営業DXを推進するには、営業プロセスの中で「デジタル」と「アナログ」それぞれ効率化できる領域を見極め、分業することが重要です。マーケティングから営業へ繋ぐプロセスでは「リード選定の精度」を上げることで、営業効率は飛躍的に向上します。
近年、「BtoB領域のマーケティング」で営業効率や利益を高めるため「ABM(アカウントベースドマーケティング)」が注目を集めています。そこで本記事では「ABMの概要」「ABMの手法」「ABMの活用事例」「ABM導入と運用の手順」を紹介します。ABMを取り入れ営業DXを推進したい方は、ぜひご覧になってください。
目次
ABMとは
はじめに、ABMについて概要を解説します。
ABM(Account Based Marketing:アカウントベースドマーケティング)とは
ABMは「Account Based Marketing」の頭文字を取った略語で、おもにBtoB企業において「自社にとって価値の高い顧客を選別し、顧客に合わせた最適なアプローチを行って利益を最大化することを目的とする」マーケティング手法です。
アカウントとは「企業」や「団体」を指し、アプローチのターゲットは「人」ではなく、あくまで「企業・団体」となります。ターゲット顧客に合わせて戦略立案し、効率的に利益を最大化することがABMの目的です。
デマンドジェネレーションとの違い
ABMとデマンドジェネレーションは、どちらもマーケティングの手法ですが違いがあります。よくアメリカのカンファレンスでは、「デマンドジェネレーション=網」、「ABM=銛」と説明されます。
- デマンドジェネレーション:ある程度の見込み客を囲い込み、ホットリードが発生したタイミングで個別に営業活動を仕掛ける
- ABM:最初から個別にターゲティングをして営業活動を仕掛ける
ABMは、特定の成約に結びつきやすい企業や団体(アカウントや顧客)を設定し、そこに焦点を当てた戦略的な営業アプローチ・マーケティング手法です。あらかじめ定義された特定のアカウントや顧客グループを設定、そのニーズや要求に合わせて個別に、集中的にマーケティングと営業戦略を展開します。ABMの目的は、特定のアカウントに対して売上を最大化し、顧客ロイヤルティの向上を図ることです。
一方、デマンドジェネレーションは、広範なターゲット市場に対して興味や関心を喚起し、リード(見込み顧客)を獲得するための戦略です。企業のマーケティング部門は多様なマーケティング手法(広告、コンテンツマーケティング、イベントなど)を活用し、ターゲット市場の意識を高め、関心を持ってもらうよう努力します。
同時にターゲットのデータを収集・蓄積してデータベースを構築します。データ化されたターゲット全体に対してリードナーチャリングを行い、有望見込み客リストをマーケティング部門から営業部門に供給する仕組みです。データ化により顧客のニーズが顕在化したタイミングは、スコアリングによって識別されます。
営業戦略は企業の目標や市場によって異なるため、マーケティング活動を展開する際にはどちらの手法が適切か見極め、選択することが重要です。
リードベースドマーケティングとの違い
ABMの解説を上で行いましたが、リードベースドマーケティングはABMと対になるものと考えられます。
マーケティングにおいて「特定の顧客」を先に定義し、その対象顧客に売れるものを探してアプローチを行うABMは、本来はメジャーな手法ではありません。このような「顧客が先」の営業手法としては、百貨店の外商部門における富裕層を対象としたサービスなどが当てはまります。
通常、先に定義されるのはある「特定の製品」です。それを買ってくれるかもしれない、不特定多数の消費者を広範囲で「網」にかけ、ニーズが高まった対象にアプローチをしていくという一連の営業活動が、リードベースドマーケティングになります。
ABMが注目される背景
ABMは法人営業で長らく行われてきた手法で、決して目新しいものではありません。大手企業や重要顧客を専任で担当する「アカウント営業」が行ってきた活動を、「営業部門とマーケティング部門が連携」して行う取り組みです。それがここにきて何故注目されているのか、ここではABMを取り巻く背景や注目される理由を解説します。
テクノロジーの進化
ABMを実現するには「部門を超えたデータ連携」や「情報の一元管理」し、ターゲットとなる企業の
「必要な人に」
「適切なコンテンツを」
「適切なタイミングで」
アプローチする施策が必要です。
近年、MA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援システム)、CRM(顧客関係管理システム)などデジタルツールが普及し、「ABMを効率化する手段」「ABMを実現するインフラ」が整ってきました。
