製造業にとって、利益を確保し、持続的な成長を実現することは最重要課題の一つです。その鍵となるのが、製品やサービスを作り出すために必要な「原価」を管理する「原価管理」です。

原価管理は、単にコストを削減することではありません。製品やサービスの価値と価格設定を適切に判断し、利益を最大化するための経営戦略です。この記事では、原価管理についての概要やメリット、原価管理を効率化するシステムについてわかりやすく解説します。

目次

  1. 原価管理とは|概要
  2. 原価管理とその他関連用語・管理手法の違い
  3. 原価管理の具体的な3つの目的
  4. 原価管理を行うメリット
  5. 原価管理を行う具体的な4段階の手順
  6. 原価管理の注意点と課題
  7. まとめ

原価管理とは|概要

原価管理とは?目的、種類、メリットと原価管理効率化のシステムを解説
(画像=mapo/stock.adobe.com)

はじめに、原価管理について概要を説明します。

原価管理とは?なぜ重要なのか

原価管理とは、特定の製品の製造やサービスの提供、あるいはプロジェクトの完了にかかるコストを管理するプロセスを指します。コストマネジメントとも呼ばれます。企業が利益を確保し、リスク管理するために製造業はもちろん、多様な業種で実施されています。

一般的な手順としては、まず目標とする原価を見積もり(これを標準原価の設定といいます)、次に実際にかかった原価を記録します。そして、標準原価と実際の原価との差異を分析します。この分析結果から原価の改善策を導き出し、利益率の向上を図るのが原価管理を行う目的といえます。

この一連のPDCAを回し、原価管理を行うことで利益率の改善だけでなく、より精度の高い原価予測が可能となり、損失発生などのリスク回避にもつながります。

【参考】そもそも「原価」とは?

原価とは、製品やサービスを製造・提供するためにかかる費用を指します。原価には、材料費、人件費(労務費)、経費などが含まれます。

製品やサービスを販売した際に得られる売上高から、原価を差し引いたものが「利益」となります。

原価をできるだけ低く抑えることで、利益を最大化することができます。また原価を分析することで、経営状況を把握し、適切な経営判断を下すことができます。この点において、原価を把握し管理することは非常に重要です。

たとえば原価分析の結果、原価が高い製品・サービスがあれば、それを削減したり、原価を抑えるための対策を講じたりすることで、原価率を下げ利益率を上げられます。また 原価を低く抑えることで、品質と利益は確保しつつ価格を抑え、顧客へ還元することも可能です。価格競争力が高まり、より多くの顧客を獲得することができます。

原価管理で何ができるのか

原価管理を行うことで、具体的には以下のことができます。

・原価の現状を把握できる
実際に発生した原価を分析することで、原価の現状を把握することができます。

・実現可能性の高い原価目標を設定できる
分析結果を用いて製品やサービスごとに原価目標を設定し、原価を低減するための対策を講じることができます。

・原価差異を分析できる
実際に発生した原価と原価目標との差異を分析し、その原因を特定することができます。

・原価を改善できる
原価差異が起きた場合は、その原因を、分析結果に基づいて予想し、さらなる原価改善活動へつなげます。

【参考】日本の中小企業の原価管理状況

原価計算や原価管理は、日本では主に大企業が中心となって研究や改善が進められてきた経緯があります。一方、中小製造企業においては、「原価計算がそもそも実施されていないケース」「原価計算だけは行っているが、原価管理という観点がなく、実施されていないケース」もあると懸念されています。中小製造企業はリソース(人材、設備、費用など)が少ないことが多いことが原因と考えられます。

従来の日本では、原価計算よりも現場で製造を行うべきという考え方が美徳とされ、根付いているのではないかという指摘もあります。

しかし近年では、製造業における事業承継が年代的に起こる中で、競争力を高めるためにITシステムの導入による効率化なども必要になってきています。このタイミングで企業として原価計算をはじめとして原価管理、予算管理などを進めていかなければならないとされ、現在の日本の製造業における課題とされています。

中小製造企業における原価管理の課題
(出典・参考)「中小製造企業における原価管理の課題」,上田 巧 著,2018,早稲田大学リポジトリ

原価管理とその他関連用語・管理手法の違い

原価管理と似た用語、関連する用語について、意味の違いや管理手法の違いについて解説します。

原価管理と予算管理の違い

「予算管理」とは、企業活動を行う上で必要な、経営上の数値目標管理を指します。予算管理では、おおむね以下の手順を行います。

  • 費用を目標として算出する
  • 定めた予算目標が期間内に達成できるように活動できているか、決算期に数値目標との乖離を確認する(期間は短期~長期、予算は売上予算、利益予算など種類がある)
  • 実績を確認し、予算が達成できなかった場合(=予定ほど利益が出ない/予定よりも損失が出ている)は、原因を分析する

