この記事は2023年10月31日に「The Finance」で公開された「カーボンクレジットの仕組みや種類、デメリットを徹底解説!」を一部編集し、転載したものです。


二酸化炭素の削減量を売買するカーボンクレジットは、地球温暖化対策のほか、新たな市場の創出でも注目されています。一方で、価格の決め方やモニタリングの方法などが固まってはおらず、課題があるのも事実です。今回はカーボンクレジットの仕組みや種類、現状について解説します。

目次

  1. カーボンクレジットとは?
  2. カーボンクレジットの2つの仕組み
    1. (1)キャップ&トレード
    2. (2)ベースライン&クレジット
  3. カーボンクレジットの現状
    1. (1)東京証券取引所で「カーボン・クレジット市場」が始まる
    2. (2)個人は取り扱いの制限を受ける
  4. カーボンクレジットの種類
    1. (1)国際的なクレジット制度
    2. (2)行政が主導するクレジット制度
    3. (3)民間企業が主導するボランタリークレジット
  5. カーボンクレジットのメリット
  6. カーボンクレジットのデメリット
  7. カーボンクレジットのビジネスでの活用事例
  8. まとめ

カーボンクレジットとは?

カーボンクレジットの仕組みや種類、デメリットを徹底解説!
(画像=Wanan/stock.adobe.com)

そもそもカーボンクレジットとは、削減・吸収した二酸化炭素をクレジットの形で取引可能にした制度です。クレジット創出者は新たな収入源を得られ、購入者は自社の努力だけでは削減できない温室効果ガスの達成目標をクリアできます。社会的に要請が大きい地球温暖化対策に対し、周りに「積極的な企業」とアピールできるのも利点です。

政府は2050年時点で、二酸化炭素の排出量を実質0にするカーボンニュートラルに取り組んでいます。経済活動に伴うCO2の排出量を完全になくすのは難しいですが、社会全体の削減・吸収量と相殺することで、トータルで0にはできます。今後は再生エネルギーの活用、省エネルギーの導入、森林の有効活用をはじめ、企業努力による温室効果ガスの削減が進むでしょう。

カーボンクレジットの発行主体は国連や政府、地方自治体のほか、民間企業も対象です。金融機関などがカーボンクレジットの売買または媒介などの業務をおこなう場合、業務範囲規制の適用を受けて「算定割当量その他これに類似するもの」に限定されます。「その他これに類似するもの」に該当するかは個別具体的な判断によりますが、金融庁の見解では、政府主導で発行されるカーボンクレジットは範疇(はんちゅう)に含まれるとされています。

※参照:カーボン・クレジットの取扱いに関するQ&A」の公表について

カーボンクレジットの2つの仕組み

カーボンクレジットは排出権の余剰分を取引するキャップ&トレードと、削減量を売買するベースライン&クレジットの2つに分かれます。制度への理解を深めるために、それぞれの特徴をみてみましょう。

(1)キャップ&トレード

キャップ&トレードは事業所ごとに定められた、温室効果ガスの削減量の超過分を取引対象とする制度です。自らの努力だけで目標値を達成できない企業は、余裕をもってクリアした企業からクレジットを買い取ることで、不足分を補えます。

キャップ&トレードは“排出量が大きい大企業の規制”という役割が大きいのが特徴です。企業や事業所の排出削減量は政府が割り当てるため、上限をどのように決めるか、難しいといわれています。

(2)ベースライン&クレジット

ベースライン&クレジットは温室効果ガスの削減量を取引する制度です。再生可能エネルギーや環境負荷軽減の設備を導入した企業において、導入前後を比べた時の差分をクレジットとします。上記は排出削減型のプロジェクトであり、他にも森林管理や植林による温室効果ガスの吸収・吸着型プロジェクトも対象です。

排出削減の取り組みをした企業は利益を得る機会を得られるため、クレジット創出のインセンティブが働くといえます。

カーボンクレジットの現状

カーボンクレジットの運用は政府主導から、民間での自主的な取引を推奨する形へと変化しています。東京証券取引所は実証実験の結果を踏まえ、2023年10月11日に正式に「カーボン・クレジット市場」を開設しており、本格的に市場化が始まっています。ここでは、日本におけるカーボンクレジットの現状について紹介します。

(1)東京証券取引所で「カーボン・クレジット市場」が始まる

企業同士の自主的な取引を活発化するため、「カーボン・クレジット市場」が新たに開設されました。市場がうまく機能するには、さまざまなクレジットが多様な価格帯で売買されるのが理想です。

実証では183者の企業・地方公共団体等が参加し、期間内の売買高は約15万t-CO2、売買代金は約3億円に達しました。約定数量に占める国・地方公共団体の割合は44%となり、半分以上のシェアを民間企業が獲得しています。

