厚生労働省が発表した「基発1224第2号通達」により、要件を満たした産業用ロボットはさくや囲いを設ける必要がなくなりました。これにより、協働ロボットの導入が可能になりましたが、実際に現場ではどのように活用できるのでしょうか。

本記事では、協働ロボットの特徴や代表的な活用例、具体的な導入手順などについて解説します。

目次

  1. 協働ロボットとは?
  2. 協働ロボットが得意な作業
  3. 協働ロボットの代表的な活用例
  4. 協働ロボットの導入をサポートするロボットSler
  5. 協働ロボットを導入する際は補助金を活用できる
  6. 協働ロボットの導入で省力化が実現する

協働ロボットとは?

協働ロボットとは?産業用ロボットとの違いや得意な作業、活用例を紹介
(画像=Maksym/stock.adobe.com)

協働ロボットとは、人と共に働くロボットを指します。すなわち、人の関与がほぼなく、人と隔離された環境で動作するロボットではなく、人のそばで人と共に働くロボットを協働ロボットと呼びます。協働ロボットは「コボット」と呼ばれることもあります。

従来、産業のために用いられるロボットは、労働安全衛生規則第150条の4において「労働者に危険が生ずるおそれのあるときは、さく又は囲いを設ける等当該危険を防止するために必要な措置を講じなければならない」と定められていました。そのため、産業用ロボットは人のそばで人と共に働くことを禁じられていたのです。

しかし、厚生労働省が発表した「基発1224第2号通達」により、ISO 10218-1:2011とISO 10218-2:2011の要求事項を満たし使用条件にもとづき適切に使用する場合と、リスクアセスメントにより危険の恐れがなくなったと評価できる場合には、さくや囲いを設ける必要がなくなりました。

この通達により、産業のために用いられるロボットは、必ずしも人と隔離する必要がなくなりました。よって、協働ロボットが産業の現場で利用できるようになったのです。

従来の産業用ロボットとの違い

従来の産業用ロボットと異なるのは、さくや囲いを設けなくても利用できるようになった点です。しかし、産業用ロボットのうち「基発1224第2号通達」に記載の条件を満たすものが協働ロボットです。そのため、従来の産業用ロボットの安全性が高まったものが協働ロボットと呼ばれています。

従来の産業用ロボットはISO 10218-1:2011とISO 10218-2:2011の2つの規格を満たす必要がありましたが、基本的には隔離して利用するため、それ以上の高い安全性は求められませんでした。

一方、協働ロボットはさくや囲いなしで人間と共に働くため、高い安全性が求められます。従来の産業用ロボットが求められる条件に加え、ISO 15066の要件も満たすことが必要です。

協働ロボットの特徴

協働ロボットは、産業用ロボットに要求される項目に加え、ISO 9001の項目である以下の4つに関する条件も要求されます。

  • 安全適合監視停止(Safety-rated monitor stop)
  • ハンドガイド(Hand guide)
  • 速度と分離の監視(Speed and separation monitoring)
  • 動力と力の制限(Power and force limiting)

これらはすべて、協働時の安全性を確保するために設定されています。例えば、人がロボットの可動範囲に侵入した場合に自動で停止したり、人間に害を与えないような速度や力で動作したりする能力が求められます。

このように、協働ロボットは従来の産業用ロボットに比べて制約が厳しくなっています。そのため、協働ロボットに任せる仕事は、制限された動きを繰り返し行う作業が多くなります。しかし、協働ロボットの理想的な働きは、人の作業を能動的に助けることです。

安全性の高さと能動的な動きの両立は難しいですが、深層学習やIoT技術を活用して、理想的な協働ロボットの開発が進められています。

協働ロボットが得意な作業

協働ロボットは、安全性を高めるために動きが制限されていますが、得意な作業もあります。ここでは、協働ロボットが得意とする動きを解説します。

  • 人と並んで行う作業
  • やわらかいものや形の異なるものを扱う作業
  • 精密な組立や仕上げ作業
  • 複雑な動きが必要な作業

人と並んで行う作業

これまでロボットを活用するには、さくや囲いを設けて人の作業スペースと隔離する必要がありました。しかし、協働ロボットは人の近くで作業できるため、人と並んで行わなければならない作業も実行可能です。

例えば、人が品質の確認をした後に、となりで協働ロボットが包装や梱包を行うなどの連携をとることができます。また、隔離するためのさくや囲いが不要になるため、省スペース化にも役立てられるでしょう。

やわらかいものや形の異なるものを扱う作業

協働ロボットは、やわらかいものや尖ったものなど、人が掴むのが難しいものを扱う作業が得意です。人は5本指という決まった形でしかものを掴むことができませんが、協働ロボットのアームはさまざまな形に変更できます。

例えば、包み込むような形状を取れば、やわらかいものを容易に掴み、運ぶことができます。また、防刃生地を用いれば、ガラスや刃物などの尖った物体を扱う際も、ハンドを傷つけることなく作業できます。

