この記事は2024年5月31日に「The Finance」で公開された「金融DX最前線:カード業界の最新トレンド」を一部編集し、転載したものです。


デジタル化が進む金融業界の中で、カード業界は金融DXの進行を積極的に取り入れています。サービスのデジタル化やオペレーションのデジタル化により、新たなビジネスモデルが創出されており、これらの変革はAI技術の進化とも密接に関連しています。 金融DXについての紹介も踏まえ、新技術がカード業界の未来にどのような影響をもたらすのか、次世代のカード業界が何を期待すべきなのかについても詳しく解説します。

目次

  1. 金融DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
    1. (1)デジタル化が進む金融業界の現状
    2. (2)金融DXの種類と概要
  2. カード業界における金融DXの進行
    1. (1)カード業界における金融サービスのデジタル化
    2. (2)カード業界におけるオペレーションのデジタル化
    3. (3)カード業界における新たなビジネスモデルの創出
    4. (4)事例紹介:金融DXがもたらすカード業界の変革
  3. 金融DXの未来展望
    1. (1)金融DXが描くカード業界の未来
    2. (2)次世代カード業界に期待すること
  4. まとめ:カード業界がおさえておくべき新技術とは

金融DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?

金融DX最前線:カード業界の最新トレンド
(画像=abimagestudio/stock.adobe.com)

金融DXとは、情報技術(IT)を活用し、金融サービスの提供方法やビジネスモデルを変革することを指します。
具体的には、金融機関がデジタル技術を導入し、業務プロセスを効率化し、顧客体験を向上させることを目指しています。これには、オンラインバンキング、モバイルバンキング、AIによる資産運用、ブロックチェーンによる決済等、多岐にわたる技術が含まれます。
この動きは、金融業界の競争が激化し、顧客のニーズが多様化する中で、新たな価値提供やビジネスモデルの創出が求められていることから推進されています。また、2020年の新型コロナウイルスのパンデミックは、デジタル化の必要性を一層強調しました。リモートワークや非接触サービスの需要が高まり、金融サービスもそれに応じた変革が求められています。
しかし、金融DXは単に技術的な変革だけでなく、組織文化やマインドセットの変革も必要とされています。従来の金融機関は、規制やセキュリティ等の制約から、新技術の導入が遅れがちでした。しかし、これからは、これらの制約を乗り越え、新たな価値を創造するための意識変革が求められています。

(1)デジタル化が進む金融業界の現状

近年の金融業界では、デジタル化が急速に進行しています。このトレンドは、「金融DX」または「金融デジタルトランスフォーメーション」と呼ばれ、新たな技術を活用して金融サービスを改善し、効率化する動きを指します。
具体的には、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、AI(人工知能)、ブロックチェーンなどのテクノロジーが積極的に導入され、これらの技術が金融業界のビジネスモデルやオペレーションを根本的に変えつつあります。
このデジタル化の波は、顧客のニーズに迅速に対応するため、また、競争力を維持し、さらには新たなビジネスチャンスを生み出すために欠かせないものとなっています。顧客はもはや24時間365日、どこからでもアクセスできる金融サービスを求めており、金融機関もまた、それに応える形でデジタル化を進めています。
一方で、デジタル化が進むにつれて、セキュリティ問題やプライバシー保護、規制への対応など、新たな課題も浮かび上がってきています。これらの課題に対応しつつ、より良いサービスを提供し続けることが、金融業界に求められる新たな課題となっています。

(2)金融DXの種類と概要

金融DXは、金融業界におけるビジネスプロセスや顧客サービスのデジタル化を指す言葉です。その種類は多岐にわたりますが、主に以下の三つのカテゴリーに分けることができます。

  • 金融サービスのデジタル化 – モバイルバンキング、オンライン取引など
  • オペレーションのデジタル化 – AI、ロボットプロセス自動化(RPA)による業務効率化
  • 新たなビジネスモデルの創出 – フィンテック企業による従来と異なる新サービス

