DX推進が叫ばれて久しいですが、部分的なIT・デジタル化で止まってしまったり、専門人材をいないなどの理由で先延ばししてしまっている企業が多いのが現状です。
本コラムでは、DXに失敗してしまう理由を紹介しながら、DX推進を成功させるポイントを解説します。
目次
DXの取り組みは95%が失敗に終わっている
日本だけでなく、世界中の企業が、デジタルトランスフォーメーション(DX)に多額の資金を投じて取り組み、失敗したり、道半ばで頓挫してしまったりしています。
「デジタル・イノベーション・カンファレンス2019」において、DX研究者であるIMDのマイケル・ウェイド教授は「全世界で取り組まれているDXの95%は失敗に終わっている」と発表し、世界中に衝撃を与えました。また経済産業省が2020年に発表した「DXレポート2」でも約95%の企業がDXにまったく取り組んでいないか、散発的な実施にとどまっているとレポートされています。
なぜ、こんなにも多くの企業がDXに失敗してしまうのでしょうか?
今回は、企業がDXに失敗してしまう主な理由として次の5つを紹介します。
- 経営者がDXの意味を本質的に理解していない
- デジタル化のベースができあがっていない
- 新システムの導入がDXのゴールと勘違いしている
- DX人材が不足している
- スモールスタートできていない
DXの本質的なゴールは社内のIT化・デジタル化ではなく、ビジネスモデル、企業風土・カルチャー・組織を変革をさせ競合優位を確立することです。
業務の一部分をIT化するだけで施策が終わってしまったり、IT人材が社内におらず何も進まない、経営陣から具体的なゴールが示されず担当者が孤軍奮闘し組織全体での取り組みにならないなどはよくある事例ではないでしょうか。
DXを成功させるために必要な考え方についても解説しますので、現在DXに取り組んでいて苦労している方や、これから取り組んでいこうと考えている方はぜひ参考にしてください。
DXが失敗する理由1:経営者がDXの意味を本質的に理解していない
もっともありがちな失敗事例は、「経営者がDXの成功事例を聞き、本質的に理解しないまま取り組みを決定してしまう」というものです。
DXは、単に業務をシステム化してデータを収集する、というものではありません。本来は、企業全体のビジネスへの取り組み方を「変革」することを意味します。
経営者がDXの概念に共感し、外部企業の成功事例を聞いて自社でもDXを実現したいと思ったならば、まずは「DXとは何か?」をしっかりとご自身の言葉で社員に伝えられるようになるまで整理してみてください。明確な言葉で語れるようになるまでは、DXの取り組みはスタートすべきではないでしょう。
守りのDXと攻めのDX
またDXは一気呵成で実現できるものではなく、各企業の状態・環境によって踏むステップも異なります。
「守りのDX」と「攻めのDX」という概念があります。わかりやすく説明すると守りのDXは業務効率や業務の可視化、従業員のデジタルリテラシーの向上など社内向けのDXを指します。一方、「攻めのDX」は自社の商品やサービスなどをデジタル化を通して付加価値の向上や顧客の購買体験を変革するなど社外向けのDXを意味します(デジタイゼーションとデジタライゼーションについては後述)。
製造業でのDXの取組事例
たとえば、製造業のある企業では、経営者から「わが社はこれからDXに取り組む。これまでは製品を売ることにより対価を得ていたが、今後は製品を納品した後に得られるデータを販売することを業容に入れていく。そのために、システム投資を行ってあらゆる活動をデータ化していく。顧客数は10年以内にこれまでの2万社から10万社へ伸ばす」と宣言がありました。
生産・販売・物流・アフターサービスや顧客との取引データ、部門間の連携などをすべてデータで一元管理することで、「モノを売る会社」から「モノを売る+テクノロジーを駆使してデータを販売する会社」へと変革し、顧客に新しい価値を提供することで、顧客数を5倍にするというのです。
この企業では、経営者によるDXの定義づけと宣言により、「顧客にとって価値のあるデータとは何か?」「自社がそのデータを収集するために取り入れるべきシステムやサービスはどのようなものか?」「DXはまずどの部門の何から着手すべきなのか?」などを各現場担当者が考えながら行動することで、DXを実現しようとしています。
