製造業の転職活動においては、時に志望動機が採否を左右します。特に好待遇・好条件の求人ではその傾向が顕著です。人事の視点を踏まえた「評価される志望動機の書き方」を知り、例文を参考にすることで、意中の企業への転職に近づけます。
目次
前提:製造業の転職では職種を定めることが最初の一歩
志望動機の話を進める前に、IT・DXスキルを持つ方の製造業へのハイスペック転職においては、意中の職種を見つけることが最初の一歩となります。一口に「製造業」といってもその職種は幅広く、業務内容もさまざまであるためです。
一般的な製造業の職種は、以下の6種類に大別できます。それぞれの特徴を理解することで、自分の力を最大限に発揮できる求人と出会いやすくなります。
- 企画&開発系(例:商品企画、研究開発)
- 生産&品質管理系(例:生産技術、生産管理、品質管理)
- 現場作業系(例:製造)
- 営業&広報系(例:営業、広報・マーケティング)
- 事務系(例:法務、人事・総務)
- IT系(例:IT化、DX化にまつわる業務全般)
企画&開発系
企画&開発系は、新商品のアイデアを生み出したり、その礎となる新技術を研究したりする仕事です。おもに「商品企画」や「研究開発」といった名称で募集されています。
- 商品企画:新商品のアイデアを生み出す職種
- 研究開発:新技術や特許の開発、および実用化を担う職種
企業の顔となる新商品や新技術を自らが生み出せるかもしれない、挑戦しがいのある職種です。発想力や専門分野の知見はもちろん、成果の見えない間も努力を続ける忍耐力が必要とされます。
生産&品質管理系
生産&品質管理系は、製造される商品のクオリティや量を管理したり、ロボットの導入などにより製造工程の効率化を担ったりする職種です。以下の3種類の役割がよく募集されています。
- 生産技術:製造ラインの改善や新技術の導入など、生産の効率化を担う職種
- 生産管理:生産量のコントロールなど、生産スケジュールの管理を担う職種
- 品質管理:商品の品質(クオリティ)を担保する職種
生産&品質管理系の仕事は、デジタル技術による業務効率化やビジネスモデルの改革に携わることも多く、IT・DXスキルを持つ方にぴったりの転職先です。
現場作業系
現場作業系は、実際に工場などで商品を作り上げる、製造業の根幹となる職種です。加工・研磨・塗装・組み立て・梱包(こんぽう)といった、現場での作業を行う人材全般を指します。求人では「製造」の名称が使われていることが一般的です。
現場作業系の仕事は商品の製造に直接関わるため、「自動車好きで、自分の手で車を作ってみたかった」といった夢もかなえられます。ただし、企業ごとに業務内容がまったく異なるため、「何を製造・販売する企業なのか」から転職先を絞り込みましょう。
営業&広報系
営業&広報系は、作り上げた商品の販売先を見つけたり、消費者に自社製品のPRを行ったりする職種です。転職求人においては「営業」と「広報・マーケティング」の2種類に大別できます。
- 営業:案件の獲得や顧客のアフターフォローを担う職種
- 広報・マーケティング:製品・ブランドのイメージ向上を担う職種
営業と広報・マーケティングは、ともに自社や自社製品を魅力的にアピールする仕事です。しかし、前者は特定の取引先とのやり取りが主となり、不特定多数の大衆に向けての施策を実行する点で後者と異なります。
事務系
事務系は、企業としての継続的な活動に欠かせない事務作業を担う職種です。「法務」や「人事・総務」など、企業ごとに多様な求人が出されています。
- 法務:法規制の確認や紛争対応など、法のスペシャリストとなる職種
- 人事・総務:人材の採用や教育、庶務業務まで幅広い仕事を行う職種
事務系の転職求人では、特定領域の専門家が求められていることもあれば、幅広く業務を担える臨機応変さのある人物が必要とされていることもあります。募集要項の入念な確認が特に欠かせない職種です。
IT系
先進的な企業においては、IT部門が独立して存在している場合もあります。業務効率化に必要なITツールの導入・運用など、デジタルにまつわる業務全般を担当する部門です。下記はそのほんの一例です。
- 作業進捗やライン稼働率をひとめで確認できる「製造管理システム」の活用や管理
- 営業やマーケティングの効率化に役立つ「MAツール&顧客データベース」の活用
- スマートファクトリー化を実現する「IoT&AI技術」の導入、活用
- 社内の風通しを良くする「コミュニケーションツール」の導入、活用
IT技術は製造業においても計り知れない活用可能性を秘めています。また、昨今はDXの観点からもIT人材の需要が増しており、将来性のある優れた転職先となりえます。
製造業の転職時の志望動機、人事担当は何を見ている?
