特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。
創業から上場までの事業変遷
―― 創業から上場までの事業変遷についてご紹介いただけますでしょうか?
中山 私は中国の上海出身で、1987年に日本に参りました。そして、同業の中堅会社に入って自分を鍛えていただいて、1997年にベースを設立しました。それ以降、ずっとソフトウェア開発一本でやってきました。そういう意味では、時間をかけて少しずつ会社を育ててきたというのが今までの経緯です。創業時から上場を目指しており、2019年に2部上場し、翌年には1部に昇格しました。
―― 事業面でのターニングポイントと言いますか、いくつかの節目があったかと思いますが、その中でも大きなものをご紹介いただければと思います。
中山 そうですね、弊社が設立された当初から、日本のリーディングカンパニーである富士通さまと取引を開始させていただいたことは重要なポイントでした。富士通さまから出資していただいたことも大きかったですね。資本支援を受けることができ、その後も富士通さまとの取引が続いています。
もう1つの大きな話は、エンドユーザーとして、みずほ証券さまと直接契約して大型案件を受注したことです。それが会社の基盤を安定させることにつながりました。
―― 起業後、特に営業が大変だったと他のインタビュー記事で拝見しました。富士通さまやみずほ証券さまといった大手企業との取引は、どのように開拓されたのでしょうか?
中山 富士通さまとは昔からの付き合いがあり、同業の中堅会社で働いていたころからお世話になっています。その会社を通じて富士通さまと取引を始め、その後直接取引するようになりました。私は日本出身ではないので、人脈やネットワークが少ない中で、信頼関係を大事にしてきました。富士通さまとの取引を通じて、証券会社などとも関係を築くことができ、後にみずほ証券さまとの取引も始まりました。
今でも私たちの会社では、富士通さま、みずほ証券さま、NTTデータさま、野村総研さまといった4社の大手顧客が半分以上の売り上げを占めています。それぞれの顧客と深く関係を築き、太いパイプを持っています。
―― 関係を深くして、大きな取り組みにしていくというのは理想的な形だと思いますが、具体的にどのような工夫や取り組みをされてきましたか?
中山 社内でも話していますが、日本でよいビジネスをするためには、信頼関係を大事にしなければなりません。私たちはそれを「信頼残高」と呼んでいます。具体的には、現場で丁寧に仕事をこなし、一緒にプロジェクトを仕上げていくことで、信頼残高を積み上げていくという考え方です。
それが20数年続けると、お互いに心の中にものすごく大きな信頼関係が築かれます。今でも富士通さまやみずほ証券さまなどと大量に取引しており、何かあったら相談に乗ってもらえる関係です。そのおかげで、オーバーヘッドが減り、安心して事業を進められます。
実はこれは日本流の考え方で、他の国では1回1回のビジネスを大事にするのに対して、日本では長期にわたってビジネスを継続させることを大事にします。私も日本式のビジネス観を重視しながら、コツコツと成長していくことが大切だと考えています。
上場を目指された背景や思い
―― ありがとうございます。今後の成長に向けて、特に営業利益100億円を目指す中で、中山社長がどのような展望を描いていらっしゃるのか教えていただければと思います。
中山 我々は3つのキーワードを重視しています。それが成長、高収益、そしてサステナブルです。成長は企業が新しいチャンスをつかむために重要で、我々は成長に非常にこだわっています。実際、2017年から毎年20%以上成長しており、営業利益の成長を最も大事にしています。
高収益については、我々の営業利益率が20%以上であり、業界でも非常に高い水準だと思っています。そして、持続的な成長を目指すために、我々は戦略を実施しています。それは、お客さまの信頼を得て、ビジネスを広げていくというものです。
我々の戦略は、部をビジネスユニットとして考え、部長がその部を経営するというものです。現在、39の部があり、それぞれが利益を上げています。将来的には、100人以上の経営者がいる会社になることを目指しています。
―― 先ほどのお話の中で、利益率が他社と比べても高く維持できているということでしたが、その理由や御社の強みについて教えていただけますか?
中山 いくつかの要因がありますが、まず、お客さまが非常に集中していることが挙げられます。4社の大型顧客で7割弱を占めており、そのおかげで営業のオーバーヘッドが削減できています。また、我々は筋肉質な組織で、部長による現場営業がメインであり、営業部がありません。管理部門も非常に筋肉質です。これにより、販管費率が他社よりも大幅に低く、営業利益率が高くなっています。
―― 中山様、今後100億の営業利益を目指すにあたって、次の開拓ポイントとなるのはどこだとお考えでしょうか?
