QC工程表(工程図)は、製品の品質を保証するための重要なツールです。より効果的なQC工程表の作成を目指し、さらなる品質向上を図りたいと考えている方もいるでしょう。本記事では、QC工程表の基本的な考え方と基礎知識、品質管理における役割、作業標準書との違い、実際の作成方法から具体的な項目例や品質管理の指標まで詳しく解説します。
QC工程表(QC工程図)とは
QC工程表は、品質管理の全体像を把握し、品質改善や品質保証に役立てるための重要なツールです。QC工程表を効果的に活用することで製品の品質向上に貢献できます。ここでは、QC工程表(QC工程図)とは何か、概要を解説します。
※この記事では以降、本文中では「QC工程表」で統一します。またQC工程図との違いについては後述します。
QC工程表とは
QC工程表とは、英語での“Quality Control Chart”の頭文字を取ったものが由来の語です。直訳すると「品質(Quality)管理(Control)図(表)(Chart)」となります。日本語では一般的に「QC工程表」または「QC工程図」「QC工程管理図」などと呼ばれます。
QC工程表とISO
QC工程表には、必ずしも決まった形式があるわけではありません。そのため、企業によってさまざまな様式やテンプレートが存在します。
その一方、1994年の改定によってQC工程表はISO9000の「品質計画」「品質計画書」に相当することになり、以降は現在に至るまでISO規格においても必要となっています。
品質管理の目的を達成するのはもちろん、ISO規格を満たすために必要な要素が盛り込まれているか確認し、自社の製品やサービス、組織の規模に合わせて最適な形式を選択することが重要です。
(参考)
ISO 9000:2015:Quality management systems — Fundamentals and vocabulary(※英語)
【参考】QC工程表(QC工程図)に用いられる工程図記号(基本図記号・補助図記号・複合記号)
QC工程表に使われる記号は、以下のようなものになります。これらを組み合わせ、フローチャートのように記載することが一般的です。
・基本図記号
・補助図記号
・複合記号
(出典)日本産業規格 工程図号記
QC工程表に記載される「管理方法」
QC工程表は、その名前どおり製品やサービスの製造・提供に関するすべての工程における「管理方法」を、品質管理を保持する目的で定め、記載した表です。「管理」の具体的な内容としては「測定・検査する」「判断する」「異常時に対処する」ことが必要な行動になります。
原材料の入荷から最終製品の出荷までの各工程において、どの工程で・いつのタイミングで・どのような条件で・誰が担当し・どのような項目を・どのように管理するのか視覚的に表しています。
【表】QC工程表に記載する管理方法の一例
工程管理項目 | 内容 |
---|---|
測定するもの | 何を測定・検査するのか |
方法・検査治具 | どのように、何を用いて測定・検査するのか |
頻度 | 何回、いつ測定・検査するのか |
担当者 | 誰が測定・検査するのか |
管理基準(サンプリング率や限度見本など) | 測定した結果、品質が基準を満たしているかの判定基準(例:温度ならば30+5度など) |
異常が起きた際の処理方法 | 異常に対してどのように対処、処理するのか |
検査記録の有無 | 検査が済んでいるかどうか |
QC工程表を用いることで、品質管理の全体像を把握しやすくし、ひいては不良品発生時に発生場所や数量を迅速に把握できます。
QC工程表とQC工程図、作業標準書との違い
ここでは、QC工程表と比較されたり混同されたりすることの多い「QC工程図」「作業標準書」とのそれぞれの違いを解説します。
QC工程表とQC工程図の違い
QC工程表とQC工程図は、現在多くの企業で、ほぼ同じものとして扱われることが多いようです。
工程間の関係性や流れを視覚的に捉えやすくするために、工程表という名称の一覧表の一部分(列)に、工程図が用いられるものもあります(図2、「工程図」列参照)。
この様式は日本の製造業などにおいて、世間に発表された品質管理のための資料としては比較的古く(1980年代~)から見られるものです。現在もこの品質管理表の様式を「QC工程表」として利用している企業も多いと考えられます。