たとえば、
- 展示会・セミナーで獲得した「アンケート」「名刺」情報
- 顧客の「購買履歴」「取引実績」「Webからの資料請求」
- FacebookやLinkedInの「SNS情報」
などの情報は、SFA・CRMを使えば各部署に散在するデータの一元管理が可能になります。
またターゲット企業に対し、MAを用いた「自社商材」「自社サービスの価値を伝える良質なコンテンツ」配信によるキャンペーンも容易となりました。顧客の行動や属性情報をスコアリングし、「いまアプローチすべき個人」の特定も可能です。ABMを試行する環境が整い注力する企業が増えているため、いまABMに注目が集まっているのです。
顧客の意思決定プロセスの変化
以前まで経営層や管理職などが意思決定者でしたが、昨今はトップダウンだけではなくボトムアップで意思決定するシーンも増えてきています。個人だけではなく企業や部署を一つの括りにしてどのような情報収集を行い、どのような課題解決を求めているのかを把握する必要があります。
ABMの手法と進め方
ここではABMの具体的な手法と進め方のフローについて解説します。
1.アカウント(企業)の選定
まず、ターゲットとなる企業を選定します。自社の顧客リストを抽出し、集めた情報を整理・分析して、優先順位を付けます。このとき、取引金額の過多だけでなく「自社ブランド向上に貢献する顧客」など、中長期の視点も重要です。取引履歴の過去データを参照し、順位を付けていきましょう。
2.キーパーソンの情報精査
次に、各企業のキーパーソンを確認します。顧客の組織構造を把握し、組織の中で「商材に対する決裁権を持つ人(=ライトパーソン)」を見定めます。自社製品やサービス導入決定に関わる人物の情報精査を行いましょう。
3.キーパーソンへのアプローチ方法の考案
キーパーソンを特定したら、アプローチ方法を考えます。精査した情報を基に、キーパーソンが直面する重要課題やニーズを解決する「パーソナライズ」した提案をまとめましょう。深くて価値のある適切なコンテンツや、メッセージを提供することが効果的です。
併せて「どのような方法でアプローチするか」の検討も行います。電話・メール・DM・訪問など、コンタクトを取るチャネルは複数あり、そのなかでキーパーソンに最適なチャネルを検討しましょう。
4.アプローチを行う
アプローチ方法が決定したら、実際にアプローチを行います。キーパーソンへの訪問面談や、オンライン商談を行います。
事前に準備したキャンペーンコンテンツやメッセージを用い、キーパーソンへ紹介する施策を実践します。
5.効果を測定する
アプローチ終了後、結果をしっかりデータ化し効果測定を行います。
どのような施策で「効果が出た」のか、「効果が出なかった」のか。キャンペーンコンテンツやメッセージの有効性を測定し、分析しましょう。ABMの実践はPDCAサイクルを回して最適化し、時間をかけて改善し続けることが重要です。
ABMのメリット
あらためて、ABMのメリットを紹介します。
営業とマーケティングのスムーズな連携が可能
営業とマーケティングが分断されることなく、共通の目標を追えるためスムーズに連携することが可能になります。営業とマーケティングがアカウントごとに協力し、ターゲットアカウントに対して一貫したメッセージやアプローチを提供することで、顧客との関係構築や成果の最大化が図れます。
なお、現時点で部門間において連携がうまくいってない企業の場合、データがサイロ化(業務に使用するシステムで、関連する部門や組織すべてにまたがったシステム連携が行えず情報共有が行えない状態を指す)している可能性があります。この問題の解決にもDXとABMが役立ちます。
パーソナライズ化が実現できる
ABMでは、アカウントごとにカスタマイズされたメッセージやコンテンツを提供し、アカウントのニーズや要求に合わせて個別にアプローチします。1IDに絞り込んだターゲットに対してマーケティング施策やアプローチを行うことになるため、打ち手がぶれることなく、より明確にできます。その結果、業務効率や生産性の向上に繋がります。
ROIの向上
ABMは、限られたリソースを重点的に活用するため、リソースの最適化や効果的なマーケティング施策の展開が可能となり、マーケティング〜営業のROI(投資対効果)の向上につながります。
部門間連系や、施策の絞り込みができるため営業リソースの分配もしやすくなります。またターゲット企業によっては受注額の多寡でリソースの分配も可能なため、費用対効果を高めることができます。
このほか、キーパーソンに事前説明ありきでアポイントに至るため、精度の高い状態で商談できる点もメリットといえるでしょう。
