この記事は2024年2月7日に「The Finance」で公開された「【連載】保険×DX~社会との共通価値創造(CSV)に向けて~③ あいおいニッセイ同和損保が描く「未来」とグローバルに展開するCSV×DXストーリー」を一部編集し、転載したものです。
近年、技術革新をはじめとする企業の環境変化は加速度を増しており、事業活動の在り方そのものにも変革が求められている。この急速な変化に対応するため、あいおいニッセイ同和損保は2022年に国内外を横断する「未来戦略創造プロジェクト」を立ち上げた。以下では、そのプロジェクトのミッションと取り組み内容について紹介する。
「CSV×DX」とは
前回の連載記事においては、あいおいニッセイ同和損保が打ち出した「CSV×DX(シーエスブイ バイ ディーエックス)」に至った背景や考え方について言及したが、近年は更なる高度化、グローバルへの展開を目指し取組を進めている。
未来戦略創造プロジェクトのミッション
あいおいニッセイ同和損保は「CSV×DX」を中期経営計画の核に位置づけており、中心的な役割を果たす全社横断プロジェクトの一つとして2022年8月に「未来戦略創造プロジェクト」をスタートさせた。2022年8月に同社内に設立された未来戦略創造部と、同社の100%子会社であるAioi Nissay Dowa Europe Limitedがオックスフォード大学のAIベンチャーであるMind Foundry社(以下、MF)と2022年11月に英国で共同設立した研究所「Aioi R&D Lab-Oxford(以下、Lab)」の2者が、このプロジェクトの運営主体となっている。
未来戦略創造プロジェクトでは、「CSV×DX」に基づき、グローバルな社会・地域課題の解決を目指している。具体的には、高度なAI開発力を有するMFと、世界トップクラスの知識を持つオックスフォード大学の教授陣と共に研究を行い、最先端技術を活用した保険商品・サービスの社会実装に加え、新たなビジネスモデルの構築を目指している。
「事故のあとの保険から事故を起こさない保険へ」という理念のもと、テレマティクス自動車保険が生まれたように、あいおいニッセイ同和損保は「CSV×DX」に基づき、保険の「補償」機能を超えた新たな価値を提供するためのさまざまな取り組みを行ってきた。この取り組みをさらに進化させ、グローバルに展開するために立ち上げたのが未来戦略創造プロジェクトである。
未来戦略創造プロジェクトの取り組み内容
保険業界を超えた社会課題の解決を目指し、LabにおいてAI活用に関する様々な研究・開発を行っている。例えば、あいおいニッセイ同和損保の主力商品であるテレマティクス自動車保険にて取得した走行データを活用したサービスの進化や、インフラの老朽化対策や高齢化社会における新たなソリューションの検討、健康ヘルスケアなどの分野でのパーソナライズドな保険サービスの開発、生物多様性の保護を含む環境リスクへの対策に関する研究、最先端技術である量子コンピュータとAIの融合、生成AIの責任ある使用に向けた研究などがあり、保険業界を超えた社会課題の解決に取り組んでいる。オックスフォード大学を代表する各分野の教授が、Labの運営をアドバイザーとして支援する態勢があり、研究・開発を通じた多岐にわたる社会課題解決への挑戦を可能にしている。
これまで、あいおいニッセイ同和損保が保有するビッグデータとAIに関するLabの知見が結びつき、大きなビジネス価値を創出している。一例として「保険金の不正請求検知」に関するAIモデル開発が完了したほか、「AI橋梁点検サポートツール」の開発を開始した。
(1)AI不正検知システム開発プロジェクト
保険金の不正請求対策は、顧客保護を最優先に、健全かつ安定した損害保険制度の運営という観点から、損害保険業界全体で取り組むべき重要な課題の一つである。あいおいニッセイ同和損保は、過去に提出された見積書から修理工場ごとの修理費請求の傾向を把握し、事故車両の損害調査体制を強化するためのシステムを開発した。請求データや関連する大量のデータを活用したこのシステムは、調査業務の高度化と効率化を実現するものである。現在は自動車保険における修理工場を対象としているが、不正請求の撲滅に向けて、将来的には他の保険種目や他業種への展開を目指している。
(2)AI橋梁点検サポートツール共同開発プロジェクト