では、製造業における転職時の志望動機について見ていきましょう。
最初に知っておくべきことは、「なぜ志望動機の提出を求められるのか?」です。志望動機には、人事担当が以下の3点をチェックするための役割があります。
- 意欲・スキルセット
- 製造業(ひいては自社業務)への適性
- ともに働きたい人材かどうか
これらを念頭に書き上げることで、評価される内容に仕上がります。
意欲・スキルセット
もっとも確認されやすいのが、意欲・スキルセットです。自身が優れた経歴やスキルを持つからといって志望動機で手を抜いてしまえば、職務への熱を疑われます。自社に新しい風を吹き込んでくれる意欲的な人物を求める転職市場において、それは取り返しの付かないミスとなります。
志望動機には、職歴欄や資格欄の内容を簡潔に伝える概要としての役割もあります。すなわち「私にはこのような経験・スキルがあり、採用後にはこう役立つ」とアピールをするための文章です。
製造業(ひいては自社業務)への適性
志望動機では、製造業(ひいては自社業務)への適性についてもチェックされています。「製造業や自社のことを正しく理解しているか」「これまでの経験・スキルから業務になじめそうか」が確認されます。
企業は、可能な限り長期的に働いてくれる人材を求めています。これは、人を一人雇うためにも莫大(ばくだい)なコストがかかるためです。例えば、株式会社リクルートの「就職白書2020」によれば、企業の中途採用では「一人当たり平均103.3万円」のコストがかかると報告されています。
ともに働きたい人材かどうか
人事担当は、転職者の採用過程において「ともに働きたい人かどうか」と「即戦力になりえるか」を確認しています。素晴らしい経歴やIT・DXスキルを持つ人材であっても、志望動機から受ける印象が高圧的であったりネガティブ(過度に謙虚)であったりしては、採用は難しくなります。
ここまでにご紹介した通り、志望動機は応募先企業からの第一印象を左右する、いわば自分の顔となる文章です。質の高い文章を作り上げることで、意中の企業への転職が実現に近づきます。
製造業の転職時の志望動機に織り込むべき要素
製造業の転職活動において、人事担当から見て魅力的な志望動機に仕上げるためには、以下の3点の記載が求められます。
- 製造業界と応募先企業を選んだ理由
- 採用後に役立つ経験とスキル
- 入社後に希望する職種や業務
製造業界と応募先企業を選んだ理由
はじめに、製造業界および応募先企業を選んだ理由は必須です。「ほかの業界や企業でも良いのでは?」「製造業を誤解しているのでは?」と判断されない内容が求められます。具体的な例文は後述します。
よくある失敗例として、条件面だけを理由にしてしまうケースが挙げられます。年収や待遇が優れていることだけを理由にしてしまうと、より良い条件の求人があった場に再び転職してしまうのではないかと懸念を持たれてしまいます。
採用後に役立つ経験とスキル
自分がどのような経験とスキルを持つ人物なのかも、志望動機に盛り込むべきです。「現在はこういう仕事をしていて、このようなスキルセットがあり、採用後にはその知見をこう生かせる」と、企業視点で見た自分のメリットを強調しましょう。
記述すべき経験とスキルセットの選定には、経済産業省などが公開する「2023年版ものづくり白書」が参考となります。同白書によれば、ものづくりの工程・活動においてデジタル技術を活用している製造業者の割合は、全体の67.3%にも及びます。活用率の高いデジタル技術としては以下が挙げられています。
入社後に希望する職種や業務
前述の「製造業界と応募先企業を選んだ理由」「採用後に役立つ経験とスキル」に関連し、入社後に希望する職種や業務についても記載しましょう。製造業や応募先企業について正確に理解していることが伝わりやすくなります。
