この記事は2024年9月19日に「テレ東BIZ」で公開された「わずか2年で店舗数250越え 鰻の成瀬 急成長の舞台裏:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。
目次
2年で250店舗と驚愕の出店数~安い、うまい!「鰻の成瀬」
猛烈な勢いで店舗数を伸ばしている飲食チェーン「鰻の成瀬」。稚魚が不足してうなぎの価格が高騰する中、「安くてうまい」を実現している。
一般的に関東では、背中から裂いて骨や内臓を取り除き、串を打って一度焼いて白焼きに。関東風の場合、余分な脂を抜いてフワフワの食感にするため、一度蒸してからタレに浸けて焼く。「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」と言われるほど、うなぎの調理は奥が深い。価格も老舗店なら平均で5,000円ほど(1尾250g)になる。
一方、「鰻の成瀬」で使っているうなぎは中国などの外国産。信頼できる輸入業者から蒲焼きにした段階のものを仕入れている。
▽「鰻の成瀬」で使っているうなぎは外国産、おいしさの秘密は特別な調理機器にある
おいしさの秘密は特別な調理機器にある。これで一定時間蒸すことでフワフワ食感になるという。その後、注文が入ったら、もう一度同じ機器の中に入れて今度は「焼き」。「蒸し」と「焼き」それぞれに最適な時間が設定されていて、機械がすべてやってくれるから、専門の職人は必要ない。店舗のスタッフは「誰でもできる作業。アルバイトの人でもうなぎの仕込みはできる」と言う。
普通は30分以上かかるうな重が、注文を受けて10分以内で仕上がる。値段は一番安いうな重並の「梅」がうなぎ半身で1,600円、3/4尾の「竹」が2,200円、一尾入った「松」でも2,600円と老舗店の約半額だ。
▽普通は30分以上かかるうな重が、注文を受けて10分以内で仕上がる
「鰻の成瀬」はコロナ禍の2022年に1号店をオープン。そこから急速に出店攻勢を掛け、今や海外含めて258店(2024年9月7日時点)と快進撃を続けている。
「鰻の成瀬」を展開するフランチャイズビジネスインキュベーション社長・山本昌弘はフランチャイズビジネスのコンサルタント事業を続けていく中、FCが儲かるビジネスモデルを自ら実践するために「鰻の成瀬」を始め、加盟店の急拡大で注目の人となった。
だが、飲食のFCビジネスは流行り廃りが激しい。焼き牛丼チェーンの「東京チカラめし」は今や大幅に減少。500店舗近くあった「いきなり!ステーキ」も三分の一近くに減った。
「ゆっくりやると競合が出てきてもっていかれる可能性があると思ったんです。競合が1店舗出している場所に8店舗出すと、相手がやる気をそがれるだろうなと」(山本) 飲食業界が未経験だった山本は、どうやってわずかな期間で日本一のうなぎチェーンを、作ることができたのか?
