この記事は2024年1月10日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「フィード・ワン【2060・プライム】」を一部編集し、転載したものです。

国内一般企業トップの配合飼料メーカー
売上高連続過去最高更新見込む

畜産用配合飼料において、JA全農を除いた民間企業で国内トップシェアのフィード・ワン。2023年3月期に続き、24年も売上高の過去最高更新を見通している。販売数量が伸びているほか、平均販売価格も大幅に上昇していることが要因だ。23年は原価上昇幅に価格改定が追いつかず減益となったものの、24年は更なる価格改定で営業利益は前期比2.5倍を見込む。このインフレは同社にとって追い風となり得るのか。業界動向や今後の展望について、庄司英洋社長に話を聞いた。

▼庄司 英洋 社長

フィード・ワン【2060・プライム】
(画像=株主手帳)

飼料と食品の2軸展開
技術力で畜産業に貢献

フィード・ワンは、売上の85・8%を占める「飼料事業」と、同13・4%の「食品事業」を展開している。

中核の飼料事業では、牛・豚・鶏の畜産用飼料や、水産用配合飼料の製造・販売を行なっている。同社では畜産飼料の国内飼料流通量のうち15%の360万トンを供給しており、JA全農を除いた一般企業ではトップシェアだ。また水産飼料は10万トンの供給で業界2位である。

畜産向け事業の特徴として、飼料供給にとどまらない顧客へのサポートが挙げられる。同社は業界で初めて乳牛用ゲノム解析サービスを導入。遺伝をもとにした飼料設計や農場環境改善などを通じて経営をサポートするトータルコンサルティングサービスが評価を得ている。水産では、高付加価値製品として魚粉に依存しない低魚粉飼料のほか、2023年8月には無魚粉飼料を販売開始。また高い技術力を要する稚魚用飼料の売上は10年で4・9倍に拡大している。

「当社では、顧客である畜産農場や養殖業者の収益性向上や労力削減へ、イノベーションで貢献することに存在意義を感じています。国内の飼料流通量は横這いですが、実は畜産物の量は増えています。これは種の改良に加え、飼料の改良によって国内畜産物の能力が高まったということ。今後も最新技術により、顧客の現場価値を高めるサポートをしていきたい」(庄司英洋社長)

食品事業では、食肉・鶏卵・水産物を3本柱とし、生産から販売までのフードバリューチェーンを構築している。強みは飼料メーカーならではのネットワーク。全国の生産者と提携し、グループ会社・提携工場を通して大手量販店や外食チェーンへ品質の高い商品を提供している。

フィード・ワン【2060・プライム】
(画像=株主手帳)

インフレで売上過去最高
今期は値上げで利益回復見込

畜産用配合飼料の主原料が輸入トウモロコシのため、同社の業績は為替相場・穀物相場・海上輸送における燃料価格等の影響を受けやすい。23年3月期の売上高は、販売数増加に加えて平均販売価格の大幅な上昇により、前期比26・6%増の3079億1100万円で過去最高を更新した。一方、営業利益は原価上昇幅に価格改定が追い付かず、同66・9%減の14億2200万円となった。24年は原材料コストや光熱費上昇に合わせて販売価格を改訂し、売上高は前期比4・9%増の3230億円、営業利益は同2・5倍の35億円と、増収増益を見込んでいる。 

これまで鶏卵や食肉は、値上げが世の中に許容されず、飼料価格もその影響を受けてきた。しかし近年のインフレで潮流が変化。値上げに対して消費者が許容せざるを得ず、それを受けて小売店も寛容になりつつある。

「上げ相場は厳しいですが、同業が皆疲弊しているのでチャンスでもある。昨年は鳥インフルエンザや豚熱の影響で市場の飼料流通量が微減となった中でも、当社の販売数は伸びています。今までも危機の連続でした。91年に牛肉・オレンジの輸入が自由化された際は、国内飼料流通量はいずれ2000万トンを切ると言われていましたが、現在も2400万トンを超えています。デフレや災害など、毎回ノーアウト満塁でも乗り越えてきましたので、ウクライナ問題やインフレ、物流2024問題も乗り切れると信じています」(同氏)

14年に大手2社が統合
三井物産が主要株主

同社は14年に業界5位(全農を含む)の協同飼料と同6位の日本配合飼料が経営統合し、JA全農に次ぐ規模になった。両社とも株主が三井物産だった縁もあり、フィード・ワンも三井物産が25%の筆頭株主。統合後に就任した山内孝史社長、そして現・庄司社長も三井物産出身だ。庄司氏は三井物産在籍時、長年飼料業界を担当していた。

「移籍後に感じた当社の強みは、社員が真面目で顧客とウェットな信頼関係を築いているということ。当社では全国8つの畜産飼料の営業拠点に、鶏豚牛それぞれの専門チームが在籍しています。顧客の畜産農家の経営が苦しくなった時、銀行や商社ならドライに手を引くでしょう。しかし当社の営業は社内を説得してどうにかそこへ餌を持っていこうとする。餌がなくなったら家畜は死んでしまいますので、動物の命への使命感がものすごく強いのです。東日本大震災で道路が寸断された時も、農水省に掛け合い、業界で協力して餌を運びました。顧客から信頼を得ることで流通量を伸ばしてきましたので、今後もそこを大切にしていきます」(同氏)

ベトナムでは最高益更新
三井物産連携で海外強化

同社では成長の指標として経常利益を重視している。過去の最高益は21年の60億8100万円。前期は17億1100万円だが、今期は35億円への回復を見込んでいる。

「畜産用飼料は40億円の基礎収益+アルファで50億円を出す力がある。水産飼料と食品で10億円ずつ、あとは海外事業が昨年初めて億単位に届いたのでここを強化したい」(同氏)

海外では、ベトナムに畜産飼料、インドに水産飼料の工場を保有。前期は国内が減益となった中、ベトナムでは最高益を更新した。今後もアジアでの展開を強化していく。

「海外の生産拠点拡大施策として、三井物産との連携が挙げられます。当社の工場建設・運営ノウハウと掛け合わせてシナジーを最大限発揮できるよう戦略を練っています」(同氏)

同社では前期のように業績に波があっても25円の安定配当を続けてきた。今期も25円の配当を予定している。

2023年1月期 連結業績

売上高3,079億1,100万円26.6%増
営業利益14億2,200万円66.9%減
経常利益17億1,100万円66.2%減
当期純利益10億3,000万円71.8%減

2024年3月期 連結業績予想

売上高3,230億円4.9%増
営業利益35億円146.0%増
経常利益35億円104.5%増
当期純利益23億円123.1%増

※株主手帳24年1月号発売日時点

庄司 英洋 社長
Profile◉庄司 英洋 社長(しょうじ・ひでひろ)
1964年12月生まれ、東京都出身。88年東京大学農学部卒業後三井物産に入社。飼料製品や畜産物の販売、穀物・砂糖などの貿易に携わる。同社食料本部食糧事業部長、食料・流通事業業務部長などを歴任。2020年フィード・ワンに上席執行役員経営企画部長として出向。経営全般、海外展開、基幹システム導入プロジェクトに携わる。21年常務執行役員経営企画部長兼水産飼料部副管掌、22年代表取締役社長に就任(現任)