あいおいニッセイ同和損保は、保険業界を超えたソリューション開発を目指し、社外パートナーとのアライアンス構築活動も積極的に実施している。例えば、日本だけでなく世界でも社会課題となっているインフラの老朽化対策を行うプロジェクトとして、静岡県裾野市とAIを活用した橋梁点検サポートツールの共同開発に取り組んでいる。
このプロジェクトでは、裾野市が管理する297橋の点検と国土交通省の道路橋定期点検要領に基づき、過去に裾野市で行った橋梁点検のデータを活用するものである。橋梁の損傷状態の検知、数値化と橋梁の健全性の自動判定を実現し、正確かつ効率的な橋梁の維持管理に貢献するAIソリューションを開発する計画である。また将来的にはテレマティクスデータから得られる車両の振動データ等を用いてAIを高度化させる研究も進め、橋梁以外のインフラメンテナンスの展開など社会課題解決へ向けた一層の取り組みを行っていく予定である。
グローバルに展開するCSV×DX
未来戦略創造プロジェクトでは、あいおいニッセイ同和損保のグローバルなネットワークを活用し、様々な課題に取り組んでいる。例えば、台湾やタイなどグローバルな地域の課題を吸い上げこれらに取り組んでいる。さらに、MFや英国オックスフォード大学のネットワークを活かした取り組みにも注力している。
(1)London Tech Week におけるリバースピッチイベント
2023年6月に開催された世界最大級のTechイベントの一つ、London Tech Weekにおいて、Lab向けのリバースピッチイベント(※)を実施した。本イベントへの参加は、当社の日英におけるCSV×DXの取り組みが英国政府から評価され、駐日英国大使館からの強い後押しを受けて、アジア地域から唯一Labが選ばれた。CSV×DXに賛同し、Labの重点取組テーマである「環境(EV、気候変動、生物多様性を含む)」領域で社会課題解決を目指す英国スタートアップ企業約30社の候補から、Labが選出した8社が参加した。Labからは、目指す姿と取り組むべき社会課題を説明し、参加した8社の企業がそれぞれプレゼンテーションを行い、1社を優勝企業として選定した。現在、ピッチイベントで優勝した企業と本格的なコラボレーションを見据えたディスカッションを行い、日英でのグローバルな取り組みを検討している。
※スポンサー企業側が事業概要や課題をプレゼンし、スタートアップ企業からソリューション提案を募るイベント。スタートアップ企業がスポンサー企業候補にビジネスアイディアを提案する「ピッチ」とは逆のもの
(2)British Business Awards 2023での「UK-JP Partnership賞」受賞
英国企業との取り組みは対外的にも評価されており、あいおいニッセイ同和損保は2023年11月に、在日英国商業会議所主催の British Business Awards 2023 で「UK-JP Partnership 賞」を受賞した。この「British Business Awards 2023」は、2008年から開催されている在日英国商業会議所の年間イベントであり、ビジネス、アート、テクノロジー、政府の各界から選ばれた6人の独立審査員によって、卓越性、革新性、多様性、起業家精神、日本でのビジネスへの貢献度で評価され、日英の関係構築に寄与する取り組みを行った企業を受賞者として選出するものであり、あいおいニッセイ同和損保は保険業界初の受賞となった。
これからもあいおいニッセイ同和損保はCSV×DXを通じて、社会・地域課題の解決を国内だけでなく、グローバルに展開していくことを目指している。また、あいおいニッセイ同和損保が持つさまざまなネットワークを活用し、戦略パートナーであるMFやオックスフォード大学などの社外パートナーとの協業関係をより一層強化し、グローバルに社会・地域課題の解決や社会の発展に貢献していく。
未来戦略創造部長 兼 Aioi R&D Lab -Oxford取締役
入社後、各地で企画営業を経験し2013年より海外駐在員としてタイ・カンボジア・ラオスのテレマティクス事業の0→1を手掛ける。帰国後は、米国事業やCASE領域の商品・サービス開発に従事し、2023年より現職。社会課題解決モデルの構築、テレマティクス自動車保険の次の柱の基盤づくり、会社の未来創造に尽力。