「鰻の成瀬」躍進の秘密~コスト削減&独自のFC戦略
躍進の秘密1~徹底的なコスト削減
「鰻の成瀬」の横浜本店は、横浜駅からは10分以上離れた集客力の低そうな住宅街の中にある。山本には、駅から遠くても客は必ず来てくれるという読みがあった。
▽「鰻の成瀬」の横浜本店は、横浜駅からは10分以上離れた集客力の低そうな住宅街の中にある
「うなぎは『目的食』とよく言われます。何を食べようかなと考えて入るのがラーメン店や『マクドナルド』のようなファストフード店。うなぎは『うなぎを食べよう』で店を探す。探す時にスマートフォンやパソコンで調べてその店を目指していくので、一等地にあってもあまりメリットがない」(山本)
実際に聞いてみると「ネットで調べて来た」という客が多い。わざわざ来てくれるから、家賃が60万円ほどかかる横浜駅前ではなく、20万円の場所でやっていけるのだ。
店内にもコストを抑える工夫がある。あちこちにすだれがかかっているが、「自分たちでつけた。都合の悪いところはすだれで隠した」(山本)と言う。
▽もとは海鮮居酒屋の店内にもコストを抑える工夫がある
実はもとは海鮮居酒屋で、すだれの裏には前の店のメニューが隠れていた。テーブルもDIYで手作り。さらに店の看板は値段が高いので、プリントしたシートに。従業員も「キッチン経験はない。できちゃうもんですね」と言う。
この横浜本店の成功が加盟店の増加に繋がったという。
「すごく予算をかけて売れる店を作っても『それはお金をかけたから』と言われるとFC加盟の参入障壁になってしまう。『あの店でもいけるんだ』と思ってもらえるようにした」(山本)
躍進の秘密2~加盟店の結束力
福岡福津店は2024年4月にオープンしたばかりのFC店。オーナーの野田健留は2024年3月まで小学校の教師だった。畑違いの転職の強い味方が「FCオーナーなど400名くらいが入っているグループライン」と言う。そこには、野田が出店する際、他のオーナーからの、かかる費用についてのアドバイスが寄せられていた。
「計算してくれるんです。スケルトン(内装がない状態)の時はこれくらいで、居抜き物件の場合とこれくらいの差が出るよ、と。ありがたかったです」(野田)
店舗はもともと寿司店だったため、ほとんど手を加えずうなぎの店に。内装費も50万円以下で済んだという。
「何もないスケルトンの状態だと内装だけで1,000~2,000万円かかったと思います」(野田)
他のオーナーのアドバイスで売り上げも順調だという。
「5月が売り上げ515万円、6月が610万円。半年から8カ月で回収できる見込みです」(野田)
一般的にFCチェーンはオーナー同士のつながりは薄いが、「鰻の成瀬」はみんなで助け合う仕組みを作った。
躍進の秘密3~初心者への親身なサポート
創業以来、加盟の希望者が絶えない「鰻の成瀬」。その多くがFCビジネスの初心者だ。
山本が最終面談をしていたのは、最近脱サラし、「鰻の成瀬」で勝負したいという56歳の男性。「去年の7月に双子が生まれて、残り少ない会社員の収入では心許ないので、FCオーナーとなって稼ぎたい」と言う。
▽面談中の山本さん、加盟するオーナーが不安なくスタートできるよう寄り添っている
それに対して山本は「(地方に)引っ越せるんだったら引っ越したほうがいい。『鰻の成瀬』は一都三県はどこにでもある。(地方は)物件の初期費用は安いし、固定費も人件費も安い。単価は一緒なので利益は出やすい」と提案した。
「飲食は初めてで経営もやったことはない」という男性に「あせらないことが大事。バタバタしても仕方がないので常に数カ月先を見て動いていく」とアドバイスした。
面談中の山本は、売り上げ目標や細かいルールなどは、一切口にしない。ただ、加盟するオーナーが、不安なくスタートできるよう寄り添っているのだ。
「FC本部だけが儲かって、加盟店が苦労するのは望む形ではない。加盟した人が幸せになってもらうのが大前提です」(山本)
さらにパートやバイトにも気を配る。昼と夜の間で一度店を閉めているが、子育て中のパートスタッフは「(幼稚園に迎えにいくまでの)空き時間で、ランチタイムだけ働いている。都合もいいし時間もいい」と言う。