一方、原価管理は、原価における予算と実績の確認と分析を行うことです。そのため、広い意味では、原価管理も予算管理の中に含まれます。また原価管理で算出された数値は正確な予算管理のために用いられます。そのため原価管理を着実に行うことはさまざまな業務や企業の方向性に影響を与えることがわかります。

原価管理と原価計算の違い

「原価計算」とは、製品やサービスの原価を「計算」することです。原価管理は、原価計算で算出した原価を用いて分析などを行うため、原価計算は原価管理に必要な手順ということになります。

原価管理と利益管理との違い

「利益管理」とは、企業全体の目標とする利益を達成するため、利益を最大化するために行われます。原価管理は原価価格、利益率、損失などを総合的に見て管理を行うのに対し、利益管理は利益向上に特化した管理手法です。この意味で、原価管理よりも狭義のものになります。

なお近年は製造業だけでなくサービス業、IT関連業、建設業などでも、企業経営の改善のために原価管理が注目されています。原価管理で用いられる項目は業種ごとに異なりますが、いずれにおいても正確に把握しなければならないことは変わりません。

原価管理の具体的な3つの目的

原価管理の目的には、主に以下の3つがあります。

利益管理を行い、利益確保・利益拡大を目指す

原価管理を行う最も重要な目的が利益の確保と継続的な利益の拡大です。

原価管理は、原価を正確に算出し、一つの製品やサービスにおいて原価(材料費や経費、人件費など)がどれくらいかかり、提供した後で実際にどれくらいの利益を得られたのか、それが原価と比較してどの程度の割合を占めるのかを分析するものです。

前述したように、同じ製品やサービスを提供するとしても、原価を低く抑えることができれば利益を最大化できます。それだけでなく、原価がなぜそれだけかかったのかを分析することで、利益を確保するための対策を講じることができます。

継続的な原価管理を行うことで、将来的な事業予測にも役立てられ、利益拡大のより良いスパイラルを続けることができるでしょう。

長期的・現実的な経営計画に役立てる

原価を分析することで、将来の事業計画を立てるための資料を得ることができます。また、原価目標を設定することで、予算管理にも役立てられ、経営目標の達成に貢献することができます。

企業の損失リスクに備える

原価管理を行うことで、原材料価格の変動や人件費の高騰などのリスクから経営を守ることができます。

社会情勢や金利変動によって、原価も常に変化します。原価管理を継続して行うことで自社の損益分岐点を把握でき(後述)、実際に原価変動が起こった際にもどのように行動すべきかを予測、計画することが可能になります。

原価管理を行うメリット

原価管理を行うことで、以下のようなメリットを得ることができます。

損益分岐点がわかる

原価管理を行うことで、製品やサービスを販売する必要がある最低数量の「損益分岐点」を知ることができます。

損益分岐点を知ることで、販売目標達成に必要な売上金額や販売数を把握することができ、より効果的な販売戦略を策定することができます。

損益分岐点(BEP : break-even point)とは、売上がかかったコストを上回るポイントを指します。損益分岐点を知ることで、「どのくらいの売上があれば原価を差し引いた後の利益が確実に出るか」「原価に対して、利益はどの程度出るのか」を把握できます。これにより、経営判断や戦略立案が容易になり、無駄なコストの削減や利益向上を図ることができます。

また「この商品はもう撤退すべきか、あとしばらく市場に出しておいて利益を回収できるか」という撤退判断の際にも、損益分岐点は有効です。

無駄なコストが可視化される

原価管理を実施することで、無駄なコストが明確に可視化されます。各工程や部門で発生しているコストを詳細に分析することで、どこに無駄があるのかを特定でき削減できます。

また前述のとおり、将来的な予測や社会情勢に合わせた見極めなども可能です。企業努力として無駄なコストを削減して原価を抑えることを常に意識し実行すれば、仮に販売価格が円安などの影響で下がったとしても利益率をキープすることは可能です。

ただし、むやみに原価削減を行うと現場からの不満が起こるおそれがあります。製造現場、販売現場、開発現場に原価の削減を指示する場合は、なぜその原価を削減するのか、具体的な数字や理由を示して理解を得ながら進めるとよいでしょう。

長期的・現実的な経営計画に役立てられる

原価管理を行うことで、企業は長期的かつ現実的な経営計画を策定することができます。詳細なコスト情報を基にした予測と計画を立てることで、将来的なリスクを軽減し、安定した経営が可能となります。

また、原価管理のデータを活用することで、資金計画や投資判断の精度も向上し、持続可能な成長戦略を構築できます。

原価管理を行う具体的な4段階の手順

原価管理を行う具体的な4段階の手順

原価管理の具体的な手順は以下のとおりです。

(1)標準原価を設定する

製品やサービスごとに、標準原価を設定します。

「標準原価」とは、製品を効率的に製造・提供できる指標を想定して設定した原価を指します。いわば「目標値となる原価」です。これに対し、結果としてかかった原価は「実際原価」といいます。

