この記事は2023年9月13日に「The Finance」で公開された「生成AIの進化とその金融業界への影響: シンギュラリティへの道と最適な活用戦略」を一部編集し、転載したものです。


生成AIの進化とその金融業界への影響を探る本稿では、AI技術が社会全体を変革している中、金融業界がどのようにこの技術を活用しているかを詳細に考察。生成AIは新しい情報を生成する能力を持ち、多岐にわたる領域での活用が進む中、その能力が人知を超える「シンギュラリティ」の到来を示唆している。本稿では、生成AIの進化と金融業界での活用状況、事例を基に、金融サービスの高度化と最適な活用戦略について深く探る。

目次

  1. はじめに
  2. 生成AIの進化: 国内外の現状と最新トレンド
  3. シンギュラリティと生成AI: AI進化が引き寄せる未来
  4. 生成AI×データ戦略×デジタルヒューマン
  5. 金融機関における生成AIの活用
  6. 金融機関が生成AIと如何に向き合うべきか: チャレンジと戦略
  7. 生成AIと未来の金融業界

はじめに

生成AIの進化とその金融業界への影響: シンギュラリティへの道と最適な活用戦略
(画像=Shuo/stock.adobe.com)

本稿では、加速的進化を遂げている生成AI(Artificial Intelligence)の現状と、特に金融業界におけるその影響と活用について考察する。近年、AI技術は社会のあらゆる面でその技術的な価値が認められると同時に重要な役割を果たし、様々な産業界全体を大きく変革しつつある。中でも金融業界は、AIの技術的応用の可能性を追求し、その検証や活用を現在積極的に検討している。

生成AIは、プロンプトと呼ばれる特定の指示に基づいて新しい情報を生成する能力を持つAIであり、クリエイティブ思考な業務だけでなく、従来の問題解決思考における業務においても新たな方向性を示している。生成AIは、画像生成、文章生成、音楽生成などの多岐にわたる領域(マルチモーダル)で検討・活用が進んでおり、部分的にはその能力が人知を超えはじめていることから、AIが人間の知識や技術を凌駕する「シンギュラリティ」の到来を指摘する専門家も少なくない。

それゆえに、本稿において生成AIの進化について分析し、国内外での最新の状況とトレンドを明らかにした。その上で、金融業界における生成AIの活用状況と事例をもとに、金融サービスの高度化について検討した。また、金融機関が生成AIとどのように向き合い、その活用を最大限に引き出すための戦略について考察する。

生成AIの進化: 国内外の現状と最新トレンド

生成AIの進化と応用は驚異的なスピードで進んでいる。特に注目すべきは、OpenAIによる言語生成AIの進化である。その最たる例が、GPT-3やその後継となるGPT-4である。これらのAIは、自然言語処理(NLP)技術の最先端を担い、人間と区別がつかないほど自然な文章を生成する能力を持っている。GPT-3やGPT-4は、企業のカスタマーサービスや教育、エンターテイメントなど、様々な分野で利用されている。特に、自動的な文章生成によるカスタマーサービスの自動化や、個々の学習者に対応したパーソナライズされた学習教材の生成など、生成AIの活用は多岐にわたる。

また、生成AIの技術進化はシンギュラリティの実現に向けた重要な一歩を示している。AIが自身の知識やアルゴリズムを改善し、人間以上のパフォーマンスを発揮する瞬間、すなわちシンギュラリティが現実のものとなるのはもはや時間の問題であるとされている。特に大学入試問題に代表されるような蓄えた知識をアウトプットして評価する世界においては、生成AIが多くの学生を凌駕する結果を示すことも多く、これらは部分的シンギュラリティの到来と称することができる事象といえる。

近年、日本国内でも生成AIの進化が目覚ましい。特に、クリエイティブ産業やエンターテイメント分野での利用が顕著である。特に文章生成型のAIは、社内資料作成だけでなく、小説や詩の執筆、報道記事の作成など、幅広い用途で活用されている。また、画像生成AIの進化により、新しいアート作品の生成や、自動でイラストを描くシステムの開発も進行している。生成AIはそのアウトプット生成のスピードからビジネスにおける意思決定支援や、またその多角的な視点から生成能力を活用し製品や商品開発のプロセスでも用いられている。企業は、新しいビジネスアイデアやサービスデザイン、アドバタイジングのリード作成などに生成AIを活用し、より効率的な業務遂行を実現している。

