画期的な在庫分析クラウドを開発・提供するSaaS企業のフルカイテン(FULL KAITEN)は、代表取締役の瀬川直寛氏が自身の3度にわたる倒産の危機を乗り越える過程で誕生した。瀬川社長は、大学時代に予測モデルを研究し、会社員時代はIT業界で企業向けシステムの営業を10年以上経験した。そして、起業後は在庫問題による倒産危機を経験。これらの点が全て繋がってFULL KAITEN事業は生まれたという。大量生産、大量消費に大量廃棄。サステナブルが大々的に叫ばれる一方で、アパレル業界のこういった一面は隠しきれない。世の中に溢れる在庫を文字通り「フル回転」させるべく、瀬川社長は機械学習によって在庫問題の解決を目指すシステムを開発し、アパレル企業等に提供している。ただし、在庫を持つことは決してネガティブなことではない。在庫問題の本質を分析・理解し、在庫をコントロールすることがなによりも大事ではないだろうか。アパレル業界が抱えるこうした課題の解決に向けて瀬川直寛社長は大きく動き出している。
■一般的な在庫管理システムと異なるフルカイテンの在庫分析システム
世の中に溢れた一般的な在庫管理システムは、どの店舗にどの商品の在庫がどのくらいあるのかという在庫数の管理を指す。似たようなもので、どの店舗でどの商品がいくらでいくつ売れたという売り上げを管理する販売管理システムもある。フルカイテンは、そのような在庫管理や販売管理システムからデータを受け取って、予測・分析に関するさまざまな計算をする点に特化しており、通常の在庫管理とは大きな違いがあるという。
フルカイテンは現在、企画から終売までの商品のライフサイクルを一貫してカバーすることができるサービスへと発展している。販売実績がない商品がどのくらい売れるのか需要予測するサービスの研究や、店頭への展開後は、倉庫からの商品の出荷数を適正化して、売れる商品を売れる店舗に売れる数量だけ配分することも可能になった。また、値引きをせずに最終消化できるように、在庫のリスクを早期に予見する分析の機能や売れ筋商品の欠品を防ぐために追加の仕入れ数量を予測するサービスも提供している。瀬川社長は、「小売業界やSPAの業界が抱えている在庫に関する問題であれば、何かしらの形で役に立てるだろう」とコメントした。
事業を進める上でのこだわりは2つある。1つ目は、ユーザーインターフェース(見た目や使い勝手)の良さ。いわゆる業務システムの中には、売上高や売上数などの数字自体が表になって並んでいるだけのものも多いが、FULL KAITENはシステム使用者が直感的に使えるようにこだわって開発している。また、FULL KAITENのシステムは、クリックするだけで、全店舗の全商品に対して分析が行われ、かなりピンポイントでどういう商品の販促を強化するべきかというところまで可視化・検討することができるのだ。もう1つのこだわりは、全販売チャネルのデータの取得。このこだわりについて瀬川社長は、「アマゾンや楽天、のような巨大企業は膨大なデータを保有しているが、その中身は、自分たちが抱えている販売チャネルのデータのみ。一方で、フルカイテンは導入企業の全販売チャネルのデータを蓄積している。世の中の役に立つような予測や分析をするためには、特定の販売チャネルのデータがいくらあってもあまり使えず、全販売チャネルのデータを持っていないと意味がない」と説明し、創業当初から今日までにすでに約9500億円分の売上データを蓄積していることに大きな価値を感じているという。
■独自の調査から得た知見
フルカイテンは独自の調査を行い、その結果「抱えているSKUのたった20%で8割の粗利が生まれている」、つまり「たった2割からしか利益が取れていない」ことが判明した。残りの8割にメスが入らない理由について瀬川社長は、1つ目にSKUなど品番の多さ、2つ目に時間のなさを挙げた。特にアパレル企業の場合、週末の売り上げが大きいため、毎週水曜日には、その週末の販促指示や売価変更、店間移動の指示を全国の店舗に出す必要がある。そうなると、予測・分析をする時間は月曜日と火曜日しかなく、その2日間で、全国各店舗の売上実績や在庫状況の確認、売価変更や店間移動の指示、メルマガで打ち出す商品や店舗に置く商品VMDの展開を考えることになる。瀬川社長はこの従来の在庫分析の流れに無理を感じ、アパレル企業への在庫管理分析システムの導入を促進した。データを活用することで、全国各店舗の全ての品番を瞬時に分析することができ、打ち出すマーケティングを考えることも容易になれば、分析のメスが入らなかった残り8割の商品たちは宝物に変わるのではないかと瀬川社長は考えている。
セレクトショップを運営するアパレル企業の「アーバンリサーチ(URBAN RESEARCH)」は、フルカイテンのシステムを導入したことにより、導入から半年ほどで売り上げが改善された(当社の売上計画・粗利計画に対して約16%の粗利額が増加)。導入前は、全国各店舗の全品番の在庫管理・分析が十分ではなく、不必要な値引きが発生していた。しかし、システムの導入によって在庫問題が解消したため、半年で大きな成果を出すことができたという。
さらに、「原価率は上げることは悪いことではなく、もっとも着目しなければならない点は、原価率が多少上がろうが何であろうが、値引きで失っている利益の方が大きいということ」だという。原価率を抑えることにこだわっても、結局、最終消化率を上げるために値引きを行い、セール待ちの消費者が増えることで、ブランド価値も毀損するという目に見えないコストも拡大されてしまう。また、セールを実施したことで営業利益率が上がらないとなると社員の給料も上がらず、社員が違う業界に流出する可能性もあり得る。現在のアパレル業界は働き手がなかなか足りない業界なので、業界の未来のためにも、原価率上げることはいい判断なのではないだろうか。
■「世界の大量廃棄問題を解決する」というミッション
瀬川社長は、まず国内の問題を解決してから海外へ事業を展開することを考えている。現在フルカイテンは、サプライチェーンの中でもファーストステップとして小売りやSPAなど(川下)に対する価値提供をしており、導入実績を増やすことで、データの蓄積を加速させている。次の展開として、メーカーや商社、卸売り企業(川中)などに新たなサービスを提供していくことを目標としており、早ければ来年には、その領域に参入する予定だという。参入が実現すれば、フルカイテンは川下と川中の両方の売り上げや在庫のデータを預かる立場になり、データベースとしては比類ないものが完成する。在庫分析データの蓄積が拡大し、消費の動きが分かるデータベースを確保できるとなれば、サプライチェーンに対して「必要な商品が必要な量だけ流通する」という変革を起こすことができると瀬川社長は考える。瀬川社長は「データベースの仕組みを国内で作り、変革の実現に成功したら、次は世界に展開する予定。海外への展開に向けて、早ければ2025年から調査をスタートし、2026~27年くらいには実際に拠点を設けて挑戦していきたい」と目標を語った。
2023年は11.6億円の資金調達を実施し、累計での資金調達額は約23億円に達している。人材採用も積極的に行っており、事業拡大を加速させている。昨今のAI技術の急速な発展はフルカイテンにとっても大きな追い風となるだろう。在庫状況を健全な形で管理することは、アパレル業界全体の発展に繋がっていく。「世界の大量廃棄問題を解決する」というミッションに向けて、瀬川直寛社長の挑戦に大いに注目だ。
SKUとは、ストック・キーピング・ユニットの略語で、在庫管理における、単品単位のこと。
SPAとは、ファッション商品の企画から生産、販売までの機能を垂直統合したビジネスモデルのこと。
VMDとは、ビジュアル・マーチャンダイジングの略。視覚に訴えながら、購入を促す売り場作りのこと。