精密な組立や仕上げ作業

協働ロボットは、緻密な組み立てや仕上げ作業など集中力が必要とされる作業が得意です。組み立てや仕上げ作業には、熟練技術者の技術や感覚が必要になることがあります。しかし、技術継承や人手不足の問題もあり、技術力に優れた技術者がいないこともあるでしょう。

そのような場面では、協働ロボットが有効です。力覚センサや位置センサなどを活用することにより、人よりも正確な組み立てや仕上げ作業が実現するでしょう。

複雑な動きが必要な作業

協働ロボットは、複雑な動きが必要な作業も得意です。従来、協働ロボットに複雑な動きをさせるには、対応するプログラムをそれぞれ構築しなければなりませんでした。しかし現在は、ダイレクトティーチング機能を用いることで、協働ロボットに動作を教えることが可能です。

ダイレクトティーチングとは、機器を人の手で直接動かしてロボットに動作を教える手法です。これを利用すれば、熟練技術者の動作を、プログラミングを介することなく教えることができます。

協働ロボットの代表的な活用例

協働ロボットとは?産業用ロボットとの違いや得意な作業、活用例を紹介
(画像=Varitnan/stock.adobe.com)

協働ロボットは、具体的に以下のような作業に用いられます。

  • ねじ締めなどの組み立て作業
  • 検査の自動化
  • 完成品の箱詰め・充填作業
  • 食品加工
  • 倉庫内のピッキング作業

ねじ締めなどの組み立て作業

協働ロボットに位置センサや力覚センサを取り付ければ、ねじ締めを正確に実施できます。人によるねじ締めは、締め込みのばらつきや締め忘れなどのミスが発生してしまいます。協働ロボットは、手順を忘れたり集中力が途切れたりしないため、ねじ締めの精度を上げながらミスを減らすことが可能です。

また、ねじ締め作業は身体に負担のかかる作業でもあります。こうした作業を協働ロボットで代替すれば、従業員の身体的な負担を軽減でき、労働環境の改善にもつながるでしょう。

検査の自動化

協働ロボットには、さくや囲いを設置する必要がないため、作業レーン上で検査を自動化できるようになります。これまで、産業用ロボットで検査する場合には、さくや囲いを人手で開け、ロボットが検査できる位置までもっていく必要がありました。

しかし、協働ロボットには、さくや囲いを設置する必要がないため、製品を製造した作業レーン上で検査を行うことが可能です。これにより、検査に人手をかける必要がなくなります。

完成品の箱詰め・充填作業

さまざまな形状のロボットハンドや画像認識技術を用いれば、協働ロボットは完成品の箱詰めや充填作業ができるようになります。箱詰めや充填作業には状況に応じた判断能力が必要になるため、多くの企業が人手を割いて行っていました。

しかし、画像認識技術などをはじめとするAI技術が発展したこともあり、ロボットも状況に応じた適切な判断を行えるようになってきています。これにより、迅速かつ適切な箱詰めや充填作業ができるようになっています。

食品加工

食品加工の現場では、同一の食品を扱っている場合、原料のかくはんや切り分けなど、単純作業を繰り返すことが多いです。このような工程は協働ロボットにより比較的簡単に自動化できます。また、デジタルセンサーを搭載すれば、加工作業中に異物が混入してもすぐに検出できるため、食品の安全性も高められます。

ただし、肉や魚などの動物処理には個体差を考慮した高度な作業が求められ、さらに食品を制御するハンドの衛生状態の管理も必要になることから、こうした食品ならではの対応については課題も残っています。

倉庫内のピッキング作業

輸送能力を持つロボットであれば、倉庫内のピッキング作業を行えます。実際に開発されている協働ロボットは、ピッキングに加えて以下のような作業が可能です。

  • 加工機からの積み荷
  • 重量物運搬
  • 棚の牽引
  • 自律移動

これらの機能を活用すれば、倉庫内の作業にかかる人手を大幅に削減できます。特に、人手不足に悩んでいる企業に効果的といえるでしょう。

協働ロボットの導入をサポートするロボットSler

協働ロボットを導入する際は、ロボットSIer(ロボットシステムインテグレータ)を活用することで、最適なロボットを利用できる可能性が高まります。ここでは、ロボットSIerに依頼したときの具体的な流れやメリットなどを見ていきましょう。

ロボットSler(ロボットシステムインテグレータ)とは?