DXに取り組みたいと考えられている経営者の方は、まずは「自社にとってDXとは何をすることなのか?」をしっかりとご自身の言葉で語れるように準備なさることをおすすめします。
DXが失敗する理由2:デジタル化のベースができあがっていない
DXに取り組むためには、前提として「デジタル化」が進んでいなければなりません。たとえば、製造現場において工場長や作業者の経験・勘・根性のみで生産管理をしてきた場合は、急にDXに取り組むという号令が出ても対応のしようがないでしょう。
製造業でまだデジタル化が進んでいない企業は、紙ベースで管理をしていた帳票や現品票をシステム化し、現場でも本社でも一括管理ができるようにすることから始めることをおすすめします。
たとえば、自社工場で行っている部品発注の稟議起案と承認を紙ベースでなくデジタルで管理すれば、「Aという部品を1,000個調達する際にどの仕入先がいくらで見積もりを提示してきたか」という購買データを本社で蓄積・分析・共有することができます。次に別の工場でAという部品を発注する際には、「最も良い条件を出してくれるであろう仕入先」に問い合わせをすればよくなり、複数の仕入先に都度相見積もりをとる必要がなくなります。
デジタイゼーション、デジタライゼーションの段階を踏む
少し分かりづらい言葉ですが、これまで紙ベースやアナログで行ってきた業務をデジタル化して業務プロセスを効率化したり、コスト削減をすることを「デジタイゼーション」といいます。
デジタル化によって得られたデータを活用してビジネスの効率化や高収益化などを図ることを「デジタライゼーション」といいます。
DXに取り組むためには、最低限のデジタイゼーション(デジタル化)を進めておき、DX導入の素地がある状態を作ってから行うべきでしょう。
DXが失敗する理由3:新システムの導入がDXのゴールと勘違いしている
デジタル化がある程度進んでおり、DX導入の素地ができている企業では、DXの実現に向けて新しいシステムの導入を検討することになるでしょう。
しかし、この「新システムを導入すること=DX」であると勘違いしてしまわないように気を付けてください。SIerから提案されたシステム要件定義を確認して「プロに任せておけば安心だろう」と丸投げをしてしまうと、ほとんどの場合は失敗してしまいます。
多くの企業では、基幹系システムが部署・部門ごとに存在し、かつ長期間・複数回にわたる改修を経てブラックボックス化してしまっています。実際に、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」においても、「2025年には老朽化した基幹系システムが多くの問題を引き起こし、毎年12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と警鐘が鳴らされました。
ブラックボックス化した基幹系システムを刷新するのは非常に困難です。自社の業容、顧客特性、顧客の要望、部門間やほかの基幹系システムとの連携など、あらゆることを把握したうえで、システムを構築しなければならないからです。
また、自社のことだけでなく、クラウドサービスやIoT、AI、RPAといった最新デジタル技術を深く理解した上で、それらのデジタル技術を自社にどう生かせるのか、を考えていかなくてはなりません。
その意味では、「外部のシステム会社に基幹系システムの刷新を丸投げしてしまう」のではなく、「自社と一緒にシステムの刷新を行ってくれる伴走型のシステム会社」をパートナーに選ぶことをおすすめします。
失敗理由4:DX人材が不足している
企業がDXを成功させるためには、デジタル技術を使いこなせるIT人材の存在が不可欠です。また、IT人材の中でも、企業のDXを推進していけるほどデジタル技術に精通したDX人材はごくわずかであり、どの企業からも求められています。
現在の日本では、IT人材不足が深刻化しています。経済産業省が発表した試算によると、2030年には約45万人のIT人材が不足すると言われており、改善の見通しが立っていないのが現状です。そういった状況下において企業が優秀なIT人材を自社で確保するのは、非常に難しいといえるでしょう。
DX人材の獲得と育成
解決策の一つとしておすすめできるのが、正社員採用に拘らずに「外部のDX人材の力を借りること」です。システム会社の中には、企業のDX支援をサービスとして提供している企業もあります。そういった企業であれば、デジタル技術やデータ活用に精通しており、自社の業務を深く理解した上でDXを推進してくれる人材がいるでしょう。
