近年、製造業の現場では人手不足を補い生産性を高めるため、デジタルツールの導入、IoTによる自動化やシステム同士の連携による生産効率の向上が進められています。その中でも、設備や機器の安全性を担保する監視と点検は、大規模な製造工場においては人的リソースを消費するため、より最適化された人材配置のためにも遠隔監視(リモート監視)システムの導入が進められています。

遠隔監視システムとは、現場から離れた場所でリモートカメラなどを使い施設や機器の監視を行う手法、それを実現するシステムを指します。業務の大幅な効率化や、作業に関わる人員の削減、負担軽減を実現します。この記事では遠隔監視の概要やメリット、活用事例、実際に導入する際のポイントをお伝えします。

目次

  1. 遠隔監視・遠隔監視システムとは
  2. 遠隔監視が必要とされ、導入が進む理由
  3. 遠隔監視システムを活用する9つのメリット 
  4. 遠隔監視システム導入における11の注意点と選び方
  5. 遠隔監視の発展|先端技術の活用による進化
  6. まとめ

遠隔監視・遠隔監視システムとは

遠隔監視とは?活用するメリットや導入の際のポイントを解説
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

ここでは遠隔監視という言葉の定義と、遠隔監視システムについて製造業の立場から見た概要を解説します。

遠隔監視の定義

遠隔監視(Remote Monitoring)とは、物理的に離れた場所からリアルタイムで対象物(機器、プロセス、システムなど)、または空間や場所を監視する技術を指します。

「監視」という場合、カメラを通した映像を見るものと、工場の設備や機器にセンサーを取り付け、稼働状況を監視するモニタリングシステムを指すものがあります。いずれの場合もカメラやセンサーがある現場に行くことなく、遠く離れた場所からでも確認できるものを意味します。

通常は、カメラやセンサーの情報は同一ネットワーク内でしか見たり確認したりすることはできません。また特定の場所(管理室や制御室など)でしか監視できませんでした。しかし現在の遠隔監視は、インターネットを経由することで、カメラ映像やセンサーが測定したデータはPCやスマホ、タブレットなどのデバイスを用いてどこからでも見ることが可能になります。また収集したデータはオンライン上で一元的に監視可能です。この「限られた範囲ではなく遠隔からでも監視できる仕組み」を遠隔監視と呼んでいます。

遠隔監視は、身近なところではネットワークカメラを用いた防犯カメラなどにも使われるようになっています。家の中で子どもの見守りを行うカメラやペットカメラなども同じです。利便性の高さから、屋外で用いる防犯カメラ、工場などで使われるものなど、さまざまな業種や現場において活用されています。

そのほか、製造業における工場などではカメラではなくセンサーを用い、制御装置と連携することでリアルタイムの問題を検知し、メンテナンスの効率化、安全性の確保など、様々な目的で利用されます。

遠隔監視システムとは

遠隔監視を行うシステム・装置を遠隔監視システムといいます。監視すべきものがある場所や空間に設置されたカメラやセンサーが、ネットワーク経由でデータを収集し、そのデータはリモートでアクセス可能な場所へ送られ、デバイスで表示や分析を行うことができます。

遠隔監視システムは、近年はIoTなどデジタル技術と組み合わせることで、特に製造業においては工場の生産工程を自動化するスマートファクトリーに必要なシステムといえます。生産状況や在庫状況などを遠隔地からでもリアルタイムに情報収集できる点は大きなメリットといえます。

遠隔監視システムが利用される分野や事例の広がり

遠隔監視システムは近年、幅広い分野で利用されています。

産業の自動化への活用

製造業の生産プロセスにおいて、機器や生産ラインの遠隔監視が行われています。センサーやカメラを利用して、機器の動作状況や生産効率をリモートで監視し、障害や異常を早期に検知します。

エネルギー関連設備の管理

発電所や送電設備などエネルギー関連の設備において、リモートで遠隔監視が行われています。エネルギーの生成量や設備の稼働状況をリアルタイムでモニタリングし、効率の向上やトラブルの早期発見が可能です。

医療機器の監視

医療機器や患者のバイタルサインを遠隔から監視することもできます。患者が自宅にいてもモニタリングでき、医療の専門チームが遠隔でデータを確認し、必要に応じて介入することができます。

交通システム

道路や鉄道、航空などの交通システムにおいて、交通の流れや車両の動態をリモートでモニタリングし、交通制御や安全管理に活用されます。

環境モニタリング

環境の変化や自然災害の監視において、センサーやカメラを用いてリアルタイムでデータを収集し、監視と評価を行います。洪水、地震、気象状況などが含まれます。

遠隔監視が必要とされ、導入が進む理由

遠隔監視システムを用いると、現場に直接従業員を置いて監視や巡回をする必要がありません。特に人手不足が叫ばれる製造業において、貴重な人材リソースを割かずに現場の情報をリアルタイムで共有できるメリットがあることから導入が進んでいると考えられます。