これらの全てが金融DXの一部であり、それぞれが密接に関連しつつも、それぞれ独自の課題と可能性を持つことを理解することが重要です。

カード業界における金融DXの進行

(1)カード業界における金融サービスのデジタル化

近年、カード業界においても金融DXの波が押し寄せ、従来の業務プロセスやサービス提供方法が大きく変化しています。
まず、カード会社と消費者の間で行われる金融サービスがデジタル化され、オンラインでの取引が増加しています。従来は店頭や電話でしか行えなかったクレジットカードの申し込み、利用明細の確認、支払い方法の変更などが、ネットバンキングや専用アプリを通じていつでもどこからでも行えるようになりました。
また、デジタル化によって新たな決済サービスも登場しています。QRコード決済や電子マネー、仮想通貨など、カードを物理的に提示することなくスマートフォンだけで決済が完結するサービスが普及してきており、これらもカード業界の一部としてカウントされるようになりました。
さらに、AIやビッグデータの活用により、個々の消費者の購買行動や生活スタイルを分析し、パーソナライズされたサービスを提供する取り組みも進んでいます。これにより、消費者は自分に合ったサービスを選ぶことができ、カード会社も顧客満足度の向上や新規顧客獲得につながると期待されています。

以上のように、カード業界における金融サービスのデジタル化は、消費者の利便性向上とともに、新たなビジネスチャンスの創出にも寄与しています。次の節では、このデジタル化が業務運営面でどのような影響を及ぼしているかについて見ていきましょう。

(2)カード業界におけるオペレーションのデジタル化

カード業界におけるオペレーションのデジタル化は、業務効率化や顧客体験の向上を目指しています。従来のマニュアル操作に依存する業務を自動化することで、エラーの削減や時間の節約、コスト削減を実現し、企業の競争力を高めることが可能となります。特に、AIやRPAの導入により、複雑な処理を自動化し、高度な分析を可能とするケースが増えています。これにより、スタッフはより価値のある業務に注力することが可能となり、顧客へのサービス向上が期待できます。
また、オンライン決済やモバイル決済の拡大に伴い、セキュリティ対策もデジタル化の一環として重要となってきています。ブロックチェーン技術の導入による安全性の向上や、AIによる不正取引の検出など、デジタル化はカード業界の安全性を高める役割も果たしています。

このように、カード業界におけるオペレーションのデジタル化は、業務効率化だけでなく、顧客体験の向上やセキュリティ強化にも貢献しており、その進行は業界全体の競争力を高める要素となっています。しかし、その一方で新たな課題や問題も生じており、それらに対する対策や解決策を見つけ出すことが今後の課題となっています。

(3)カード業界における新たなビジネスモデルの創出

カード業界における金融DXの進行に伴い、新たなビジネスモデルが創出されています。
これまでの伝統的なビジネスモデルは、物理的なカードを使用し、消費者と店舗間の取引を仲介するというものでした。しかし、デジタル化の波が押し寄せる中で、その枠組み自体が大きく変わりつつあります。例えば、フィンテック企業によるデジタルウォレットの普及は、カードレス決済という新たなビジネスモデルを生み出し、既存のカード業界に大きな影響を与えています。
また、ブロックチェーン技術を活用した分散型金融(DeFi)は、従来の金融取引を透明化し、信頼性を高める新たなビジネスモデルを提供しています。

これらの新たなビジネスモデルは、消費者の利便性を向上させるだけでなく、新たな価値創造の可能性をもたらしています。今後、金融DXの進行により、さらに多様なビジネスモデルが創出されることでしょう。これにより、カード業界はデジタル技術を活用した新たなサービス提供や、より効率的なオペレーションの実現に向けて、大きな変革を遂げることが期待されます。

(4)事例紹介:金融DXがもたらすカード業界の変革

今回、私たちは具体的な事例を通じて、金融DXがカード業界にどのような変革をもたらしているのかを深堀りします。

まず一つ目の例に、ビッグデータを活用したカード利用データの分析が挙げられます。旧来、カード利用データはあくまで内部の管理や審査のために利用されるに留まっていましたが、デジタル化により、これらのデータは新たな価値を生むツールとなりました。カード利用者の行動パターンを分析し、パーソナライズされたサービスを提供することで、ユーザーエクスペリエンスの向上とともに事業の拡大を実現しています。

  • 三井住友カード
    2019年に国内トップクラスのデータ活用基盤であるスマートデータレイク(以下、SDL)を採用し、レガシーシステムに負荷をかけず、膨大なキャッシュレスデータなどを柔軟かつスピーディーに活用できる環境を構築。

参照:三井住友カード「DX推進宣言」

二つ目の例として、オペレーション面にも大きな影響を及ぼしています。例えば、AIを活用したチャットボットによる顧客対応です。これにより、24時間365日の対応が可能となり、顧客満足度の向上を実現しました。さらに、AIによる審査プロセスの自動化は、審査時間の短縮とともに、より公平な審査を可能にしました。

