この記事は2024年6月27日に「The Finance」で公開された「人事DX成功のカギ!金融業界における実践的な方法と事例を紹介」を一部編集し、転載したものです。
金融業界における人事DXは、業務の効率化や生産性の向上を図るために不可欠な取り組みです。本記事では、人事DXの基本的な概念から、その目的、さらに実際の導入方法と成功事例までを詳しく解説します。
目次
人事DXの背景と目的
人事DXとは何か
人事DXとは、デジタル変革(DX)の一環として、人事領域でのデジタル技術の導入や活用を指します。具体的には、人事業務の効率化や労働生産性の向上、人材管理の最適化などを目指し、情報システムやAI、データ分析などのデジタル技術を駆使しています。
近年では、企業の競争力を左右する要素の一つとして、人材の重要性が高まっており、その採用や育成、評価などの人事活動の質を高めるために、デジタル技術の活用が積極的に進められています。
また、働き方改革や多様な働き手のニーズに対応するためにも、人事DXは重要な役割を果たしています。デジタル技術を活用することで、企業は人事戦略をより効果的に推進し、組織全体のパフォーマンス向上を目指すことが可能となります。
人事DXの目的
人事DXの目的は、企業の人事業務をデジタル技術を活用して業務を効率化し、より高度な人材管理を実現することで、企業の成長と従業員の満足度向上を同時に達成することにあります。
具体的には、人事業務における煩雑なタスクの自動化、データ分析を用いた人材育成の最適化、従業員のパフォーマンス評価の公正化、継続的な改善の促進、そして企業文化の形成などが挙げられます。
従来の人事業務は、多くの時間と手間を必要とするものでしたが、DXに取り組むことでこれらの業務を効率化することが可能となり、人事部門は日々の業務を効率化することができ、より戦略的な役割を果たすことができます。また、人事部門だけでなく、経営層や各部署もデータを活用して意思決定を行うことが可能になります。
人事DXは従業員の満足度向上にも寄与します。従業員が自分のパフォーマンスを正確に把握し、自己成長を促すことができる環境を提供することで、モチベーションの向上や離職率の低減につながります。
さらに、企業文化の形成にも大いに役立ちます。透明性の高い評価制度や公正な報酬体系を確立することで、従業員が安心して働き、企業のビジョンに共感し、長期的な成功に貢献することが期待できます。
金融業界における人事DXの課題
人事業務の現状
金融業界は伝統的な業界であるため、古典的な人事業務の方法が根強く残っています。
しかし、デジタル化が急速に進行する現代社会においては、古典的な方法が業務の効率化やスピード化を妨げ、企業の競争力を下げてしまう可能性があります。
また、金融業界に特有の人事業務の課題として、高度な専門知識を必要とする業務が多いために人材の育成や教育が難しく、人材の流動性が低いことが挙げられます。
こういった課題を克服するためには、人事DXが不可欠であり、その推進方法や成功事例を学ぶことで解決の糸口を見つけることができるでしょう。
人事業務の整理
人事業務 | 説明 |
---|---|
採用活動 | 新しい従業員の募集と選考 |
研修制度 | 従業員のスキル向上を目的とした教育プログラム |
給与管理 | 給与の計算と支払い |
労務管理 | 労働時間の記録や健康管理 |
福利厚生の管理 | 従業員の福利厚生プログラムの提供 |
評価・昇進・異動 | 従業員のパフォーマンスや能力を評価し、昇進・昇格、異動、配置転換などの決定 |
人事DXの推進方法
HRシステムの活用
人事DXを推進するための重要な手段の一つが、HRシステムの活用です。HRシステムとは、人事業務を効率化するためのITシステムのことで、具体的には勤怠管理、給与計算、人材評価、教育研修、採用管理など、幅広い業務をサポートします。これらのシステムを活用することで、人事業務の効率化だけでなく、人材データの一元管理や分析も可能になり、より戦略的な人事活動を行うことができます。
しかし、ただシステムを導入するだけではなく、その活用方法が重要です。
以下の活用ポイントを踏まえ、HRシステムを使いこなしましょう。
「活用ポイント」
・現状の業務フローを整理し、どの部分をシステム化するかを明確にすること
・システムを導入した後も、定期的にその効果を検証し、必要な改善を行うこと
・システムを活用するための教育や研修も重要で、全スタッフがシステムを理解し、活用できる環境を整備すること
また、最新のHRシステムはAI技術を活用したものも登場しており、これらを活用することで、より先進的な人事活動が可能になります。例えば、AIを活用した採用選考システムでは、応募者のスキルや適性を自動的に分析し、適切な人材を見つけ出すことができます。
以上のように、HRシステムの活用は人事DXを推進する上で欠かせない要素であり、その導入と活用方法によっては、大きな効果を発揮することが期待できます。
HRシステム例
一部の企業では自社開発のシステムを利用していますが、最近ではクラウド型のサービスも増え、導入の敷居が低くなっています。
種類 | 特徴 | 実際のサービス例 |
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勤怠管理システム | 従業員の出退勤時間、有給休暇の管理、残業時間の把握などを行うシステム。ワークフロー機能を搭載し、有休の申請から承認までを一貫してシステム上で行えるものもある。 |
