PR会社のベクトル<6058>がM&Aに力を入れている。同社が公表している沿革と適時開示情報を合わせたM&A案件(グループ内再編を除く経営権の移動を伴う案件)を見ると、2023年は6件(取得4件、譲渡2件)、2022年は5件(取得5件)となっており、2021年の0件、2020年の1件と比べると明らかに件数が増加しているのが分かる。

同社は2023年7月にデジタルマーケティング支援事業を手がけるOwned(東京都品川区)を子会社化した際に、「今後もM&Aを含むグループの強化に取り組む」としており、M&Aに注力する姿勢に鮮明にしていた。

また、広告の主役が従来のテレビやラジオ、新聞などから、インターネットに移り変わっており、デジタル領域の事業強化は避けて通れる状況にはない。こうした点を踏まえると、今後もデジタルを中心に活発なM&Aが続くことになりそうだ。

非連続的な成長を目指す

ベクトルは顧客のいいモノを世の中に広めるためのマーケティング戦略を総合的にサポートする「FAST COMPANY」構想を掲げており、この構想を実現するために「M&A」と「スタートアップへの出資と成長支援」の二つを重要項目と位置付けている。

そのM&Aについては、同社が2023年9月に発表した「統合報告書(VECTOR Integrated Report)2023」の中で、西江肇司会長兼社長が2022年を「デジタル領域のM&Aを積極的に実行するなど、次の10年に向けた成長基盤を構築できた年」と評価。

さらに、この傾向は2023年も続いており、Ownedのほかにもデジタルマーケティング事業を手がける韓国JNJや、転職Webメディア事業を手がけるビジコネットの子会社化など、デジタル領域でのM&Aを相次いで実施した。

統合報告書では、コア事業とのシナジーが見込めるM&Aを積極的に推進し「オーガニック成長(自社の経営資源を活用した成長)を加速させるとともに、非連続的な成長を目指す」としており、M&Aに大きな期待を寄せていることがうかがえる。

投資の対象は「FAST COMPANY」構想を拡大、拡充できる企業で、特にデジタル広告を手がける企業に的を絞っているという。2024年は、まだM&Aが実現していないものの、ターゲットは明確なため第一号の実現はそう遠い先ではなさそうだ。


スタートアップへの出資と成長支援にも注力

ベクトルは1993年にセールスプロモーション事業を目的として創業し、その年に社名を「ベクトル」に改めた。

2004年にベクトルスタンダード(現アンティル)、ベクトルコミュニケーション(現プラチナム)を設立し、翌2005年にWOMCOM(現シグナル)、キジネタコム(現PR TIMES)を設立するなどして、事業領域を拡大していった。

2012年に東京証券取引所マザーズ市場に株式を上場し、2014年に東京証券取引所市場第一部に指定替えとなった。

同社が公表している沿革によると、最初のM&Aは2013年のIRアドバイザー(現IR Robotics)の子会社化。その後もM&Aを実施したが件数は伸びず、多い年でも数件に留まっていた。

それが2022年、2023年に急増。これによって顧客が必要とするマーケティングなどのサービスを幅広く提供できる体制の整備が進んだ。

現在は顧客がモノを広めるための支援を行う「PR COMPANY」事業をメインに、顧客の人事、採用面の支援を行う「HR COMPANY」事業、新規事業を創出する「COMPANY FACTORY」事業、投資を行う「INVESTMENT」事業の4部門で事業を展開している。

中でもスタートアップへの出資と成長支援を行う「INVESTMENT」は、M&Aと並ぶ「FAST COMPANY」構想実現のための重要な取り組み。出資するだけでなく、同社が得意とするPRとIR(株主や投資家に対する情報提供活動)を合わせて支援するのが特徴だ。

こうした取り組みで投資先企業の成長を加速させており、2023年9月時点で200社以上の企業に出資した。このうち28社がIPO(新規株式公開)を実現している。

同事業による同社業績への直接的な貢献はもちろんのこと、最先端の事業を行う企業に出資することで、どのような事業が成功するのか、どのようなモノの広め方を求めているのかが分かるため、同社の他の事業領域とのシナジーも見込めるという。

スタートアップへの出資と成長支援は、同社の成長にとっては欠かせない取り組みなのだ。

M&A Online
(画像=「M&A Online」より引用)