図 生成AIの活用モデル

生成AIの進化とその金融業界への影響: シンギュラリティへの道と最適な活用戦略
(画像=The Finance)

シンギュラリティと生成AI: AI進化が引き寄せる未来

シンギュラリティとは、人間の知識を超え、自己学習と自己進化を行うAIが出現する未来のポイントを指す。生成AIの進化は、このシンギュラリティへの道筋を明確に示している。生成AIが、文章や画像、音楽などを生成する際、その過程で新たな知識やパターンを自身で学習し、それを基に新たな出力を生み出すことができる。これは、AIが自己進化の過程を経て、人間の知識や技術を凌駕する可能性を示唆している。

したがって、生成AIの進化とシンギュラリティは密接に関連していると言える。なお、シンギュラリティが訪れた時、それは社会全体に大きな影響を及ぼすことが予想される。AIが人間の知識を超え、自己進化を遂げることで、現在人間が行っている業務やタスクが大幅に自動化される可能性がある。これは、新たな価値創造の機会をもたらす一方で、労働市場や社会構造に大きな変化を引き起こす可能性もある。特に、金融業界においては、AIが投資戦略を策定したり、複雑な金融商品を設計したりすることが考えられる。

すでにAIによる自動売買やロボ・アドバイザーが現実のものとなっており、その可能性は無限大である。ただし、同時に、システムの透明性や倫理的な問題、セキュリティ対策など、新たな課題も生じることが予想される。そのため、AIの進化とともに、それに伴う社会的な影響を考慮に入れた戦略や対策が求められる。これには、AIの開発者だけでなく、社会全体の理解と協力が不可欠である。その一環として、金融機関が生成AIとどのように向き合い、その活用を最大限に引き出すための戦略についても検討する必要があると考える。

生成AI×データ戦略×デジタルヒューマン

生成AIが発揮する能力は、その学習に使用するデータに大きく依存する。金融機関は顧客の取引履歴やパーソナルデータ、市場の動向など、大量のデータを保有している。これらのデータを生成AIに供給することで、顧客のニーズに合わせた商品提案やリスク管理、市場予測などの精度を向上させることが可能となる。

生成AIは、顧客一人ひとりのニーズに応じたパーソナライズされたサービスの提供を可能とする。例えば、ロボ・アドバイザーは、顧客のリスク許容度や投資目標に合わせて、最適な投資戦略を生成することができる。また、生成AIを活用したチャットボットは、顧客の質問に対して適切な回答を生成し、24時間365日のカスタマーサービスを提供することができる。

そのため金融サービスを提供する生成AI搭載型のデジタルヒューマンを創造すれば、人間と同等のコミュニケーション能力を有しており、生成AIの能力を活用することで、より人間らしいサービスの提供が可能となる。これにより、顧客はデジタル空間でも人間と同等のサービス体験を得ることができる。それは、デジタルワークフォースとヒューマンワークフォースの境目がファジーになると捉えることもできるが、顧客にとっての「最適解」を人間とデジタル(AI)を活用したセカンドオピニオンを得られる機会にもなると考える。その意味において、新しい顧客体験を創造する金融サービスが、生成AIの登場に先には存在している。

しかし当然のことながら、生成AIの導入と活用には注意が必要である。その性能は高まる一方、倫理的な問題やセキュリティ問題を引き起こす可能性もある。したがって、金融機関が生成AIと向き合う際には、それらの問題に対する対策と共に、顧客の信頼と満足を確保することが不可欠となる。

金融機関における生成AIの活用

生成AIはすでに金融業界においても実用化の段階に入っており、上述の通り国内外の金融機関において様々なサービスが検討されている。その検討項目の中で金融サービスにおいてトップラインを向上させるための活用は、今までのBPRやRPAなどの業務効率化においてテクノロジーを活用することとは違った観点で検討されていることに注目すべきであろう。