ABMの活用事例|NEC社の実践事例
実際にABMに取り組み、成果を出している「NEC社」の事例を紹介します。
1.スピーディーな情報共有
NEC社のABMの歴史は古く、2017年4月にBtoBマーケティングの権威ある賞「Markie Award」で、日本企業として初めてABM部門のファイナリストに選出されました。
NEC社は自社のマーケティング活動でABMを実践しており、「デジタルマーケティング」「インサイドセールス」「営業」の3部門が密接に連携。各部門で保持し「サイロ化(孤立してしまう状態)されていた顧客情報」を3部門で共有し、顧客理解を深めることに成功しています。
MAツールでリアルタイムに創出される「見込み顧客のリード」が自動的にSFAに共有され、マーケターから営業へのフォロー呼びかけもチャットを活用するなど、「スピーディーな情報共有」を実践しています。
2.インサイドセールスの重視
NEC社は「インサイドセールスを重視」していることも特徴として挙げられます。デジタルマーケティングチームが営業にリードを渡す前に、インサイドセールスが「課題解決のニーズ」「製品の検討状況」「キーとなる部門・担当者」について、テレコールで確認を行います。
リードがより精査され、「確度の高い案件のみ」営業に引き継がれます。営業は顧客の課題を把握し、「精度の高い提案」を持った状態で商談をスタートできるのです。
3.一貫したメッセージの発信
デジタルでの情報発信はコーポレートサイトに限らず、BtoB向け会員制オウンドメディア「wisdom」「ペイドメディア(広告掲載媒体) 」「ソーシャルメディア」「モバイルアプリ」など、複数のコンタクトポイントから発信を行っています。
顧客によって触れるメディアが違うため、社内外を問わず幅広くコンタクトポイントを持つことで「顧客に知ってもらう機会」を増やしています。異なるメディアやクリエイティブを用いながら、「一貫したメッセージ」となるようコンテンツマネジメントを厳しく行っています。
ABMの導入と運用手順
ABMを導入し、運用していくには、上図のようなプロセスで定期的な見直しと改善を踏みつつ、徐々に精度を高めていくことが重要です。
【1stフェーズ】対象企業とキーパーソンを選定する
- ターゲット企業をリストアップ(既存リードや保有名刺から棚卸~類似企業抽出)
ABMの最初のステップは、ターゲットとする重要なアカウントとそのキーパーソンを選定することです。これには、売上や戦略的な価値が高いと考えられる企業や顧客を既存のリードや名刺、セミナー名簿などからリストアップし、関連するキーパーソンを「把握」します。
【2ndフェーズ】アプローチの方法とその内容を決める
- 顧客ランクの仮設定
- ターゲット企業リスト作成
- ターゲット企業のライトパーソン抽出、その他接点の確認
選定したアカウントに対してどのようなアプローチを行うかを決定します。これには、直接のセールス活動や個別のキャンペーン、イベント参加などが含まれます。また、アプローチの具体的な内容も決めます。
対象企業とキーパーソンの選定では企業規模に応じて、予算、意思決定者、導入タイミングなどを分析し、個別のアプローチ方法を検討します。
【3rdフェーズ】コンテンツやメッセージを決める
- 関係が近い企業からテスト営業
選定したアカウントに対して提供するコンテンツやメッセージを決定します。アカウントのニーズや関心に合わせて、個別最適化された提案を作成し、効果的に伝えられるコンテンツを作成しなければなりません。
効果測定をして、PDCAを回す
- 定期的に振り返り~改善(PDCA)
以上の1~3のフェーズを回したら、ABMの効果を測定・検証。以降はこのPDCAサイクルを回していきます。仮説検証は、非常に重要なポイントになります。タッチポイントとなるチャネルの選定も重要です。
具体的な指標やKPI(重要業績評価指標)を設定し、マーケティング施策の効果を定量的・定性的に評価しましょう。得られた結果をもとに、戦略を改善し、継続的な最適化を目指します。
ABM活用による「営業DX」の実現|SFA・CRM・MAを活用し、ABMを実現しよう
ABMが成功した企業の共通点は、「徹底したデータドリブン(さまざまなビジネスの課題に対し、データから導き出した意思決定や判断を尊重すること)」の姿勢です。集積したデータの有効活用と意思決定が欠かせません。
ABMの実践には、部門を跨いだデータ収集・統合が必要なため、営業部門が使用する「SFA」とマーケティング部門が使用する「CRM・MA」の連携が肝となります。売上の最大化、営業組織の最適化を実現するために、マーケティングと営業のシームレスな連携を実現するABMをぜひ参考にしてください。