本記事は、木村哲也氏の著書『Small Factory 4.0 第四次「町工場」革命を目指せ! ― IoT の活用により、たった 3 年で「未来のファクトリー」となった 町工場の構想と実践のすべて』=株式会社三恵社、2018年8月1日発行の中から一部を抜粋・編集しています。

目次

  1. (1)「拉致?」ものづくり改革室の創設
  2. (2)「大正時代の工場」と言われて
  3. (3)「流れ」の把握と「連結」で「昭和の工場」に
  4. (4) すべての活動の底流に流れる原則

(1)「拉致?」ものづくり改革室の創設

「ここは大正時代の工場か?」と言われた町工場どう変わっていく?
(画像=ABUATOP/stock.adobe.com)

以上に述べたように、トヨタ自動車から旭鉄工へ転籍して以降、多くの問題点を発見しました。そしてその改善に取り組もうと悪戦苦闘しました。

しかしながら、生産調査部で学んだ経験を生かして改善を推進するにも、一人でできることには限りがあります。そこで改善活動に協力して くれる仲間を募ることにしました。

まずはトヨタ自動車の生産調査部時代に同じグループに所属し、さまざまなことを教えていただいた大先輩を顧問として迎えました。「トヨタ生産方式」について理解が深く、改善経験も長いので、私が推進しようとしていた改善活動全般について安心して任せることができました。

その後、この方の紹介で、刃物や改善等について専門知識を持つトヨ タ自動車OB の3氏を、アルバイトの待遇で雇い入れました。そして転籍して半年が経ったある日、私は社内に「ものづくり改革室」を立ち上げました。

本社の生産技術部門に所属していた課長を、何の前触れもなく西尾工 場に連れて行き「これからものづくり改革室を立ち上げる。ここの室長 をよろしく」とお願いしました。彼は今でも「突然拉致された」と笑って言います。

このように、時には強引な方法を用いながら、私とともに考え、時には手足となって働いてくれる改善活動の中心となる「ものづくり改革室」のメンバーを集めていきました。

(2)「大正時代の工場」と言われて

私が性急に社内改革を進めたのは、変化を嫌い、挑戦を拒み、時代に 取り残されていることもわかっていない会社の在り方に危機感を覚えた からです。「このままでは到底生き残れない」。私の思いは切実でした。

たとえば―工程が分割されすぎていて、中間在庫と細かな運搬が多く生産速度低下の原因となっている、多くの品番が同じシュートに混載 されていてムダな仕事を増やしている、ものの流れが整理されておらず 滞留している、ムダな運搬がある、かんばんで生産できていない、油こぼれが多く構内が汚い、余計なものがたくさん置いてあって機能的でなく、スペースのロスが大きい―などです。トヨタ自動車時代にお世話 になった技監の方に見ていただいた時は「ここは大正時代の工場か?」 と言われる始末でした。

(3)「流れ」の把握と「連結」で「昭和の工場」に

まず着手したのは、工場全体のものの流れを把握することでした。特に、当社の主力製品のひとつであるシフトフォークの全品番につい ては、どの品番がどの工程を流れているかを徹底的に調べました。 作業の中心となってもらうために、製造部門から優秀な係長1名を 選出し、専任でこの作業にあたってもらいました。たいへんな仕事をやり切った彼は、現在「ものづくり改革室」の中核メンバーの一人となっています。

次に手掛けたのは、「工程の連結」でした。これは「トヨタ生産方式」の用語で、分断されていた隣り合う工程をくっ付けるという意味です。この作業によって、中間在庫や細かな運搬 作業が減るので、工数を削減できるのです。

たとえば、アルミのシフトフォーク工程においては、溶着・検査・箱 詰めの3工程を連結しました。これに成功し、成果があがると、その後、多くの工程を連結しました。その結果、それまでは足の踏み場もなかった工場スペースに余裕が生まれ、次の改善がやりやすくなりました。

なお、件の技監に再度お越しいただいた際には「昭和にはなった」と いう言葉を頂戴しました。しかし、平成、さらには次の時代の工場へと変貌を遂げるにはまだ時間がかかりそうです。

(4) すべての活動の底流に流れる原則

これらの活動すべてにおいて、当社では、改善活動を支えるための「できる目標ではなく必要な目標」を立て、それを「速やかに行動に移す」という原則が、ようやく根付いてきました。

しかし、この活動が軌道に乗ったのは、「成功体験」があったからです。第1章でご覧いただいた「サイクルタイムモニター」の成功と、その システムの支援によって次々と実現した改善活動の成果が、社員全員の 成功体験として胸の奥深くに刻み込まれたからこそ、会社は正しい方向 へ進んでくれたのです。当社におけるこうした企業風土刷新のすべてが、 IoT化の直接・間接的な影響を受けていると言っても言いすぎではないでしょう。