※参照:「カーボン・クレジット市場」の実証結果について

民間同士の取引も全体の12%に達し、市場として十分機能する見込みが立ちました。実証実験を受けて、2023年10月11日に本格的な市場が開始されています。

※参照:カーボン・クレジット市場の開設と売買開始について

(2)個人は取り扱いの制限を受ける

実証実験で市場に参加できたのは国や地方公共団体、任意団体のみで、個人の登録は認められませんでした。しかし一定の規模を有する団体に限らず、国民1人ひとりがカーボンオフセットに取り組むのは否定されるべきではありません。2023年には日本で初めて、個人によるカーボンクレジットの売買がおこなわれました。

流通場所は日本初のクレジット販売・買取サイト「脱炭素貨値両替所」です。日本政府が運営するJ-クレジットが、個人の資産運用目的としてはじめて売買の対象となっています。

カーボンクレジットの種類

ひと口にカーボンクレジットといっても、種類は多岐に渡り、国際的な機関から国内の民間企業まで発行主体はさまざまです。

(1)国際的なクレジット制度

国際的なクレジット制度には、京都議定書の取り決めを受けて国連が主導するCDM(クリーン開発メカニズム)、二国間クレジットのJCM(Joint Crediting Mechanism)があります。

1. CDM
CDMは国連主体の制度です。先進国が途上国内で温室効果ガス削減のプロジェクトをおこなった場合、削減量に応じてクレジットを発行します。先進国は削減量を自国の分として扱うことができて、技術や資金の提供により、途上国の温暖化対策の発展にも寄与します。CDMでは、各国に割り当てられた温室効果ガスの排出枠が取引の対象です。

2. JCM
JCM(二国間クレジット)はパートナー国となる発展途上国と協力して、温室効果ガスの削減に取り組む制度です。再生可能エネルギーの導入や脱炭素技術の普及を促進し、発展途上国内で達成した削減量・吸収量を、自国の分として扱います。

仕組み自体はCDMと似通っていますが、JCMにおけるクレジットの対象は削減・吸収量です。日本は二国間クレジットの実施に積極的な国の一つで、世界27カ国と協定を締結しています。

(2)行政が主導するクレジット制度

日本では政府が主導するJ-クレジットの他、地方自治体によるカーボンクレジットが存在します。行政主体のクレジット制度を詳しくみてみましょう。

1. J-クレジット
J-クレジットでは企業や森林の保有者が行った温室効果ガスの削減・吸収につながる取り組みを国が認証します。認証済みプロジェクトが達成した削減量をクレジットとして発行し、購入者は自社の削減量に充当できます。J-クレジットによる取引は国内の企業や団体に限定されているのが特徴です。

2. 地方自治体による制度
J-クレジット制度の認証を受けた地方自治体は、自治体独自の地域版J-クレジット制度を実施できます。新潟県では森林経営プロジェクトや木質バイオマス固形燃料を活用した取り組みを通して、達成した排出削減量についてクレジットを発行しています。

東京都と埼玉県では独自の地域版J-クレジットに加えて、両者の連携による別個の仕組みがあるのが特徴です。東京・埼玉間でキャップ&トレードをおこなっており、事業所に割り当てられた削減量を超えた削減量は、地域を超えて流通させます。

(3)民間企業が主導するボランタリークレジット

カーボンクレジットには国際機関や行政機関が主導の他、民間が主体となって発行しているものもあります。ボランタリークレジットと呼ばれ、Gold Standard・VCN・ブルークレジットが代表的です。

1. Gold Standard(GS)
Gold Standardは、世界自然保護基金(WWF:World Wide Fund for Nature)をはじめとする、国際的なNGO(非政府組織)による認証基準・制度です。温室効果ガスの削減や持続可能な発展に寄与するため、自主的にクレジットの発行をおこなっています。GSは温暖化対策への貢献が大きなプロジェクトを認証する役割もあり、民間の制度といえども、グローバルレベルで影響が大きい仕組みと言えます。

2. VCS(Verified Carbon Standard)
VCNはWBCSD(持続可能な開発のための経済人会議)や、IETA(国際排出量取引協会)が策定した基準です。温室効果ガスの削減・吸収プロジェクトに伴うクレジットの品質を担保する役割も有しています。認定主体は民間でありながらも、世界的にも信頼性が高く、多くの企業が活用しています。

3. ブルークレジット
ブルークレジットはジャパンブルーエコノミー技術研究組合が発行主体です。海洋生態系が吸収した二酸化炭素を表すブルーカーボンを取り扱っています。ブルークレジットは企業の自助努力だけでは取り除けない、残存した排出量の除去に役立つと考えられています。すでに購入企業は100社以上に達しており、さらなる取引の活発化へ大きな期待が寄せられています。

