ChatGPTの登場でAIの業務利用の活用の幅が急速に広がっています。モノのインターネットと称されるIoTとともにAIは今後のビジネスを大きく変革するのは確実視されています。
AIとIoTはそれぞれを導入することでも効果が期待できますが、AIとIoTを併用することでより大きな効果が期待できます。特に製造業では、製品の紹介の際には「IoT機器で取得したデータはAIを使うことによって~」などと並んで用語が使われることが多いですが、実際IoTとAIの関係というのはどのようなものなのでしょうか。
このコラムでは、AIとIoTそれぞれの定義と密接な関係性、ビジネス活用の事例などを解説します。
AIとIoTの定義
まずは、AIとIoTのそれぞれの定義について解説します。
AI(Artificial Intelligence)の定義
一般的に人工的な知能と訳されます。研究者や時代により定義はさまざまであるため、明確かつ共通の定義はありませんが、「大量の知識データに対して、高度な推論を的確に行うことを目指したもの」(一般社団法人 人工知能学会設立趣意書より)で、人間の脳で行われている知的な行動をコンピュータが模倣して行う技術のことを指します。
AIには機械学習(マシンラーニング)、深層学習(ディープラーニング)、ニューラルネットワークなどの分類があり、これらを総称して一般的にAIと呼ばれています。
AIの歴史は1950〜1960年代にまで遡りますが、2000年代から急速な進化を遂げています。AIが自ら膨大な情報を取得して分析・学習をする深層学習(ディープラーニング)が可能になったことで、現在ではビジネス分野での活用も積極的に行われています。
IoT(Internet of Things)の定義
モノのインターネットと訳されます。従来はパソコン、スマートフォン、タブレットなどのデバイスがインターネットに接続が可能でしたが、現在は身のまわりにあるさまざまなモノがインターネットに接続が可能です。
腕時計、スピーカー、掃除機などの家電をインターネットに接続し、センサーやカメラを通して、モノの状態をリアルタイムで把握することで、遠隔で操作・監視をしたり、データを取得することが可能になりました。
AIとIoTの違い
これまで説明してきた通り、AIは人間の知的活動を代替し、より正確かつ素早く再現するものといえるでしょう。一方、IoTはインターネットとセンサーを介して自動的にデータを収集したり、遠隔で操作するものです。またAIはモノを必ずしも必要としませんが、IoTは必ずモノを媒介するという違いがあります。
一見、まったく異なる技術ですが、ビッグデータという概念が加わることでAIとIoTは非常に密接で、解決できることも飛躍的に増加します。
AIとIoTとビッグデータ
ビッグデータは、文字通りとらえれば「膨大な量のデータ」のことですが、それだけではありません。
- データの量(Volume)
- データの種類(Variety)
- データの発生頻度・更新頻度(Velocity)
これら3つのVがビッグデータを構成する重要な要素となっています。
続いて、AIが取り扱うデータについて説明します。コンピュータで取り扱っているデータには「構造化データ」と「非構造化データ」があります。
構造化データはコンピュータが処理できるように作られた形の決まっているデータです。行と列の概念がある表形式のデータのことで、例えばExcelのデータやCSVデータなどです。
対して、非構造化データは人間が読むために作られた形の決まっていないデータです。例えば新聞や雑誌の活字データやSNSの投稿から得ることのできる画像や動画、音声などのことで、ビッグデータの80%以上が非構造化データであると言われています。
非構造化データはコンピュータでは処理できないことから、これまでAIを活用するデータは構造化データが中心でした。しかし、近年深層学習(ディープラーニング)の発展と共に画像認識や音声認識の技術も向上したことで、非構造化データもコンピュータで分析することが可能になってきているのです。
このようにAIは構造化データと非構造化データをビッグデータとして活用しています。近年ではIoT技術の発達により、新たにIoTデバイスが収集するモノに付随するデータも取り扱うようになりました。このデータはIoTデータと呼ばれ、リアルタイムでモノから直接データを取得しているため、これまで扱っていたデータよりも3つのV(量、種類、発生頻度・更新頻度)が非常に優れておりAIによる分析を最大限に活かすことができるのです。
AIとIoTの掛け合わせでできること
ここまででIoTとAIの違い、それぞれの役割がはっきりしてきました。「IoTはデータを集める役割、AIは集められたデータを分析し活用する役割を担っている」という関係にあります。それでは、IoTとAIを掛け合わせると何が実現できるのでしょうか。
ここでは、IoTとAIを活用した事例について説明していきます。まずは、総務省の資料「実装の進むAI・IoT」をもとにIoT・AIを活用したサービスを活用技術、技能レベル、データの収集空間の3つの視点から見ていきます。
1.活用技術
機械学習、画像認識、音声認識、自然言語処理それぞれの技術を活用したサービスが多数登場しています。例えば、音声認識はスマートスピーカーなどを介した単語の検索や音楽の再生などのコントロール、画像認識は不良品の検出などに使われています。
2.技能レベル
一定以上の技能レベルが必要な用途においてもIoTとAIは広く活用され始めています。例えば、農作物の生育状況管理や設備の稼働状況管理などはこれまで専門家の知識や経験に頼っていましたが、IoTとAIの活用によってシステムで適切に判断できるようになりました。
3.データの収集(サイバー、リアル)空間
IoTの発達によってリアル空間で様々なデータを収集することが可能になりました。車のGPSデータを利用して道路の混雑状況を予想したり、ウェアラブルデバイスで心拍や血糖値を観測することで健康管理に活用されたりしています。
AIとIoTの活用事例
