ID為替レポート
(画像=外為どっとコム マネ育チャンネル)

総括

FX「何が円安を導いたのか」

ドル円=155-160、ユーロ円=166-171、ユーロドル=1.04-1.09

通貨ごとの注目ポイント

*円「通貨最下位(最下位)、株価3位(3位)、何が円安を導いたのか」


(介入、利上げ観測が続くが年間での円の最弱の地位は変わらない。株も元気がなくなってきた)
介入、利上げ観測が続くが年間での円の最弱の地位は変わらない。ただGWの介入後は12通貨中6位で、少しは効果があった。介入は輸出業者と同じく「買戻しなしの売り切り」だからだ。もちろん介入を続ければさらに円高が進むが、そうなると日本は市場主義を投げ出すことになり、既にイエレン米財務長官から批判があったように、保護貿易主義の烙印を押される。介入は株や金利と違って異国の相手がいるので、配慮は必要だ。
 介入と利上げ観測があるので株価も元気がない。今年の日経平均はトルコと首位を争っていたが、今やトルコの半分以下の上昇率。ハイテクの勢いがある台湾加権指数やナスダックに追い抜かれた。

(何が円安を導いたのか)
 やはり原油だ。金利引き上げで為替を動かすのは危険だ。貿易黒字時代、例えば2000年はWTIは26.94ドル、エネルギー赤字は6.3兆円。22年は76ドルで31.5兆円の赤字、23年は72ドルで25.7兆円の赤字、エネルギー赤字が4倍、5倍に。今年も毎月約2兆円のエネルギー赤字が続いている(以上、表参照)
 日本が30年連続で続けた貿易黒字、1ドル360円から75円の円高となった貿易黒字の背景にはWTIが20ドル以下、概ね50ドル以下の時代があった。今や70-80ドル台。中国を始め、新興国も成長するのでエネルギー需要は減少しない。
 ただ企業が円安で最高益を出しているメリットもある。対外純資産もここ10年で約150兆円増加している。円安メリットをどう生かすかが焦点だが、利上げ円高を強制すると、最悪の場合は「失われた30年」時代に戻ってしまう。

(日銀が国債買い入れ減額を見送った理由)
円安是正のための国債買い入れ減額や、利上げを催促されている日銀だったが先週の日銀政策決定会合で政策金利を据え置き、国債買い入れ減額を見送った(7月会合で議論)。日銀としては、1-3月マイナス成長、世銀は2024年の日本の成長見通しを0.9%から0.7%へ下方修正、基調的なインフレ率は1%台としているほど、ここまでは景気回復は見られない。4-6月期は景気回復、インフレ上昇の観測あるも、見切り発車は中銀の仕事でもないし、これまでも見切り発車で失敗例もある。データに基づいてやればいい。ただそれでも株価は伸び悩んでいる。株高なくして豊かさ無しだが舵取りは難しい。

(今週の焦点)
 今週は、6月の月例経済報告、日銀議事要旨、党首討論、4月機械受注、5月貿易統計、消費者物価、6月製造業サービス業PMI、「骨太の方針」閣議決定などがある。ドル円の需給は5月貿易統計をチェックしたい。

*米ドル「通貨首位(首位位)、株価(NYダウ)14位(14位)、エネルギー価格上昇と有事で年間首位維持。あくまでも2%にこだわるパウエル議長の慎重さ」


(年間最強維持、株価もハイテク中心に上昇)
 通貨は年間最強維持。株価もナスダックが日経平均を抜いて世界3位へ上昇。通貨安に頼らない株価上昇は凄みがある。ゴールドマン・サックスはS&P500種の目標値を5600に引き上げている。
前回触れたように、原油を始め、資源価格がこれだけ上昇すると、ドルの取引額も増大し、資源国や消費国もドル保有金額が多くなるのもドル高の要因だ。ただ最近は米国と敵対するロシアのドル資産が凍結されたこともあり、中国はドル資産を減少させている。金にも向っているが、世界全体ではドル以上に適切な資産はないのだろう。