「子育て世代の母親は働ける環境が少ない。そういう人材を雇用していけば優秀な人材を確保できると思います」(山本)
愛知の人気ブランドを使った国産うなぎを新メニューに
8月から「鰻の成瀬」は新たな試みに乗り出した。従来の外国産とは別に、国産うなぎも全店舗のメニューに取り入れることにしたのだ(特上「松」4,400円、「竹」4,000円、「梅」3,400円)。
「『鰻の成瀬』で国産を食べてみたいという声は、創業以来たくさんもらっていたので、1回入れてみて、お客様に選択肢を与えてみようかと」(山本)
日本有数のうなぎの産地、愛知・西尾市。「三河淡水魚」は全国トップクラスの取り扱い量を誇る養殖の会社だ。売りはその養殖技術にある。
▽「三河淡水魚」は全国トップクラスの取り扱い量を誇る養殖の会社だ
「明治37年からこの地で養殖をやっていますから、100年以上、技術がどんどん継承されています」(柴崎忠義社長)
うなぎの養殖は通常、全面コンクリートの池で行われるが、ここでは自然の環境に近づけるために山土や砂利を敷き詰め、水は地元・矢作川の清流水をパイプラインで引き込んでいる。良質の脂ののったうなぎは、地域ブランド「一色産うなぎ」として全国の老舗店などで人気を博している。
この会社を紹介された山本は、7月に訪れて、柴崎社長に取り引きを打診した。
「『鰻の成瀬』にはうなぎ業界の中で賛否両論があるんです。どちらかといえば否のほうが多い。正直、最初はあまり付き合いたくないと思った。『あなたはうなぎの何を知っている?』と聞いたところ、山本社長は正直に『私はうなぎのことは何も知りません』とおっしゃる。『ちょっと待ってくれ。じゃあなんでうなぎのFC店で安売り店なんだ?』と聞くと『既存のFCチェーンでは生活できない方がいる。私は生活できない人が生計を立てられるようにしたい』と。なるほどと共感するところがありました。面白い人だと思った」(柴崎さん)
社長のハートをつかんだ山本はこうして国産うなぎの入手にこぎつけた。
わが道を行くマイペース人生~FCのあり方に疑問を抱く
山本の相談相手であり、飲食経営の教室や数々の店を経営する黒瀬実寿希さんは、山本をこう評する。
「僕も飲食業界では好かれていないのですが、僕よりも好かれていない人を久しぶりに見た(笑)。それぐらいみんな嫉妬しているんです。(山本には)『こうやらなくてはいけない、普通は』の普通がないので、ここまでのスピード感が持てる」
山本は1983年、滋賀県生まれ。両親はともに教師で、しつけは厳しかったが、自分を曲げない少年だったという。
▽山本さんは1983年滋賀県生まれ、自分を曲げない少年だったという
「俳句や短歌を作る授業で、自分の感性で書いたものを先生に添削されたことに腹を立てて教室を出ていくみたいな。僕の感性を何こいつ勝手に直しているんだと」(山本)
他人が気にしないことでも、自分が理不尽だと思えば強く抵抗した。
そんな息子を、父・哲夫さんは「中学生になったら好き放題していた」と言う。
「『鰻の成瀬』を始めた時も、『20店舗に増やす』と言うので、『またはったりを言っている』と思った。だから20店舗になった時はびっくりしました」(哲夫さん)
高校卒業後、イタリアへ語学留学。帰国すると英会話の「ECC」に入社。そこでFC ビジネスに出会う。FC ビジネスに興味をもった山本はその後、FCで業績を伸ばす大手のハウスクリーニング会社に転職。FCビジネスのいろはを学び、本部のスーパーバイザーとなる。1人で100以上の店舗を受け持ち、全国トップセールスも記録した。
しかし、次第に山本はFCビジネスに疑問を感じ始める。ある日、上司から、売り上げが伸びない加盟店に本部が購入させる集客用のチラシを配ってもらえと言われた。だがそれでは加盟店の負担になるだけだ。「本部がネット広告などを打つほうが……」と提案する山本に、上司は「加盟店に頑張らせればいい。本部の考えることではない」と言った。
「本部のスタッフが会社員なので、FCのオーナーさんを見るのではなく、会社や上司の顔色を見て仕事をしていたんです。本部の売り上げ、利益が上がることが正解で、加盟店の売り上げ、利益は二の次みたいな空気感があった。自分の中で、それは違うと」(山本)