中山 我々は着実に開拓していますので、お客さまという話では日本の超有名なリーディングカンパニーをターゲットにしています。実際に数社の超大手企業と取引を開始しており、取引量は着実に増えています。
我々は、大手システムインテグレータであるお客さまの下で開発、モノ作りに徹していくということになります。これにより、お客さまと長い付き合いができ、我々の力を発揮できる場を作っていくことができます。また、浮気せず、一生懸命この業界だけに徹底していくことで、展開がしやすくなると思います。
―― 目標に向かっていく上で、今後重要になってくるテーマや、突破できればさらに成長加速できるポイントは何だとお考えですか?
中山 一番重要なのは人材です。社員数も重要ですが、もっと重要なのは、ビジネスを責任を持って回していける人材です。弊社社内では、部長や部長候補が重要です。どの会社も人材が足りないと言いますが、どうやって力を入れて育てていくかが課題だと思います。
会社は順調に成長しており、環境も良くなっています。マーケットも非常に良い状況です。部長やビジネスユニットをコントロールできる人材をいかに育てていくかが重要です。
現在の部長は非常に優秀ですが、技術者でありプロジェクトマネージャーです。お客さまへのサービスも非常に良いですが、営業は若干苦手です。今後は部長が営業の力をつけて、サステナブルに回していけるぐらいの能力を身に着けることが大事だと思います。
―― 営業の主体が役員から部長に変わったり、営業トレーニングが行われていることは資料で拝見しました。その背景は?
中山 営業の力をつけることが実現しない限り、我々の事業を拡大していくことは難しくなります。部長が営業力を身につければ部長を経営者とした「部」という自立したビジネスユニットが確立します。我々はその能力を持った部長を育成していくことでビジネスユニットをどんどん増やしてサステナブルな成長が可能になると考えています。そのため、部長および部長候補となる社員の営業トレーニングに現在力を入れているところです。
―― 逆にいうと、全社横串で営業の部分をサポートするような取り組みも今後必要になってくるのでしょうか?
中山 そうですね、そこの体制もしっかり取っていきます。弊社はまだ1,000人超の規模ですが、新規開拓や大手企業との取引が増えています。しかし、部長による現場営業では新しい部署や新規顧客の開拓が難しいため、営業推進とビジネス推進を強化していくことが重要です。今はビジネス推進部という部門がその役割を担っています。それにより、事業をより推進できるようになりたいと思います。
今後のファイナンス計画や重要テーマ
―― ありがとうございます。さて、先ほどファイナンスの部分は上場前後であまり変わらなかったとおっしゃいましたが、たとえばM&Aや資本市場の活用など、今後成長確度を上げていく上で有効な手段の選択肢になると思いますが、中山社長はどのようにお考えでしょうか。
中山 はい、素直にいうと、我々は非常にオープンなスタンスで、よい案件があればM&Aも躊躇なく取り組むという話はずっとしています。そのための準備も進めており、メガバンクとも良好な関係を築いています。ただし、事業展開においては、M&Aや資本市場といった要素に依存するよりも、オーガニックな成長をベースにしています。私が考える成長の20〜30%は、オーガニックで実現できる形で、その上でプラスアルファとしてM&Aなどができたらいいなと思っています。
現状では、なかなか良い案件に出会えていないのが現実ですが、プラスアルファで良い案件があれば可能性はあります。
ZUU onlineユーザーに一言
―― ありがとうございます。それでは最後に、読者の方に一言メッセージをいただければと思います。
中山 我々はやはり資本市場に参加している以上、弊社の弱点や特徴をもっと知っていただいて、理解していただければと思います。我々は明日倍になるということはないですが、確実に自分のペースで、このペースも決して低くないペースで、20〜30%成長を毎年実現していきたいと思っています。
そして、これは1~2年や3年で営業利益100億円を達成できたら終わりということではなくて、100億円はあくまでも1つのマイルストーンとして考えていて、我々は企業を一流企業にしていきたいと思っています。そのため、長い視点でご支援いただけたら幸いです。ぜひよろしくお願いします。
―― 本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
- 氏名
- 中山 克成(なかやま かつなり)
- 社名
- ベース株式会社
- 役職
- 代表取締役社長
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■取材対象者 中山 克成 代表取締役社長