(パウエル議長、地区連銀総裁達は慎重)
 FRBは慎重だ。FRBのミッションは「雇用の最大化」と「物価の安定」。あくまでも2%台のインフレを見るまで慎重であり続けるようだ。シカゴ連銀のグールズビー総裁は、5月の米国消費者物価は「非常に良好」だったが、これはわずか1カ月分の統計に過ぎないと述べた。 クリーブランド連銀のメスター総裁は「インフレと闘う自信を得るには、やるべきことがまだたくさんある。インフレ率が2%に達するには2026年までかかる可能性がある」とした。パウエル議長はインフレ低下でも「インフレ率 2%に向かっている確信得られていない」と発言している

(ドルに言及したFRBだが、まだ動かないだろう)
 シカゴ連銀グールズビー総裁はECBが利下げに踏み切ると、ドルが上昇する可能性がある。ドル高は輸出入バランスに影響を与え、米国の雇用とインフレに影響を与えるとした。ユーロが1.0ドルを割り込むと
FRBも為替相場に関与してくるかもしれない。一方パウエル議長はイエレン財務長官と同じ考えのようだ。議長はドル高の進行について「米経済が非常に強いためだ。為替の水準を管理しない」と明言した。

(経済指標は概ね弱いが、核となる雇用は強い)
 出てくる指標は弱い。消費者、生産者物価、輸入物価、さらにはミシガン大消費者態度指数、IS製造業指数、強いものは雇用者数増加、ISMサービス業指数、消費者信頼感指数。今週は5月小売売上や住宅着工が焦点。GDPナウは3.1%と強いが、CPIナウは3.15%と低下傾向、サプライチェーンインデックスは-0.48と問題がない。

*ユーロ「通貨7位(4位)、株価7位(6位)DAX)、ユーロが弱い。ECB利下げと、欧主義会での極右勢力台頭で」


(ユーロが弱い。ECB利下げと、欧主義会での極右勢力台頭で)
 先週はユーロが最弱、株価も軒並み安かった。長期金利は世界的な金利低下の中でフランスが高止まりした。ユーロは年間では前週の4位から7位へ順位を落とした。ECB利下げと、欧主義会での極右勢力台頭が影響した。ホルツマン・オーストリア中銀総裁はユーロ下落に懸念を示している。

(フランス情勢とECB)
フランスの「パースペクティブズ・ウィークリー」の第17回調査によると、フランス議会選挙の第1回投票では極右政党国民集会が得票率29.5%でリードすると予想されている。マクロン大統領の中道派は得票率18%で3位。フランス市場の混乱に直面しても、ECBは極めて落ち着いており、当局者らはパニックに陥る理由はないと述べている。フランスとドイツの10年国債利回りの差は週間で過去最大の上昇幅を記録し、フランス株式市場の時価総額から2000億ドル以上が消え去った。しかし関係者らによると、政策当局者らは依然として状況は制御下にあると信じており、先週金曜日の時点では危機対策について議論することさえ検討していなかったという。フランスの5年ソブリンCDSは終盤の取引で38ベーシスポイントに上昇し、2020年5月以来の高水準となった。

(今週の指標)
今週は5月CPIファイナル、6月消費者信頼感、製造業サービス業PMI、ZEW景況感調査などの発表がある。6月17日にはラガルドECB総裁の講演がある。

(フランスの格下げは?)
 ムーディーズは、フランス議会の解散総選挙は財政再建に対するリスクを高めるとして、信用格付けにマイナスとの見解を示した。
ムーディーズのフランスの格付けは「Aa2」で、フィッチとS&Pよりも1段階高い。ムーディーズは「次期政権が引き継ぐ厳しい財政状況を踏まえると、潜在的な政治の不安定化は信用リスクだ」と指摘。債務指標がさらに悪化した場合、フランスの格付け見通しは現在の「安定的」から「ネガティブ」に引き下げられる可能性があるとした。
「財政再建への取り組みが弱まれば、信用の低下圧力も高まるだろう」と警告した。
フランスは債務の国内総生産比が110%超と、同等の格付けの他の国よりも高く、大規模な構造的財政赤字により1970年代以降ほぼ継続的に拡大していると指摘した。
歳入とGDPに対する利払いで測った債務返済能力の悪化度合いが他の国よりも著しく大きいと判断した場合、見通しと格付けがネガティブに移行する可能性があるとした。