ハイスペック転職を実現するためには「この人を雇えば自社のDXが進みそうだ」と判断してもらうことが大切です。応募先企業が力を入れている先進的な取り組みの名前を挙げるなどすると、入社後に働く姿を人事担当にイメージしてもらいやすくなります。
質の高い製造業の志望動機に仕上げるためのポイント
盛り込むべき内容の次に押さえたいのは、志望動機の具体的な書き方です。質の高い志望動機に仕上げるためには、「簡潔に内容をまとめること」と「あいまいな表現を避けること」が重要となります。
簡潔に内容をまとめる
もっとも意識しておくべきは、内容を簡潔にまとめることです。特に人気の高い求人では、数百にも及ぶ応募書類が企業に届きます。そのため、要点の不明瞭な志望動機はそれだけで採用候補から外される恐れがあります。
読みやすく読まれやすい志望動機に仕上げるために、少なくとも以下の3つのポイントは意識しておきましょう。
- 個別の指定がない場合、文字数は200~300文字が一般的な目安
- 結論である「なぜ製造業と貴社を志望したのか」から書く
- 志望動機は概要を伝える役割であり、それ以外の内容は詰め込まない(詳細はスキル欄や経歴欄に別途記載できる)
あいまいな表現を避ける
簡潔な記載を心掛けると同時に、あいまいな表現の使用を避けることも重要です。例えば「小さなころからモノづくりが好き」「ITスキルに自信がある」といった表現ではアピールになりません。
必要なのは、簡潔に短く、それでいて明瞭な志望動機です。「○○を効率化したいと考えマクロを組み、作業時間を○○%削減できた」といった客観的に把握しやすい形で情報を記載しましょう。
【IT・DXスキル以外】製造業の志望動機の自己PRアイデア例
続いて、製造業の志望動機に活用できる自己PRアイデア例をご紹介します。メインとなるIT・DXスキルにプラスする形でご活用ください。
モノづくりへの関心が高い
モノづくりへの関心が高いことは、王道でありつつ製造業の企業から好意的に受け止められる材料です。他者との差別化のためには、具体的な成果物や体験にまで触れることを意識しましょう。
例えば家電メーカーへの転職活動なら「子供のときにハンダゴテで手製のラジオを作った」、重機メーカーなら「大学時代に鳥人間サークルで人力飛行機を作った」などです。
責任感を持ち誠実に業務へ取り組める
志望動機では、業務に対する真摯(しんし)な姿勢をアピールすることも有効です。現職における実績や過去に顧客の信頼を得られたエピソードについて、冗長になりすぎない範囲で言及しましょう。
ポイントとなるのは、主観的な思いではなく客観的な事実を記載することです。例えば「一生懸命に取り組んだ」ではなく、数字としての実績や結果、過去に社内表彰を受けたなどの事実情報を伝えることで説得力が増します。
コツコツと根気よく作業ができる
コツコツと丁寧に、根気よく作業をこなせることも、製造業では歓迎されます。成果物を消費者や取引先企業に届ける製造業では、業務に手を抜く人材の雇用は深刻なリスクとなる恐れがあるためです。
また、ITによる業務改善やDXの取り組みは一朝一夕で終わるものではありません。先行きが不透明な中でも着実に施策を進められる忍耐力が求められています。
チームワークを大切にできる
志望動機では、現職の組織における協調性のアピールも評価されます。製造業では一つの成果物ができあがるまでに多くの人が関わりますが、どの職種での採用でもチームワークは必要不可欠だからです。
世の中には「スペシャリストはコミュニケーション能力に欠ける」という偏見もあります。そのため、卓越したスキルを持つIT・DX人材の方ほど、チームワークやコミュニケーションに関する記載は有効なアピールとなります。
【転職】製造業の志望動機の例文集。良い例&NG例