守りのDXやデジタイゼーションによって業務効率を実現できた場合、リソースに余裕ができます。DXがビジネスモデルの変革を目指すものですので、中長期でみると現状の業務内容のプロセスや従業員に必要なスキルも変わっていきます。リスキリングが注目されているように、社内でもDX人材を育成しながら適宜、外部の専門人材を活用する視点が必要になります。
失敗理由5:スモールスタートできていない
DXは最終的には企業全体に関わる取り組みですが、いきなり大規模なシステムを導入してしまうと失敗しやすくなります。実際に、いきなり業務のやり方が変わったことで現場の従業員が混乱してしまい、システムを使いこなせずに業務が止まってしまったという企業の事例もあります。そういった失敗を繰り返していると従業員がDXに抵抗感を示すようになる恐れもあるので、最大限に配慮しながら進めていかなくてはなりません。
DXに取り組む際は、「自社にとってのDXとは何か」という最終的な目標を共有した上で、スモールスタートで段階的に進めていくことをおすすめします。まずは一部の部署や一部の業務からデジタル化に取り組み、成功事例を作ってから横展開していくと、従業員からの協力も得やすくなるでしょう。
昨今では、スモールスタートに適したシステム開発手法である「アジャイル開発」を採用する企業が増えています。アジャイル開発は小さな単位で実装とテストを繰り返す手法で、仕様変更に柔軟に対応できるのが特長です。
DXに取り組んでいると、当初は想定していなかった仕様変更や方向転換を行わざるを得ないケースが多々あります。そういった状況に備えておくのも、DXに取り組む上では重要な考え方です。
DXを成功させるポイント
DXが失敗してしまう事例や原因を解説していきましたが、ここでは成功させる4つのポイントを紹介します。
経営がコミットメントして社内の意識変革をする
まず経営陣がDXをする目的やその意義を全社にメッセージをして、意識を変革する必要があります。DXは単純なシステム導入ではなく、中長期の視点が必要となります。また従業員にとっても働き方や必要となるスキルや知識も変化するので、全社が意識共有することが重要となります。自社にとってDXをすることでどういう変化が生まれるか、を従業員にどういう協力が必要か、を浸透するまで繰り返すことがポイントとなります。
経営戦略に紐づいたゴールを設定する
社内の意識変革と同時に、共有すべきなのはゴール設定です。目的やゴールがなければ推進力がなくなってしまうので、何のためにDXを推進するのか?を明確にする必要があります。またDXの実現には長い年月がかかりますので、ロードマップを構築するか、短期と中長期の目標を両方を設定することがポイントになります。
DX人材の確保と育成
社内の意識が共有されてゴールが明確になっても実行できるリソースが社内にないとDXは前に進みません。先述したように外部人材を確保しながら、同時に社内人材の育成を進めるなど工夫が必要です。
また専門的なITスキルは外部に頼りながらもDX推進部門を立ち上げてプロジェクトマネージャーを自社から抜擢する事例や、CDO(Chief Digital Officer=最高デジタル責任者)、CIO(Chief Information Officer=最高情報責任者)、CTO(Chief Technical Officer=最高技術責任者)などの責任者を外部招聘しながら社内変革をする事例もあります。
スモールスタートでPDCAを繰り返す
DXの目的が変革であることはお伝えしてきましたが、実現するには小さな変化をスピーディに繰り返すことが成功のポイントになります。突然大きな変化に着手すると、業務に支障をきたしたり、失敗した際にリカバリーが難しくなるなどリスクが伴います。
スモールスタートで実行し、その効果検証をして、段階的にスケールアップをすることが非常に重要です。そのため先述したゴール設定やロードマップなど初期段階の計画も実情に合わせながら最適化することが必要になります。
まとめ
冒頭でお伝えした通り、残念ながら多くの企業がDXに失敗してしまっています。同じ失敗をしないためにも、今回ご紹介した5つの失敗理由を意識していただければ幸いです。
DXに取り組む際には、まずは経営層が「DXとは何か?」をしっかりと定義し、ご自分の言葉で語れるようにするとともに、自社のデジタル化を1日でも早く進めることをおすすめします。