ストライク<6196>と日刊工業新聞社は9月1日、都内で「企業の生存戦略になぜM&A?」と題したセミナーを共催した。ラベルライター「テプラ」などユニークな商品を持つ老舗文具メーカー、キングジム<7962>の宮本彰社長をゲストに招聘。ストライクの荒井邦彦社長とのトークセッションでキングジムがM&Aに乗り出したきっかけや、その効果などが語られた。
ペーパーレス化の波を乗り越える
登壇した宮本社長はM&Aに注力し始めた背景について説明した。1927年の創業以降、ルーズリーフ、バインダー、各種ファイル類の製造・販売に事業を広げ、ファイル専門メーカーとして活動、1988年にテプラを発売して成功を収めたものの、ペーパーレス化の波が到来。主力事業のファイルの落ち込みが予測されたことから、余力のあるうちに事業領域の拡大を図ろうと1990年頃からM&Aを視野に入れ始めた。
検討を重ねて約10年、2001年にフォトフレーム製造の長島商事(現ラドンナ)を買収。以降、2008年に造花販売のアスカ商会、2014年にインターネット家具販売のぼん家具、2021年に生活家電を手掛けるライフオンプロダクツなどをグループ会社として迎え入れた。
今でも年に10件ほど検討しているというが、再生案件を手掛けるのではなく、「いい会社」と見たうえで、先々の成長も見込める企業に絞っているとのことだ。
社内の合意形成は?
様々な企業をグループ会社化してきた同社だが、1件目のM&Aから社内の合意形成はできていたのか。宮本社長は相乗効果が見込めたため、納得のうちに話が進んだものの、自身がリーダーを務めたテプラの開発では苦労した。製造設備も技術もなく、大きなコストがかかることで不満に思う社員は多かったという。社内でそうした経験をしたからこそ、M&Aはスムーズにいった面もあると宮本社長は見るが、概して「(M&Aを含めて)新しいことをやろうとすると怖がる社員は必ず生じる」 として、合意形成の難しさを語った。
譲受企業へのサポートは?
M&A後のサポートはどうしているのか。その点に話が及ぶと、買収後の1、2年はとりわけ大切な時期だと考えているという。手掛けるのは優良な案件ばかりで、被買収側は「なぜ身売りしなければならなかったか」「これから先どうなるのか」と感じる社員がいて当然だと宮本社長はみている。そのためにも、グループ会社になってよかったと思える状況を作り出すことが重要。被買収企業の社員のメンタルをしっかりフォローでき、次期社長候補にもなりえる有望な若手社員を本社から送り込み、サポートしているとのことだ。
もう一点、宮本社長が強調するのが、経理だ。同社は東証プライム市場に上場しており、傘下企業にも同様のレベルでの管理が求められる。そのため、M&A後に着手するのは、何よりも先に経理の管理レベルの向上となる。実際、その作業を進めるなかで現場で戸惑いが生じることは多く、本社から社員を派遣してサポートしているという。