最後に、製造業のハイスペック転職における志望動機の例文をご紹介します。「未経験・他業界からの転職」と「製造業内の転職」に分けて、それぞれ良い例とNG例を見ていきましょう。
未経験・他業界からのIT・DX転職希望者向けの例文
未経験や他業界からの転職では、「なぜ製造業界や応募先企業を選んだのか」と「自分のこれまでの経験&IT・DXスキルをどう生かせるのか」を強調することが大切です。ここでは、同一応募先・同一人物(同じ経歴・スキルセット)を想定して、良い例とNG例をご紹介します。
【良い例】
「私が貴社を志望した理由は、貴社が取り組みを進める完全自動運転技術が世界を変え得る研究であると感じたからです。私は現職で社内システムの開発・運用を担当しており、過去には「営業担当が訪問先から音声で商談内容を記録できるツール」を導入し、事務作業に必要な一人あたりの時間を月あたり10時間ほど削減しました。ご採用いただいた暁には、事務作業の負担軽減などのDXにおいて、完全自動運転技術の研究に注力しやすい環境作りに貢献いたします。」
【NG例】
「自分の持つデジタルスキルを最大限に生かしたいと思い、貴社を志望いたしました。現職では社内システムの開発・運用を担当しており、利便性に優れたツールの導入によって社内業務の効率化を実現しています。現代のビジネス環境に欠かせないDXについてもチーム一丸となって取り組んでおり、その重要性を理解しています。ご採用後には、貴社のDXへの取り組みに対しても主体的に参加し貢献することを約束いたします。」
NG例は一見するとそれらしい内容に見えますが、結局具体的なものが曖昧で何も伝わっていません。応募先や製造業でなければだめな理由がなく、所有しているスキルの説明も不十分です。
同じ条件であっても、志望動機は書き方次第でこれほどに印象が変わるのです。
製造業内のIT・DX転職希望者向けの例文
製造業内の転職では、「なぜ転職に踏み切ったのか(応募先企業に惹かれた理由)」や「これまでの職務とそこで培われた自分のスキル」を伝えると良いアピールになります。こちらも同一応募先・同一人物を想定した例文です。
【良い例】
「国内最先端ともいえるスマートファクトリー化を進める貴社に魅力を感じ、転職を決意しました。私は現職にて、カメラ映像とAI画像認識技術を用いたリアルタイム不良品検出システムの実現に取り組んできました。既に約6割の精度を誇るなど一定の成果が上がっていますが、残念ながら予算面を理由に、来年度より研究規模の縮小が決定しています。貴社への入社が叶った暁には、これまでに培ったAI画像認識技術の知見を生かし、スマートファクトリー化に貢献し自己実現を図りたいです。」
【NG例】
「私が貴社を志望した理由は、社員を大切にする企業への転職を希望しているためです。ここ数年、私はIT技術を活用した製品品質の向上に取り組んできました。しかし、一定の成果が挙がっていたにも関わらず、来年度からは研究を縮小するとの通知を受け、このたび転職を決意しました。業界のトップランナーでもある貴社は、今回の求人における待遇面も現職よりも優れており、自分の能力を発揮できる環境であると感じています。入社後には、貴社のスマートファクトリー化に誠心誠意貢献いたします。」
NG例は曖昧な表現が多く、待遇面への期待も前面に出すぎています。また、現在の職場への怒りや不満を志望動機に込めてしまうこともよくある失敗例です。
製造業の志望動機は転職の成否を左右する重要なもの
この記事では、製造業へのハイスペック転職での志望動機について、記載すべき内容や評価される文章の書き方、具体的な例文などをご紹介しました。
志望動機は、高度な転職活動においては採否を左右する可能性も秘めた重要な文章です。過不足なく自身の魅力をアピールし、採用後の姿を人事担当にイメージしてもらえるようにしましょう。