では、次に具体的なAIとIoTを活用した事例を紹介します。
スマートビルディング
オフィスや住居もIoTとAIを活用した様々な取り組みが実践されており、スマートビルディングやスマートホームと呼ばれています。
例えば、オフィスなどの施設内にセンサーを設置することで、データを蓄積・活用しビル内の省エネと快適化に役立てることができます。画像センサーで人の動きや人数を検知し、その結果に応じてエレベーターの優先割り付けを行ったり、人がいないスペースの空調や照明を調整したりしています。その結果、CO2の削減、空調と照明の省エネルギー化、エレベーターの待ち時間削減に貢献できます。
他にも、商業施設内のトイレの個室のドアやトイレ前通路のマットにセンサーを設置することにより個室の利用状況とトイレ前通路の混雑状況を取得し、リアルタイムで案内板に表示しました。その結果、施設利用者のトイレを探す手間や待ち時間を削減し、清掃の効率化や防犯対策にも役立ちました。
スマートファクトリー
スマートファクトリーとは、製造現場の工場にAIやIoTの先端技術を導入することで、あらゆる情報をデータ化し、業務プロセス、在庫管理、コストを改善・最適化することを指します。
設計段階から3D CAD/CAMなどを利用し、ロボットアームなどの製造機器が自動的に稼働するだけではなく、IoT技術が加わることであらゆる工程でデータの収集が可能になります。製造工程だけではなく、あらゆるプロセスのデータを収集することでAIによる分析・予測が可能になります。
具体的には、故障の予知や検品での精度向上、需要予測、各プロセスでのリソースの最適化など過去のデータからAIが最適化を図るため、工場全体はもちろんサプライチェーン全体での劇的な生産性の向上が期待できます。
スマート医療(スマートホスピタル)
医療業界のDXは、スマート医療、スマートホスピタル、スマートヘルスケアなどさまざまな呼称があります。現在はApple Watchなどのスマートウォッチで自身のヘルスケアデータを取得できるように、ウェアラブルデバイスから患者の生体情報を取得して、AIが異常を検知する仕組みがイメージしやすいでしょう。
そのほか、言語処理技術を活用したカルテ解析や画像診断による疾患の発見、ロボットによる手術支援など医療分野でのAI、IoTの活用事例は多く存在します。
しかし、AIを機能するには膨大なデータが必要となるため、症例数が少ない疾患には対応できないなど課題は残っています。
スマート農業(スマートアグリカルチャー)
農業分野においてもAI、IoTの活用は目覚ましいものがあります。自動運転が可能なトラクター、収穫機、田植え機などがイメージしやすいですが、これまで説明してきた通り、IoTセンサーでデータを収集して、AIによる分析・学習・予測により生産性を飛躍的に高めることが可能になります。
例えば、ビニールハウスでは適切な温度、水位、湿度、照度の管理や水撒きや選別の自動化に加えて、最適な収穫期の判断などが可能です。またドローンを活用することで、AIカメラで病気になりやすい場所などの特定もでき、農薬散布を効率化できます。
IoTにより、これまで可視化しにくかった収穫・出荷までのさまざまなデータを蓄積できるようになったため、農業も大きな変革期を迎えています。
問い合わせ業務の効率化、従業員の安全確保
従来、人手に頼りきっていたカスタマーサポートなどの問い合わせ業務や従業員の安全対策でもAIとIoTの技術を活用することで業務効率化を実現しています。
AIチャットボットや自動音声システムは一般的になってきていますが、精度が悪く顧客の満足度が低下してしまっては意味がありません。例えば、通話音声をマイクで録音することで、リアルタイムでAIが解析することによりボットがよくある質問に対応することができますので、人員削減や24時間365日応答することが可能になります。
工事現場や倉庫で作業する従業員にリストバンド型のバイタルセンサーを装着してもら右ことで、脈拍数や現在位置をリアルタイムに把握することにより各作業員の健康状況を把握し、適切な休憩をとらせるなどの対応を素早く行うことができるIoTソリューションです。
IoTとAI活用の際の注意点
このように、様々な分野、現場でIoTとAIを活用したソリューションが導入されています。今までデータ化されなかった作業やプロセスが可視化されることで、さまざまな利点がありますが、、注意しなければならない点もあります。
例えば、ビッグデータの機械的な解析によって全くの偶然による相関関係が導き出されることもあります。「『原因と結果』の経済学」(※)に、「ニコラス・ケイジが映画に出るとプールで人が死ぬ」という事例が紹介されています。1年間にプールで溺死する人の数と、ニコラス・ケイジの映画がリリースされる数に高い相関性が認められているのですが、実際には因果関係はありません。人間が考えればすぐにわかることですが、人工知能にはその判断ができないのです。
まだまだ発展途上のAIによる分析の精度を高めるためには、量だけではなく質のよいデータを収集し、収集後の分析も緻密に行わなければなりません。IoTによるデータ収集の際には、どのような目的でデータ収集する必要があるのかを明確にしなくてはなりません。
※「『原因と結果』の経済学―データから真実を見抜く思考法」(中室牧子・津川友介、ダイヤモンド社)
AIとIoTを活用するためには?
AIとIoTが活用されることで、製造業だけではなく、さまざまな分野で変革が生まれようとしています。しかし、AIやIoTを導入するには安くはないコストが発生しますし、これまでの業務フローはもちろん、従業員に求めるスキルや知識も異なってくるため、結果的に組織全体の大きな影響があります。
そのため、経営戦略とビジョンを明確にして進めることが重要となります。同時にコストとリスクを最低限に抑えるためにも、策定したビジョンを実現するためには、一つずつスモールスタートで効果検証をしながら、段階的に導入することが重要になります。近い将来に訪れる変革に乗り遅れないように、慎重かつ積極的な判断が求められるでしょう。