(1)ロボ・アドバイザーによるパーソナライズされた投資戦略の生成

多くの金融機関がロボ・アドバイザーを導入している。これらのロボ・アドバイザーは生成AIを利用しており、顧客の投資目標やリスク許容度、市場状況などを元に、パーソナライズされた投資戦略を生成することができる。

(2)生成AIを活用したチャットボットによる顧客対応

顧客サービスにおける問い合わせ対応などで生成AIを活用したチャットボットが使用されている。これらのチャットボットは、顧客からの質問に対して適切な回答を生成し、24時間365日のサービスを提供することが可能となっている。

(3)デジタルヒューマンによる金融情報の提供

AI搭載型のデジタルヒューマンは、金融サービスの新たな形を提供する。デジタルヒューマンは、生成AIの能力を活用し、人間と同等のコミュニケーション能力を持つ。これにより、顧客はデジタル空間でも人間と同等のサービス体験を得ることができる。

金融機関が生成AIと如何に向き合うべきか: チャレンジと戦略

生成AIの進化と普及は、金融業界に大きな変革をもたらしている。しかし、その一方で、倫理的な問題やセキュリティ問題など、新たな課題も生じている。ここでは、これらの課題に対する戦略とその実行方法について考察する。

生成AIは、個々の顧客のニーズに合わせたパーソナライズされたサービスを提供する一方、プライバシーの侵害や偏った学習結果によるバイアスの発生など、倫理的な問題を引き起こす可能性がある。これらの問題に対しては、明確なガイドラインの設定とその遵守が求められる。また、生成AIが保有する大量の顧客データや金融情報は、サイバー攻撃の標的となりうる。したがって、厳格なセキュリティ対策の実施とその継続的な改善が必要となる。AIを用いたサービスは、その性質上、顧客が自身の情報をどのように扱われるのか、AIがどのように判断を下すのかを理解しにくいという問題がある。金融機関は、AIの仕組みやプライバシーポリシーを顧客に分かりやすく説明し、顧客教育を積極的に行うべきである。

生成AIは日進月歩で進化し続けており、金融機関はこれに対応するために、持続的な技術革新とスキルアップを行う必要がある。また、新たなAI技術の導入に際しては、その技術が業務にどのように適用できるのか、またそれによってどのような価値を創出できるのかを理解することが重要である。

これらの戦略を実行することにより、金融機関は生成AIの力を最大限に活用しつつ、顧客の信頼を保ち、金融業界の健全な発展を支えることができるだろう。

生成AIと未来の金融業界

生成AIの進化は、金融業界に大きな変革をもたらし、新たな価値創出の源泉となっている。それは、ロボ・アドバイザーによるパーソナライズされた投資戦略の生成、チャットボットによる顧客対応の高度化、デジタルヒューマンによる新しい顧客体験の提供など、さまざまな形で現れている。しかし、その一方で、生成AIの導入と活用は、倫理的な問題やセキュリティ問題など、新たな課題をも生み出している。これらの課題に対応するためには、明確なガイドラインの設定、厳格なセキュリティ対策の実施、顧客教育の推進、持続的な技術革新の追求など、金融機関が戦略的に取り組むべき点が存在する。

生成AIは、これからも技術の進歩とともにその能力を増していくことだろう。その変化とともに、金融業界もまた進化し続ける。その進化を支え、新たな価値を創出し続けるためには、金融機関が生成AIとともに成長し、それを戦略的に活用していくことが求められる。これからの金融業界において、生成AIはその中心的な役割を果たし続けるでしょう。その未来に向けて、金融機関が生成AIとどのように向き合い、どのように活用していくのか、その姿に注目と期待が集まる。近しい未来の金融像を描ける時代と技術の進化への慟哭といえる。

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[寄稿]藤田 通紀
EYストラテジー&コンサルティング株式会社
金融サービス・ストラテジー パートナー

外資系金融機関、外資コンサル等を経て現職。金融機関向けのストラテジーを中心に、ビジネスデザインやイノベーション活用したピープルセントリックのトランスフォーメーションを中心に活動。近年は金融機関の未来像についてのインサイトを経営者へ提供。著作・講演多数。英ウォーリック大学理学修士、英ウェールズ大学MBA、英エクセター大学PgDip。日本ファイナンス学会・行動経済学会所属。