毎日のようにモノやサービスの値上げに関するニュースが報じられています。日常生活のさまざまなシーンで、物価の上昇を感じている人は多いでしょう。

今日までの物価上昇で、私たちの家計は徐々に圧迫されてきています。今後も値上げが続くとなると、一段と生活への影響も強まるでしょう。

はたして、今後も物価の上昇は継続するのでしょうか。

目次

  1. 日本の物価は41年ぶりの上昇率を記録
  2. 日本の物価上昇の主な要因は原材料高
  3. 物価上昇は一服も、物価上昇が続いている感覚を払拭できない?

日本の物価は41年ぶりの上昇率を記録

物価上昇はこれからも続くのか?上昇の背景と今後の予想
(画像=hd3dsh/stock.adobe.com)

ここ1、2年、日本では物価の上昇が顕著になっています。きっかけの1つになったのは、ロシアによるウクライナ侵攻です。

ロシアは、天然ガスの生産量で世界2位、原油でも3位のエネルギー大国です。また、ロシアもウクライナも世界有数の小麦生産国です。この戦争は両国の輸出を妨げ、世界の資源・エネルギーや穀物を中心に価格の高騰をもたらし、物価上昇に至った要因です。米国のCPI(消費者物価指数=モノやサービスの価格を指数化したもの)の上昇率は、2022年6月で前年同月比9.1%と、約40年ぶりの高水準を記録しました。

ただ、米国の金融当局が物価上昇を抑えるための対策(政策金利の引き上げ)を講じてきたこともあり、2023年7月のCPI の上昇率は3.2%(前年同月比)まで下落しています。また、欧州の物価上昇も2022年8月をピークに下落基調になっています。

では、肝心の日本の物価はどうなっているのでしょうか。日本のCPI(全国消費者物価指数)は、2022年3月ごろまで目立った上昇は見られませんでしたが、同年4月には前年同月比2.5%まで上昇。3月の同1.2%と比較して大幅に上がっています。12月には4.0%と、第二次オイルショック時の1981年以来、実に41年ぶりとなる高い上昇率を記録しました。

その後は、3%台を中心に推移していますが、2023年4月以降、天候要因によって価格が変わりやすい生鮮食品とエネルギーを除いた指数(コアコアCPI)は一時4%を上回っています。その背景には、幅広い業種で値上げが行われていることがうかがえます。

総務省報道資料
総務省報道資料
※赤枠は編集部にて追加
(画像=総務省報道資料)

帝国データバンクが食品関連の主要195社に対して行った「価格改定動向調査」によると、2022年の食品の値上げは2万5,768品目、1回あたりの平均値上げ率は14%に及んでいます。

また、2023年も3万710品目、平均値上げ率15%(10月までの値上げ予定を含む)と、食品の値上げラッシュが続いています。

電気代やガソリン代、食品代などは、私たち消費者が物価上昇を身近に感じる分野だけに、「物価が上がっているなぁ」という実感が強いのではないでしょうか。

日本の物価上昇の主な要因は原材料高

ピーク時にCPI(消費者物価指数)が9%~10%上昇した欧米と比べて、日本では3%台の上昇に抑えられています。なぜ日本では欧米ほど物価が上昇していないのでしょうか。

1つは「企業努力」です。日本は原油や天然ガスといったエネルギー資源も乏しいうえ、食料自給率も低く、多くを輸入に依存しています。これらの国際価格の上昇を見ると、日本の物価がさらに上がっていても不思議ではありません。

事実、企業間の物価の推移を示す「企業物価指数」は、2021年中ごろから上昇し、2022年は平均9.7%と高水準の上昇率でした。これがそのまま価格に転嫁されれば、消費者物価が欧米並みに上昇しても不思議ではありません。

それにもかかわらず、日本の消費者物価の上昇率が3%台で踏みとどまっているのは、日本企業が原材料高を価格へ転嫁することを抑えていた、つまり企業努力によるものと考えられます。

また、賃金が上がらないのも日本の物価上昇を押しとどめている可能性があります。米国では、物価の上昇に合わせて賃金も上昇。それによってモノやサービスの需要が増え、物価をさらに押し上げました。

物価の上昇には、需要の高まりがけん引する「ディマンドプル型」と、原材料価格の上昇による「コストプッシュ型」があります。米国では、これら両方の要因が重なったことで、急激な物価上昇が発生したのです。

ここ1、2年、日本でも賃上げに踏み切る企業が増加する傾向にありますが、物価の上昇を差し引いた実質賃金は前年比でマイナスの状況が続いています。賃金の上昇が物価の上昇を上回るか、少なくともほぼトントンの状況にならない限り、人々の財布のヒモが大きく緩むことはないでしょう。

つまり、足元の日本で起きている物価上昇は原材料高が主要因であると考えられます。

物価上昇は一服も、物価上昇が続いている感覚を払拭できない?

では今後、日本の物価はどうなるのでしょうか。

“物価の番人”である日銀の植田和男総裁は、今後の物価の見通しについて、「2023年の後半に向けて物価は徐々に下がり、2024年は再び上昇に転じる。ただし、『再び上昇に転じる』ことについては、まだ確信がない」と述べています。

世界にインフレを巻き起こしてきた原材料価格の高騰も収まりつつあり、企業物価指数の上昇率も2022年12月の10.6%(前年同月比)から2023年7月には3.6%(速報ベース)まで低下しています。その点で、このまま消費者物価が上がり続けるという事態は、とりあえず回避できるかもしれません。前述の「価格改定動向調査」でも、8月の食品値上げは7ヵ月ぶりに前年同月比で減少するなど、一時の値上げラッシュ時よりは落ち着いてきました。

ただ、前年同月比ベースで減っているとはいえ、2023年10月は4,262品目が値上げされる予定で、消費者からすれば「まだまだ値上げが続いている」との印象は拭えないでしょう。そう考えると、今後、しばらくは経済的なデータと消費者の感覚の間でギャップが生まれるかもしれません。

また、注目しておきたいのが、為替相場の動向です。

ドル/円相場は、2021年の終わりから上昇(ドル高・円安)が始まり、2022年9月には1998年以来となる1ドル=145円を突破。その後は一時的に円高方向に進んだものの、2023年8月には146円台に乗せるなど、円安傾向が続いています。円安は輸入コストが増加し物価上昇の要因になるので、円安が進めば進むほど物価上昇に拍車がかかります。

今のところ、日本経済は需要よりも供給が多い状態が続いていて、「賃金が上がることで消費が拡大し、それによって物価は上がり、企業業績も拡大する」といった“健全なインフレ”とされる状態からは、いまだほど遠い状況です。

「コストプッシュ型」の物価上昇が一服しつつあることを考えると、目先は物価上昇が落ち着くかもしれません。その後、植田総裁の見通し通り、再び物価が上昇に転じるかどうかについては、賃金や需要の動向、為替相場に左右されることになりそうです。