上場企業の海外M&Aが2023年、急回復を遂げた。年間件数(適時開示ベース)は216件と前年比60件の大幅増となり、2016年(207件)以来7年ぶりに200件台に乗せた。国境をまたぐ海外M&Aはコロナ禍の影響が広がった2020年以降、落ち込んでいたが、アフターコロナの到来による経済活動の正常化が件数を大きく押し上げた格好だ。
海外M&A、4割増の216件に
上場企業に義務付けられた適時開示情報をもとにM&A Onlineが集計したところ、2023年のM&A総件数は前年を119件上回る1068件で、3年連続の増加となった。1000件の大台に乗せるのはリーマンショック前年の2007年(1169件)以来16年ぶり。
内訳をみると、日本企業同士の国内M&Aが前年比7%増の852件、外国企業を取引相手とする海外M&Aが同38%増の216件だった。海外M&Aはコロナ禍前の2019年(199件)を大きく超えた。
海外M&Aは日本企業が買い手のアウトバウンド取引と、外国企業が買い手のインバウンド取引に区分される。全216件のうち、アウトバウンド取引は147件(前年91件)、インバウンド取引は69件(同65件)。アウトバウンド取引が6割以上増え、復調ぶりが際立つ一方、インバウンド取引は前年とほぼ同数で高止まりした。
海外M&Aは外国との往来が困難になったコロナ禍初年の2020年153件と25%近く落ち込んだ。2021年はひとまず回復に転じたが、2022年は再びコロナ前の水準から遠ざかった。ウクライナ戦争による地政学的リスクの高まりが加わり、日本だけでなく、世界的に国境をまたぐM&Aは後退の動きが広がった。
インバウンド比率が9ポイント低下
海外M&Aをめぐってはコロナ禍をきっかけに内容が大きく変化し、インバウンド比率のウエートが急上昇した。日本企業が事業の選別にアクセルを踏み込んだ結果、外国企業への売却が目に見えて増えたのだ。
インバウント比率は2021年、2022年は2年連続で41%とコロナ前の2019年22%からほぼ倍に跳ね上がり、アウトバウンドと拮抗しつつあったが、2023年は32%と9ポイント低下した。日本企業の海外M&Aでは過去、アウトバウンドが70%以上を占め、インバウンドを圧倒していたが、その姿が戻り始めた。
グローバルの2023年M&A市場は世界的な金融引き締めに加え、ウクライナ戦争の長期化による不確実性の高まりなどを背景に、減速傾向が一層強まった。こうした中、気を吐いたのが日本。とりわけ海外案件は国内案件に比べ、金額が張ることが多い。金融引き締めにかじを切った欧米先進国に対し、金融緩和策を維持する日本ではM&A資金の調達が比較的に有利に行えたことが見逃せない。