業務用具の製造販売卸を主要な事業とし、設計から提案まで幅広いサービスを提供し、お客様の要望に合わせたカスタマイズも行っている企業。多くの人から愛されるような商品を生み出し続ける企業の秘訣を同社代表の武野氏にお伺いする。
1978年11月21日生まれ。福岡県出身。大学卒業後、住宅メーカーに3年勤務。2003年株式会社アダルへ入社。専務職を経て2014年、代表取締役社⻑に就任。
創業から現在に至るまでの事業変遷
ー それでは、創業の経緯と御社について教えていただけますでしょうか。
当社は今年で創業70年を迎える企業で、私が8年前に3代目としてこの会社を引き継ぎました。当社のビジネスモデルは、業務用家具の製造販売卸です。もともとは飲食店のベンチソファーといわれる、椅子の張り替えからスタートした会社で、一気に企業を拡大してきました。
ー ビジネスモデルはどのように進化してきたのでしょうか。
我々はもともと椅子の修理屋からスタートしましたが、企業規模が大きくなるにつれて、外に営業所を出したり人材を増やしたりして、商品開発を手がけるようになりました。その結果、総合メーカー・総合商社のような動きをする会社に進化しました。
ー その進化の中で、具体的にどのような商品開発を行ってきたのでしょうか。
お客様のニーズや困りごとを解消できる商品開発が我々の根底にあります。例えば、我々が苦手なジャンルとしてスチールを使った家具がありますが、それを得意とする企業と提携することで、そのニーズを満たす商品を提供しています。
当社は元々、イスヤ商会というシンプルな名前でした。しかし、30年前に「ADAL=Adviser for Amenity Life」の頭文字を取り、現在の「アダル」に変更しました。ADAL=Adviser for Amenity Life」は、快適空間の良きアドバイザーという意味合いを含んでおり、これが我々の70年間の根本的な理念となっています。
ー それでは、御社が目指す「業務用家具による快適空間」とは、具体的にどのようなものでしょうか?
「業務用家具による快適空間」は、我々にとって一番難しい問題です。例えば、大手カフェチェーンのスターバックスでは、心地よい音楽が流れ、心地よい空間を提供することが重視されます。しかし、回転率重視のファーストフード店から見たら、心地よい空間とはまた違うものが求められます。例えば、経営者目線で見たとき、お昼の時間にいかに早く食事を終えてもらうかなど、そのオペレーションが重要となります。業務用家具を作る際にはお客様目線と同時に経営者目線を考える必要があります。
ー 具体的に御社とその他の大手家具小売店とでは何が違うのでしょうか?
大きな違いは、想定される使用人数です。我々の家具は、大前提として壊れてはならないということがあります。特に、席数が少ないお店では、一つの椅子が壊れると売上に直結します。そのため、当たり前ではありますが、我々の家具は壊れないように作られているのです。
ーなるほど、同じ家具のものでも価格が違うのはなぜなのでしょうか?
それは、その椅子に誰が何人何回座るかという想定が異なるからです。我々はメーカーですから、物が壊れたらそれを修理し、壊れないように作っています。この実績がリピートに繋がっています。我々の業務用家具の歴史は、地味ながらも当たり前のことを重ねてきた結果であり、それが70年間続いています。新人の説明会でも話すように、我々の原点は「お客様があってこそのものづくり」です。そのため、真摯なものづくりを目指しています。
また、オフィス家具についても、我々が業務用として使用可能なものは取り扱っています。例えば、他社の椅子が欲しいという場合、それが最適と思われるならば調達して提供することもあります。
ー 製品の選定にあたって、メーカーの規模はどのように影響しますか?
メーカーの規模によっては、全体のコストが異なります。無名ブランドでも優れた製品を作っている会社は存在します。そのような会社の製品をお客様に提案することもあります。一方で、高級家具メーカーのブランドに憧れて製品を選ぶお客様もいらっしゃいます。そのような場合には、ケースバイケースで適切に製品を選んでいます。
自社事業の強み
ー次に、御社の強みについて教えていただけますか?
我々の強みは、お客様の人材を適切に捉え、それに見合った商品を提供できることです。それが自社製品であれ、他社の指定品であれ、最適な提案ができることが我々の強みとなっています。
ー どの程度のスピード感で製品を作成しているのですか?
