職業と言えるでしょう。また、DX推進に関する実績を積めば、年収1,000万円前後で転職できる場合も多いようです。
既に米国におけるIT業界の平均年収は1,000万円を超えていることもあり、日本でも需要の拡大に応じて、年収がさらに増加する可能性もあると考えられます。
DXエンジニアに必要な4つのスキルや能力
DXエンジニアに必要なスキルや能力は、主に以下の4つが挙げられます。
・基本的なIT技術
・学び続ける能力
・データ分析能力
・ビジネスに関するマネジメント能力
「基本的なIT技術」は、エンジニアのメイン業務であるシステム開発を行う際に必要です。たとえプロデューサーのような役割を担っていたとしても、IT技術がなければデジタルによる解決策を見つけ出すことができないため、習得しておかなければなりません。
また、エンジニア職に共通して言えますが、「学び続ける能力」も重要です。DX推進の際には、先端技術を用いることもあります。成長が早いIT業界で先端技術を駆使するためには、最新動向や先端技術を日々吸収していく必要があります。
また、DXエンジニアは「データ分析能力」と「ビジネスに関するマネジメント能力」も求められます。そもそもDXは、企業の競争力を高めるために行うため、経営的視点で会社にメリットをもたらすかどうかを考えなくてはなりません。
そのため、ただ単に要望されたシステムを作るだけでなく、「初期投資は回収できるか」や「システム運用が売り上げを伸ばせているか」なども考えられる能力が必要になります。
DXエンジニアになるための3つのルート
DXエンジニアになるためには、主に以下の3つのルートがあります。
・教育機関で情報工学などを専攻して就職する
・DXの技術をつけて転職する
・未経験でエンジニア職に就く
最も一般的なのは、情報工学や理学などを大学で専攻して、IT業界に就職するルートです。DXエンジニアになるためには、特別な学歴や資格は必要とされませんが、業務をこなす上でかなり高度な知識や技術が必要になります。
そのため、結果的にDXエンジニアとして働いている方は、修士や博士課程を修了している方が多い傾向にあります。以下は、AIエンジニアの学歴分布です。
このような理由から、IT業界未経験者がすぐにDXエンジニアになるのは非常に難易度が高いです。そのため、まずはプログラマやエンジニアとして実務経験を積み、知識や能力を身に着けてから、アーキテクトやプロデューサーに昇格していく流れとなるでしょう。
DXエンジニアに関するよくある質問
・DXエンジニアとITエンジニアの違いは何ですか?
・DXエンジニアに関する資格にはどのようなものがありますか?
Q.DXエンジニアとITエンジニアの違いは何ですか?
A. 明確な違いはありません。DXエンジニアはDXに関わるエンジニアを指し、ITエンジニアはIT業界のエンジニアを指します。
DXエンジニアはある特定の職種を指す言葉ではなく、DX開発に関わるエンジニアの総称です。対してITエンジニアは、IT(情報技術)を扱う職種を指します。そのため、ITエンジニアでも、DXに関わる仕事をしていれば、DXエンジニアと言えます。
このように、DXエンジニアとITエンジニアは重なる部分があるため、明確な違いはありません。
Q.DXエンジニアに関する資格にはどのようなものがありますか?
A. DX検定や情報技術者試験などがあります。
DXエンジニアの業務に関わる資格は、以下のようなものがあります。
・DX検定
・プロジェクトマネージャ試験
・システムアーキテクト試験
・情報技術者試験
・ネットワークスペシャリスト試験
DXエンジニアに関する資格は、民間の資格から国家資格まで数多く存在します。中でも、プロジェクトマネージャ試験やシステムアーキテクト試験などの国家資格は、合格率が15%前後と難易度の高い試験となっています。
しかしその分、保有していれば一定の知識があると証明できるため、転職活動などの際に技術力や知識の証明として役立てることができるでしょう。
まとめ|DXエンジニアの需要は今後も拡大する
ITニーズの高まりにより、IT業界の市場規模は今後も拡大すると予測されています。その中でも、企業の価値を上げて競争力を高めるDXエンジニアは、多くの企業で重宝される人材となるでしょう。
DXエンジニアは、高い技術力が求められますが、その分給与は高水準であり、最先端技術に関わることができる職業です。もしDX推進に活かせる強みがあるのなら、DXエンジニアとして活躍する道も考えてみてください。