(ラガルドECB総裁は特にフランスの情勢にコメントせず)
 ラガルド総裁は、ECBがフランス支援のため緊急国債買い入れ措置の利用を検討するかとの質問に対し「各国の政治情勢についてはコメントしない」と述べた。その上で、「ECBの使命はインフレを抑制し目標に戻すことだ」とした。ECBは2022年、国債利回りの上昇を抑えるための買い入れ措置「トランスミッション・プロテクション・インスツルメント(TPI)」を導入。健全な経済政策を遂行しているにもかかわらず市場の圧力にさらされている場合、ECBが無制限に国債を購入できる。
フランス総選挙を巡る世論調査では、欧州議会選で躍進したルペン氏の極右「国民連合(RN)」の勝利が予想されている。RNは電気料金の値下げ、ガスの付加価値税(VAT)引き下げ、公共支出の拡大を公約に掲げている。フランスのルメール経済・財務相は、総選挙で極右が勝利すれば、金融危機のリスクに直面すると述べた。

*ポンド「通貨2位(2位)、株価9位(9位)、労働党圧勝でポンドは安定との見方」


(ユーロに連れ安だが小幅に留まる)
 先週は欧州議会でのフランスの極右台頭と仏総選挙への混乱でユーロが下落、ポンドドルもそれにつれて小幅だが下落した。対ドルで0.29%下落、対円では0.13%上昇。年間2位は維持した。FT株価指数も欧州大陸市場ほどではないが1.19%下落。10年国債金利は4.05%へ低下した。

(先週は弱い弱い指標が続いた)
 4月GDPは前月比で変わらず、3月の0.4%増から減少、前年比でも0.6%増で3月の0.7%増から減少した。4月鉱工業生産は前年比0.4%減、3月の0.5%増から減少。4月貿易収支は67.5億ポンドの赤字で3月の10.1億ポンドの赤字から拡大した。英国民のインフレ期待も低下し、金利が低下することが経済にとって最善だと考える割合が、世界金融危機以来最も高くなった。
1年後のインフレ率予想は2.8%。2月の3.0%から低下した。
金利が下がることが経済にとって最善との回答は全体の42%で2月の41%から上昇し、2008年11月以来の高水準だった。

(今週はCPIと政策金利決定の重要週)
 今週は5月消費者物価(CPI)と生産者物価、政策金利の決定がある重要週だ。5月CPIは予想が2%(前月は2.3%)と低い。コアは3.5%(前月は3.9%)の予想。ただ政策金利は5.25%で据え置き予想だ。
先週の弱い指標、またCPIが2.0%前後であれば利下げもあり得るかと思う。英中銀は8月に利下げを開始し、賃金とサービス価格の伸びが高止まりしても、年内に少なくともさらにもう1回利下げするとの予想が大勢となっている。

(労働党圧勝でポンドは安定との見方)
 MRP世論調査によると、総選挙で労働党が圧勝し保守党の議席はわずか72議席になるという。労働党は262議席の過半数を獲得する見込みで、保守党は前例のない打撃に直面している。
ただ英総選挙でどのような結果がポンドにとって最も良いか尋ねた調査では、半分以上が労働党の勝利を選好と出ているので、労働党の勝利は市場には打撃を与えないだろう。保守党より内部分裂が少ない労働党がしっかりした安定多数を確保すれば、今後の安定改善を示唆するだろうとの見方だ。また労働党の地滑り的勝利を市場は既に織り込み済みとした上で、「政治の安定と政策の不確実性低下は、英国のビジネスと成長に大いにプラスになろう」と指摘されている。

*豪ドル「通貨5位(6位)、株価16位(13位)、政策金利は据え置きか、豪中首脳会談は」


(安定推移)
 安定推移している。4月頃までは下位であったが、徐々に上昇、年月は初来で5位に浮上している。景気指標は弱いものが多いが、粘着質なインフレが政策金利の引き下げを踏みとどまらせ、豪ドルはユーロやカナダの利下げに比し堅調推移している。ただ金利水準が相対的に高いので株価は安く年初来1.86%高。