また人が常駐することが難しい遠隔地や危険な環境での作業がある場合、遠隔監視は人的リソースの不足に対処する手段となります。

そのほか、遠隔監視技術の進化により利便性が向上したことも導入が進む理由と言えるかもしれません。遠隔監視デバイスが小型かつ高性能になり、多様なデータをリアルタイムで収集できるようになっています。また専用の表示装置などを使う必要がなく、汎用性の高いデバイスでモニタリングできることも理由といえます。

遠隔監視システムを活用する9つのメリット 

遠隔監視システムを導入することで、さまざまなメリットを得られます。ここでは主なメリットを9つ紹介します。

点検業務の省人化が叶う

遠隔監視の最大のメリットは、機器や施設の状態を遠隔で監視し、点検業務を省人化できることです。定期的な点検や診断作業がリモートで実施可能となり、監視を行う作業員の配置や移動の効率が向上します。現地に実際に行かなくても監視が可能なため、人的リソースを有効活用できます。

常時監視によるメンテナンス業務の効率化

機器や設備の動作状況をリアルタイムでモニタリングできることにより、メンテナンスが必要な箇所を早期に発見し、計画的かつ効率的にメンテナンス作業を実施できます。

異常やトラブル発生時の早期対応が可能になる

センサーや監視デバイスが異常を検知した場合、アラートがリアルタイムで発せられ、遠隔地からも緊急対応への指示が出せるようになります。これにより、トラブルの発生から解決までの時間が短縮され、事故や損害の発生を最小限に抑えることができます。

24時間・365日の切れ目ない監視が可能になる

現場での、人による目視確認には限界があります。人が常時現場を巡回してすべてを監視することはできません。人は疲労がたまると集中力が途切れるためトラブルを見逃すこともあります。また交代制をとると、多くの人員が必要です。

遠隔監視システムはネットワークを介し、AIやIoTなどの先端技術を用いた監視を行うため、24時間・365日の常時監視も可能です。人の監視の場合はどうしても一瞬の不注意などが起きやすくなりますが、AIは疲れもなく、継続して精度の高い監視とデータ収集、分析が可能です。

また、例えば故障が起きた際にもどの部分、どの工程で起こったか、故障した部品は何かなどをすぐに察知し分析することができます。大きな災害や事故につながる確認ミスも防ぐこともできるでしょう。

【図1】遠隔監視により巡視を自動化した例

物理的なセキュリティの全般的な向上

セキュリティカメラやセンサーを活用した遠隔監視により、特に施設や重要なエリアにおけるセキュリティが向上します。不正侵入や異常な動きが検知された場合、即座に遠隔で対応できます。

なおネットワークセキュリティ対策については後述します。

広大な場所や危険な場所での監視が可能

遠隔監視は広大な敷地や危険な環境での監視にも適しています。例えば、発電所、石油プラントなどでの遠隔監視により、人が入りにくい場所でも安全かつ効果的な監視が可能です。安全配慮義務の達成、従業員の安全の担保、労働環境の改善にもつながります。

予知保全の実現が可能

遠隔で装置や機器の状態を監視して得られたデータを分析し、機器や設備の健全性を把握することで、予知保全が実現できます。また異常の兆候を事前に検知して計画的なメンテナンスを行うことで、機器の寿命を延ばし、ひいては運用やメンテナンスのコストを削減できます。

コスト削減が可能

遠隔で監視を行うことで、必要な人員を配置するコストを削減できます。特に夜間など、人が直接現場に常駐しづらい時間帯においてメリットが大きいといえます。

例えば遠隔地での現地作業が必要な場合、まず遠隔監視で状態を確認できるため、必要十分な人員を派遣することで移動にかかるコストと時間も節約できます。

記録ができ情報の蓄積によって生産工程などの改善やスケールアップが叶う

遠隔監視システムの利用はリアルタイムの常時監視が可能になるため、生産ラインの稼働状況や故障の起きた頻度や起きやすい箇所の把握ができ、これらを改善情報として蓄積することが可能になります。得られた情報をAIで分析し、より安全で効率化された生産工程の構築や、生産量の大幅なスケールアップが叶うでしょう。

(参考)経済産業省資料「令和元年度 新エネルギー等の保安規制高度化事業委託調査(遠隔監視制御活用拡大のための要件等検討事業)報告書

遠隔監視システム導入における11の注意点と選び方

導入により得られるメリットの多い遠隔監視システムですが、初期投資にはまとまった費用がかかります。無駄のない導入を進めるためにも確認しておくべきポイントをおさえておきましょう。ここでは遠隔監視システム導入の注意点を解説します。