加盟店を成功させるFCビジネスを作ろうと思った山本は、掃除の会社を辞め、2020年、37歳でフランチャイズビジネスインキュベーションを立ち上げる。FC展開をする会社のコンサルタントやアドバイスをしながら、2022年、「鰻の成瀬」をオープンした。
1号店はオープン当初はにぎわったものの、1週間もすると閑古鳥が鳴いた。そこで山本は従来のうなぎ店ではやっていないあることを試みる。
「うなぎ業界は老舗店が多いので固定客がついてしまっている。だから広告宣伝をやってないと気がついたんです。そこを狙ったら一定の商圏があると思った」(山本)
SNSを駆使して店の広告や割引クーポンなどの情報を発信。するとすぐに効果が現れ、横浜店は繁盛店になる。そこからは次々と広告戦略を打ち出していく。都営地下鉄の窓や吊り革を使って広告の嵐を仕掛け、鰻店では珍しいテレビCMも打った。
こうした広告戦略は加盟店の信頼にも繋がっていく。
「本部のサポート力の強さを感じます。テレビ広告も打つし、電車広告、つり革広告と宣伝に力を入れているのが伝わる。FC展開で広告を打ってくれるところは少ないと思います」(日本橋店オーナー・内藤隆司)
本部の手厚いサポートに力を得て、店舗数を拡大するオーナーもいる。大森店のオーナー・萩尾大輔は2024年7月、蒲田に2店舗目をオープンした。
「(大森店の)先月の売り上げは約680万円。(本部が宣伝した時は)売り上げが跳ねます」(萩尾)こうしたFCオーナーからの信頼が、「鰻の成瀬」の成長の原動力だ。
「全く知識も経験もない」~うなぎの次は「よもぎ」でFC
山本が新たな挑戦を始めた。やって来たのは故郷の滋賀・高島市。目的は物件のチェックだ。「ここを『よもぎ蒸しサロン』に変えたい」と言う。
「よもぎ蒸し」とは、穴のあいたイスの下で炊いたよもぎの蒸気で全身を蒸すことで、血行を促進するという民間療法。
▽うなぎ店の次は、よもぎ蒸しサロンをフランチャイズ展開するという
「フランチャイズとして、新たに勝てる業態をつくってみたい」(山本)
うなぎ店の次は、よもぎ蒸しサロンを、フランチャイズ展開するというのだ。
「(経験は)全くないです。うなぎの時と一緒で、全く知識も経験もない」(山本)
しかし、山本にはそれなりの勝算があるという。
「(よもぎ蒸しは)マンションの一室とか、個人店が多いんです。一気に面で取れる可能性があるので、この業態を選んだ」(山本)
よもぎ蒸し業界はうなぎと同様、個人店が多く、しかもほとんどが固定客。FC展開して知名度を上げれば、一気に客を獲得できるというのだ。
やると決めたら、動きは早い。2024年7月、美容業界の見本市「ビューティーワールドジャパン名古屋」で必要な器具を調達。得意分野の広告戦略にも力を入れ、SNSなどで広告を打ち、同年10月中にもオープンする予定だという。
「『鰻の成瀬』と同じことができないかなと淡い期待を持っています」(山本)
一方で、山本は高島市で地方創生にもチャレンジしている。子育て支援カフェを作り、1,000人規模のイベントも開催している。
▽山本さんは高島市で地方創生にもチャレンジしている
理由は、高島市が若い女性が減り将来的に消滅する恐れがある自治体の1つだ、という指摘があったからだ。「2年前に高島市に帰ってきた時に、このままじゃやばいと。地元の皆さんとタッグを組んでやっていく必要があるなと」と訴えた。
「ふだんは合理的に生きているのですが、まったく合理的じゃないこともたまにはやってみようと」(山本)
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
1号店は駅から15分はかかる商店街の一角。「うなぎ」なら少々立地が悪くても検索して来店するだろうという読み。二等立地に出店して固定費を下げ、その分価格を下げた方が商売として成立するのではという想像。内装は全てDIY。
ハンディがあっても成功させれば、店主が「自分でもできる」と思ってくれる。うなぎは商社から仕入れ、店舗では蒸して焼くだけ。機器を導入して職人は不要。全店きちんと儲かっている。1番大事なのは利益。FCビジネスで、携わった人々が幸福になることに関心がある。