(1Q・GDPは弱かったが雇用は改善)
 1Q・GDPは弱かったが、5月就業者数は予想を上回り、失業率低下した。就業者数は前月比3万9700人増加。予想は3万人増。数カ月にわたって弱かったフルタイムの就業者数が4万1700人増加した。
失業率は前月の4.1%から4.0%に低下。

(今週の政策金利は据え置き予想) 
 RBAは今週、政策金利を5回連続で据え置く予想だ。物価上昇率は目標とする2-3%を上回ったままで、失業率は4%まで低下しているため、早期利下げの確率は乏しいとの見方だ。 むしろRBAは、景気が減速しているにもかかわらず、物価高止まりが続くようならば利上げが必要になるかもしれないと警告している。内需が想定以上に回復するか、労働コストの伸びが想定より高いままであれば、インフレ圧力は高止まりし、RBAは利下げの先送りを望む。

(住宅投資抑制)
 ニューサウスウェールズ州政府は6月15日の声明で、外国人住宅購入者の課徴金を8%から9%に引き上げると発表した。海外購入者の土地所有者の税率は4%から5%に引き上げられる。根強い住宅価格の上昇を少しでも抑制しようとしている。

(豪中首脳会談は)
 中国の李強首相は、豪を訪問、北京が一連の豪の主要輸出品に対する懲罰措置を解除したことを受けて、貿易拡大の見通しをもたらすものと述べた。中国は豪にとって圧倒的に最大の貿易相手国であり、昨年は主要商品である鉄鉱石や石炭を含む豪の輸出の約30%を占めた。2020年に前保守政権との外交上の亀裂の中で中国が課した制裁により打撃を受けたのは石炭、ワイン、木材、大麦、牛肉、ロブスターなどの輸出品目だった。これらの制裁により、豪の輸出業者は年間200億豪ドルの損害を被ったと推定されている。アルバネーゼ首相の政権が2022年に発足し、中国に対してより柔軟な外交姿勢を取って以来、関税は徐々に撤廃されてきた。貿易以外の豪中首脳会談の焦点は、この地域における中国軍の「危険な」行動、太平洋における両国の対立といった紛争問題だ。

*NZドル「通貨5位(7位)、株価17位(17位)、GDP発表、リセッションから抜け出せるか」


(豪ドル同様で年初来5位、粘着インフレで利下げ遅れる)
 豪ドル同様に4月までは下位に低迷していたが5月は月間最強、6月はここまで月間4位。年間では豪ドルと同率5位。豪ドル同様に政策金利の引き下げが遅れ金利水準が高いことも買われる要因となっている。
ただ高金利で株価は弱く,NZ50株価指数は年初来で僅か0.8%高に留まっている。

(先週の指標は総じて弱かった)
1Q製造業売上は前年比2.2%減、前期は3.4%減。5月クレジットカード消費は前年比1.6%減、4月は3.8%減。5月製造業PMIは47.2で、前回の48.9から低下した。5月食品インフレは前年比0.2%上昇で4月の0.8%上昇から低下した。

(GDP発表、リセッションから抜け出せるか)
 今週は1Q・GDPの発表。予想は前期比で変わらず。23年3Qは前期比0.3%減、4Qは0.1%減でリセッションであった。前期は、卸売業と小売業が弱かった。一方、賃貸、雇用、不動産サービス、公共行政、安全、防衛は強かった。さてリセッションから抜け出せるか。

(移民の急増で住宅価格は上昇)
 住宅価格は今年と来年にいずれも上昇すると予想されている。金利上昇と景気減速は需要を圧迫するが、住宅供給不足がそうしたマイナスを帳消しにするため。 住宅価格は今年と来年の上昇率がそれぞれ4.5%、5.1%の見込み。 移民の急増でより多くの供給が必要になる。手ごろな価格帯の住宅の不足は悪化している。中銀がインフレ抑制で勝利を収め、政策金利の引き下げに着手すれば、住宅市場の回復ペースは加速する。

(NZ・中国首脳会談)
 NZを訪問した中国の李強首相は、ラクソン首相と会談し、両国間の貿易や投資、人的交流を拡大することで一致した。一方、李首相は、NZが米英豪の安全保障枠組み「AULUS(オーカス)」と先端軍事技術の協力を検討していることに対し懸念を伝えた。