M&Aによるパッケージソリューションで顧客拡大を狙う

2015年6月にルネサス会長兼最高経営責任者(CEO)に就任した元日本オラクル社長の遠藤隆雄氏が、欧州自動車向け半導体大手独インフィニオン・テクノロジーズからの出資を検討していたことから同年12月に辞任。これにはインフィニオンの資本参加でルネサスの価格交渉力が強まることを懸念した国内自動車業界と、日産出身の志賀俊之INCJ会長の意向が強く働いたとされる。

2016年6月にカルソニックカンセイ(現マレリ)元社長兼CEOや日本電産(現ニデック)副社長などを歴任した呉文精氏がルネサスの社長兼CEOに就任。2017年2月に米アナログ半導体大手インターシルを完全子会社化、2019年3月にも同じくアナログ半導体の米Integrated Device Technology, Inc.(IDT)を完全子会社化し、M&Aによるグローバル戦略を加速する。

ところが、2社で1兆円を超える巨額のM&Aに社内外からシナジー効果への疑問の声が上がり、同社の業績や株価も低迷したことから、呉氏は2019年6月に辞任した。後任でINCJ出身の柴田英利社長兼CEOも2021年8月に電源制御半導体を主力とする英ダイアログ・セミコンダクターを約6240億円で完全子会社化している。規模は小さいが、同12月にイスラエルのアナログ半導体企業セレノ・コミュニケーションズを約359億円で完全子会社化した。

アナログ半導体や電源制御半導体の買収を進めるのは、ルネサスが得意とするMCU(マイコン)だけで勝負できるのは既存顧客だけで、供給先を広げるにはアナログ半導体や電源制御用パワーデバイスなどを組み合わせた半導体づくりが必要だからだ。

同社はマイコンやパワー半導体、アナログ半導体を組み合わせた約500種類のソリューションをパッケージ化して提案する手法による顧客開拓で、国内自動車業界だけでなく海外電気自動車(EV)メーカーや耐震診断システム向けの供給に成功している。

今後もM&Aによる顧客開拓の取り組みが進むと見られるが、既存顧客の国内自動車業界としてはルネサスにM&Aに費やすだけの資金があるのなら、1円でも安く自動車向け半導体を供給してほしいのが本音だ。国内自動車業界の出資後もルネサスに対する値下げ圧力に「待った」をかけてきたのは、柴田社長の出身母体であるINCJや源流の日立や三菱電機だった。

しかし、INCJは2023年11月に保有していたルネサス株を全て売却。これに日立や三菱電機が続く。これでルネサスのM&A戦略を積極的に支援してくれる大株主は姿を消す。最大株主となった国内自動車業界の値下げ圧力をかわしつつ、いかに成長戦略のM&Aを推進していくのか。ルネサス経営陣の説得力と、M&Aによる成果が求められる。