カーボンクレジットのメリット

カーボンクレジットはクレジット創出者・購入者の双方にメリットが大きな制度です。それぞれどのような利点があるか詳しくみてみましょう。

1. 新たなビジネスチャンスを得られる
創出企業はクレジットを他社に売却することで、資金調達ができます。新たな資金の用途は限定されておらず、設備投資で生じた負債の返済に充てるなど、さらなる温室効果ガスの削減・吸収を目的とした追加投資の原資としても活用できます。

2. 環境経営に取り組む企業だとアピールできる
クレジット創出側の大きなメリットは環境負荷の軽減に積極的な企業だと、対外的にアピールできることです。環境や社会にも配慮したサステナブル経営に対する世間からの興味・関心は急速に高まっています。投資家や金融機関では融資の判断基準として、環境や社会への取り組みの程度を考慮する動きもみられるほどです。

3. 取引によって排出目標を達成できる
クレジットの購入者は、どうしても自社では達成できない排出削減量を金銭によってクリアできます。対価を支払うのは負担ですが、その分、地球温暖化対策を実施するインセンティブになるとも考えられます。しかし、購入者が“金銭的負担で済めば自助努力をおこなわなくてもいい”と開き直ってしまった場合は、本末転倒なのかもしれません。

カーボンクレジットのデメリット

カーボンクレジットのデメリットは、現状では使いやすい制度とはいえないことです。法規制やルールが未整備で、探り探り進めざるを得ません。具体的なデメリットは次のとおりです。

1. クレジットの価格の決め方が不明瞭
カーボンクレジットは相対取引のため、価格決定の仕組みが不明瞭です。需要が高まれば価格は上がり、逆に悪化すれば下落しますが、値段が決まるメカニズムは不明瞭です。この仕組みの曖昧さが、積極的な活用を阻害する要因の一つだといえます。

さらに市場規模はまだ小さく、開示される情報が限定的であることも、興味を持ちつつも利活用できない原因です。

2. 仕組みが複雑で適切な制度を見つけにくい
上述の通り、クレジット制度の種類は多く、それぞれ認証基準も異なります。排出削減に取り組もうとする企業はどの制度を活用して、クレジットを発行すべきか迷うケースもあるでしょう。各機関が独自の基準で動いており、世界的に統一されたルールや解釈がないのも問題視されています。

3. 削減量の算定・モニタリング方法が未確立
保有森林の有効利用やブルークレジットの活用など、吸収系プロジェクトの算定・モニタリング方法が未確立のようです。費用を投じずに既存の温室効果ガスを減らせる吸収型の取り組みは、今後重点的に取り組む企業が増えると想定されますが、。インフラが整っていないことが現状の課題と言えます。

カーボンクレジットのビジネスでの活用事例

カーボンクレジットは資金調達の手法として、ビジネスシーンでの活用が期待されています。ここからは、企業の取り組み事例を紹介します。

1. キヤノン
キヤノンはJ-クレジット制度を活用したクレジットの創出の他、カーボンオフセットの活動にも積極的な企業です。複合機を購入した顧客から要望を受けた場合、キヤノン製品によって達成した温室効果ガスの削減量を、導入企業側の排出削減量としてカウントします。

※参照:キヤノンのカーボン・オフセットの取り組み|Canon Japan

2. ヤベホーム
ヤベホームでは長崎県林業公社や対馬市による森林保有型のクレジットを購入し、住宅の建設に伴い発生した、二酸化炭素のカーボンオフセットをおこなっています。森林観光ツアーを実施し、施工主が現地を探索したり植林をしたりする機会を設けており、環境関連活動の啓発・周知にも積極的です。

※参照:J-クレジット創出・活用事例集

3. 凸版印刷株式会社
凸版印刷は定期開催の社内環境関連会議において、温室効果ガスの量を算定し、カーボンオフセットとする取り組みを実施しています。また、イベントでの排出量の測定や出版社向けのカーボンオフセット代行サービスに注力しているのも特徴です。温室効果ガスの削減はもちろん、CSR(企業の社会的責任)の一環として顧客や一般市民へのアピールにも役立っています。

※参照:凸版印刷株式会社 社内環境関連会議2019|J-クレジット制度

まとめ

カーボンクレジットはクレジット創出者・購入者の双方にメリットがあり、活用機会の増大が期待されています。東京証券取引所での実証実験を受けて本格的に市場が始まるので、課題の解消も含めて今後の動向に注目しましょう。


[寄稿]TheFinance編集部
株式会社セミナーインフォ