遠隔監視導入の目的を明確にする

遠隔監視を導入する目的を具体的に定義します。例えば、生産効率の向上、コスト削減、安全性の向上、予知保全などが目標となるでしょう。

また現時点における具体的な問題点があればその改善を目的とすることもできます。

監視対象・監視すべき項目とそれに必要なデバイス等を洗い出す

監視が必要な対象や項目を洗い出します。

例えば、機器の動作状況、生産ラインの稼働状況、センサーデータ、セキュリティカメラ映像などをリストアップします。導入と設置を行うベンダーと確認するとよいでしょう。

監視する場所の特性を把握する

監視する場所や空間の環境・特性に合う遠隔監視システムを選ぶ必要があります。

例えば、
・屋内か、屋外か
・それほど大きくない工場内など限られた範囲か、敷地内全体などの広範囲か
・空間や敷地内全体か、特定の機器類だけが対象か
など、要件を明確にしたうえで最適な機能をもつ遠隔監視システムを選ぶ必要があります。

必要な機能があるか・性能は十分か・自社の要件に適しているか確認する

自社の目的に必要な機能があるか、性能は目的を達成するのに十分かを確認し、監視項目に基づいて選定します。

自社の要件に適しているか確認する

自社の状況に合わせて運用が可能か、予算内かなどを検討します。

例えば、
・クラウドベースのシステムかオンプレミスか
・特定の業界に特化したシステムにするのか汎用性の高いものを使うのか
・カスタマイズ可能なシステムを導入するとして、カスタマイズは自社でできるのかメーカーなどに委託したいか
・既存システムとの連携ができるかどうか
など、自社の必要とする要件に適したものを選びます。

法令などの確認

遠隔監視システムの導入には、プライバシー法規やセキュリティ規制などの法令順守が必要になります。法令や規制を確認し、基準を満たしたうえで遠隔監視システムが適切に構築され、運用できるかどうか確認します。

セキュリティ対策

遠隔監視はインターネットを介してデータの収集や共有を行います。またクラウドタイプのものはオンライン上のサービス提供企業のサーバに情報を置くことになります。企業の重要情報が含まれるため、セキュアな通信プロトコル、データの暗号化、アクセス制御などのセキュリティ対策を導入し、データの機密性を確保する必要があります。

また遠隔監視システムはインターネットとの接続が行われるため、外部からの攻撃や不正アクセスを受ける可能性もあります。サイバー攻撃などに対するセキュリティ対策、定期的なシステムの更新も必須です。そのための対応をどうすべきか、自社で行うのかメーカーやサプライヤーに依頼するのかなども確認する必要があります。

従業員が使いやすいか、利用のための研修が可能か

遠隔監視システムの運用が専門スキルをもった一部の従業員だけしか理解できないようなものではなく、見やすくわかりやすい表示が可能かも確認しましょう。

なお担当する従業員に対して十分な研修を行い、デバイスの扱い方、遠隔監視でトラブルが発見された際の行動などを共有しスキルの向上を図る必要があります。

将来的な拡張性や他のシステムとの連携の考慮

遠隔監視システムは将来的な生産環境の変化に対応できるように設計することが重要です。拡張性やアップデートの容易さ、異なるデバイスなどとの互換性があるか、連携が可能かを確認し、ビジネスの変化に柔軟に対応できるシステムを導入することが重要です。

導入コストの検討

遠隔監視システムの導入にはコストがかかります。設備投資と効果のバランスを検討して導入します。また導入後の費用対効果も継続して計測・分析する必要があります。

導入メーカー、サプライヤーの選定

システムの信頼性、導入後の継続したアドバイスや運用に関するサービス提供があるかを確認します。コストも比較検討し導入するシステムを決定しましょう。

遠隔監視の発展|先端技術の活用による進化

遠隔監視システムは年々発展を続けています。近年はMR(Mixed Reality:複合現実)など仮想技術を用いたサービスもあります。

MRは従来なら実物を用いてしかできなかったことを、ITデバイスにより現実空間と対象物を3D空間で複合的に表示できる技術です。仮想空間上に用意した監視対象物のホログラムと現実空間にある本物の対象物を重ねて表示させることで、さまざまな角度から確認することも可能です。カメラ映像だけでなく、より詳細に故障などの状態が把握しやすくなります。

また通常の遠隔監視システムでは、保全などで外部のメーカーなどに対象の設備以外の機器などはセキュリティ上見せたくない(周辺状況の漏洩リスクの問題)という懸念もありました。そのような要望にも、MR技術を活用したデジタル遮蔽機能を使えば対象物以外はマスキングされて見えないようにすることが可能です。

リアルタイム性はもちろん、遠隔でありながら現地にいるような体験が可能なため、従業員の研修にも活用できます。

まとめ

この記事では遠隔監視とは何か、遠隔監視システムの活用方法やメリット、導入の際の注意点について解説しました。

遠隔監視システムは、工場などにおける状況を遠隔地から一元的に監視できる技術です。従来の人による監視では不可能だった精度の高い、継続した監視がリアルタイムで可能になります。そのため工場の自動化、生産性向上や故障など異常の早期発見、従業員の安全、コストの削減や人的リソースの有効活用などさまざまに役立つ点がメリットです。遠隔監視システムを活用することで製造業におけるDXを実現できるでしょう。

(提供:Koto Online