この標準原価と実際原価の差がどれくらい開いているかを算出し分析することで、何に対して無駄や見込み間違いが発生しているかを可視化できます。

ただし、そもそもの標準原価の設定が現実とかけ離れたものになってしまっている場合、実際原価との差は当然大きくなります。そのため標準原価の設定には過去の実際原価の推移データを参考にするほか、社会情勢や市場の相場推移なども加味して、現実的な利益が出せる数値にする必要があります。

(2)原価計算を行う

実際に発生した原価を計算します。原価計算には、標準原価と実際原価を比較する差異分析も含まれます。

「原価」に含まれるものは前述したとおり、「原材料費」「経費」「人件費」などです。経費には光熱費や減価償却費なども含まれます(なお会計上の用語では原材料費や人件費などの事業にかかった費用は、すべて「経費」として扱われます)。

(3)差異分析する

標準原価と実際原価の差異を比較・分析し、その原因を特定します。差異分析を行うことで、その製品やサービスが市場でニーズがあるのか、利益を得られるのかがわかります。

(4)分析結果のFBを行い改善する

差異分析で特定された原因(無駄や課題など)に基づいて、原価改善を実施します。

たとえば、従業員の手待ち時間が多く発生しているならばその労務時間が無駄と考えられるため、スムーズに業務が行えるよう業務指示を行う体制は問題ないか、製造現場では材料の在庫管理が適切に行われ製造ラインが稼働しているかなどを確認します。

ほかにも「ムダ」はさまざまな原因で発生します。原価を抑えるために現場の確認も怠らず改善を続ける必要があります。

【関連記事】
7つのムダとは?トヨタの生産方式が指摘する「ムダ」と具体的な排除方法

原価管理の注意点と課題

原価管理は企業にとって非常に重要ですが、正確に継続して行うにはいくつかの注意点と課題があります。

原価管理には専門知識が必要

原価管理を行うためには専門知識が必要です。原価計算の方法や財務の基本的な知識、業界ごとに異なる原価の種類やコストの構造についての理解が求められます。また、会計基準や法に則った正確なデータの収集と分析も重要です。

専門知識が不足したままで原価管理を行っている場合、原価管理そのものが不正確になります。その結果、経営判断を誤るリスクが高まってしまうおそれがあります。これを解決するには、専門の人材を育成する、外部の専門家を活用する、原価管理をシステム化するなどの方法があります。

原価管理作業にリソースが必要

原価管理を行うためには、データの収集、分析、報告など、さまざまな作業が必要です。これらの作業には、多くの時間と労力がかかります。たとえば、専門で従事する人を雇う場合には人件費がかかることになります。

また、正確な原価情報を得るためには、継続してデータを収集し分析を行わなければなりません。原価管理専門の人材を配置するほかにも、原価管理システムの導入などの方法があります。企業としての投資を、いつどのように行うかがポイントです。

【参考】原価管理の課題解決方法「データ活用」と「原価管理システム」

近年、原価管理における課題解決策として、データ活用と原価管理システムの導入が注目されています。適切なデータやシステムの活用によって、原価管理の効率と精度を向上させることができます。

・原価管理システムとは
原価管理システムは、企業が原価管理を効率的に行うためのソフトウエアです。一般的に、原価に関するデータを自動的に収集・整理し、リアルタイムで分析する機能を提供します。人が手作業で計算や資料作成を行う必要がなく、担当者の手間を大幅に削減します。また人が行うよりも収集されたデータの正確性は高いと考えられます。

また、原価管理システムは従来、詳細な分析がスピーディにできるほか、データをグラフに起こすなど可視化できるため、無駄なコストの発生点などが見つけやすくなります。何より、システムの活用は、原価管理の専門知識やリソース不足の課題を解決し、企業全体の効率と競争力を高める重要な手段となります。

原価管理システムを活用することで、原価計算が迅速かつ正確になり、結果的に経営判断のスピードや質が向上すると期待できます。

ただし、原価管理システムを導入するには、注意も必要です。以下をポイントに、適したシステムを選びましょう。

・自社のニーズに合った機能を備えているか
・実際に使う従業員にとってわかりやすく、使いやすいか
・導入コスト、運用コストは予算に合っているか

まとめ

この記事では原価管理について解説しました。原価管理は企業にとって欠かせない重要な手法です。製品やサービスの製造・提供に必要な費用を計画的に管理し、分析することで、企業の経営状況を把握し、最適な意思決定を行うことができます。

原価管理には専門知識やリソースが必要です。これらの課題を克服するためには、データの有効活用、原価管理システムの導入による効率化と精度向上などの方法があります。企業が持続的に成長し続けるためには、効果的な原価管理の実践が求められるため、必要に応じてシステムの導入なども検討していくとよいでしょう。

(提供:Koto Online