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給与計算システム | 従業員の給与や賞与の計算、年末調整、社会保険手続きなどを行うシステム。自社の給与体系や勤怠状況に基づいた金額の算出が可能。 |
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人事評価システム | 従業員の評価や目標設定、進捗管理を行うシステム。評価基準に基づいて公平な評価を実現し、従業員のモチベーション向上に寄与。 |
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労務管理システム | 入退社手続き、社会保険手続き、年末調整、Web給与明細などを行うシステム。従業員の個人情報を一元管理し、ペーパーレス化を推進。 |
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採用管理システム | 応募者情報管理、選考プロセス管理、求人票作成、求人媒体への掲載などを行うシステム。採用活動の効率化と情報共有を実現。 |
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タレントマネジメントシステム | 従業員のスキル、経歴、育成計画の管理を行うシステム。適切な人材配置や育成を支援し、企業の成長を促進。 |
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人事情報システム (HRIS) | 従業員の基本情報、異動履歴、給与情報などを一元管理するシステム。データの一元管理により、効率的な人事業務を実現。 |
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これらのシステムは、それぞれ特徴があり、自社の課題や目的に応じて選択することが重要です。また、システムの導入だけではなく、それを活用するための社内のルール作りや教育、運用の見直しも必要となります。
人材の育成とデジタル化
人事DXを推進するためには、従業員一人ひとりがデジタル化の重要性を理解し、自身の業務に活かすことが求められます。それを実現するためには、まず教育と訓練が不可欠です。デジタル化を進めるためのスキルや知識を身につけるための研修を行うことで、従業員がデジタルツールを使いこなすことができるようになります。
また、従業員のパフォーマンスを向上させるための人事評価システムのデジタル化も重要となります。従来の人事評価システムでは、一定の基準に基づいて評価を行っていましたが、デジタル化により個々の従業員の能力や成果をより正確に把握し、適切な評価とフィードバックを提供することが可能になります。
さらに、人事DXには組織全体のデジタル化も必要です。組織全体でデジタル化を進めることで、従業員のコミュニケーションや業務効率が向上し、全体としてのパフォーマンスも高まることでしょう。そのためには、経営層から現場まで全員がデジタル化の重要性を理解し、その推進に取り組む必要があります。
金融業界における人事DXの事例紹介
みずほフィナンシャルグループ
金融業界における人事DXの一例としてみずほフィナンシャルグループの取り組みを紹介します。みずほフィナンシャルグループは、人事DXの一環として、2023年3月にアプリケーションプラットフォームを採用しました。
2005年から『次世代金融への転換』を推進しており、人事領域では、社内外で通用する人材バリューの最大化を実現すべく、新人事制度の整備、次世代の人事基盤の構築に取り組んでいます。
最新技術の活用や社会変化への迅速な対応を目的として、SaaS型の新人事システムに刷新しました。新人事システムの構築にあたり、ビジネス環境の変化やIT技術の進歩に応じてシステムを柔軟に変更できることが必須であり、マイクロサービスと呼ばれる小さなモジュールを組み合わせて開発するアプリケーションPaaSが選定・採用されました。
参照プレスリリース「みずほフィナンシャルグループがアプリケーションプラットフォームに「LaKeel DX」を採用」
第一生命保険
2023年5月、第一生命保険株式会社がグループ人財戦略の実現に向け、タレントマネジメントシステムを導入しました。
変革を支えるグループ人財戦略として「4つの体験価値(保障、資産形成・承継、健康・医療、つながり・絆)の実現を支える多様な人財が活躍する組織へ」「一人ひとりの自律的なキャリア創出によるポテンシャルの最大化」を策定しており、データ利活用の高度化や人財と職務のマッチングの向上を実現することに期待し、導入されました。
参照プレスリリース「第一生命保険株式会社がグループ人財戦略の実現に向け、タレントマネジメントシステム「タレントパレット」を導入」
まとめ
本記事では、人事DXの解説から、金融業界における人事DXの事例を紹介しました。
人事DXは、業務効率化や人材活用の最適化だけでなく、従業員の満足度向上や企業価値の向上にも寄与する重要な取り組みです。人事DXは業界を問わず、取り組むことが可能ですので、様々な先進的な取り組みを行っている企業を参考に、自社の人事DXを加速させましょう。