  • JCBカード
    2024年3月に契約業務DXを実現するサービス「MNTSQ CLM (モンテスキュー シーエルエム )」を本格稼働。

参照:「MNTSQ CLM」の本稼働がJCBで開始~契約管理業務のDXを実現~

最後に、新たなビジネスモデルの創出にもつながっています。特に注目すべきは、ブロックチェーン技術を活用した新たな決済システムの提供です。従来のカード決済とは異なり、手数料の低減や決済のスピードアップを実現し、新たな市場を切り開いています。これらの例からも、金融DXがカード業界に大きな変革をもたらしていることが見て取れます。

  • VISAカード
    2023年9月にブロックチェーンの「Solana」や決済サービス会社のWorldpay、Nuveiなどの新たなパートナーとステーブルコインの取り組みを拡大していると発表。

参照:VisaがSolanaブロックチェーンへのステーブルコイン決済機能を拡大

金融DXの未来展望

(1)金融DXが描くカード業界の未来

金融DXの波は、カード業界にも深く影響を与えており、その未来展望は極めて明るいものとなっています。デジタル化によって、カードの発行から利用、管理までの一連の流れが大きく変わりつつあります。例えば、従来は紙やプラスチックのカードを物理的に持つことが一般的でしたが、デジタル化により、スマートフォンのアプリ上でカードを管理し、決済を行うことが可能になりました。これにより、カードを紛失するリスクが減り、また、いつでもどこでも手軽に利用できるようになったのです。

また、AI技術の進歩により、カードの利用パターンを分析して個々のユーザーに最適なサービスを提供することも可能になってきました。これにより、カード会社とユーザーとの関係は、単なる決済手段の提供者と利用者という関係から、よりパーソナライズされた関係へと変化しています。

さらに、ブロックチェーン技術の活用により、カード決済のセキュリティが一層向上するとともに、新たなビジネスモデルの創出も期待されています。例えば、ブロックチェーンを活用したポイントプログラムや、クロスボーダー決済の効率化など、これまでにない新しいサービスが生まれる可能性があります。

(2)次世代カード業界に期待すること

次世代のカード業界は、従来の物理カードからデジタルカードへと大きくシフトし、ユーザーがスマートフォンだけで決済からロイヤリティプログラムまで一元管理が可能になるでしょう。また、AIの進化により、個々のユーザーに合わせたパーソナライズされたサービス提供が一般化し、ユーザーエクスペリエンスの充実が期待されます。

さらに、ブロックチェーン技術を活用したセキュアな取引の実現や、ビッグデータを活用した新たなマーケティング手法の開発など、テクノロジーの進化がカード業界のサービス向上に寄与することが予想されます。また、フィンテック企業と既存の金融機関との連携による新サービスの開発や、規制緩和による新規参入も、次世代カード業界の発展を牽引する要素となります。

一方で、新たなビジネスモデルやテクノロジーの導入には、セキュリティやプライバシー保護といった課題も伴います。これらの課題を適切に解決しながら、ユーザーの利便性と安心感を両立したサービスを提供していくことが、次世代カード業界にとって重要となるでしょう。

まとめ:カード業界がおさえておくべき新技術とは

金融DXの未来展望について考えた後、カード業界がおさえておくべき新技術についてまとめてみましょう。
まず、AI技術はカード業界における金融DXの鍵となる技術の一つです。AIは、顧客の行動予測、リスク分析、フロード検出など、カード業界における多くの課題を解決する可能性を秘めています。また、ブロックチェーン技術は、セキュリティの強化や決済の透明性を確保するための有力な手段となり得ます。さらに、ビッグデータの活用は、マーケティング戦略の策定や新サービスの開発に役立ちます。
次に、クラウドサービスは、カード業界がよりスピーディーかつコスト効率的にサービスを提供するための重要なツールとなります。そして、APIの活用は、他の金融機関やフィンテック企業との連携を可能にし、新たなビジネスモデルの創出を支えます。

これらの新技術は、金融DXの推進において欠かせない要素であり、カード業界が今後の変革に対応するためには、これらの技術に対する理解と採用が必要となります。今回の記事を通じて、金融DXの進行とそれがカード業界にもたらす影響、そして新技術の重要性について理解を深めていただければ幸いです。


[寄稿]TheFinance編集部
株式会社セミナーインフォ