戦後、品質管理への意識が高まった初期の著名な書籍の中で「QC工程図」という用語が用いられたため、この表記が現在の日本の品質管理における名称として浸透しているのではないかとする意見もあります。
QC工程表は、品質管理の工程を表す「一覧表」であるため、様式の差異はあっても「一覧表」として機能することが必要です。そのため、本来のQC工程表(QC工程図)とは異なる様式の「QC工程“図”」という名称の別の資料を、分けて作成するケースもあります。
いずれにせよ、前述したようにISO9000シリーズの企画にそった項目が網羅されており、しっかりと管理され記述されているならば問題はありません。
QC工程表と作業標準書の違い
QC工程表と比較、混同されやすいものに「作業標準書」がありますが、両者は異なるものです。
QC工程表の中にある特定の作業について、その工程のための作業内容や手順が書かれているものが作業標準書になります。そのため、作業標準書はQC工程表とセットで用いられます。書かれている用語や規定などもそろえることが必要です。
また、QC工程表と作業標準書は、用途や用いる人物の立場にも違いがあります。
【表】QC工程表と作業標準書の違い
種類 | QC工程表 | 作業標準書 |
---|---|---|
内容 | ・品質管理の全体像、プロセスのすべてを把握できるよう網羅し、何を管理するのかを明確にすることに重点を置く技術資料 ・両製品を継続して作り続けるための設計書 | ・各工程における「具体的な作業手順」を詳細に記述し、どのように作業を行うのかを規定することに重点を置く技術資料 ・手順のほか、要点や禁止事項などの詳細も明記された作業指示書 |
主に誰が使うか | 管理者や技術者 | 現場監督者や作業者 |
主な用途・目的 | 品質保証プログラムの設定 | 作業の手順の指示 |
関係性 | QC工程表をもとに作業標準書が作成される |
QC工程表は、品質管理の枠組みを示すものであり、作業標準書はその枠組みの中でどのように作業を行うかを具体化するものです。つまり、QC工程表は作業標準書を作成するための基礎になるものといえるでしょう。
QC工程表(QC工程図)の活用場面
QC工程表は、製造業において十分な品質を維持するために作成されます。ここでは、実際にQC工程表が使われる状況について例を挙げながら解説します。
生産現場での活用
・作業の指導を行う指針として、また指導書を作成する際の基準として活用する
作業の指導監督や準備などを適切に行うため、作業配置の前にQC工程表の記載を参考に準備します。指導内容をマニュアル化する場合もQC工程表にそって作成します。
・引き継ぎ資料とする
異動の際の引き継ぎ、また毎日の作業における交代時の引き継ぎ内容を、QC工程表に基づいて行います。
・作業者への品質管理教育テキストとして使う
新人教育や異動してきた人材への教育資料としても用いることができます。
量産開始後の活用
・品質管理が基準どおりに行われているかの確認に使用する
品質基準を明確化し、製品の品質を安定的に維持するための指針となります。
・外注取引に際して使える
発注した部品などの品質管理内容を提出してもらうためにも使えます。自社の形式などをあらかじめ共有し、どのように書いてもらうかなどを指導しておきましょう。
同様に、外注品の発注時期や納期の管理にも使えます。
・不具合原因を調査するとき(品質問題発生時の原因究明)
不良品や異常が発生した際、原因究明のための資料として使います。品質問題の原因を特定し、改善策を検討するための基礎資料となります。
・設計変更に対応しなければならないとき(新製品の開発時の品質計画)
設計や工程が変更になった場合の状況の把握や、変更後の情報が網羅されているかの把握に活用します。
顧客など外部に対する品質保証の説明資料として
社内外の関係者への品質に関する説明資料として活用できます。ISO規格の品質計画書にも対応可能です。
以上のほか、製造品にかかわる全員が共通の認識を持ち、品質管理に関する情報を共有するツールとしての役割もあります。それだけにQC工程表には、正確でわかりやすい内容が求められます。
