東京・五反田のTOCビル(東京卸売センタービル)が、建築費の高騰などで収益化を見直す必要が生じたことを理由に、予定していた建て替えと解体工事を延期した。TOCビルを保有するテーオーシーは、現状の建物のままテナントの賃貸と催事事業を再開するとしているが、TOCビルの1階に入っていた「ユニクロ(UNIQLO)」の五反田TOC店を始め、すでにテナントは退去・移転しており、スムーズに営業を再開できるかどうかは注視が必要だ。
TOCビルの建て替え延期を巡っては、単にテーオーシーの見通しや計画が甘かったためとは言い切れない。日本建設業連合会が5月29日に発表した資料によると、2021年以降、世界的な原材料の品薄と高騰の影響によって、建設業で必須である生コンクリートやアルミ地金、板ガラスといった資材の「かつて経験のない価格高騰・納期遅れが発生」しているというのだ。
実際、東京都における建設資材の価格は、2021年1月と2024年4月を比較すると約30%も上昇している。さらに、鉄筋工や溶接工、交通誘導警備員などの人件費は全国平均で約16%上昇している。つまり、2021年当時の契約金額相当額からコストが20%から25%増加していると見られ、建設業界を圧迫しているのだ。
こうした問題は、大型の商業施設や大規模な都市開発に限った話ではなく、アパレル店舗の出店や改装にも影響する可能性がある。大手スーパーのイオンも建築資材の高騰や人手不足を理由に、今期は国内の「イオンモール(AEON MALL)」の出店を取りやめ2025年度以降に先送りする。都内では、内幸町エリアや六本木エリアなどで大規模な再開発が進んでいるが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻も収束が見えず、資材はさらに高騰する可能性もある。
大林組や鹿島建設、清水建設などが会員に名を連ねる日本建設業連合会が発信した「かつて経験のない価格高騰・納期遅れの発生」というメッセージは、深刻なものとして受け止めるべきだろう。TOCビルの建て替え延期は、こうした先行きの見えない問題に警鐘を鳴らしている。