毎日、注文家具100から200種類を製作しており、年間では何千アイテムもの製品を出荷しています。工場から製品の製造が始まると、1日で大量の製品を作成することが可能です。また、中国と提携しており、量産型の製品も作成しています。ホテルの一室の家具やグローバルに店舗展開を進める大手カフェチェーン企業の店舗家具など、アジア太平洋エリアの製品も担当しています。
加えて、一品一品の対応力も弊社の強みだと思っています。当然、流行りのデザインやトレンドにも敏感に対応していますが、それが全てのお客様に合うわけではありません。大量生産する工場とは違い、一人一人が多品種のものを一日に何種類も作ることができます。また、デザイナーや設計者も多く在籍しており、お客様のご要望に合わせたカスタマイズも可能です。
ー なるほど、それが御社が選ばれる理由なのですね。
はい。また、弊社には豊富なノウハウもあります。例えば、飲食店のテーブルについて考えてみてください。一般的には一本足のテーブルが多いですが、我々は四つ足のテーブルを推奨しています。理由は、一本足のテーブルがテーブルの角に手を置くと傾くからです。しかし、テーブルの足が一本か四本かで、人が介入するオペレーションが変わります。これはバランスの問題であり、お客様が何を望むかによる部分もあります。
ー そのような提案をお客様に伝えることで、お客様の判断材料となるわけですね。
はい、そうです。我々も様々なケースに対応してきました。実際、私自身でも経験したことのないケースもあります。しかし、社内を見渡せば、誰かがそのケースに対応していることもあります。そのような意味では、我々はプロのチームと言えるでしょう。
過去のブレイクスルー・成功実績
ー それでは、過去のブレイクスルー、成功実績について教えていただけますか?
はい、例えばドトールさんのケースがわかりやすいです。二年目の営業マンが担当していましたが、ある店舗で発注ミスがありました。テーブルが特殊な形で、塗装も必要でしたが、それが発覚したのが3日後にオープンを控えた日の夕方でした。その時、私がたまたまいたので、工場の塗装職人を段取り出来れば3日後に出荷できるという状況を作り出しました。その結果、オンタイムでテーブルを届けることができ、ドトールさんは我々の対応力、サービス力、手配力を評価してくれ、一時期はほぼ全ての発注が我々に来るようになりました。
ー なるほど素晴らしいですね。業務用家具というのは差別化などが難しいと思うのですが、そんな中でマーケットのトレンドや推移はどういったものになるのでしょうか。
得手不得手があると思います。オフィス領域では、現代のオフィスがカフェのような雰囲気になってきているため、私たちの木製品の需要が増えています。また、ホテル業界ではインバウンド需要の増加により市場が伸びています。ただし、飲食や結婚式場の市場は微妙な状況です。
ー なるほど、そのような視点から見ると、日本の市場はどのように変化しているのでしょうか。
日本の市場は購買の仕組みが変わってきています。以前は一軒のお店が5年や10年続けばそれが自分の城だったのですが、今は流行りのトレンドに合わせて3年で店舗を変えることもあります。そのため、家具に求める価値観も変わってきています。しかし、私は日本のマーケットが今後どんどん広がるとは思っていません。我々がやるべきことは、その中でどのように価値を提供していくかを考えることです。
また、お客様のリクエストに応えるということ、それはお客様の困りごとに対応するということです。そして、お客様のニーズを満たす形にする、そのホスピタリティが重要だと思います。最近では、我々の文化やカルチャーは海外でも注目され、新しいマーケットの開拓にもチャレンジしています。
ー 全体的な市場は伸びていないかもしれませんが、お客様のニーズに寄り添う形式のマーケットは伸びているというイメージですか?
はい、その通りです。バランスが大切ですね。オフィス家具業界のトップ3の市場規模は数千億円になりますが、業務用家具業界のトップ3は300億から400億円程度です。
思い描く未来構想
ー 次に、株式会社アダルが思い描く未来構想について教えていただけますか?
実際、創業70年を迎え、この企業をどう発展させていくかというときに、100年企業というのは一つの目標です。我々のビジネスは“商い”であり、お客様のために存在しています。しかし、今の企業体制を考えたときに、百年を生き残る企業とはどういう企業なのかと考えると、環境にも人にも優しく、社会に認められるような企業にならなければならないと思います。
ー それはどのような企業を指すのでしょうか?
世の中に必要とされる企業とは、最適で快適なものを提供できる企業であり、そこで働く人々が幸せと感じられる企業だと思います。そのために、我々はものを作る過程で、例えば木を切ったり燃やしたりすることについて、その真価を考え直す必要があります。現在、我々の工場で出る木粉という残り物は年間何十トンにもなりますが、その一部は牛の寝床や自社の農業用肥料として再利用されています。
私たちは自分たちができることを考えています。そして、社員の中には、病気になったり、子供が不登校になったり、障害を持っている人がいることもあります。そのような人たちが就労できる場として、農業法人を立ち上げました。その農作物がお客様の手元に届けば、それが最高だと思っています。
社会に必要とされる企業とは、社員がスキルを磨ける場であり、働きやすい環境を提供する企業だと思います。また、女性が活躍できる場を提供し、ライフステージに寄り添った考え方を持つことも重要だと考えています。それによって、会社が大きくなり、利益を出すことで、関わる人たちが潤うと思います。
ー本日は貴重なお話をいただきましてありがとうございました。
こちらこそ大変良い機会をいただきありがとうございました。
- 氏名
- 武野 龍(たけの りゅう)
- 会社名
- 株式会社アダル
- 役職
- 代表取締役