QC工程表の作成方法
ここでは、QC工程表の作成方法、全体の流れについて解説します。
(1)QC工程表のフォーマットを決める
QC工程表のフォーマットを決めます。企業や製品によってさまざまですが、一般的に以下の項目を含みます。
- 工程名:各製造工程の名称を明確に記載します
- 管理項目:各工程で管理する項目(寸法、重量、外観など)を具体的に記載します
- 管理方法:各管理項目に対して、どのような方法で管理するか(測定方法、検査方法など)を記載します
- 管理基準:各管理項目の合格・不合格の判断基準を数値や図などで明確に記載します
- 責任者:各工程の責任者を明記します
- 頻度:管理(検査、測定など)を行う頻度を記載します
- 記録方法:管理結果をどのように記録するかを記載します
【図】QC工程表の様式例
フォーマット作成のポイントとしては、
- シンプルで分かりやすい形式:一般的な様式を踏襲し、かつ、自社の製品情報に必要な項目を盛り込みます
- 必要な情報のみを記載する:情報量が多すぎても少なすぎても、QC工程表の役割が十分に果たせなくなるため、必要十分な記載にとどめます
- 柔軟性のある様式にする:工程の変更や改善に合わせて、フォーマットも柔軟に変更できるようにしておきます
なお、ISO9000規格を取得した場合は、品質計画書としてISO9000の企画に適した内容のものを作成する必要があります。最初は、テンプレートになっているものを参照して作成し、改善点を見つけながら自社オリジナルのものにブラッシュアップしていくとよいでしょう。
(2)製造工程の管理項目をリストアップする
管理項目を洗い出します。
(3)各項目の管理方法と基準を決める
それぞれの項目の管理方法と、品質が満たされているかどうかを判断する基準を決めます。
(2)と(3)に関しては、場合によって現場の作業者や品質管理担当者にヒアリングを行い、現場の状況を把握して決めることが必要です。
(4)QC工程表を記載し、内容を確認する
定められた基準にそって具体的に、正確に記載します。記載後は、内容にミスがないか確認します。一般的な記入手順は、以下の6つです。
①工程の流れ図を作成する
②初期値を記入する(製品名や製品番号、工程表番号、作成日などの決まっているもの)
③工程番号、工程名を記入する
④管理点を工程ごとに記入する
⑤具体的な管理方法を記入する
⑥必要に応じて、標準時間などを記入する
(5)正式文書として発行する
できあがったQC工程表を社内で共有します。
QC工程表を作成する際の注意点
QC工程表を作成する場合の網羅すべき点や管理項目などについては、前述したとおりです。これ以外に作成の際、注意すべき点について解説します。
記載は簡潔に、枚数を増やしすぎない
QC工程表は、現場で働く人全員が共有できるように、わかりやすく作成することが大切です。また単に記録するだけでなく、改善活動につなげるためのツールとして活用すること、それを意識して作成することが重要です。
そのためには、記載は簡潔にし、必要以上に枚数(ページ数)を増やしすぎないことが大切です。
継続して修正と改善を行う
QC工程表は、一度作成したら終わりではありません。製品の変更や改善、品質問題発生時、ISO規格見直しによる変更の必要性など、製品の「品質」状況の変化に合わせて定期的に見直しを行い、常に最新の状態に保つことを意識しましょう。
まとめ
この記事では、QC工程表について解説しました。QC工程表の作成は、製品の品質を安定的に維持するために必要とされています。その目的は、不良品を発生させないこと、製品そのものの品質を高めることにあります。一度作成して完了ではなく、製品の変更や改善、品質問題の発生時、企業や社会の状況の変化に合わせて定期的に見直しを行い、常に最新の状態に保つことが重要です。
QC工程表には、さまざまな形式が存在します。上記を参考に、自社の製品に合ったQC工程表を作成し、品質管理に役立ててください。
(参考資料)
日本産業標準調査会(JISC)
JIS規格票検索
日本規格 工程図号記
日刊工業新聞:QC工程表とはどのようなものか
日本財団図書館:品質管理指導書
(提供:Koto Online)