ロボットSler

ロボットSIerとは、ロボットの最適な導入提案や、実際の設計、構築などを一貫して行う事業者のことです。協働ロボットの導入にはさまざまな知識が必要ですが、全ての経営者がその知識を持っているわけではありません。そこで、ロボットSIerがユーザーとメーカーの間に入り、適切なロボットの導入をサポートします。

ロボットSIerが必要とされている背景には、ユーザーによってロボットへの要求事項が大きく変わることが挙げられます。協働ロボットをはじめとする産業用ロボットは、企業によって搭載すべき機能や精度が異なります。そのため、ロボット導入の効果を最大化するには、導入する企業ごとにロボットをオーダーメイドする必要があるのです。

そのほかロボットSIerは、法令順守や補助金の活用などのサポート、ロボット納品後のアフターサービスも行います。このように、ロボット導入全般のサポートを行い、ユーザーに最適なロボット運用を提供するのがロボットSIerの役目です。

ロボットSlerに依頼するメリット

ロボットSierに依頼することで、ユーザーは以下のようなメリットを得られます。

  • 生産性向上のためのコンサルティングが受けられる
  • 労働環境の改善支援が受けられる
  • 投資金額と要求事項に応じたロボットを提案してもらえる
  • 導入のほか、設置・試運転・調整・生産運用・保守まで支援が受けられる
  • データ活用の支援が受けられる

このように、ロボットに関する知識がなくても、適切に導入・運用できるようにサポートしてくれます。もちろん、ロボットに関する知見が十分に備わっている企業はロボットSIerを活用しなくても、最適なロボットを選定できるでしょう。

しかし、ロボットの知見がないのにも関わらず自社でロボットを選定してしまうと、想定通りの効果が得られず、かえって損をしてしまうかもしれません。ロボットの知見が十分でない企業は、ロボットSIerの活用を検討してみてください。

ロボットSlerに依頼したときの導入の流れ

ロボットSIerに依頼すると、基本的には以下のような流れでロボットの導入が進められます。

  1. 事前検討・企画構想
  2. 仕様定義
  3. 設計
  4. 製造・テスト
  5. 本稼働
  6. 保守・点検

それぞれの工程で受けられるサポートを見ていきましょう。

1. 事前検討・企画構想

現場の視察やヒヤリングを通して、ロボットを導入する目的を明確にします。ロボットSIerは事前検討を通して、どのようなロボットを導入すれば企業が最も利益を得られるかを考え、それを実現するために具体的な構想を立てます。

2. 仕様定義

ロボット導入の目的を達成するための仕様を明確にします。ロボットSIerは仕様書を作成し、ユーザーとすり合わせます。この際、目的が達成できる仕様になっているかをしっかり確認しておくことが重要です。

3. 設計

仕様が決まれば、それに応じてロボットの設計を行います。基本的にロボットは、CADやシミュレーターなどのツールを用いて、コンピューター上で設計されます。協働ロボットには高い安全性が求められるため、ここでは安全に関するシミュレーションも必須です。

4. 製造・テスト

設計が終われば、部品を調達して実際にロボットを製造していきます。製造が完了次第、ユーザーが求める要件を満たしているかをテストし、問題なければ納品します。

5. 本稼働

納品後は本稼働できるよう、ユーザー側でテストを行い、実際の稼働現場で安全性や必要な性能を有しているかを確認します。そのため、まずは目的の要件よりも低負荷で稼働することが多いです。全ての要件が確認できれば、本稼働に入ります。

6. 保守・点検

ロボットSIerは、納品後の保守や点検も担当してくれます。特に、ロボットに関する知見がない企業は、保守体制がないと問題発生時に対処できません。長く安心して利用できるよう、保守や点検などのサービスも積極的に活用しましょう。

協働ロボットを導入する際は補助金を活用できる

協働ロボットの導入においては、活用できる補助金がいくつかあります。ここでは、2024年3月時点で活用できる主な補助金を2つ紹介します。

名称ものづくり補助金
(正式名称:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)
概要中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的な製品・サービスの開発、生産プロセス等の省力化を行い、生産性を向上させるための設備投資等を支援します。
引用:全国中小企業団体中央会「公募要領(18次締切分)1.1版」
限度額8,000万円 ※条件によって異なる
リンクものづくり補助金総合サイト

ものづくり補助金は、主に中小企業や小規模事業者に向けた補助金制度です。年に複数回の募集が実施されており、多くの企業が活用できる補助金となっています。

名称事業再構築補助金
概要経済社会の変化に対応するために新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業・業種転換、事業再編、国内回帰又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。
引用:中小企業等事業再構築推進事業「公募要領」
限度額1.5億円 ※条件によって異なる
リンク事業再構築補助金

事業再構築補助金は、中小企業などがポストコロナ・ウィズコロナの経済変化に対応するために、思い切った事業再構築をする場合に活用できる補助金です。補助金の限度額が高いため、大きな改革を実施する際に活用できるでしょう。

協働ロボットの導入で省力化が実現する

協働ロボットを導入すれば、組み立てや検査、加工などの工程を自動化できるため、省力化が実現します。人手不足に悩んでいる企業でも、協働ロボットの導入で労働力不足を補えるかもしれません。

また、協働ロボットの導入をサポートするSIerや補助金を活用すれば、効率的かつ経済的に協働ロボットの導入を進められます。これを機に、協働ロボットによる自社の課題解決を検討してみてはいかがでしょうか。

(提供:Koto Online