1975年生まれ。 輸出用中古車の仕入れ業務などの会社を経て中古車販売会社設立。オートオークションバイヤーネットワークの構築や若者向けクルマ関連サイトの立ち上げなど、中古車ビジネスのエキスパートとして数々の実績を有する。中古車流通の理想形を実現するべくUcarPAC株式会社を設立。
創業から現在までの事業の変遷について教えてください。
弊社は、「自動車流通の革新」をテーマにしている企業です。
私が中古車流通業界に出会ったきっかけは、その業界で働く友人に誘われ中古車の業販オークションを見学しにいったことでした。そのオークション会場で、自分がつい最近買った中古車が半額以下の値段で売られていることを目の当たりにし衝撃を受けました。ここで自分に高値で売りつけた中古車事業者に腹が立つと同時に、この業界にビジネスの可能性を感じ、その日に友人に頼み込み、中古車の業販オークションを行っている会社で雇ってもらいました。
その後、実際にこの業界で働くうちに、一般ユーザーと業者との情報の非対称性を利用した業界の体質やDX化の遅れなど、様々な気付きがあり課題が非常に大きい業界であると感じました。
そんな中で、テクノロジーを活用することで、中古車販売店で中古車を購入するのと全く変わりないサービスが受けられるC2C(個人間取引)のビジネスモデルを立ち上げ、そこで中古車の売買ができれば、売り手はより高く、買い手はより安く中古車の売買ができるのでないかと考え、消費税の増税のタイミングでUcarPACを立ち上げました。
ただ、C2Cのモデルは、日本では既存の中古車小売ビジネスが既に成熟していることに加え、車のような高価な商品の売買は、取引や商品そのものの信頼性を担保することが難しい点や売り手と買い手とのマッチングが難しいという課題がありました。そこで、中古車の買い手に中古車事業者を用意するCtoB(個人-業者間取引)のビジネスモデルにすることと、取引や商品の保証を自社が請け負うことで、その問題を解決しました。
売り手個人の車を自社開発の査定アプリで検査し、車両情報のデータにします。車は、データとして、全国8,000店以上の中古車事業者が参加するオークションに出品され、売却先が決まっていく、全てがオンライン上で取引されるモデルを現在展開しています。
その結果、出品された車のうち、平均で半数以上が売れています。さらに、買取価格が高くなれば高くなるほど、私たちの収益も上がるため、本当にユーザー目線で事業活動ができるということも私たちの強みになっています。
弊社では現在、長らく業界では当たり前となっていた一般ユーザーと業者との情報の非対称性を解消するため、Webサイト上で買取相場価格が個人情報の入力なしで確認できるようにする「情報の透明化」や常に最新の相場価格を知ることができる「車の資産化」、AI(人工知能)を活用した査定システムなど、新たなチャレンジを続けています。
一番影響を受けた書籍とその理由は?
この話を聞いて一番最初に思いついた本は『ユダヤの商法』でした。この本は高校生の頃に買った本で、ビジネスに対する視点や、自身でお金を稼ぐという概念に初めて触れた本で、振り返ってみるとこの本で学んだことが結果的に、私に起業するという選択肢を与えたように感じます。当時はサッカーに没頭しており、ほとんど読書する習慣もなかったのですが、たまたま本屋に訪れた際に、なんとなく手に取ったこの本は、ビジネスとは程遠い生活をしていた私にとっては新鮮で刺激的でした。
『ユダヤの商法』の中に書かれていた戦略的な思考は、これまでサッカーなどを通じて、無意識に行っていたことがきれいに言語化されており、それまでは持っていなかった視点を得ることができました。当時は面白い内容だなという印象だけでしたが、これが現在のビジネスに対する取り組み方に少なからず影響を与えていると感じています。
読書はどのように仕事に生かせたでしょうか。
読書は私の仕事に様々な面で生かされていると思いますが、特にビジネスにおける戦略的な思考について役に立っていると感じます。誰でも目の前の課題を解決することに専念してしまいがちですが、より大きな視野を持ち、今後何が起こるかを予測し、それに対する対策を講じるという思考の基本プロセスが身についたことは大きな成果です。
ビジネスにおいては、誰が何を求めているのか、どのようなサービスがいつ売れるのか、といったことを考える必要がありますが、これらの思考法はだれもがなんとなくは理解していると思います。ただ、これを言語化して説明したり、実行するということはできない方がほとんどだと思います。これらのことに対し、理解を深め自分に落とし込むためには、自分ひとりでは言語化しきれないものも、著者が言語化してくれているので、自分の言葉に落とし込む際に書籍が大きく役に立っています。
経営において重要としている考え方を教えてください。
経営において私が重要としている考え方は、常にユーザー視点に立ち、その上で最善の仕組みを更新し続けていくことです。
私たちは、直接ユーザーと車を売買しているわけではなく、売り手と買い手とのマッチングのプラットフォームを提供する仲介者としての立場です。この立場だからこそ、売り手と買い手の情報の非対称性を解消し、ユーザーにとって最良の選択を行うための情報を提供することが私たちの役割であると考えています。さらに、市場や社会状況は常に変わるので、それに対応して柔軟に最適なビジネスモデルや仕組みを更新し続けることも重要です。
我々の業界は非常に市場規模が大きく、大手企業も含め多数の企業が関わっています。ここで勝ち上がるために、資金力や物量で勝負するのではなく、顧客視点で他社よりも早いスピードで変化し続けるということは常に念頭においていることです。
最後に、御社の未来構想や従業員への期待について教えてください。
私たちの未来構想は、モビリティ業界の情報の中心になることです。現在、自動車を含めたモビリティ業界は100年に一度と言われる大きなパラダイムシフトの真っ只中です。自動運転や電気自動車など、多くの技術革新が自動車業界を席巻しています。しかし、それらの革新を支えるのは新しい技術だけではありません。それらを活かすために必要なのは、適切な情報とそれを活かすためのITの力です。
どんなにITが発達しても、企業ごとに開発している限りは、情報が自然に一元化されるということは起こらないと思います。そこで、私たちは、自動車を直接作ることや売ることという部分よりも、情報の力で新しい価値を発揮し、自動車の流通に革新をもたらす存在になりたいと考えています。
また、従業員ひとりひとりに対して期待していることにもつながるのですが、私たちが情報を用いて市場を牽引する上で重要なことは、常に一手先を見越して行動することです。そのためには、情報を集めるだけでなく、それをどのように活かすかという視点も必要です。このような中で、未来のことを予測し、それに対する戦略を考えていると、段々とビジネスが面白くなってきます。そこで、社員の皆にも、目先のことだけでなく、未来を予測するために頭を動かし続けるということが心地よくなるくらいに思考することに慣れてもらいたいと思います。その上で、皆が面白いと感じるような仕事を共にやっていけたら嬉しいです。
- 氏名
- 中谷 圭吾(なかたに けいご)
- 会社名
- UcarPAC株式会社
- 役職
- 代表取締役
- サービスサイト
- ユーカーパック